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第九十七話

読んで頂きありがとうございます。

 

 斗真達一行は12階層を目指して、一気に緊張感を増した11階層の探索を続けていた。そんな斗真の額に汗が滲むのは、未だ慣れない地面からの反発に疲労している事も、無関係では無いだろう。

 しかし最も大きな要因とは、今も握り締める剣の強度に対する頼りなさであろう。


(とにかく勝てない相手じゃ無いんだから、まずは時間を掛けてでも冷静に立ち回って、ゴブリンソルジャーの動きを見極めるべきだな。あの光る武器にさえ慣れてしまえば、後はどうとでもなる筈だし)


 周囲の警戒を続けつつも、その脳内では幾度も先程までの立ち合いを思い出しながら、自身の立ち回りを詰めていく。

 そうして斗真の足取りが僅かに鈍り掛けた頃、先行していたシフが戻ってくる。


 ――コンコンコン――

 

「三体か。ならさっきと同じだな。シャンの魔法の後は、俺とソルジとシフで対応するから、ハンタ達はシフの援護を頼む」


 ――スタッ!!!!!――


「グギャギャッ!グギャギャッ!」


「来たか。【鑑定】相変わらずのゴブジだな。レベルが2でアクティブスキルが強撃ね。はいはい強撃強撃……ん?アレ?確かさっきは強盾じゃ無かったっけ?」


 ――スッ――


 盾と棍棒を持つゴブリンソルジャーのステータスに戸惑う斗真を尻目に、シャンは即座に先制攻撃となる炎の壁を発動させる。


「グギャッ!?」


 地面から噴き上がる炎に呑まれて、三体の姿は斗真の視界から消え去ってしまう。


「また突き破ってくるぞっ!注意しろっ!」


 ――スタッ!!!!!――


「グギャギャッ!」


 斗真が警告を発した直後、炎の壁を突き破る様に光る剣を振るいながら、二体のゴブリンソルジャーが飛び出してきた。


(うん?何でコイツ等光る盾を使わないんだ?棍棒の奴もそうだったけど、光る盾ならさっきのゴブジ達みたいに、三体全員で攻めて来れただろうに)


 斗真が思考に費やした時間を埋める様に、突出した二体の剣個体に対して、ソルジとシフが真正面から対峙する。

 ソルジは先程と同様に、初手から優勢を保ったまま攻め立て続け、シフは何とか猛攻を凌ぎつつ、ハンタ達の援護を受けながら、打開策を模索する。


 斗真は、そんな二体の戦闘を眺めながら、直ぐに介入する事無く、炎に呑まれて瀕死となった棍棒個体に近づく。


「【鑑定】……やっぱり強撃だったか。じゃああっちの二体はどうなんだ?フッ!【鑑定】」


 倒れ伏したままの棍棒個体に、再度鑑定を掛けて、そのステータスを見直した斗真は、やはり見間違いでは無いとの確信を得ると、棍棒個体にキッチリとトドメを刺してから、残る二体の剣個体に鑑定を掛ける。


「……二体とも強斬なのか。確かコイツ等は炎の壁を切り裂いたんだよなぁ。強盾の奴は盾で防いで、強盾を持ってない奴は防げないのか?とすると……」


 斗真の思考は一つの結論を下す。


「あの光る武器はアクティブスキルの効果って事なのか?それも動作ごとに細分化されている様な、ソルジ達の使うものの劣化スキル的な感じなのか?」


 辿り着いた結論の真偽を見定める為、斗真は戦闘に加わらず、二体の剣個体の動きを見つめる。


 二体の剣個体は、各々が頻繁に光る武器、つまりは強斬をゴーレム達目掛けて振るうのだが、その度にゴーレム達も自らの武器を光らせると、堂々と真正面から迎え撃っていた。


 両者ともに、それを連発する事が出来ない中にあって、ソルジは光る盾で強斬を防ぐと、返す刀で光る剣を振るい、剣個体を着実に追い詰めていく。

 シフは振るわれる強斬を、自身の光る槍で迎え撃ち互角に立ち合うと、その隙を狙ってハンタから放たれる光る矢を防ぐ為に、盾を構える剣個体の側面に回り込み、嫌がらせの様な追撃を行い出血を強いる。


