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酸っぱいみかん


「別にいいんじゃね。隕石の一つや二つくらい」

「そうそう。デュラハンなら受け止められるでしょ」

 ……サイクロプトロールもサッキュバスも他人事だ。


 それよりも……会議室の掘りごたつに入ってみかんなどが机に置かれていれば、どんな緊迫した議題の会議もすっかり和んでしまう~。

「うわ、このみかん酸っぱい!」

「……みかんは酸っぱいものだ。甘いみかんに皆が勘違いしているのだ」

 甘ければ甘いほどいいのではない。スッパイ方がいい。それはまるで人生のようだ。

「さらに、みかんは大きければ大きいほど良いという物でもないのだ」

「このチッパイ好きめ」

「……」

 いや、ちゃんと酸っぱいって言ったよね……。


 みんながみかんを食べ終わると、ようやく会議が始まった。みかんの汁が着いた手をコタツ布団で拭くのはやめて欲しい。

「魔王様、落ちてくる隕石はいったいどれくらいの大きさですか。なにか詳細なデーターはないのですか」

 禁呪文の取説とかはないのですか。炎の魔法なら熱量が書いてあったり、水の魔法なら水量が書いてあったりしてもおかしくない筈です。

「さあ。小さい頃に唱えたから小さな隕石だと思うのだが」

 小さいのであれば……虫網でキャッチできるかもしれない。

「ひょっとして、昼に空を見上げると点のように小さく見えているやつでしょうか」

「ほほう、もう見えているのか」

「はい。点くらいの小ささです」

 見えるのであれば……安心だ。戦場では、見えない敵と戦う方が苦戦を強いられる。……パワハラとか、お腹の急降下とか。

「流れ星ならお願いしとこーっと」

「叶うかもしれないな」

 しかし、落ちるまでに願い事を3回は言わないとダメだぞ。

「何をお願いするのだ」

「内緒よ。いやらしいわね」

 ――いかがわしいお願いはしないで! お願いだから――!

「「ハッハッハ」」


「隕石はデュラハンの頭上を狙って落ちてくるのは確かなのですか」

 ソーサラモナーがクイっとメガネの角度を調整し鋭い眼光を向ける。魔王様に失礼だぞ。

「たしかぞよ。予の禁呪文は百発百中ぞよ」

「……」

 自慢するでないぞよ。それって、魔王様が私に対して禁呪文を唱えた決定的証拠ではないか。嬉しいぞ。魔王様は私だけのものだ。私は魔王様だけのものだ。

「では、デュラハンだけを遠い宇宙へ瞬間移動(テレポーテーション)させて放り出すのはいかがでしょう。作戦名『小の虫を殺して大切な味方を助けるのは常識』」

「――!」

 ネーミング! いや、突っ込むところはそこじゃない!

「「名案!」」

 名案ちゃう!

「「賛成!」」

 賛成ちゃうちゃう!

「さすが聡明のソーサラモナーぞよ!」

 泣いちゃうよ。

「だがソーサラモナーよ、宇宙って空気が無いのだろ」

 大昔の大魔法使いとかが飛行の魔法で高さを競い合って発見したそうだ。冷や汗が出る。大勢犠牲者が出ていそうで……。

「ああ……あんなの迷信さ」

 迷信だと。また犠牲者が一人増えるぞ。

「そうそう、迷信さ。それに、空気なんか無くてもいいじゃん。デュラハンはアンデットなのだから」

 無くてもいいじゃんはないぞ!

「違うぞサイクロプトロールよ。ちゃんと血が流れているし普段からしょっちゅう死にかけている! 私は断じてアンデットではない! そもそも、匂いが違う」

 アンデットが嫌いではないが一緒にされたくない。私は腐敗臭などしていない!

 掘りごたつの中でサイクロプトロールの足を爪先で蹴ってやる。全身鎧だからスネを蹴ったときの威力は想像を絶するのだ。弁慶が泣くほどなのだ。

「痛え! やりやがったなアンデット!」

 カッチーン! 頭にきたぞ、首から上が無いのだが。

「もう一度言ってみるがいい!」

 また爪先で弁慶の泣き所を蹴ってやろうか!

