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第八十五話

読んで頂きありがとうございます。

 

 どれだけの時間眠っていたのか、目覚めた斗真は不快感が消え去った代わりに空腹を覚えた為、いそいそと食事の準備に勤しんでいた。雑貨屋で買った皿に、買い込んだ各種保存食を、大体五分の一ずつ盛り付けていく。


「良いなぁ。スゲェ良いなぁコレっ。めっちゃ豪華じゃん!買い込んだ甲斐があるってもんだよなぁ」


 溢れんばかりに盛り付けられた三種の肉に二種の野菜、更には二種のパンに芋と豆、挙げ句の果てには、デザートのドライフルーツまで取り揃えられた食事を前に、斗真のテンションは爆上がりの様相を呈していた。


「さてさて実食といきますか。っとその前に、シフっ。コレが6階層の地図だ。しっかり写しておいてくれ」


 ――スタッ――


 斗真の指示を受けて、地図の複写を始めたシフを横目に見ながら、斗真は食事を開始する。


「うっまぁ!これがダンジョンでの常食になるのかよ。勝ったな。これは完全に勝っただろっ!」


 次々と保存食を平らげていく斗真からは、感覚共有の際に受けたダメージは欠片も感じられなかった。

 それから程なくして食事を終えた斗真は、6階層へ向かう準備を始める。


「さて、取り敢えず此処までに集めた魔石をメイに合成するか。メイ、魔核を貸してくれ」


 ここに至るまでに入手した14個の魔石を取り出した斗真は、前回の探索時に約束したとおり、メイのレベルアップを優先させる様である。


 ――ダダダッ――


 喜び勇んで魔核を差し出すメイの様子に苦笑を漏らしながら、斗真は合成を続けた。


「コイツで最後だな。【合成】っと」


 ――ゴンッゴンッゴン――


「おぉ喜んどる喜んどる。これで後50個でメイもレベル7だな。そうすると次は、誰のレベルアップを優先するかだが」


 斗真は、飛び跳ねているメイを尻目に、どのゴーレムを最初にレベル8にするか考える。


「何せ128個だからなぁ。最優先で上げたいのは地図作製か収納袋なんだけど。探索の速度を上げたいなら地図作製だよな。でも収納袋はドロップアイテムの収集には必須だし。う~ん」


 結局はこの二つのスキルの、どちらをより重要視するかの問題であった。


(そもそも今回の探索の目的は何だ?レベルアップか金稼ぎか。宿代も払いきった上に未だ手持ちに金貨が残ってる俺が、ダンジョンに一体何を求めているのか……。ハハッ、最初から考えるまでも無かったな)


 黙ったまま思考を巡らせていた斗真は、徐にリュックを漁り魔石と一緒に拾い集めていたモンスター素材を取り出すと、その全てを5階層に向けて投げ捨てた。


(俺が求めるのはレベルアップだっ!だからこんなモノは要らねえ!)


 斗真の突然の奇行に戸惑うゴーレム達を尻目に立ち上がると、今回の探索における方針を伝える。


「今回俺達はとにかくレベルアップを優先する。だから道中のドロップアイテムは、魔石だけを拾うから素材は捨て置け。……あぁでも階層の突破を証明する為に、一つずつは持っておいた方が良いのかな?…………一つずつは素材も拾う!それからメイがレベル7になった後は、シフ、ソルジ、ハンタ、シャン、メイの順番で合成していくからそのつもりでなっ!」


 ――スタッ!!!!!――


 途中で僅かにグダリかけるも、何とか勢いのままに探索の指針を示した斗真に対して、ゴーレム達は一糸乱れぬ動きで従う。


「よしっ!それじゃあ6階層に向かうぞっ!シフ、地図は出来たかっ!」


 ――ダダッ――


 完全にテンションの切り替え時を見失った斗真に呼ばれたシフは、素早く6階層の地図を斗真の眼前に差し出す。


「結構!それでは6階層も隅々まで探索するから。シフ、案内を頼むぞっ!」


 ――スタッ――


「では出発っ!」


 ――スタッ!!!!!――


 サニアの二の舞いと化した斗真は、何処まで保つのか分からないテンションのまま、二日ぶりとなる6階層へと足を踏み入れた。

 先行するシフに導かれる様に歩みを進める斗真は、やはり鋭敏となった自身の五感を強く認識する。


(やっぱり感覚共有のせいか。何と言うべきか、色々と精度が上がっているなぁ)


