第六話
続きを書く気持ちは強くても、早く書き上がる事は無いんですね。
「「「「………………」」」」
「あっあぁ~、ヴッウン!……よっし!やっと出た」
気まずい沈黙が救世主達と異世界人の間に流れる中、突然そこそこデカい独り言を喋り出した斗真に、その場にいた全員の視線が向けられた。
全員の視線を一斉に浴びせられた斗真は、顔が引きつらないように意識しながらも、何とか喋り出すことに成功した。
「あぁ~えぇっと、ゴホン!と、とりあえず自己紹介します。地井斗真です。よろしくお願いします。斗真って呼んで貰えれば……(いいっつうかなんというかまぁ)よろしくです。あの~俺は天宮さんみたいには喋れそうにないんですけど、このままの感じで喋っても王様的には大丈夫ですか?」
突然喋り出したと思ったら余りにも砕けた口調で話しかけてきた斗真に、流石のアレキサンダー王も一瞬面食らったような表情を浮かべたものの、すぐさま穏やかな表情を浮かべると斗真の問いに答えた。
「もちろんかまわぬよ救世主殿、いや斗真殿」
「あっ呼び方は斗真でいいです。殿はいらないです。はい」
「ん?……そうか。では斗真、話とはそなたのステータスのことで良いのだな」
若干ドモリながらも自己紹介と砕けた喋り方の許可をもぎ取った斗真に、アレキサンダー王は核心となる質問を投げかけた。
「あぁ~はい。その通りです。とりあえずステータスに載っている情報を上から順に言っていくんで、色々と教えて下さい」
斗真の言葉に異世界人達は僅かに色めき立ったが、アレキサンダー王の視線一つで元のように静まり返った。
「 ステータス、名前:地井・斗真、種族:人間、性別:男、レベル:0、ジョブ:ゴーレムマスター、ジョブスキル:クリエイトゴーレム 合成、パッシブスキル:異世界言語 感覚共有、アクティブスキル:生活魔法 鑑定 。以上が俺のステータスに載ってる情報の全てです」
斗真が自身のステータスを話し終えると、そこかしこから溜め息や呟き、僅かな話し声などが広がった。
アレキサンダー王も僅かに目を見開いていたのだが、それに気づく者は居なかった。
「うっうむ。斗真よご苦労であった。しかしながらそなたのジョブがゴーレムマスターと言ったか?儂には聞き覚えのないジョブであるが。誰かこのジョブについて知る者はおらんか?」
僅かな動揺を外に漏らす事無く押し殺したアレキサンダー王は、聞き覚えのない斗真のジョブについての情報を、その場にいた鎧姿の者やローブ姿の者に問いかけた。
アレキサンダー王の側に立っていた鎧姿の推定男と、ローブ姿の推定男は、一通り周囲の者達を見回すと、すぐさま王の元に跪きよく通る声音で簡潔に答えた。
「近衛騎士団長として騎士を代表してお答えします。存じ上げません」
「宮廷魔導師長として魔導師を代表してお答えします。寡聞にして存じ上げません」
「ふむ。あいわかった。二人とも楽にせよ。それにしてもこの二人をして未知のジョブであるか。流石は救世主殿といったところかのう」
結局、結論としては誰も知らない未知のジョブであるという事なのに、アレキサンダー王はどこか満足げな雰囲気を醸し出していた。
それはまるで、救世主足るもの斯くあるべしとでも考えていそうな態度であった。
(はぁ?分からないってなんだそれっ!?わざわざステータス話した意味がねぇじゃねぇかっ!つうか俺はどうすればいいんだよっ!せめて魔王殺せるジョブかどうかだけでも教えてくれませんかねぇ!ハァーッ!マッジ使えねぇなっ!オイッ!)
いい加減ストレスで情緒不安定になりかけている斗真は、無限に湧き出してくる悪態をなんとか心の中だけに収めると、更に質問を重ねようとした。
「あぁ~と、じゃあスキルの事について知りたいんだけど……」
「うむ、斗真よ少し待って貰えるかの。個別に説明するよりも先に全員のステータスについて聞いておいた方が良いと思うのじゃ。そなた達のスキルについては最後にまとめて説明しようではないか」
(話遮んじゃねぇよ!んだよっ!ステータス聞いたらもう満足ってか!こっちの質問は後回しで十分ってか!ハァーッコレだから自分勝手な権力者はっ!そんなんだから魔王に襲われるんだバァ~カッ!)
「……わかりました。俺も質問を纏めておきます」
「うむ、すまぬのう。では次は誰が話してくれるのかの?」
(かっる!謝罪の言葉かっるぅ~!ぜってぇ悪いと思ってねぇわこの絵本ヒゲ!相槌程度の感覚で言いやがったわ!ほんっとにイラつくわこの絵本王!マジで煽ってんの?この未知なるゴーレムマスター様をマジで煽ってんのかコラァッ!)
