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第九話

ブックマークと総合評価ptを頂きました。ありがとうございます。頑張ります。

 

「それじゃあ三つ目やります。【ブリーズ】」


 斗真は、既に癖になっていた人差し指ポーズをしながらスキルを唱えると、斗真が指を差した先にある空間に風が吹いていた。木製人形までは届かなかった様で、その威力は弱く精々が強めのそよ風といったところだった。


「ほんで賢者様よ。この扇風機以下の風は一体何の役に立つんだろうなっ!」


「本当に愚かな質問ですねぇ。確かに扇風機があればあの魔法は必要ないでしょう」


「そうだろうがっ!」


「では、扇風機が無ければどうしますか?」


「どうって別に……」


「あの魔法を使うしかないでしょう。確かにあの魔法による風は弱い。ですが何事も無いよりはマシなんですよ。分かりましたか?少しは頭を使いなさい。これ以上恥をかく前にねっ」


「テメェ……マジで覚えてろよ」


「そこまでにしておけ。二人とも何でそんなに喧嘩腰なんだ?この世界でたった9人の日本人なんだぞ。喧嘩するより仲良くやろう」


 救世主達が盛大にギスッている間も、斗真は魔法を使い続けていた。結局この風は凡そ3分近くも吹き続けていた。


(おっ?やっと終わったか。この風もあのギスも)


「それじゃあ、最後のやつっと。【ディグ】」


 斗真は、最後に人差し指を地面に向けて突き付けながらスキルを唱えた。すると指し示された場所の地面にでは無く、斗真の足下に30センチ四方の穴が空いていた。

 この魔法も又、騎士団員達の心に何らの感情を灯していた。


「っし。はい。これで俺のスキルの実演は終了です。ありがとうごさいました」


「うむ。ご苦労であった。なかなか興味深かったぞ。今回見られなかったスキルは、またレベルが上がった時にでも見せて貰えるとうれしく思う」


 斗真は、アレキサンダー王の最後の願いには特に答えることなく一度小さく頭を下げると、他の救世主達に紛れるようにして集団に混ざった。


「うむ。次は、聖女殿の番であったかな?」


「っ!?はい……慎んで実演させていただきます」


(あの絵本ヒゲ、今天宮さんの事めっちゃ自然に聖女殿って呼んだよな?本人確か聖子って呼べって言ってなかったか?まぁでも、あそこまで自然に呼ばれると天宮さんも否定し難いだろうなぁ)


 アレキサンダー王にとって天宮聖子の存在は、既に聖女で固定されてしまっていた。その美しい容姿もさることながら、当初からの丁寧な振る舞いが他の救世主達と比較した時に、際立って立派に見えてしまうのは仕方のない事であった。


「うむ。あまり気負う必要もあるまい。仮に今発動出来なくとも、レベルを上げてからまた挑戦すれば良いだけなのじゃからのう」


「はい。お気遣いありがとうございます。では生活魔法以外のスキルを使用してみます」


 アレキサンダー王に感謝の言葉を述べた天宮聖子は、斗真と場所を入れ替える形で一人集団から離れ十分な距離をとると、生まれて初めてスキルを行使した。


「【聖装召喚】」


「うわっ!なんだっ!?」


「眩しい。すごい光ね」


(なんか俺の時と違うっ!ってかジョブスキル発動してんじゃんっ!レベルが足りないはどこ行った!?)


 天宮聖子がスキルを唱えた瞬間、聖子自身を眩い光が包み込んだ。

 その光は、時間にして僅か一、ニ秒程で収まったのだが、その間光に包まれていた聖子は、いつの間にか見た事も無い純白のローブに身を包んでいた。


「「「「「おぉ」」」」」


「凄い。……キレイ」


「全く驚かせて。でも成功させるなんて流石聖子ね」


(あのローブちょっとでも汚れたらめちゃくちゃ目立つだろうな)


「おぉ神よぉ」


「聖女様ぁ」


 純白のローブに身を包んだ天宮聖子は、同じ救世主達から見ても紛れもない聖女そのもののように感じられた。

 いわんや異世界人においては、アレキサンダー王を含めて、言葉もないと言わんばかりに目に涙を浮かべて神に祈りを捧げていた。


「っ!?と、取り敢えず次のスキルを使います」


 周囲のあまりにもあんまりな反応に、聖子は聖衣の持つ効果を確認する余裕も無く、早々と次のスキルを唱えた。


「【ゴッドブレス】あっ!え、えいっ!」


 スキルを唱えた聖子は、戸惑った様な声をあげた後、突然救世主達の方に手を向けた。


「うわっ。なんだこの光は!?」


「なんか温かい?凄く落ち着く感じがするよ~」


「ちょっと聖子!いきなりスキルを向けないでよ!びっくりするじゃない」


「ホントだぜったくよぉ。俺だから良かったけどよぉ、次からは頼むぜ」


(なんか体の調子が良くなった気がするな。っていうかこの光いつ消えんだろ?眩しい程では無いから別に良いんだけど。でも夜こんな奴と出会ったら絶対吹き出すな)


