第九十二話
読んで頂きありがとうございます。
「グギャァァアアッ!」
コンコンコンコンコン
「さて、ソルジの力を見せて貰おうかな。それじゃあ今まで通りで行くぞ」
――スタッ!!!!!スッ!!――
ホブゴブリン五体と遭遇した斗真達一行は、これまでと同様の先手を打ち、集団を二つに分断した。
迫り来る三体のホブゴブリンの間を、無傷で駆け抜けた斗真は、待ち受ける二体を手早く処理すると、ソルジの戦闘を見守るべく振り返る。
「おぉもう、ホブゴブリンだと全く相手にならないみたいだな」
斗真自身もまた、幾度もホブゴブリンと戦った事で、二体を瞬殺出来る程度にはなっていたのだが、先程初めて一騎打ちを征したばかりのハンタやシフですら、斗真が振り返った時には、既にそれぞれのホブゴブリンにトドメを刺そうとしているところであった。
「って事はあれはわざとか?」
既に仕上げの段階に入り、今まさにシフがホブゴブリンの頭蓋に大穴を穿つ瞬間を見ていた斗真は、それに比べ未だソルジがホブゴブリンに対して、有効な攻撃を加えていない状況をそう評した。
そして遂には、ハンタ達も担当個体にトドメを刺した。これで残るはソルジのみとなり、斗真は戦闘を終えたゴーレム達と合流すると、それぞれが周囲を警戒をしながら、戦闘の行方を見守ろうとした。
しかしこの時を待っていたソルジは、斗真の視線を確認した瞬間、勝負を決める。
ソルジと対峙するホブゴブリンは、埒が明かぬとばかりに両手で斧を上段に構えると、20センチ程の体格差を生かし、斧に渾身の力を込めて振り下ろす。
「グギャァァアアッ!」
対するソルジは、左手の盾に光を纏わせるとそれを振り上げ、小細工無しの真正面から、ホブゴブリンの斧を迎撃した。
――ダンッ!――
「うおぉ!」
思わず斗真も唸る程の結果が現れる。
両者の一撃は中空で激突すると、僅かの拮抗も無いままに、ソルジの盾がホブゴブリンの斧を粉砕する事で決着となった。
渾身の振り下ろしを、武器ごと意図も容易く打ち破られたホブゴブリンは、両目を見開き驚愕を露わにしながらも、しかし呟き一つ漏らす事が出来ずに、ほんの一瞬その場に立ち尽くす。
当然ソルジの攻撃は終わらない。
盾を振り上げた際の慣性に従うように体を泳がせたソルジは、そのまま右手の剣を振り被ると、滑らかに光を纏わせて渾身の一閃を放つ。
――ブゥンッ!――
呆然と立ち尽くしていたホブゴブリンは、無防備なままソルジの剣閃をその身に受ける。
「グギィッ」
「……マジか」
目の前で起きた余りにも呆気ない光景に、斗真は驚愕も露わに呟きを漏らす。ソルジが持つ刀身が一メートルも無い片手剣の一閃を受けたホブゴブリンの体は、左肩から袈裟斬りに、僅かな引っ掛かりも無く、見事なまでに両断されてしまったからだ。
「マジかよ。……やっぱりあの武器が光る技、何とか俺にも使えないかな?……可能性が有るとしたら、感覚共有を使って、あの技の発動の瞬間を真似するぐらいか?」
斗真は、周囲に現れたドロップアイテムを拾いながら、思考を巡らせる。
「……いや、動いてないソルジに使っただけであんな事になるのに、動くどころか技を使おうとするソルジと感覚共有しようもんなら、一体どうなるか分かったもんじゃ無いよなぁ。いや、絶対碌な事にならないだろ」
未だ満足に使いこなせていないスキルだけに、不測の事態に発狂する自身の姿ばかりが頭を過ぎり、即断即決とはいかない様である。
斗真は、ドロップアイテムをリュックに仕舞うと、一旦思考を止めて、胸を張るソルジに声を掛ける。
「おうソルジ、見事な圧勝だったな。まさかその片手剣でホブゴブリンを両断するとはな。って言うか出来るとは思わなかったから、マジでビックリしたわ」
――ババッ!ゴンッゴンッゴン――
斗真から手放しの賞賛と驚愕を受けたソルジは、クールぶった態度は何処へやらといった調子で、両手を挙げて飛び跳ねていた。
そんな姿を見ていた斗真は、ふと頭を過ぎった疑問を口にする。
「そう言えば、なあソルジ。あの最初の立ち回りは、俺達の観戦が始まるまでの時間稼ぎだったのか?」
――コクリ――
「やっぱそうか。なら最初からあの攻撃が出来たのか?」
――コクリ――