斗真は、自身の質問を遮られた上で後回しにされた事にイラついた心を必死で鎮めると、なんとか無難に返答したのだが、続くアレキサンダー王の空気よりも軽い謝罪のせいで、斗真は又しても心の中だけで発狂した。
アレキサンダー王に促されて、救世主達の間で再び気まずい空気が流れようとする中、またしてもこの少女が声を上げた。
「では、次は私の方から読み上げさせて頂きます」
「ほうそなたか。これは楽しみだ」
アレキサンダー王の軽口に、僅かな頷きのみで答えた天宮聖子は、意を決したように一度つばを飲み込むと、視線を真っ直ぐ前へと固定したまま、ゆっくりと喋り出した。
「 ステータス、名前:天宮・聖子、種族:人間、性別:女、レベル:0、ジョブ:聖女、ジョブスキル:聖装召喚 ゴッドブレス、パッシブスキル:異世界言語 毒呪い病無効、アクティブスキル:生活魔法 神聖魔法。 これが私のステータスです」
「な……なんと」
(へぇ天宮さんは聖女かぁ。確かにぽいっちゃぽいのかなぁ?……えっ?ってことは、俺も人から見たらゴーレムマスターぽいって思われてるのか?ってかゴーレムマスターぽさってなんだろ?寡黙なところとかかな?)
天宮聖子がステータスを読み上げる間、幾度もの騒めきが彼方此方から起こっていた。
それは聖子がステータスを読み上げ終わった今も続いており、暫くの間は異世界人達から騒めきが収まる事は無さそうであった。
そして何より、あのアレキサンダー王でさえ、未だ意味のある言葉を吐くことが出来ていなかったのだ。
それほど迄に、聖子のステータスが異世界人にとって驚異的だったという事なのだろう。
特に彼等の騒めきが大きかったのは、聖女や聖装召喚、毒呪い病無効や神聖魔法といったところであった。
「あのっ……次の人に回しても宜しいでしょうか?」
「むっ、少し待ってくれ。聞き返すようでなんだが、そなたのジョブは真実、聖女で間違いないのか?」
「はい。間違いなく聖女となっております。お疑いになられるのは無理もない事かと存じます。私自身も未だに受け止め切れているとは言い難いので。しかし、誓って嘘は無いと申し上げます」
聖子のきっぱりとした宣言に、異世界人からは思わず『おぉ!』と歓声が湧き上がった。
さらに異世界人の騎士や魔導師からは『聖女様』と呟くような声や、それに伴う熱い視線などが聖子に注がれていた。
「うぅむ。余りの事に取り乱してしもうた。無粋な真似をしたな。すまぬ、許してくれ」
「いえ、どうかお気になさらず。ですが謝罪の言葉は受け取らせていただきます」
そう言ってアレキサンダー王と聖子は、お互いに僅かに頭を下げ合うと、自然と笑みを交わし合った。
その二人の和やかな光景に、異世界人達の熱気をはらんだ異様な空気は消え去り、どこか穏やかな空気が流れ始める中、アレキサンダー王が先を促した。
「では、次は誰の番かの?」
「でっでは、次は、おっ俺、いやっ、私、土屋樹が行かせていただきます」
些か慌てたような口調で名乗りを上げたのは、身長165センチ弱の髪の毛を真っ赤に染めた少年であった。
一気に注目を浴びたためか顔を赤くしながら、些か早口気味に喋り出した。
「 ステータス、名前:土屋・樹、種族:人間、性別:男、レベル:0、ジョブ:将校斥候、ジョブスキル:詳細探知、パッシブスキル:異世界言語 感覚強化、アクティブスキル:生活魔法 千里眼 。これがっ、私のステータスです」
(へぇ土屋君は将校斥候かぁ。なんかいい感じのジョブだなぁ。将校ってのが偉い感じもするしなぁ。でも斥候って事は、戦闘よりも情報収集的な感じなのかなぁ。ん~よく分かんねぇな)
「むぅ。これまた聞き覚えの無いジョブであるか。どうだお前達、何か知っていることはあるか?」
又もや、彼ら異世界人にとって初めて知るジョブであったようで、彼等は特にこれといって確かな情報は持っていなかった。ただ今回は、騎士団長の方から推測を聞く事ができた。
「はっ。近衛騎士団長として騎士を代表してお答えします。推測となりますが、斥候と名の付いているジョブである以上、おそらくは既存の斥候職の上位職に当るのではないかと存じます」
「ふむ。そう考えるのが妥当か。あいわかった。良くぞ申してくれた。騎士団長よ楽にせよ」
「はっ!」
「では次の者、よろしく頼む」