 斗真は、一連の戦闘を眺めつつ、更なる気付きを得る。


「……ん?さっきからコイツ等の光る攻撃って、剣を振り被ってばっかりだな。突きの時は光らせないのか。……あっ、もしかして出来ないのか。強斬ってのはそのまま斬撃にしか適用されないとか?……試してみるか」


 斗真は、湧き出た一つの疑念を晴らす為、ようやく戦闘に介入する。


「シフ!そいつの相手は俺が代わるから、ソルジの援護に行けっ!」


 ――スタッ!――


「グギャギャッ!グギャギャッ!」


 シフと剣個体が、互いに光る武器をぶつけ合ったタイミングで、斗真は側面から奇襲を掛けると、シフから引き離し一騎打ちに持ち込んだ。


(注意すべきは斬撃のみ。刺突にも盾にも注意は払わないっ!それで剣を折られたらもう仕方無いっ!)


 斗真は初手から一気呵成に攻め立てる。今までの様に光る武器を警戒し過ぎて、及び腰になるのでは無く、次々と剣を振るい傷を与えながら、剣個体の斬撃のみに注意を払う。

 突然劣勢に立たされる事となった剣個体は、刻一刻と体中を斬り裂かれながらも、致命傷となる攻撃を受ける事は無く、どうにか状況を立て直すべく、唯一持ち得る必殺を振るう。


「グギャギャッ!」


「ハハッ!やっぱりそう言う事なのかっ!」


 剣個体の振るう強斬の剣線を見切った斗真は、それが所謂斬撃と呼ばれる軌道を描いている事を認識すると、獰猛な笑みを浮かべながら迎え撃つ。

 淡い残像を纏いながら袈裟切りの軌道を描く剣線に、それのみを警戒していた斗真の研ぎ澄まされた五感は、即座に適切な行動を選択する。

 目と鼻の先を掠める様に通過していく光る剣を、しかし笑みを浮かべたまま見送った斗真は、剣を振り下ろした状態の剣個体の首筋に、渾身の刺突を繰り出す。


「オラァッ!」


「グ、ギィッ」


 斗真の刺突は剣個体の首を貫通すると、それでも尚有り余る衝撃を逃がしきれずに、千切れる様にその首を弾き飛ばした。


「ふぅ、これはもう少し試したら確信を得られそうだな」


 剣個体の亡骸を見つめながら一つ呟き漏らすと、直ぐ様ソルジ達の戦闘に介入すべく視線を巡らせる。


「まだ戦ってるな。……でももう終わりそうだな」


 しかし既にソルジ達の戦闘も佳境を向かえており、今更わざわざ介入する必要性は感じなかった。


「グギャギャッ!グギャギャッ!」


 斗真が剣を振るい血糊を飛ばしていると、乾坤一擲といった様相の剣個体が、強斬を振るい勝負に出る。


 ――ダンッ!ブンッ!――


 すると即座にソルジが盾を光らせ迎え撃つと、返す刀で剣に光を纏わせ刺突を繰り出し深手を負わす。


「グッ、グギャッ!」


 ソルジが何時もよりリスクを取って、深く踏み込み繰り出した刺突は、剣個体の腹部を刺し貫き、その場に縫い止めた。

 両者が近距離で睨み合う中、忘れられた様な状態のシフが槍を光らせると、剣個体の死角から横薙に振るう。


 ――ブゥンッ!――


「ギャッ」


 目の前のソルジにメンチを切るのに夢中であった剣個体は、僅かな断末魔のみを残して頭部を失った。


 ――ダダダッ!ゴンッゴンッゴン――


 光に変わる亡骸を確認したゴーレム達は、互いに抱き合いながら歓喜の瞬間を分かち合う。


「おぉ、随分と喜んでるな。まぁ良かった良かった。って言うか此処にきてゴーレム達の方が、モンスターを倒す数が増えてんじゃないか?棍棒ゴブジにしたって、最初のシャンの魔法で殆ど死にかけてた訳だし、あれを俺が倒した数にカウントするのは違うもんなぁ」