「ごっごめん。なんかスキルを与える人を選ばなくちゃならないみたいで、ついね」


 各々が【ゴッドブレス】を受けた感想を漏らす中、聖子は流石に今の自身の行動の不味さに気付き、軽く謝罪した。


「ふむ。どうやら【ゴッドブレス】なるスキルは、他者に力を付与するタイプのスキルの様じゃな。流石は聖女殿だ」


 アレキサンダー王は、自身もそのスキルを受けてみたいと思ったが、流石に言葉にする事は無かった。

 しかしそれは何もアレキサンダー王に限った話ではなく、淡い光を体に纏わせている救世主達を見ていた、その場にいる異世界の者達全てが同じ考えを持っていた。


 彼らの目に、淡い光を纏う救世主達は、まるで聖女様直々に祝福を与えられた古の英雄達の様に映ったのだ。


「っ!ではっ、最後のスキルを使います」


 俄かに熱気を帯び始めた周囲の空気に反応した聖子は、急いで最後のスキルを唱えた。


「えっと、【神聖魔法】あっ。こういう事だったのね。よしっ!【ライトボール】」


【神聖魔法】を唱えた聖子は、突然頭の中にスキルの名前が浮かんだことで、斗真の【生活魔法】使用時の困惑の意味を理解した。

 その上で直ぐ様スキルの名前を唱えて発動に成功させていた。

 その時に、斗真がやっていた人差し指ポーズをしたのは咄嗟の事であったのだが、聖子はこのポーズならスキルの発動場所の指定をイメージし易いという事が分かった。


 聖子の指先から生まれた光の玉は、直径約30センチ程の大きさで、原付バイク程の速度で木製人形に吸い込まれていった。


「「「おぉ」」」


「あれ?でも人形に何もおこってないよ?今ので成功なの?」


「コレはつまりアレでしょう。あの光は幽霊やゾンビにのみ効果があるタイプの魔法でしょう」


「そうなの?聖子?」


「えっ?私にも分からないよ?」


(グッダクダだな。ってか幽霊とかゾンビって、そんなんとも戦わされんの?ゴーレムマスターの俺が?ジョブスキルも発動出来ないのに?どうやって?)


 アニメやゲーム、漫画といった創作物に殆ど触れてこなかった斗真にとって、幽霊やゾンビと言った存在は、偶にテレビで放送される邦画や洋画で表現されているような、『幽霊にはお祓いを』『ゾンビには重火器を』といった程度のイメージしかなかった。


「【ライトボール】の事なら我等にも分かるぞ。賢者殿が言ったとおり死霊系のモンスターに劇的な効果がある魔法じゃよ」


「やはりっ。僕の読み通りでしたか」


(あぁ?モンスター?モンスターって言った?言ったよね今?……はぁモンスターかぁ。まぁそうかぁ。レベルだの魔法だの魔王だもんなぁ、そらモンスターもいるかぁ。ゲームみたいなもんかぁ。最後にゲームやったのいつ頃だっけ?確かジジイに引き取られる前だもんなぁ。全っ然覚えてねぇわ)


 アレキサンダー王からの解説が入り、救世主達は聖子のスキルの効果を理解した。

 しかしそれ以上に衝撃だったのは、アレキサンダー王が発したモンスターという言葉だった。


 皆薄々気付いていた事ではあったが、今ハッキリと聞かされると、流石にソレを受け入れきるには各々時間が掛かりそうであった。


「っ!じゃあ次は土屋君の番だよっ!」


「えっ!?あっうん。そうだった。俺の番だった」


「土屋樹殿は、将校斥候なるジョブであったか。楽しみじゃのう」


 救世主達から重い空気が生まれ出す前に、聖子は直ぐ様次の番の土屋樹を促した。

 アレキサンダー王もそれに乗っかるように、軽口を叩きながらも先を促した。

 樹は、聖子と場所を入れ替える形で前に出ると、顔を強ばらせながらスキルを唱えた。


「よし、やるぞ。【詳細探知】うわっ何だよコレッ!?」


「おいどうした樹っ!」


「あぁ?何も起こってねぇぞ?失敗したのか樹」


「スキルの名前からして、どう考えても探知系でしょう。僕たちにスキルの効果が見えるはず無いでしょうに、全く」


「黙ってろガリ勉っ!テメェには聞いてねぇっ!」


「ハァ…僕はあなたにではなく皆に説明しているんですよ。黙るのは頭の悪いあなたの方なのでは?」


「るせぇっ!マジでキメェなガリ勉糞メガネがっ!」


「おいっ!二人ともいい加減にしろっ!それより樹、大丈夫なのか?」


「あぁうん。なんとか」


(何でこんなにギスッてんの?実は仲悪かったのかこいつら?)


