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第七十五話

読んで頂きありがとうございます。

 

「悪かったってクレナ。マジで大事な事だったから、ちょっと集中し過ぎちまったんだよ」


「べ、別にあたしは怒ってないもん。ただちょっと遅いから心配しただけだもん」


 斗真達は、夕暮れ時のダレスを宿に向かって歩きながら、武具屋での一件の落とし所を探っていた。


「ホントかよ。顔真っ赤じゃねぇか」


「こ、これは夕日が顔に当たってるだけだもん!」


 クレナは、確かに最初に忘れられていたと聞いた時は、斗真のダンジョン探索初日にも宿に忘れられていた事を思い出して、僅かに不機嫌になったのだが、それも斗真の謝罪を一言聞いた時点で、既にその内心に含むところは欠片も無くなっていた。


「ほらクレナ。屋台で肉でも買ってやろう」


「い、要らないもん!お腹も空いてないもん!」


 しかし誤解したままの斗真が、クレナに対して頻繁にご機嫌伺いの様に話しかけてくるのが妙に嬉しくて、普段通りの態度に戻すタイミングを見失ってしまっていたのだ。


(もんもんもんもんってガキかよ。……あぁガキだったか)


 斗真から見ると頑なに思えるクレナの態度を前に、完全にお手上げ状態となってしまい、気まずさから逃れるように視線を周囲に巡らせていると。

 

「あん?何してんだアレ?」


「えっ?どれどれ?」


 斗真の視線の先には、大きなリュックを背負った小走りの人が、街中に設置されている街灯代わりの明かりの魔道具に、登っては飛び降りると言う動作を繰り返している光景があった。


「あっ、そっか。チートーマはダレスに来たばっかりだもんね。あれはねっ、点灯士って言ってね、完全に夜になる前にダレス中の明かりの魔道具に、魔石を嵌めている人達なんだよっ」


 クレナの話によると、彼等は夕暮れ時や天候不良などで全く日が射さない時になると、都市中の街灯を点ける為に明るい昼間は外している魔石を、都市が完全に暗くなる前に一つ一つ取り付けて回っているのだそうだ。


「そんな仕事があるのか」


「そうだよっ。あたし達にとって憧れの仕事だよっ」


 そう言ってクレナが語るのは、都市中を走り回っている点灯士達の素性である。


 彼らは文字通り選ばれし者達で、ダレス中の街灯の魔石の管理を任される為、防犯の都合上その全ての者達が、ダンジョン探索において一定の成果を認められた実力者達なのである。

 その上で、その危険なダンジョン探索からは、完全に足を洗う事が出来ただけでなく、高収入かつ安定した生活を送っている、所謂勝ち組と言う存在なのだそうだ。

 それ故に、年を取り先が見え始めた組合員などにとって、命の危険が無く安定した収入を得られる点灯士の職は、まさしく垂涎の的であり、更に安定志向の強い若者にとっても、ダンジョン探索をしながら目指すべき職業の一つであるのだそうだ。


「じゃあ、その点灯士になれなかった人はどうしてるんだ?」


「ん~、あたしが知ってるのは、死ぬまでダンジョンで稼ぐか、体が動く内に別の職を探すかとかかな。でも上手くやった人なんかは、若い頃にダンジョンで沢山稼いで、老後は悠々自適の生活をしてるんだって。ダレスでも、昼間っから仕事もせずに都市を彷徨いてる人の中には、そういう人も居るんだって。中には、お金は沢山有るのに毎日暇すぎて、時間を潰す為だけに仕事を探している人なんかも居るんだって。羨ましいよねっ」


 斗真は、クレナの浮かべる心底羨ましそうな表情を見ながら、点灯士という職やダレスでの生き方に思いを馳せる。


(点灯士ねぇ。って言うかあのデカいリュックには魔石が入ってるのかぁ。あのデカさのリュックいっぱいに入ってるとしたら、一体何ヶ所走り回らないといけないんだろな。それも毎日毎日)