 全ての魔石を拾い終えた斗真は、ゴーレム達の様子を横目に見ながらそう呟いた。その呟きを聞き取ったのか、ゴーレム達は連れ立って斗真の側まで駆け寄ってくると、変わらず飛び跳ね続けた。


「おん?わざわざ俺の側に来てまでそうやってんのは煽ってんの?もしかして煽っちゃってんの?」


 斗真の威圧も何のそのと言った様子で、ゴーレム達は踊り続けていた。


「……はぁ、まぁ俺も打開策を得たっぽいから別に良いけどな。次からは俺のターンだから」


 魔石をリュックに仕舞いながら、斗真は決意を新たに更なる探索に進むべく、ゴーレム達に声を掛ける。


「ほら、いつまでも踊ってないで探索するぞっ!ソルジとシフは修復を掛けるからこっちに来い」


 ――ダッダッダ――


 斗真の呼び掛けに応える様に、直ぐ様駆け寄ってきたソルジとシフに修復を掛けながら、斗真は自然と通路の先に視線を向ける。


(やれる筈だ。あの仮説が確かなら。かなり立ち回り易くなる筈だ)


 二体に修復を掛け隊列を組み直した一行は、シフの先導に従って11階層を進む。それから程なくしてモンスターとの遭遇を果たす。


 ――コンコンコン――


「三体か。11階層は三体が基本なのかな?まぁこれまで通りだから頼むぞ」


 ――スタッ!!!!!――


「グギャギャッ!グギャギャッ!」


「剣、短槍、棍棒か。【鑑定】【鑑定】【鑑定】」


 ――スッ!――


 斗真が、目の前に現れたゴブリンソルジャーに、片っ端から鑑定を掛け、一遍に三体分のステータスを脳内に叩き込まれたせいで、一瞬思考停止状態になっている間に、シャンが先制攻撃を放つ。


「グギャギャッ!グギャギャッ!」


 地面から噴き上がる炎の壁に対して、棍棒個体が光る盾を振るい左右にかち割る。


「強盾使いが居るから炎の壁は破られるぞっ!三体来るから警戒しろっ!……ってもう始まってる!?」


 ようやく情報の処理を終えた斗真が、得た情報から警戒を促すも、既に目の前の現実として現れていた。


「まぁ手遅れって程では無いな。剣個体が強斬、槍個体が強突、棍棒個体が強盾だったから、棍棒個体をソルジに任せるか。後はどっちでも良いから、位置関係次第で臨機応変に対応するか」


「グギャギャッ!グギャギャッ!」


 斗真が想定を終えたのと同時に、縦に割られた炎の壁から二体のゴブリンソルジャーが飛び出してくる。未だ炎の壁が収まらない間に、それぞれが目に付いたゴーレムに襲い掛かる。


「槍個体は俺がやるから、棍棒個体はソルジがやれっ!シフ達は剣個体を受け持てっ!」


 強盾スキルを持つ棍棒個体とは、まともに戦う気がない斗真は、飛び出してきた二体のゴブリンソルジャーを確認すると、即座に一番近くにいた槍個体を、自身の標的として宣言し確保した上で、棍棒個体をソルジに押し付けた。


