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魔王様、隕石を落とす魔法はやり過ぎです。自爆です

   

「なぜだ、もう一度言ってみよ」

「……何度でも言わせていただきます。魔王様、隕石を落とす魔法はやり過ぎです」

 隕石が落ちてくる魔法って強そうで格好よく聞こえますが、落ちる場所や当たりどころが少しでも悪ければ……自爆です。自虐ネタのような魔法ではございませぬこと?

「せぬ! ませぬ! 予の力を世界中に知らしめるためには、これくらい派手な大魔法――禁呪文が必要なのだ」

 玉座で自らの力に酔いしれる魔王様は素敵だ。

「魔王様は十分お強いです」

「分かっておる」

「であれば隕石を落とす魔法など、唱える必要など無いではありませぬか」

「……」


 玉座の間に張り詰めた空気が流れる。窓からは雪が吹き込み、玉座の前に跪く私の左肩にうっすら積る。窓を閉めておけばよかった。


「……仕方ないのだ」

 はあ? 仕方ないとはどういうことだろう。

「と、申されますと」

「もう、ずっと前に唱えてしまった禁呪文だから仕方がないのだ」


 一度唱えた禁呪文はキャンセルなど効かぬのだ――クーリングオフ制度も適用されぬのだ――。


「――! では、なぜ唱えたのですか。そんな自爆的禁呪文を」

 アワワとなるぞ。人差し指から小指までを口にくわえたくなるぞ。首から上が無いのだが。さらには銀色ガントレットの指先を口の中に入れるのは嫌なのだが。

「……昔のことなのでド忘れた」

 ……嘘こけ。

 言い訳するならもっとマシな言い訳をして頂きたい。寝言で呟いてしまったとか、魔法の実験中に成功してしまったとか……。よくあるよくない話だ。

「いいおまじないに力を与えるには、悪い言葉も知らなければいけないって……」

 目をキラキラさせて言わないで欲しいぞ。どこかで聞いたことがあり冷や汗が出る。

「でも、決して使うなって……」

 ――じゃあ使うな! と声を大にして言いたい。

「悪い言葉なのですか、禁呪文って」

 禁呪文と呼ばれているくらいだから、悪い呪文で間違いなさそうだが。

「ううん。禁呪文は悪い言葉ではない。真の悪い言葉とは、『クソが!』 と、『クソ美味(うま)い!』だぞよ」

 ……たしかに悪い言葉だ。

 幼稚園児が先生に「今日のごはんはクソ美味かったです!」と言ったり、逆に先生が「お昼寝しなさい、クソが!」とか言ったりしていれば、この国の行く末が危ぶまれる――。悪い言葉は教えなくても小さい子供にどんどん流行る。感染力の強いコ□ナウイルスのように……。

 さらには、クソ美味いのなら「クソ食らえ」が成立してしまい――一人で循環型社会が構築されてしまう~――。冷や汗が出るほどのエコだ……いい言葉なのかもしれない。

 クソではなくミソならいいのかもしれない。現に昔、語尾にミソを付けるのが流行っていた。冷や汗が出る。古過ぎて。


「隕石を落とす禁呪文を唱えられたのは何年前なのですか」

「ざっくり百年」

 百年か……。

「なら仕方がありません」

 魔族は長寿だから百年前のことは忘れる。よほど印象深いことでなければ百年前のことなど覚えていられない。

 今年の魔紅白歌合戦の勝ち組すら覚えていない。

「今年の魔紅白歌合戦はまだ開催されておらぬぞよ~!」

「――先に言わないでください!」

 今年の魔紅白歌合戦どっちが勝ったかという質問が成立する期限は……十五分くらいの短い間だけなのだ。


「冗談はさておき。本当に隕石が落ちてくるのでございますか」

 こくりと小さく頷く。

「空から?」

「うん」

 ……うんって。

「隕石なんかが空から落ちてきたら、どれほどの威力とお考えですか」

 9999のダメージでは済まないですよ。

「知っておる。あれだ、重力加速度とか質量とか角度とか空気抵抗とかでおおよそのダメージが算出できるであろう」

 頭が痛くなる。計算は苦手だ。

「どれくらいの大きさの隕石が落ちるのですか」

「……さあ」

 ……さあって。他人事?

「大きな隕石が落ちればクレーターができると古文書で見たことがあります。万が一魔王城に当たれば……」

 耐震補強工事をしなくてもすむ――! あわよくば火災保険が適用される――? 「建物外部からの物体の落下、飛来、衝突または倒壊」に該当すれば……。

「無しよりの有りかもしれません!」

「うむ! であろう――!」

 悪い顔をされる魔王様。冗談か本気か分からぬポーカーフェイスだ。

「しかし、万が一にも魔王様の仕業と保険会社にバレたりすれば……魔王様のお嫌いなチートでございます!」

 バレなくてもチートでございます。急に声が小さくなってしまう。大扉の外でレベル1のスライム達が聞いていて言いふらす恐れがある。

「それどころか、万が一にでも人間界のお城へ直撃すれば、それはもう魔王様の責任です」

「――!」

 魔王様のお顔が見る見るうちに青くなる。というか、元々青い。半分青いとは違う。冷や汗が出る。古過ぎるになりつつある。

「あー可哀想だ。なんの罪もない人々が犠牲になってしまいます。まあ、私達魔族にとっては好都合なのかもしれませんが、あー城下町の宿屋のお姉さんとかが可哀想だなあ」

 元気にしているかなあ。

「卿は嫌なことを言うのう」

 魔王様は玉座からお立ちになられた。木靴で玉座の間を歩かれると滑るから注意していただきたい。特に窓際は吹き込んだ雪で濡れている。窓閉めたい。

「だが、安心するがよい。落下地点は定まっていないが、落ちる場所だけは分かっておるのだ」

「……?」

 落下地点が定まっていないのに落ちる場所が分かっているとはどういうことだ。矛盾しているように聞こえるが。

「落ちるのはデュラハンの頭の上だぞよ」

「あー。なるほど。そういうことですか!」

 それならたしかに落下地点は今の段階では分からないですよねえ。でも、落ちる場所はよく分かります。

「――ってえ! 落ちるのが私の頭の上って、どういうことですか――!」

 ちゃんと説明して下さい! 私は首から上が無い全身金属鎧のモンスターなのですぞ!

 別の場所に頭があるのならともかく……ブルル。想像しただけで気味が悪い。冷や汗が出る。

「冗談ですよね。いつもの」

 ブンブン首を横に振らないで――。縦に振って――!

「とにかく、危機的状況なのだ! こんなところでのほほんと話し合っていても仕方がないのだ」

「同感です! 御意です!」

「早速だが四天王を会議室に集めて緊急対策会議を開くぞよ」

「分かりました。直ぐに会議室を温めておきます。……ところで、隕石はいつごろ落ちてくるのでしょう」

「明日の昼過ぎだ」

「……」

 聞かなかったらよかったぞ。


 明日の昼過ぎに落ちてくる隕石の対策会議をこれからやって間に合うのだろうか……。


読んでいただきありがとうございます!


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