 斗真が見る限りクレナが言う程、点灯士という職業が良いものだとは思えなかった。


「それにもし、魔石を無くしたりしたらどうするんだろうな」


 何となく老後をダレスで過ごす自身の姿を想像していた斗真は、無意識の内に、ふっと頭を掠めた疑問を声に出して呟いた。


「その時は自分で買うしか無いんじゃないかな?バレて首になったら勝ち組から転落だもんっ」


「まぁ、それかダンジョンに取りに行くかだろうなぁ。その方が金は掛からない訳だし」


 二人は何時の間にか、自然と会話を行える様になっていた。


「ん~、それはどうかなぁ?点灯士の人達って、ダンジョン探索を辞めたくてなる人が多いって言うもん。だからダンジョンに入る位なら、自分で買うと思うけどね」


「ふ~ん、成る程なぁ。……えっ?って言うか魔石って普通に買えんの?」


 斗真は非常に今更な疑問をクレナにぶつけた。


「えっ?買えるよ?買えないと魔道具を持ってる人が使えないじゃん」


「いや、まぁ、確かに。……そうか、買えるのか。となると、問題は値段だな」


 魔道具以外の魔石の用途に大いに心当たりが有る斗真は、直ぐ様クレナに指示を出す。


「クレナ、その魔石が売ってる店に案内してくれ」


「え?今から?別に良いけど。魔石を買うだけなら露天とかでも買えるけど、魔道具も一緒に買うつもりなら魔道具店に向かうけど、どっちが良い?」


「あぁ~、今回は魔石を買うだけだから露天で良いや」


「分かった!それじゃ行こうっ」


 クレナは宿屋へと向かう道から逸れて、未だ斗真が通った事の無い道を歩いて進み、屋台や露天商が多くいる、中地区に程近い場所まで斗真を案内した。


「チートーマあそこっ。あの露天で魔石を売ってるみたいだよっ」


「ん?あぁ、アレかぁ」


 斗真達は、立ち並ぶ屋台や露天を冷やかしながら、目的の露天商に向かって歩く。

 斗真達の目的の店は、凡そ2メートル四方に仕切られた区画の地面に布を引いて、その上に魔石を含めた幾つかの商品を並べている、中年の男性が営む露天商であった。


「ん?いらっしゃい。魔石をご用ですかい?」


「ええ、一つ幾らですか?」


 クレナの声が聞こえていたのか、斗真を見るなりそう声を掛けてきた露店商に、並べられた商品を横目に見つつも斗真は答えた。


「今残ってるのは一番安い魔石だけでして、一つ鉄貨七枚でやすね」


「えっと、それは幾つ有るんですか?」


「後十個だけでやすね。幾つかお買い上げになりやすか?」


(鉄貨って、銅貨より下のお金だったよな。確か鉄貨十枚で銅貨一枚だった筈だから、十個で銅貨七枚か。まぁそれくらいなら良いか)


「えっと、十個全部売って貰えますか?」


「お?勿論ですよっ。それじゃあ銅貨七枚になりやす」


「はい、コレで」


「お買い上げありがとうございやす。もう少し早い時間に来て貰えれば、質の良い魔石もありやすんで、機会があれば又来て下せぇ」


「そうなんですか。じゃあその時は是非」


 斗真は手早く魔石の売買を終えると、そのまま来た道を逆走する様に歩く。


「ねぇチートーマ。そんなに魔石を買ってどうするの?」


 斗真が魔石を十個も買った事に心底不思議そうな表情を浮かべて問い掛けるクレナに対して、斗真は思わせ振りな返答を返す。


「ん?まぁ、ちょっとした実験だな」


「ふ~ん、そうなんだ。でもチートーマなら自分で取って来れるのに変なのぉ」


 斗真の返答か、またまた行動自体が可笑しかったのか、クレナはクスクスと笑い出すと宿に向かって歩き出した。


(ふっ、分からないだろうなぁ。ゴーレムマスターではないお前にはなぁ!)


