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第五十二話

読んで頂きありがとうごさいます。

 

 斗真とクレナに、部屋の案内を終えた少女店員は申し訳無さそうな表情を浮かべると、二人に夕食についての説明を行った。


「えっと、お二人さんには悪いんだけど、夕食はもう少し後になっちゃうからその積もりでね。その代わりお湯なら今すぐ持っていけるんだけど、どうする?」


「……そうだな。汗も流したいし、お湯を先に頼むよ」


「じゃっ、じゃああたしも……あっ、でもあたしタオル持ってないや。どうしよう……」


「あっ!俺もタオルを買うの忘れてた。しまったなぁ。外泊するつもりも無かったから、屋敷から持ってきてないし。この辺で開いてる店でも探すか?」


 斗真がようやくタオルの買い忘れに気付いて、今から夜の街に繰り出すか悩んでいると、少女店員が笑顔を浮かべながら解決策を提示した。


「それならウチの宿で売ってるタオルが有るから、それを買いなよ!大判のタオル一枚で銅貨三枚だよ。余り大量には売って上げられないけど、どう?お買い得でしょ?」


(又コイツに金を払うのか……まぁ仕方無いかぁ。買い忘れた自分が悪いんだし)


「あっ、あたしは要らないよ!お湯だって別にいいもん」


「はぁぁぁぁ。取り敢えず、俺とクレナにタオルを一枚ずつ売ってくれ」


「毎度ありぃ~。じゃあお湯と一緒に持ってくるねっ」


 少女店員は斗真から代金を受け取った後、二人にそう告げると、返事も待たずに下の階へと走り去っていった。

 斗真が自身の部屋へと戻ろうとした時、その背中にクレナが声を掛けてきた。


「チートーマっ。そのっ、ありがとう。色々と」


「……まぁ気にするな。只の気紛れみたいなもんだから」


「うん。でもありがとう」


 斗真はクレナの二度目の感謝には返答する事無く、振り向きもせずに自室へと入っていった。

 そんな斗真の後ろ姿に、クレナは人知れず頭を下げ続けていた。


 自室へと入った斗真は、お湯が運ばれて来る迄の間に、装備品を外してはクローゼットに仕舞っていった。


(おぉ~。確かにいい感じだな。それにまだまだ入りそうだし。成る程なぁ。確かに装備品とか重たい物を収納するには、この宿のクローゼットは使い勝手が良さそうだな)


 斗真は更に、今日購入した物の中から一回分の着替えと、屋敷から出る時に入れっぱなしとなっていた歯磨きセットを取り出すと、他の荷物はリュックごとクローゼットに仕舞い込んで付属の鍵を掛けた。


(防犯も悪く無さそうだな。本格的に求道迷宮に潜る時は、一々屋敷に戻るより、この宿を拠点にした方が良さそうだな)


 斗真が一通りの作業を終えて、部屋の椅子に腰掛けていると、扉が外側からノックされた。


「お湯を持ってきましたぁ~。扉を開けても宜しいですかぁ」


「あぁ、今開けるから」


「大丈夫ですよぉ~。お邪魔しまぁす」


 斗真は、外から声を掛けてきた少女店員の、両手が塞がっている姿を想像して、椅子から立ち上がり扉を開け様とするも、少女店員は自身の力で扉を開けると、立ち尽くした斗真の横を軽やかに通り抜けて、隣の小部屋へとお湯を運んでいった。


(マジかよ今の。流石異世界人って事なのか?)