「成る程なぁ。となるとホントにもう、この辺のモンスターが相手だと訓練にもならなくなってるなぁ。いやまぁ、武器を光らす速さなんかは変わるみたいだけど。それだけってのもなぁ」
不満も露わな斗真達一行は、しかしそれからも変わらず9階層の探索を続け、遭遇するモンスターの悉くを蹴散らして進む。
斗真の予想通り、相手がスケルトンでもホブゴブリンであっても、遭遇から粉砕まで一分以上掛かる事すら無く、斗真は最速で勝利を得ながらも、自身の腕が鈍っていく様な錯覚を覚え、一人背筋を凍らせていた。
対するゴーレム達は、レベルアップによって使用可能となった新技を、より速くより滑らかにより無駄なく、といった具合にそれぞれが大いに力を振るい、自身の技量の上昇に努めていた。
そんなゴーレム達の様子を、羨ましそうに見つめていた斗真は遂に、否、ようやくといった状態で、10階層に至る階段へと辿り着いた。
それはつまり、求道迷宮最初の階層主への挑戦権を得たという事である。
斗真は一度階段下に視線を送ると、しかしそれ以上は特に行動を起こさず静かに腰を下ろし、黙々と装備品の整備を始めた。
地図を作るシフ以外のゴーレム達は、素振りをしたり他のゴーレムに絡んだりとまちまちであったが、今の斗真に近付く者は居なかった。
一人黙々と整備と食事を済ませた斗真は、手元にリュックを引き寄せると、魔石の集計を始めた。その時特に声を掛けなかったのだが、各々自由に過ごしていたゴーレム達は、自然と壁になる者と、斗真の側で積み上げられていく魔石を均す者とに分かれていく。
(全部で310個か。まぁ9階層は五体ずつの集団しか出て来なかったからなぁ。そら集まるわな。……確かシャンは後53個だった筈だから、十分シャンとメイをレベルアップさせられるな。残りは、まぁまたシフからで良いだろう)
斗真は内心でそう結論を出すと、シャンを呼び魔石の合成を始める。
「シャン、魔核を貸してくれ」
――ババッ!――
「それじゃあやるか。【合成】」
差し出された大杖に手を突っ込みながら、斗真は淡々と魔石を合成していく。シャンはその時を今か今かと待ち受ける。
「これでシャンもレベル8だな。【合成】」
――スタッ!スゥゥ――
レベルアップの効果で体を淡く輝かせながらも、シャンは素早く立ち上がると、10階層に向けて上部が開きっぱなしの大杖を差し向ける。
「おぉう。やる気は十分みたいだな。でもそれ、中の魔核を落とさないように気を付けろよ。【鑑定】」
【ステータス】
クラス:マジシャンゴーレム
ランク:下級・カッパー
レベル:8(0/256)
スキル:攻撃魔法 3(3/3) 大杖術 3(3/3)
「よし、シャンもしっかりスキルレベルが上がってるな。それじゃあ次はメイ、魔核を貸してくれ」
――ダダダッ――
「お前それ、意地でも離さないな。まぁ別に良いんだけど【合成】」
シャンと入れ替わる様に階段を駆け上がってきたメイは、首から下げたアクセサリー型の魔核を、そのままの状態で差し出してきた。しかし斗真も慣れたものと言わんばかりに、次々と魔石をそれに合成していく。
「これで最後だな。【合成】【鑑定】」
――スタッ!スゥゥ――
シャンと同様のポーズを取るメイの姿に、斗真は特に何も言わず淡々と鑑定を掛ける。
【ステータス】
クラス:メイジゴーレム
ランク:下級・カッパー
レベル:8(0/256)
スキル:回復魔法 3(3/3) 短杖術 3(3/3)
「これでやっとゴーレム全員のレベルが8に成ったのか。スキルレベルも3だし、階層主に挑むには丁度良いよな」
斗真は、達成感に酔いしれながらも、残りの魔石の合成も続けて始める。
「残りの魔石はシフに合成するから、こっちへ来てくれ」
――ババッ、ダダダッ――
指名を受けたシフは、喜び勇んで階段を駆け上がって来ると、斗真に抱きつかんばかりに接近しながらも、その視線は未だ山とある魔石に釘付けであった。
「近いなオイ。はぁ、ちゃっちゃとやるか【合成】」
魔石から視線すら上げないシフの様子に、斗真は諦めた様に溜め息を吐くと、残りの魔石を全てシフに合成していく。
「これが最後だな【合成】」
――スタッ!スゥゥ――
