第九十四話
読んで頂きありがとうございます。
六体のホブゴブリンと共に現れたゴブリンリーダーは、腰布のみのゴブリンやホブゴブリンとは違い、全身に革鎧を着用しており、その見た目から大凡斗真とソルジの中間程度の体格であった。そして左手に円盾を右手には斧を装備していた。
「あれが階層主のゴブリンリーダーか。パッシブスキルは腕力強化と統率で、アクティブが指揮か。何となく効果が分かりやすい感じのスキルだな」
取り巻きのホブゴブリン六体を引き連れて現れた、10階層の主たるゴブリンリーダーを前に、斗真は鑑定で読み取ったスキルの効果を察する。
「腕力強化はホブゴブリンと同じだし、統率はまぁ未だに動き出さないホブゴブリンの様子から、そのまんまの効果なんだろうなぁ。指揮も多分そのままだろう。となるとあのホブゴブリン達が連携してくるのかな?」
斗真はゴブリンリーダーを中心に、その周囲を囲む様に佇むホブゴブリンの姿から、待ち受ける戦闘内容に大凡の見当をつける。
「単体の力は大したこと無いだろうから、集団戦をどう征するかに掛かってるのかな。って言うかあいつ等全然動かないな」
斗真が思考を続ける間にも、出現位置から一歩も動かずに佇んだままのモンスター達の様子に、思わず戸惑いの表情を浮かべてしまう。
「あれか?こっちから動かないとって感じなのか?……まぁどのみち此処からだと攻撃は届かないから、魔法の射程圏内までは進んでおくか。皆行くぞっ!」
――スタッ!!!!!――
斗真がゴーレム達に声を掛けてから、一歩前に足を踏み出した瞬間。
「グギャッギャッギャッギャッ!」
「「「「「「グギャァァアアッ!」」」」」」
「うおっ!急に。いや、有る意味予想通りだな。迎え撃つぞっ!」
――スタッ!!!!!――
ゴブリンリーダーは集団の一番後ろに移動すると、ホブゴブリンを前面に配置し歩調を合わせながら、斗真達目掛けて駆け出した。
「シャン!お前の射程に入ったら炎の壁で焼いてやれっ!炎の壁が消えたらハンタも矢を撃ってくれ」
――スタッ!!スッ!――
両者の距離が20メートル程まで近づいた時、シャンが先頭を走るホブゴブリン三体に向かって、炎の壁を生み出した。
「さてと、この状況からゴブリンリーダーはどう出るか」
一瞬で発生した炎の壁に視界は遮られ、その向こう側の様子が見えなくなった斗真は、しかし間違い無く無事であろうゴブリンリーダーの姿を、視覚以外の五感で捉えると、油断無く剣を構えて待ち構える。
「……なっ!?マジ、かよ」
両者を隔てていた炎の壁が消え去り、それが齎した惨状をその目にした斗真は、思わずそう呟く事しか出来なかった。
――スパンッ!――
「グギャァァッ!」
「うおっ!?ハ、ハンタか。ビックリしたぁ。……いや確かに炎の壁が消えたら矢を放てとは言ったけど。そうか、ゴーレム達はこの光景に何とも思わないのか」
斗真が見た光景とは、シャンの魔法に対して何一つ有効な対策を取れずに、炎に焼かれるままとなっていたホブゴブリン達の姿と、一番後方に居た為何とか無傷でやり過ごしながらも、無惨な姿となっていく取り巻き達を助ける事も出来ずに、ただ立ち尽くすだけといったゴブリンリーダーの姿である。
なまじゴブリンリーダーが、ホブゴブリン達を統率している為、綺麗に隊列を組み密集した所を炎に焼かれてしまい、その上無軌道に暴れ回る事も出来ないのが、彼等を余計に多くの被害に晒す事となっていた。
「マジかよ。もう後まともに戦えそうなのって、ゴブリンリーダーだけじゃねえか」
未だギリギリ動けそうなホブゴブリンも居たのだが、ハンタが容赦なく光る矢を撃ち込んだ為、既に両足で立てているのは、ゴブリンリーダーのみであり、生き残りのホブゴブリンは、総じて地に伏したまま、呼吸をしているだけといった状態であった。
「……確かにそこまで脅威とは思って無かったけど、此処までとは……。取り敢えず決着を付けるか」
斗真は未だ呆然としながらも、いつまでも立ち尽くしている訳にもいかず、一旦落ち着く為にもトドメを刺しにいく。
「ソルジとシフは生き残りにトドメを刺してくれ。ゴブリンリーダーは俺がやる。ハンタとシャンとメイは、そのまま警戒しておいてくれ」