 斗真が目にしたのは、少女店員がお湯が8割以上は入った、直径60センチ高さ80センチ程の大樽を、軽々と抱えて運ぶ姿であった。


 斗真が、今目にした光景に驚き立ち尽くしている間に、少女店員は浴室へ大樽を運び終えた様で、斗真の目の前に戻ってくると、茶目っ気を帯びた表情で斗真に声を掛けてきた。


「そうそうお客さん。さっきはテンションが上がっちゃって聞き忘れちゃったんだけど、台帳に記帳しないといけないから、貴方のお名前を教えて下さるぅ?」


 斗真は少女店員からの問い掛けに我に返ると、今更ながらの自己紹介を始めた。


「あっあぁ。俺は地井斗真だ」


「チートーマね……良しっ。あっ、因みに私はニーナよ。東地区の宿に泊まるなら今後とも宜しくね。それにしても貴方って変わった名前ね。異国の人なのかしら?」


「あぁ、此方こそ宜しく。まあそんなところかな」


「ふ~ん。ところでさ、チートーマ君は着替えとかは持ってるの?」


「ああ。さっき買ったばかりだからな」


「なんだぁ。もし持って無かったら、お父さんのお古を売って上げようかなって思ったのにぃ~」


 斗真は少女店員改めニーナの抜け目の無さに、思わずドン引きしていると、何かを思い付いたのか悪戯な表情を浮かべたニーナが、斗真に話し掛けてきた。


「そう言えば貴方が連れていた子供、あの子は着替えを持っているのかしらぁ?」


「ん?……いや持って無いだろうな。荷物なんて何一つ持って無かったし」


「あらぁ~、じゃああの子はお湯で体を綺麗にした後も、汚れた服を着続けないといけない訳なのねぇ」


「………………」


「そう言えば貴方達って、今着てる服を着替えたらどうするのかしら?」


「どうって別に……」


「実はウチの宿では、追加料金さえ頂けたら、洗濯も請け負っているのよねぇ~」


「………………」


「そうねぇ。貴方達二人分の洗濯と、あの子に私のお下がりの服を着替えとして売って上げるのを含めて…………銀貨一枚でどうかしら?」


「………………じゃあソレで」


「毎度ありぃ。じゃああの子には私の方から説明しておくから、チートーマ君は夕食までごゆっくりと過ごしていてねぇ」


 ニーナは斗真から銀貨一枚を受け取ると、素早く身を翻して部屋から出て行き、そのまま一階まで降りていった。


「はぁぁぁぁ。…………まぁ未だ金貨が九枚残ってる事だし、気にし過ぎる必要は無いよな。はぁぁぁぁ」


 斗真は、どっと疲れた心身を癒すべく隣の浴室へと向かった。


「うっ、成る程。これが商売上手ってヤツなのか」


 浴室に入った斗真の目に飛び込んできたのは、壁に貼り付けられた紙に書かれていた『これはサービスよっ』という文字と、おそらく一回分とされる量の石鹸が、大樽の側に置いてある光景であった。


「………………ありがとうございます」


 斗真は謎の敗北感を感じながらも、感謝の言葉を呟くと、体を洗うべく服を脱ぎ始めた。


 斗真が湯浴みを終えて、ベッドに寝転がり物思いに耽っていると、外から扉が叩かれた後、続いてニーナの声が聞こえてきた。


「チートーマ君!夕食の用意が出来たから一階まで降りてきて。早く来ないと冷めちゃうよっ!」


「あぁ分かった。今行くよ」


 斗真は、ニーナからの呼びかけに素早く身を起こすと、そのまま部屋を出て一階へと降りていった。

 其処には既にクレナが待っていた様で、その服装は、多少古びてはいるものの、見窄らしくは無いといったものとなっていた。


「あっあの!チートーマっ。この服ありがとう」


「ん?それはニーナのお下がりなんだろ?」


「そうだけど、買ってくれたのはチートーマだって分かってるからっ。だからありがとうっ」


「あっあぁ。どう致しまして」


 斗真達がどこか初々しいやり取りをしていると、宿屋の奥から大柄な髭面の男性が姿を現した。


「おうおう。君達が今日のお客さんかぁ。これ又可愛いもんだなぁ。俺はこの宿屋の主人のオーヴァってもんだ。宜しくなご両人」


「どうも、地井斗真です。此方こそ宜しく」


「あっあたしはクレナですっ。よろしくですっ」


「うんうん。元気があって宜しい!それにしても済まなかったな。俺の帰りが遅かったばかりに夕食が遅れちまって」


「いえ、湯浴みをしていたので特には」


「あっあたしもっ」


「そうかい。いやぁこの時期は客が全く来ないもんだから、宿には最低限の人員だけ残して、俺はダンジョンに出稼ぎに行っててなぁ。ついつい夢中になってモンスターをボコってたら、何時の間にかこんな時間でよぉ。いやぁ参った参った」


「もしかして、オーヴァさんが潜ってたダンジョンって求道迷宮の事ですか?」


 斗真はオーヴァの愚痴の内容に、期待を抱きながら質問を投げかけた。


「ん?そうだぜ。ここいらの連中が潜るのは、専ら求道迷宮のみよっ。そういやぁ君達も、この宿に泊まるぐらいなんだから、求道迷宮行きを見据えてる訳なのかい?」


「ええ。俺はそうですけどこの子、クレナは俺の道案内をしてくれていただけなんで、求道迷宮に潜るのは俺だけですね」


「そうかいそうかい。なら兄ちゃん、チートーマって言ったかな?君が求道迷宮に限らず、ダンジョン攻略に乗り出す積もりなら、どんな時でも武器だけは持ち歩かなきゃあ駄目だぜ。それが例え宿の中であってもな。常に武器を身に着けておく事を癖にしてなけりゃあ、ダンジョンの外であっても、どんな厄介事に巻き込まれるか分かったもんじゃないからな」


「…………ッ!分かりました。以後気を付けたいと思います」


 斗真はオーヴァからの助言に、自身の平和ボケを痛感していた。


「ハッハァ!素直なのは良い事だぜ!そうだ夕食が遅れちまったお詫びに、ダンジョンでの話を聞かせてやるよ。君が潜る際の参考になるかもしれないからな」


「あっ、ありがとうございます。是非聞かせて下さい」


 斗真はその日、オーヴァから求道迷宮についての話を、夜遅くまで聞く事となった。


 翌朝目を覚ました斗真は、昨夜遅くまでオーヴァから聞いた求道迷宮の話を反芻すると、自然と体が興奮状態となり、二度寝をする事も出来そうに無かったので、クローゼットから装備一式を取り出し身に着けると、そのまま一階へと朝食を食べに降りていった。