 上機嫌そうなクレナの後ろ姿を見据える斗真は、心の中だけで返答しながらも、購入した魔石が齎すであろう結果を前に、期待に胸を膨らませていた。


「あら?お帰りなさい、お二人さん」


「う、うん。た、ただいまっ」


「おっす。掃除か?」


 宿の前まで戻ってきた斗真達を、店先を箒で掃いていたニーナが、満面の笑みを浮かべながら出迎えた。


「そうだよぉ。今丁度終わったところなの。二人とも欲しい物は買えたのかしら?」


「ああ、まあな」


 斗真達はニーナに返答しながらも、立ち止まる事無く宿の中に入っていく。


「あたしも、屋台で色々食べさせて貰ったのっ」


「あらぁ、良かったわねぇ。どんな事があったのか聞かせてぇ」


「うんっ良いよっ!チートーマはっ?」


「俺は、今日買った物の整理をしたいから、先に部屋に戻るわ」


「そ、そうなんだ。分かった」


「じゃあ、お湯が欲しくなったら声を掛けてくれる?」


「あぁ、分かった。それじゃあまた後で」


 斗真はそう言うと自分の部屋へと向かったのだが、クレナは暫くニーナと話をする様である。

 一人部屋に戻った斗真は、逸る気持ちを落ち着ける為にも、クレナ達に言った通り、まずは買った物の整理から始めた。


(明日ダンジョンに持って行く物は収納袋に入れておくか。その方が軽いしな)


 斗真は屋敷から持ち出した物や、購入した保存食などを取り出しながら、ダンジョンに持ち込む物を収納袋に入れ替えていく。


(替えの服は、取り敢えず二着で良いか。タオルは一枚だけ残して後は持って行こう。……制服か)


 斗真は、収納袋から取り出した日本の学生服を見つめると。


(……置いていこう。持って行く必要性を微塵も感じないわ)


 見る度に未だ湧き上がってくる郷愁の念に蓋をする様に、斗真は制服を視界の外に置くと、それを挟み込む様に部屋に置いていくこの世界の服を重ねて、外側からは見えないようにした。


(石鹸は一箱持ち込んで、もう一箱は置いていくよな。保存食と食器は全部持って行くから……ってあぁコレ)


 斗真は買い込んだ保存食の中で、一つ余計に購入した果物の保存食を手に取ると、その使い道を今更思い出していた。


(これクレナに渡すのを忘れてたな。……今更何て言って渡そうか)


 斗真は、武具屋で存在を忘れられて拗ねていたクレナを思い出すと、渡すのを忘れていたと告げた場合、どの程度拗ねるのかを考えた。


(……絶対面倒くせぇ。取り敢えずコレは後だな)


 斗真は想像上のクレナの態度に辟易とすると、一旦後回しにして荷物の整理を続けた。

 その後も黙々と整理を進めた斗真は、ようやくダンジョンに持って行く為の荷造りを終えた。


(やっぱりハンタの収納袋は滅茶苦茶便利だな。持って行く物が全部入っちまうんだもんなぁ)