 以前の斗真の視覚では、ぼんやりとしか見えなかったシフの背中も、今ははっきりとその目に捉える事が出来ている上に、周囲のゴーレム達の足音以外を聞き取れなかった聴覚も、意識を集中させれば、先行するシフの足音さえ捉える事が出来るまでになっていた。


 斗真が感応性を増した五感に意識を割いていると、先行していたシフが踵を返して戻ってきた。


 ――コン、コン、コン――


「スケルトン三体か。前回同様一体は俺が、もう一体はソルジとシフで、最後の一体はハンタとメイとシャンで対応してくれ」


 ――スタッ!!!!!――


 確認を終えて陣形を整えた斗真達の視界に、横並びで近づいてくる三体のスケルトンが現れた。


「一番左は俺が貰う。一番右はソルジ達が、真ん中をハンタ達がやってくれ」


 ――スタッ、スッ――


 斗真の指示を受けたゴーレム達の中で、シャンが真っ先にスケルトンに攻撃を仕掛ける。

 シャンによって生み出された火球は、真っ直ぐ突き進むと、真ん中を歩くスケルトンの胴体に被弾した。


 それが開戦の合図となる。


「行くぞッ!」


 ――ダッダッダ――


 崩れ落ちる一体のスケルトンを視界に捉えながら、斗真は自身が指名した左側のスケルトンに襲い掛かる。


「カタカタカタ」


 斗真の接近を感知したスケルトンは、その場に立ち止まり手にした剣を振り上げると、真正面から迎え撃たんと体勢を整える。


「遅い上に胴体がら空きとか舐めてんのかオラァッ!」


 しかし、レベル20の速力を十全に生かした斗真は、剣が振り下ろされる前に自身の間合いまで距離を詰めると、鋭敏となった五感が捉えた胴体の黒い骨に向かって最速の突きを放つ。


「ハッ!」


「カッ、タ……カタ」


 斗真の突きは、スケルトンの弱点である黒い骨を的確に穿ち、その結果スケルトンは、剣を振り上げた体勢のまま膝から崩れ落ちると、それから二度と起き上がる事は無かった。


「…………っ!援護に行かないとっ」


 余りに呆気ない戦闘に、呆然とスケルトンを見下ろしていた斗真は、未だ鳴り止まない戦闘音を聞きつけると、援護に向かうべく周囲に視線を巡らせた。

 そこにはスケルトンの正面で盾を構えて、シフが黒い骨を見つけるまでの時間稼ぎをしているソルジの姿と、既に担当のスケルトンを倒し終えて、周囲の警戒をしているハンタ達の姿があった。


「それじゃあソルジ達の援護に行くか、っと?」


 一歩踏み込もうと腰を落とした斗真に対して、それに気付いたソルジは顔だけを斗真に向けて意思を示す。


「……任せて欲しいって事か?」


 既に全身をスケルトンに向き直しているソルジからは、呟きに対する答えは得られなかったが、斗真は先にハンタ達と合流すると、ソルジとシフの戦いを見守る事にした。

 それから程なくして弱点の位置を把握したシフが、背後から槍の一突きで難無く仕留めて見せた。


(弱点さえ見つけてしまえば問題無しか。ただ結構時間が掛かってるよな)


 斗真は、魔石を拾いながらソルジとシフの戦いぶりを思い起こし、この先どうすべきか悩む。


(まぁ、後何回か見てから決めるか)


 結局は先送りする事に決めて、魔石のみをリュックに仕舞うと、素材は放置したまま探索を続行する。

 それから数回スケルトンと戦闘を重ねた結果、一つの決断を下す。


「ソルジ、シフ。次からは介入するからな」


 ――……スタッ――


 端的な言葉であったが、ソルジとシフには余すところ無く伝わった様で、二体とも僅かに逡巡したものの、最後には了承の意を示した。二体の戦闘が特別遅いと言うよりは、斗真の戦闘が速すぎるだけの事なのだが、それでもより早く戦闘を終わらせる事を優先したのだ。