――スタッ!!!!!――
斗真は、ソルジとシフを引き連れて惨状の跡地へと進む。ハンタ達は距離を置いたまま武器を構えて、万が一に備えて警戒を続ける。
ゴブリンリーダーは、迫る斗真達を認識し武器を構えるも、その姿は余りにも小さく儚いモノへと成り下がる。
「グギャッギャッギャッギャッ!」
「行くぞ」
小さな身体で精一杯威嚇するように蛮声を上げるゴブリンリーダーに対して、斗真は小さな呟きで返すと一気に駆け出す。
ソルジとシフは斗真の背を見送ると、地面に倒れつつも未だ生存しているホブゴブリン達にトドメを刺していく。
駆け出した斗真に対して、ゴブリンリーダーは盾を前面に構えて守勢からの反撃を狙う。
斗真は、その様子を把握した瞬間素早く旋回すると、ゴブリンリーダーの背後から斬り掛かる。
「オラァッ!」
ゴブリンリーダーはギリギリ斗真の動きに対応すると、万全とは言い難い体勢のまま、迫る剣閃と己が肉体の間に盾を滑り込ませる。
「グギャッ!ギャッ」
盾から伝わる斗真の剣圧を前に、ゴブリンリーダーの不十分な体勢では、受け止める事も受け流す事も出来ずに、左腕を大いに痛めながら吹っ飛ばされる。
「ハァァッ!」
斗真は直ぐ様追撃を放つ。
ゴブリンリーダーは立ち上がる事も出来ずに、盾と剣を斗真と自身の間に構えて、何とか攻撃を凌ごうとする。
「はぁ、何か萎える。弱い者虐めしてんじゃねぇんだぞ俺は!」
構えられた武器と纏う革鎧の隙間を貫く様に、斗真の剣先は傍目には蛇の様な動きを見せながら、的確にゴブリンリーダーの肉体を斬り裂いていく。
「グギャッ……ギャッ、ギャ」
「終わりだな。ハアッ!」
既に両手を上げられなくなり、地面に座り込んだまま後退りする事しか出来なくなったゴブリンリーダーに、斗真はこの日最速の踏み込みを見せると、革鎧の隙間を縫う様に剣を振るい、その首を刎ね飛ばした。
宙を舞うゴブリンリーダーの頭部が、辺りに青い血を撒き散らしながら地面に落ち二三度小さく跳ねた後、一際大きな光の粒子に変わると、ゴブリンリーダーの亡骸があった場所に、石造りの棺の様な物が現れた。
「うん?……この中にドロップアイテムが入ってるのかな?」
斗真は、目の前に現れた棺を前に、剣を振るい血糊を飛ばした後、周囲に視線を巡らせてドロップアイテムを探すも、ゴブリンリーダーのどころかホブゴブリンのも見つからなかった為、そのように見当を付けた。
「…………ソルジ、シフでも良いけど、この棺を開けてみてくれないか?」
――コクリ。ググッ!――
万が一に備えて完全に人柱にされた形のソルジとシフは、しかし何の躊躇いも無く棺に手を掛けると、二体で協力して蓋を開けていく。
「おお?……大丈夫そうなのかな。っていつの間に。ヤバいな流石に気を抜きすぎたか」
蓋が反対側へと開ききり、完全に安全である事を見て取った斗真は、いつの間にか側に寄ってきていたハンタ達と共に棺に近付いていく。
「あぁそうか。宝箱みたいな感じなのかも。って事は中身に期待しても良いのかな?」
斗真は、現金にも期待も露わに棺の中を覗き込む。勿論ゴーレム達も斗真の動きに合わせるかの様に、頭部を覗き込ませた。
「…………これは当たりなのか?【鑑定】」
随分長い沈黙の後、斗真は棺の中に入っていた物に鑑定を掛ける。
『鉄の片手斧』
「鉄の片手斧かぁ。確かに武器が出る事があるとは聞いていたけど、頻度はそれ程って言ってた様な。そうするとこれは当たりなのかな。でも斧なんて使わないしなぁ。う~ん」
斗真は、棺から取り出した片手斧を振り回しながら、その価値の多寡を計る。
「……まぁ折角の戦利品だし持って行くか。ハンタの収納袋も拡張したから余裕は有るだろうし。ハンタ、コレ頼むよ」
――ババッ――
ハンタは斗真から片手斧を受け取ると、難無く収納袋に収めた。
「斧はこれで良いとして、後は何がって、モンスター素材だけかよ。……ん?これはホブゴブリンのだよなぁ。って事はこれがゴブリンリーダーの素材なのか!?【鑑定】!」
斧を取り除いた棺の中には、既に斗真にとって見慣れた物ばかりしか無く、一目でコレが初見のゴブリンリーダーの素材と思える物が無かったのだ。ただ一つを除いて。