「あぁハイハイ。えっとこれでシフは、後127個だな。こうなると結構直ぐに集まりそうな感じはするなぁ。それじゃあ次は俺の番だな。【ステータス】」
今回で既に、次のレベルアップまでに必要な魔石の個数が半分を切った事から、斗真は割と楽観的な事を言いながら、最後に自身のステータスを確認する。
「……また2レベルアップしてる。俺ももうレベル28なのか。迷宮騎士団まで後一歩かよ。……でも相変わらずそれ以外の変化は無しなのか。俺にも光る武器的な技が、新たに生まれてくれても良さそうなのになぁ」
レベルアップの喜びを上回る、それ以外は変化無しという現実にあって、斗真は何気に、ゴーレム達が得た様な新たな力が、自身も自然と手に入る事を無意識の内に願っていた様だ。しかしそれは叶わず、それどころか自身も驚く程の落胆に包まれていた。
「はぁ、嘆いていても仕方ないよな。大体力が欲しいなら努力するしか無いだろ。……そうだ、そうだな。だったらとにかく訓練をしよう。甘えた心を叩き直すか」
自然と与えられる事を望んでいた斗真は、己の不甲斐なさを叩き直す為にも、感覚共有の訓練を始める。
斗真は、手慣れた様子で準備を整えると、ゴーレム達に声を掛けてから訓練を始める。
「それじゃあお前達は今まで通りでよろしく」
――スタッ!!!!!――
一斉に動き出し配置につくゴーレム達を尻目に、斗真は一つ覚悟を決めるとソルジに声を掛ける。
「ソルジ、今回は少し試したい事があるから、その場で動いてみてくれるか?そうだなぁ……あっ、素振りが良いな。素振りをやってみてくれないか?」
――コクリ――
「それで、あの武器を光らせる技も使ってみてくれ」
――コクリ――
斗真は感覚共有の訓練を使い、ゴーレム達の技の模倣を試みようとしていた。碌な目に合わないという想像もかなぐり捨てて、甘えた心を鍛え直す為にも。
「よし。それじゃあ始めるぞ。ソルジは、俺が目を瞑って耳を塞いだら素振りを始めてくれ【感覚共有】」
スキルの発動後素早く目を瞑り、メイと共に耳を塞いだ斗真の姿を確認したソルジは、ゆっくりと立ち上がると、剣を構え素振りを始めようとする。
そんな中、始めてスキルを使用した対象が、動き出した事による影響を受けている斗真は、声にならない悲鳴を漏らす。
(ヴゥゥッ!くっそ、ヤバい……意識が)
秒で意識を飛ばしそうになっている斗真は、しかし既に声を上げる余力すらなく、このまま気を失った場合、果たしてどうなってしまうのか。そんな想像すら出来ないままに、最悪の状況へと陥ろうとしていた次の瞬間。
――スッ!――
斗真に寄り添いその耳を塞いでいたメイが、斗真の状態に気付くと、直ぐ様回復魔法スキルを使用した。
(…………なんだ、コレ。暖かい?柔らかい?)
斗真は、素振りを続けるソルジの視界を通して、自身の姿を確認すると、階段に横たわり口から泡を吹きながら痙攣している自身の姿と、片手で短杖を構えているメイの姿があり、そしてその全身を、柔らかな光が包み込んでいる光景が広がっていた。
(……少し、少しだけ、楽になってきたか)
斗真の感覚では、ほんの僅かといった程度ではあったものの、何の抵抗も出来ずに落ち掛けていた所から、まともな思考を再開させる事が出来るまでに回復したのは、メイの魔法が十分な効果を発揮したという何よりもの証であろう。
「が、か、かい、かいじ、【解除】」
何とか言葉を発する事が出来た斗真は、直ぐ様感覚共有を解除すると、大いに嘔吐きながらも、吐くまではいかずに耐えていた。
「はぁはぁはぁ。……おぉう?何か、気持ち悪いくらい体調が良くなっていくんだけど。……これがメイの魔法なのか?」
――コクコク――
メイは、斗真が感覚共有を解除した後も、スキルを使用し続けていた様で、最悪の状態からでも僅かにではあったが回復効果のあったスキルが、平常時に及ぼす効果は凄まじい様で、斗真は体調を急速に回復させながらも、逆に気持ちの悪い感覚を抱いていた。
「これは……。そう言えばシャンの新しい力も試さないといけないから、階層主に挑む前に、また9階層にいかないとな」
ほぼ完璧に復調を果たした斗真は、自身の体調から目を背ける様に、一人9階層へと視線を向けながらそう呟いた。
是非ともまた、お越しください。