 そうしてその後も、6階層の探索を続ける斗真達の前に、遂に新たなモンスターが姿を現す。


「グギャァァアアッ!」


 先行していたシフから三体とだけ伝えられたモンスターは、斗真よりも高い身長と発達した筋肉をその身に宿した、大きなゴブリンの様な姿をしていた。


「俺よりデカいモンスターは初めてだな。【鑑定】」


 一際大きな叫び声を上げた後、ドスッドスッという足音を響かせながら駆け出したモンスターのステータスが、斗真の脳裏に映し出される。


 〔ステータス〕

 種族:ホブゴブリン

 ランク:下級

 レベル:1

 パッシブスキル: 腕力強化

 アクティブスキル:


「腕力強化か。あの体を見る限りそれ以外もヤバそうだけどなっ。受け持ちはスケルトンと同じだっ!迎え撃つぞっ!」


 ――スタッ――


 斗真は素早く指示を出すと、バラバラに駆け寄ってくる三体のホブゴブリンを静かに見つめる。


 ――スッ――


 最早必勝パターンと成り始めていた、シャンの魔法による先制攻撃が始まった。

 スケルトンには近付く事すら許さなかった、まさに必殺ともいえる火球が、その身に陽炎を纏いながら、先頭を走るホブゴブリンに一直線に撃ち込まれる。


「グギャアッ!」


 しかし狙い撃ちされたホブゴブリンは、迫り来る火球に対して手にしていた斧を振り被ると、そのまま叩き付けて両断して見せた。


「なにッ!?」


 目の前で魔法が斬られる場面を見せ付けられた斗真が、思わず驚愕の声を上げると、まるで実力を誇示するかの様に緩慢な動きで上体を起こすホブゴブリンと、わざわざ動きを止めてその雄姿を見つめる二体のホブゴブリンに視線が吸い寄せられる中。


「グギャアッ!?」


「なにっ!?」


 シャンの魔法を両断した事で、斗真達に見下す様な視線を送っていた先頭のホブゴブリンの左目に、一本の矢が深々と突き刺さる。


「石の矢!ハンタかっ!」


 その言葉を肯定するかの様に、次々とホブゴブリンに向かって矢が放たれる。


「「「グギャァァアアッ!」」」


 動きを止めていた三体のホブゴブリンは、直ぐ様武器を掲げると、ハンタとの距離を一気に縮めるべく駆け出した。


「っ!させるかぁッ!ハンタッ!下がれッ!」


 ――ダッダッダッ!――


 ハンタに向かって殺到する三体のホブゴブリンと、それに相対する斗真とソルジとシフ。

 戦闘は乱戦の様相を呈するかに思えたが。


「グギャァァアアッ!」


(……見えるッ!隙だらけの大振りだなッ!)


 ホブゴブリンによって力任せかつ、縦横無尽に振るわれる武器と打ち合いながら、斗真は目の前のホブゴブリンだけではなく、直ぐ横で同様の戦闘を繰り広げる、二体のホブゴブリンの動きまでもを完璧に捉えていた。

 それは単に目だけで追っているのではなく、ホブゴブリンの間合いを完璧に把握した上でである。


(長引かせるつもりはねぇッ!次で決めるッ!)


 目の前で大きく斧を振り上げるホブゴブリンを見据えながら、斗真は全神経を研ぎ澄ませる。


「グギャァァアアッ!」


 不快な咆哮と共に、最速で振り下ろされる斧の煌めく刃までその視界に捉えた斗真は。


「フゥッ!」


 その軌道を瞬時に見極めると、体を半身に反らしながら剣を打ち合わせて、まるで地面に導くかの様に受け流す。

 斗真によって、振り下ろした斧に更なる加速を加えられたホブゴブリンは、その勢いを殺し切れずに渾身の力で地面に斧を叩き付けてしまう。


「グギィッ!」


 ホブゴブリンの全力を叩き込まれた地面は変わらず無傷であったのだが、その手の武器は粉々に砕け散ってしまい、それでも尚有り余る衝撃は、その全身へと隈無く駆け巡っていた。

 その結果、制御を失い泳ぎ回ったままの体勢は、強烈な痺れを纏った無防備な状態で、その首を差し出す事となる。


 斗真は思い描いた通りの結果を前に、万全の体勢で剣を振り下ろす。


「ハァッ!」


「グギッ」


 まるで処刑台で裁かれる罪人の様に、ホブゴブリンの首は宙を舞う事となった。

 時間にすると一分にも満たない僅かな対峙は、端から見ると余りに呆気なく見えただろうが、其処で繰り広げられた致命へと至るまでの攻防は、斗真に確かな手応えを感じさせた。