「じゃっ、じゃぁ次は僕が行きます」
少しずつ流れ作業じみてきたアレキサンダー王の促しに応えたのは、身長165センチ弱で髪の毛は黒く前髪が両目に掛かっていて、鼻から上は全て髪の毛という特徴的な髪型をした小太りの少年だった。彼は一度はっきりと深呼吸をすると、ポツポツと喋り出した。
「 ステータス、名前:上野・信二、種族:人間、性別:男、レベル:0、
ジョブ:暗黒騎士、ジョブスキル:奪命剣、パッシブスキル:異世界言語 鎧重量無効、アクティブスキル:生活魔法 闇魔法。コレが僕のステータスです」
(なんかかっけぇな暗黒騎士。ただの騎士じゃないところに拘りを感じるなぁ。まぁ暗黒騎士が何かは知らんけど)
「これまた暗黒騎士とは……うぅむ」
思わず二の句を継げなくなったアレキサンダー王は、周囲の者達に視線だけを向けて情報の有無を問いかけると、それに合わせるかのように近衛騎士団長も宮廷魔導師長も首を横に振る動作で、無であると伝えた。
「ぬぅ。あいわかった。では次の者、よろしく頼む」
「はっはい!わたしっ!次は私が言います」
早々に暗黒騎士の情報を諦めたアレキサンダー王は、気持ちを切り替える様に次を促した。
すると、まるでその言葉を待ち構えていたかの様に、一際背の高い女生徒が声を上げた。
身長は175センチ弱と女生徒の中で一番高く、髪は黒髪をセミロング程に伸ばした美少女であった。
「 ステータス、名前:田村・優美、種族:人間、性別:女、レベル:0、ジョブ:聖騎士、
ジョブスキル:ホーリーシールド、パッシブスキル:異世界言語 鎧重量無効、アクティブスキル:生活魔法 聖魔法。これがわたしですっ! 」
一息で言い切った田村優美は、周囲からの注目を浴びて少し顔を赤らめながらも、ようやく肩の荷が降りたと言わんばかりに、スッキリとした表情を浮かべていた。
(聖騎士っ!聖騎士かぁ~。なんかかっけぇのばっかだな。……なんか俺のゴーレムマスターってダサくない?ってか今のとこ俺のジョブだけカタカナっぽくない?聖女に将校斥候に暗黒騎士に聖騎士、どう考えても漢字だよなぁコイツ等のジョブ。……まっまぁまだ4人残ってるから分らないけどな)
「ほぅ。聖騎士となっ!これはまたなんとも……聖女に聖騎士、斥候に暗黒騎士とはまるで御伽噺のようじゃな」
(おいおい何自然にハブってくれちゃってんのかなぁ!?未知なるゴーレムマスター様をようっ!っていうかこの絵本ヒゲはちょくちょく俺を煽らなきゃ気が済まないんですかねぇ!しかも異世界人が俺達を御伽噺扱いとか笑わせんじゃねぇよ!ハァーッ!)
もういっそお手上げ状態と言わんばかりに言葉を発したアレキサンダー王は、念のため周囲に視線を送るが、返ってきたのは予想通りの否であった。
アレキサンダー王は、ほんの僅かに溜め息を吐くと次を促した。
「ふぅ…。では次のもの頼む」
「それでは、私が参りましょう」
落ち着いた声音で端的に応えたのは、召喚されてから常に天宮聖子の側にいた少女であった。身長165センチ弱で黒髪のロングヘアーをポニーテールに纏めた、天宮聖子にも匹敵する美少女であった。
「 ステータス、名前:御剣・乙女、種族:人間、性別:女、レベル:0、ジョブ:剣聖、ジョブスキル:聖剣召喚 縮地、パッシブスキル:異世界言語 心眼、アクティブスキル:生活魔法 聖魔法。 これが私のステータスです」
「剣……聖だと」
「…………」
御剣乙女が淡々と語ったステータスに、思わず斗真は言葉を漏らしてしまった。
そんな斗真に一瞬視線を向けた御剣乙女であったが、いまだ彼女のステータス内容を飲み込めていなかった斗真は、その視線に気が付く事は無かった。
「おぉ。またしても聖を冠するジョブの持ち主が現れたか。なんとも目出度い事だ」
アレキサンダー王は、一度静かに目を閉じると感慨深げに呟いた。
その呟きに賛同するかのように、周囲の者達もしきりに頷いていた。
「では、次のもの頼む」
既にジョブの事を周囲に問うこともしなくなったアレキサンダー王は、にわかに熱気を帯び始めた異世界人達の空気に後押しされるように次を促した。
しかし、アレキサンダー王の言葉に返ってきたのは、これまでの様な返答ではなく、残った男子生徒3人による、お互いの視線を交えた静かな牽制合戦であった。
読んで頂きありがとうございます。