 大空勇人の心配そうな声に、少し恥ずかしげな顔を浮かべた樹は、自身のスキルの効果について話し出した。


「【詳細探知】は、地井の【鑑定】の上位版みたいなやつだったよ。発動した瞬間、皆のステータスが纏めて頭に浮かんだんだ。流石に人形や騎士達の距離には届かなかったみたいだけどね」


 その効果に驚きを示したのは、やはり異世界人達であった。樹の説明通りだとすると、【詳細探知】は、一度に発動距離内に居る全ての人間のステータスを知ることができるという事である。それは単体専用の【鑑定】と比較してもかなりの有能さであった。

 更に樹は、スキルを発動させた際に木製人形の方を向いており、救世主達の姿を見ていなかったのだ。であれば彼の【詳細探知】はステータスを知りたい対象を自身の視界に入れる必要すら無いという事になる。これは相手にステータスの盗み見を気付かれるという危険性が、著しく下がるという事を意味していた。


「これは、凄まじいスキルじゃの。レベルを上げていけば更に広い範囲に効果を及ぼす事も可能になるのであろうな。うぅむ」


 アレキサンダー王の賞賛を受けた樹は、自慢気な表情で一度斗真を見た後、木製人形の方に向き直り最後のスキルを使用した。


「【千里眼】うわっ!」


「っ!またかよ!樹っ!今度なんだっ!?」


「いやっ。驚いただけで全然大丈夫だよ。いやぁ~でもこれは驚いたなぁ」


「まぁ大体予想はつきますが。私から説明しましょうか?」


「っ!いやいや自分でするから!でしゃばんなよな!」


「じゃあ、さっさとして下さいよ。どうせ遠くが見えるとかそんな所でしょうし」


「っ!?……そうだよ!その通りだよ!あの人形がすぐそこにあるみたいに見えたんだよっ!マジでウゼェなお前っ!」


(何で一々ギスるんだろ?まだ三人目だぞ。しんどいわぁ)


 川上賢治のチャチャにブチギレながら、樹は救世主達の所へと戻った。


「じっじゃあ、つっ次は僕だね。ハハッ」


 救世主達の完全にギスッた空気の中、上野信二は少し言葉を噛みながらも愛想笑いを浮かべて、樹が立っていた所へ向かった。


「え、えっと。だ、【奪命剣】!」


 信二は、意を決したようにスキルを唱えると、信二の右腕に黒い靄の様なものが纏わりついていた。


「おいっ!なんだよアレっ!?呪いか!?」


「だっ!大丈夫っ!効果が分かったから!大丈夫だからっ!」


 端から見ると呪われているようにしか見えない信二の右腕だが、本人はその使い方を理解しているようだった。


「こっ、これは、これは防具無効だ!この深淵を纏った攻撃の前では全ての防具は無意味だっ!」


「おぉ~凄いな。凄いのかな?」


「ハッ。防具無効つっても、そもそもあのちびデブに攻撃当てられんのかよ。俺なら絶対当たらねぇけどな」


「まぁ無いよりは有った方が良いんでしょうが。彼の運動神経が果たしてそのスキルを生かし切れるのかは疑問ですね。豚に真珠という諺も有る事ですしね」


 興奮した様にスキルについて説明する信二であったが、殆どの救世主達には受けが悪かった。発動した際の見た目の悪さや信二に対する元々の評価の低さがかなり足を引っ張る形になっていた。

 もちろん異世界人達には、真二のスキルの強力さは十分に伝わっており、皆一様に驚愕の表情を浮かべていた。


「ふっ。始まったな僕の時代が。よしっ!次だっ!【闇魔法】ぐっ!?そうか。僕には聞こえたぞ君の声がっ!【マインドボール】!」


 周りの感想など全く耳に入っていない信二が、何かを呟きながら腕を振り上げると、木製人形に向かってその腕を振り下ろすと同時にスキルを高らかに唱えた。


 すると信二の振り下ろした腕の先から、直径約30センチ程の真っ黒の球体が生み出され、やはり原付バイク程の速さで木製人形にぶつかった。


 しかし、木製人形には何も起こらなかった。




読んで頂きありがとうございます。

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