「よし、次だッ!」


 勝利の余韻など感じる暇もなく、斗真は直ぐ隣で戦っていたシフの援護を優先し斬り込んでいく。


 シフはホブゴブリンの猛攻を前に、ひたすら槍の間合いを維持しながら注意を引きつけるのみで、有効となる攻撃は後方のハンタやシャンに任せている様であった。

 片目を失い怒り狂った様に斧を振り回すホブゴブリンを前に、弱点となる魔核が胸部に露出しているシフは、攻め気を欠いたまま時間稼ぎに徹していた。


 其処に斗真が介入する。


「オラァッ!」


「グギィッ!?」


 目の前で鬱陶しく纏わりつくシフと、隙あらば後方から魔法や矢を放ってくるゴーレム達に気を取られていた片目のホブゴブリンは、背後から放たれた斗真の突きを、認識する事すら出来ずに心臓を貫かれた。


「グギィッ!……グギッ、グッ」


「おぉ、モンスターにも心臓への攻撃は有効なのか」


 斗真はシフの援護をするに当たって、魔法や矢が断続的に飛び交っている事から、ホブゴブリンの正面ではなく背後から強襲する事に決めると、人型のモンスターに対して、人体の弱点がどこまで有効なのかを確認する為にも、敢えて首ではなく心臓を狙い突きを放ったのだ。

 心臓を貫かれて動きを止めながらも、未だ息のあるホブゴブリンの様子を、冷徹さを宿す双眸で見据えた斗真は、突き刺した剣を更に抉る様に動かしながら抜き出す。


「グッ、ギィィッ!」


 零れ落ちた命の量の多さを示す様に、地面に膝を落としたホブゴブリンは、しかし未だ息絶える事無く、己の体から抜き出された剣の行き先を追い掛ける様にゆっくりと振り返る。

 今や虫の息となったホブゴブリンは、それでも残る片目に怨嗟を込めて斗真を睨み付けるも。


「成る程な。即死させるなら、心臓より首を狙うべきか」


 もう用済みとばかりに呟かれた斗真の言葉を最後に、その視界は激しく回転し、薄暗いダンジョン内を無意味に駆け巡る事となった。


「さて、最後の首を刈るか。シフはハンタ達と合流して、周辺の警戒に当たってくれ」


 ――スタッ――


 斗真は最後となったホブゴブリンを前に、しかし一切の油断を許さずに、シフ達には他のモンスター達の乱入を警戒させると、一人激戦を続けるソルジに視線を送る。


 ソルジは盾での防御を軸に立ち回っていたのだが、ホブゴブリンの腕力の強さを前に、何度も体勢を崩されてしまっていた。

 しかし、ホブゴブリンの攻撃が大振りであった事も幸いして、何とかその度に立て直す事は出来ていた様だ。

 更にソルジは、隙の多いホブゴブリンに対して細かく攻撃を当てており、その体に少なくない傷を負わせる事に成功していたのだが、ソルジの持つ剣では筋肉に覆われたホブゴブリンに、致命となるだけの深手を負わせる事は出来ない様で、徐々に劣勢を押し付けられ始めていた。


 其処に又しても斗真が介入する。


「オラァッ!」


「グギャァァアアッ!」


 今度は敢えてホブゴブリンの正面から対峙すると、ホブゴブリン渾身の振り下ろしに対して、斗真も真正面から全力で剣を打ち合わせた。


「グギィィッ!」


「ハァァァアアッ!」


 視界を塗り潰す様に火花が散るのを知覚しつつ、鼓膜を引っ掻く様な濁音混じりの甲高い音を響かせながら、両者の戦いは原始的な力比べへと移行する。


「グギャァァアアッ!」


「っねやっオラァッ!」


 蛮声を上げる両者は互いに死を押し付け合い、全身全霊の一刀は僅かな均衡の後、敗者に一つの現実を容赦なく突き付ける。


「おぉぉぉぉオラァッ!」


「グギィィァァアアッ!」


 振り抜かれた渾身の一刀は、その勢いを僅かも衰えさせる事無く、打ち合わされた斧諸共にホブゴブリンの体を真正面から両断した。


「グギィィ……」


 袈裟切りに両断されたホブゴブリンは、ほんの小さな断末魔を最後に、ドロップアイテムへとその姿を変えた。



五十万文字突破しました。此処までお付き合い頂きありがとうございます。

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