『ゴブリンの角』
「……嘘だろ。コイツの素材ってゴブリンのやつと同じなのかよ。あっ」
斗真の脳裏に、全く稼げない駄迷宮という言葉が響き渡る。
「マジかよ。そう言う事なのか。階層主を倒して手に入るのがゴブリンと同じ物って。……別に金稼ぎは二の次だから良いんだけどさぁ、達成感的にもなんかなぁ」
斗真はモンスター素材に対して、金目の物と言うよりはトロフィーの様な感覚を抱いているようだ。
「コレって10階層への到達証明的にも、一応持って帰った方が良いのかな?少なくとも俺の鑑定だと、ゴブリンのやつと見分けが付かないんだけど。でももし見分ける方法が有るとしたら、持って帰らないとヤバいよな。はぁ、持って行くか。別に対した荷物でもないし」
斗真は棺の中から、ゴブリンの角だけを取り出すと、ホブゴブリンの素材はその場に置いたまま、棺から視線を外した。
「さて、これからどうすれば良いのかな?あぁあれか。一体いつの間に」
棺から10階層内へと視線を移した斗真は、丁度入り口とは反対側に大きな扉が存在している事に気が付いた。
「んじゃあ進むか。11階層は此処よりも歯応えがあれば良いんだけどな」
斗真達一行はダンジョン内を探索する時と同様の隊列を組むと、先行するシフの背を追って歩みを進める。
「入り口と同じ扉だな。これを開けば11階層なのか。いや、入り口と同じだとすると階段かな?まぁさっさと開けば分かる事か」
両開きの扉を前に、斗真は入り口と同様に力を込めて押し込むと、僅かに動き出した後は自動で開いていく。
そうして斗真達一行の目の前に現れたのは、斗真の予想通り11階層へと繋がる下り階段であった。
「まぁそうだよな。……他には誰もいないな」
素早く階段下までの気配を察した斗真は、自分達以外に誰も居ない事を、視覚的にも感覚的にも把握した後、ゆっくりと進み出す。そして最後尾にいたゴーレムが扉を通り抜けた瞬間、開かれていた扉が自動で閉じられた。
「うおっ!ビックリしたぁ。……全員ちゃんと居るな。良かったぁ。そうか、この扉は全員が通り抜けると自然と閉まるのか。って事は入り口も閉まってたのか?」
入り口と出口の扉の類似性から、同様の動きを示すのではと考えた斗真は、しかし入り口の印象が薄すぎて、記憶の中での検証は早々に諦めざるを得なかった。
「あの時は突然動き出したゴブリン達に、完全に気を取られていたからなぁ。……でももしあの時、扉が閉まっていたのだとすると、それって結構ヤバいよなぁ。今回は楽勝だったから良かったけど、もし相手がどう転んでも勝てないモンスターだった場合、逃げ道が無いって事だもんな。そうなったらもう、死ぬしか無いって事だよなぁ」
斗真は、自身の想像に思わず身震いするも、直ぐにそれを大きく上回る程の闘志が沸き上がってくるのを実感した。
「いや、それぐらい緊張感が有った方が、自分を鍛え上げるには丁度良いか。その程度を乗り越えられない様なら、どのみち階層主に殺されるか、魔王に殺されるかの違いしか無いだろうしな」
湧き上がる闘志のままに呟きを漏らす斗真は、見上げてくるゴーレム達の視線を意識的に無視すると、一切歩みを止めないままに、階段下まで到達する。
その視線の先には11階層の通路が広がっていた。
「さてと、10階層では大して疲れなかったから、このまま11階層の探索に進むぞ」
――スタッ!!!!!――
「此処から先の地図は持ってないから、一からシフに作って貰う事になる。頼むな」
――スタッ!――
「あぁそれと、今回から地図が無いから、まずは12階層へと続く階段を探す事を最優先で頼む。11階層を隈無く探索するかは、階段を見つけた後に決めるからその積もりで」
――スタッ!――
斗真はシフへの指示を終えると、一度ゴーレム達全員に視線を配った後、新たな探索の開始を告げる。
「それじゃあ11階層の探索を始めるぞっ!出発!」
――スタッ!!!!!――
10階層での消化不良を発散するかの様に、斗真達一行は、初めてとなる地図を持たない探索へと歩き出した。
ブックマーク、評価ptありがとうございます。頑張ります。