「もう、二人とも掘りごたつで暴れないで! お茶が零れるでしょ」

 サッキュバスが咄嗟に湯呑を持ち上げる。お茶の色をした……抹茶カクテルを。

「……はい」

「……ごめんなさい」

 大人気なかったことを反省する。

「ソーサラモナーやサイクロプトロールと違って、……デュラハンは胸元や首周りからいい匂いがするんだから」

 サッキュバスの頬が少し赤いのは、抹茶カクテルのせいだ。

「「……」」

 フッ、照れるぞサッキュバス。首回りとは……首がない私にとって、どの辺りを指すのか後で教えて欲しいぞ。

「デュラハンは有機溶剤のいい匂いがするのよ」

「「ラリるれろ――!」」

 R15指定に引っ掛かるかもしれないぞー! せめて香水とか体臭とかぼやかして欲しいぞー!


 じっと四天王の話を聞いていた魔王様が呆れて脱線した話を元に戻された。

 いつの間にか議論が脱線することって……魔会議では日常茶飯事なのだ。

「ソーサラモナーのアイデアは良かったのだが、瞬間移動(テレポーテーション)の魔法は術師が一度は訪れた場所にしか物や人を移動させることはできぬ。よって、デュラハンだけを遠く太陽へ送り届けるのは無理ぞよ」

「……」

 瞬間移動(テレポーテーション)の設定に助けられた……太陽に放り込まれるところだったぞ……。

「では、隕石そのものを瞬間移動(テレポーテーション)させてはいかがでしょう」

「無理無理! 無理無理無理無理!」

 ムリムリ、ムリムリムリムリ言わないで。腹立つから。

「遠すぎる。それに大き過ぎるのも駄目なのだぞよ」

「そんなことも分からないのかデュラハン」

 ……。

「魔法が使えないのだから仕方あるまい」

「やれやれ」


 数時間にもおよぶ会議の末、おおよその作戦が決定した。お昼ご飯は会議室で鍋焼きうどんを食べた。銀色アルミのやつだ。土鍋のじゃない。みかんも段ボール箱から補充した……。


 A4の裏紙に書かれた作戦はこうだった。

①周りに何もない広い砂漠の中心にデュラハンを設置する。

②隕石が落下してきたら当たる直前にデュラハンを瞬間移動(テレポーテーション)の魔法で回収する。

③打ち上げ。


 ……本当に大丈夫なのだろうか。隕石が地表に落ちる速度って、鷹や鷲が急降下してくるよりも早いのではなかろうか……。

「作戦名は、『失敗しても成功』ぞよ」

「――!」

 パチパチパチと他の四天王が拍手するが、ネーミングが酷過ぎないか。「失敗しても成功」ってなんだ。……だが、「失敗は成功のもと」よりマシなのかもしれない。「失敗は成功のもと」なんて作戦名は許されない。「駄目でもともと」も駄目だ。もともと駄目だ!

「この作戦において、キーポイントとなるのは②ですよね」

「いや③ぞよ」

 黙って。

 瞬間移動(テレポーテーション)の魔法が使えるのは、魔王様と四天王ではソーサラモナーだけだ。いや、他にも魔王軍内には何人かいるのだろうが……今はそれくらいしか思い浮かばない。

 ――あっ! 人間界の女勇者もいたではないか。念には念を……というより、むしろ一番頼りになるかもしれない。

「魔王様、お願いがございます」

「却下だ」

「まだ何も言っておりませぬ」

 パワハラ相談窓口に訴えてやりたいぞ。……相談窓口など無いのだが。

「予を信じられないと申すか」

「はい」

 味方に隕石の魔法を唱えるようなお方です。言い換えれば魔王様です。

「……素直なのは良いが腹立つのう。なあ、ソーサラモナーよ」

「はい魔王様。今回の一番美味しい役を女勇者に持っていかれるのは……正直どうかと思います」

 美味しい役って……お前は若手芸人か。

「そうよそうよ。女勇者の方がわたし達四天王より出番が多いって、どういうことよ!」

 プリプリ怒るサッキュバスが、ちょっと可愛い。冬なのに露出の多い服装に意気込みを感じてしまう。

「そうだぞ! 俺なんか、モブキャラの盗賊A~Dよりも出番が少ないのだぞ。筋肉とプロテインくらいしかネタがないし……」

 泣くなサイクロプトロールよ。悔しかったらお前も瞬間移動(テレポーテーション)の魔法が使えるようになるがいい! 私も人のことは言えないのだが……。

「あんなチッパイのどこがいいのよ、デュラハン!」

 そんな目で見ないでくれサッキュバス。それはそれ、これはこれなのだ。魔王様とソーサラモナーに任せるのは……なんか、心配なのだ。

 絵的にも……。


読んでいただきありがとうございます!


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