 斗真はダンジョンに持って行く物の中で、地図とゴーレムの魔核以外の全てを収納袋に収めていた。

 その結果、流石に収納袋ハンタにはもう荷物を積めなくなってしまったのだが、それでも斗真のリュックが殆ど空な為、ダンジョン探索に向けて別段心配は無かった。


「それじゃあ、風呂に入る前に魔石の合成といきますか!【合成】」


 一通りの準備を終えた斗真は、待ってましたとばかりに収納袋を手に取ると、赤い魔核が露出している部分に、露天で購入した魔石を近付けながらジョブスキルを発動させる。


「「………………」」


 しかし何も起こらなかった。


「はぁ?何でだ?【合成】【合成】【合成】」


「………………」


 斗真は、購入した10個の魔石を取り替えながら試してみるも、どの魔石を使ってもゴーレムに合成する事が出来なかった。


「え、マジか。……【クリエイトゴーレム・ソルジャー】!」


 運とも寸とも言わない収納袋ハンタに業を煮やした斗真は、ゴーレムの魔核を手に取るとソルジを創り出した。


 ――スタッ!――


 初めてダンジョンの外に創り出されたソルジは、興味深そうに室内を見回していた。


「ソルジ、盾を貸してくれ。魔石を合成してやるぞ」


 ――カタッ?――


 斗真は魔石を片手にソルジに呼び掛けるも、ソルジは頭を左側に傾けるのみで、それ以上の反応を示さないまま取り敢えずといった振る舞いで、斗真に盾を差し出した。


「おぉ、悪いな。……って言うかソルジ、何かテンション低くないか?魔石を合成してやるんだぞ?もっとこう、グイグイ来る感じじゃないのか?」


 ――カタッ?――


 斗真の問い掛けに、しかしソルジは逆に困惑した様子を見せており、どの様な振る舞いを見せればいいのか分からずに、頭を傾げたまま完全に動きを止めてしまう。


「ダンジョンの外だから遠慮してるのか?……まぁ良いか。んじゃあ【合成】」


「………………」


 しかし何も起こらなかった。


「なんっでやねんっ!」


 何一つ変化を起こさない魔石と盾を前に、斗真は何故か関西弁で叫んでいた。


「はぁ?マジで何なんだよコレ!【合成】【合成】【合成】」


 不満も露な斗真は、先程と同様に複数の魔石で試してみるも、どれ一つ取っても、ジョブスキルが発動する事は無かった。


(何でだ?何で合成出来ないんだ?……そう言えば、ソルジはこの魔石に反応を示さないよなぁ。それが原因か?)


 斗真は一旦頭を冷やすと、目の前の状況を理解すべく、思考を働かせ始める。


(ふむ。試してみるか)


 その中で斗真は一つの仮説を立てると、それを確かめ様と全ての魔石を手に取った。


「ソルジ、この魔石の中で欲しい物は有るか?」


 ――フルフル――


 先程までの斗真の様子に、心配そうに斗真の側に寄り添っていたソルジは、目の前に差し出された魔石を一瞥すると、頭を左右に振って質問への答えとした。


「そうか。一応他のゴーレム達でも試すか。【クリエイトゴーレム】……」


 斗真は、ソルジの反応から自信を深めた仮説を確信へと変える為に、残りのゴーレム達を創り出した。


 ――スタッ!!!――


 斗真に創り出されたハンタ以外のゴーレム達は、皆一様に室内へと興味を持っている様子で、忙しなく視線を周囲に泳がせていた。


「はいっ注目!お前達、全員コッチ向けや」


 斗真は、何時までも室内に視線を巡らせたまま自身に視線を向けないゴーレム達に対して、手を叩きながら注目を集めると手早く目的を果たそうとするも。


 ――バッ!!!――


「急にコワァッ!……まぁ良いや。それじゃあお前達、この魔石の中で欲しい物は有るか?」


 斗真は自身の呼び掛けに対して、一斉に体ごと向き直ったゴーレム達の動きに若干ビビりながらも、三体のゴーレム達の目の前に魔石を差し出して反応を確かめる。


 ――フルフル――


「……やっぱりか」


 三体のゴーレムは斗真の手の中の魔石を一瞥したのみで、直ぐ様頭を左右に振った。

 それはダンジョン内で魔石の分配時に、ウザいアピール合戦を繰り広げたゴーレム達とは思えない程、無関心な振る舞いであった。


「これはアレかなぁ。自分の力でモンスターから取らないと、ジョブスキルは発動しないって事なのかなぁ」


 斗真は目の前の状況と、コレまでの自身のジョブスキルの発動状況から、その条件に当たりを付けた。


「はぁ、銅七枚かぁ。どうしようかこの魔石」


 推測通りなら完全に無駄になった魔石を前に、斗真はその使い道の無さに途方に暮れる事となった。



是非ともまた、お越しください。

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