「おっ?お早うチートーマ。それにしてもお早いねぇ、昨夜はよく眠れたのかい?」


「おはようございますオーヴァさん。ええ。夜はなんとか眠れたんですけど、今はもう目が冴えてしまって」


「ははぁ~ん。まあ若い頃はそう言うもんだなぁ。しっかりと装備も身に着けている様だし、良い面構えじゃねぇか。良しっ!今から朝食を持ってきてやるから、昨日の席に座って待ってな」


 オーヴァは、昨日斗真にした助言が、無駄に成っていない事を確認すると、嬉しそうな表情を浮かべて斗真に席に着いておくように促した。


 斗真が席について少しばかり暇を持て余した頃、オーヴァが木製のカートを押しながら斗真の席へとやってきた。

 昨夜は、斗真達の宿泊を予定していなかった為か、どう見ても屋台で買ってきた串焼きの盛り合わせと、温野菜のサラダのみであったのだが。


「さあどうぞ。我が宿自慢の朝食だよ」


「…………頂きます」


 斗真の目の前に並べられたのは、何らかの肉を使ったステーキであった。見た目から凡そ300グラム程の大きさで、その横には昨夜と同様のサラダと、真っ黒なパンが並べられていた。


 斗真は、取り敢えず目の前のステーキを、備え付けのナイフで一口大に切ってから食べてみると、その味に素直に驚きを表した。


「このステーキ美味しいですね。特に上に掛かっているソースが濃厚で美味しいです」


 斗真は確かに目の前のステーキを、美味しく感じてはいたのだが、王城で食べていたソレとはやはり比較にはならず、美味しいのに物足りないという、非常に贅沢な悩みを抱える事となっていた。


「そうかい。それは良かった。だけどそのソースは黒パンと一緒に食べた方が良いぞ。黒パンの酸っぱさが幾分かマシになるからな」


 斗真はオーヴァの勧めに従って、黒パンをステーキの皿に溜まっているソースに浸けてから食べてみた。


(かったっ!…………でも確かにソースのせいか味は悪くないな。そもそも先に黒パンをそのまんま食べてないと、比較のしようが無いんだけど。まぁいいか)


 斗真が無言のまま一心不乱に食事をしていると、その姿を見ていたオーヴァから話し掛けられた。


「そう言えば君は、今日この後、求道迷宮に潜る積もり何だよね?」


「はい。と言っても軽くですけどね。本格的に潜るのは、しっかりと準備をしてからにしようと思っています」


「ふむ。では荷物はどうする積もり何だい?君は昨日色々と買い込んだらしいじゃないか。幾ら軽く潜るだけとはいっても、余分な荷物を持ったままダンジョンに入るのは、余り良い事では無いのだけどね」


「…………荷物かぁ」


 斗真が僅かに思い悩んでいると、オーヴァから本命となる提案が成された。


「これは一般的な組合員が、ダンジョンに潜る際に行う事なんだがね。家を持たない組合員は、物置の代わりに宿を利用するんだよ。宿の一室を長期間借り上げて、其処に自分の荷物を置いておくものなんだよ。だからどうだろう、チートーマ君も試しに利用してみないか?」


「う~ん、確かにそれは便利そうですけど、今日は本当に少しだけ見てみようと思ってるだけなんですけど……」


「それなら尚の事、今日という日をダンジョン探索における、一連の手順の確認に使ってみてはどうだろう?宿を借りて部屋に荷物を置き、組合に行って地図を買いダンジョンに潜る。そしてダンジョンから帰還したら、組合に行ってアイテムを売却し、宿に戻ったら、そのまま宿泊するか自宅に帰るかを選ぶ。大体この様な流れになると思うんだけど、どうかな?試してみないかい?」


「…………そうですね。折角なのでオーヴァさんの提案に乗ろうと思います。えっとじゃあ、今使っている部屋を、そのまま使えば良いって事ですよね?」


「ああ、その通りだよ。ダンジョン探索に不必要な物は、部屋のクローゼットに入れておけば大丈夫だから。従業員も部屋の掃除には入るけど、クローゼットは開けないからね。それにもし君が部屋に入られるのが嫌だと言うのなら、君がダンジョンから帰還するまでは、誰も立ち入らない様にする事も出来るからね」


「分かりました。じゃあ取り敢えず、追加で一泊分だけお願いします。後部屋の清掃もお願いします」


「はい承りました。それじゃあ部屋の清掃はさせて貰うね」


「はい。宜しくお願いします」


 斗真はオーヴァに、追加の宿泊費の銀貨五枚を渡すと、残った食事を平らげてから、ダンジョン探索に向けての荷造りを行うべく、自身の部屋へと戻っていった。


 そんな斗真の後ろ姿を見つめるオーヴァの表情は、久し振りに連泊の客を掴まえた事による、満足感に満たされていた。



ブックマーク、評価ptありがとうごさいます。頑張ります。

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