「オラァッ!」


「グギャギャッ!?」


 完全にゴーレムに標的を定めていた槍個体は、突然大声を上げて斬り掛かってきた斗真に驚くも、直ぐ様体勢を立て直すと、正面から向き直り槍を構え対峙する。


「よしっ!何とか注意は引けたみたいだな。コイツのスキルは強突だったから、気を付けるべきは突きのみの筈だな」


「グギャギャッ!グギャギャッ!」


 互いに間合いを計りながら、じりじりと距離を縮めていく。斗真は自然体のまま中段に、槍個体は盾を突き出しながらも短槍を軽く引いていた。


「グギャギャッ!」


 両者の間合いが鍔迫り合いを起こす中、先手を打ったのは槍個体であった。先手必勝とばかりに初手から強突スキルを繰り出す。


(ハッ!いきなり見せてくれるのかっ!助かるよっ!)


 斗真にとっては、未だ十分な間合いが確保されている中で、槍個体によって繰り出された強突は、それを観察するには絶好の機会となった。


(やっぱり突きの鋭さ自体は変わってないな。ただ威力が跳ね上がってるだろうから、対処を誤る訳にはいかないけどなっ!)


 体捌きのみで強突を躱しながら、斗真は敢えて追撃せずに、ギリギリまで強突スキルの効果を見定めた。


(……光が消えたな。効果時間は5秒程度か?)


 スキルの効果が消え去り、元通りただの短槍となりつつも、槍個体は変わらず斗真を攻め立てた。

 斗真は守勢に徹しながら、次に強突が繰り出される時を待つ。

 槍個体は突きだけでは無く、短槍を振り回して斗真を攻め立てたながらも、傷一つ付けられない現状に、明らかに焦りの表情を浮かべる。


(コイツ滅茶苦茶分かり易く焦ってんな。顔面冷や汗ダラダラじゃねえか。それでも普通の攻撃しかしてこないのは、まだ強突は使えないって事だよな)


 既に一分以上が経過して尚、再度強突を使う様子が無い槍個体を前に、斗真はそれでも攻める事無く守勢に徹すると、間合いだけを詰めつつ、その時を待ち続けた。

 ひたすら攻め続け息を切らし始めた槍個体は、しかし次の瞬間には表情を歪めて笑みを浮かべると、大きく腕を後ろに引き、渾身の刺突を放つ。


「グッ、グッグギャギャッ!」


「光ってんなぁっ!見え見えなんだよっ!」


 近距離から放たれた強突に対して、槍個体が腕を引いた瞬間から把握していた斗真は、即座に軌道を見切り其処から体を遠ざけると、素早く突きを繰り出す。


「オラァッ!」


「グキャッ!?」


 斗真の突きは槍個体の腕を深く傷付け、殆ど切断された状態となっていた。当然短槍は持っていられなくなり、槍個体は素早く盾を構え直して体勢を立て直す。


「さてと、これでコイツが盾に光を纏わせられないなら、仮説の実証には十分だろ。確か二分ぐらいかな」


 斗真はそう呟くと、強突の再使用が可能になった時間を思い出しながら、軽く攻め立てた。


「グギャッ!グギャッ!グギャッ!」


 斗真の攻めを盾一つで受けながら、槍個体は必死で打開策を模索する。その様子を冷徹に見つめる斗真は、ひたすら時間が経過するのを待った。


「…………はい検証終了。もうお前に用はない。死ね」


 二分どころか十分に時間を取って尚、槍個体が盾を光らせる素振りを見せない事から、斗真は確証を得ると、最速の踏み込みから槍個体の死角に潜り込み、革鎧の継ぎ目に目掛けて剣閃を閃かせ、致命の一手を放つ。


「グッ……ギ」


 脇から喉元に掛けて貫かれた槍個体は、大量の血を吐き出しながら崩れ落ちた。


「ふぅ。ようやくこの階層のモンスターとの戦い方が分かってきたな。これなら剣を折る事無くやっていけそうだな」


 斗真は確信を込めた呟きを漏らすと、未だ戦闘中のゴーレム達に介入すべく動き出した。



是非ともまた、お越しください。

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