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第四十四話

読んで頂きありがとうごさいます。

 

 王城から追放されて馬車へと運び込まれ、王都からも追い出される事になった地井斗真は、馬車の中で一人、先程までのアレキサンダー王とのやり取りに思いを馳せて…………いられなかった。


(うぉ~~ッ!揺れる揺れるぅっ!……と言うより跳ねてるだろコレッ!何コレッ!?一体何処走ってんのこの馬車っ!?)


 そう、斗真を乗せた馬車は、王都内ではゆっくりとした速度で動いていたのだが、王都から出た途端一気にその速度を上げると、既に一時間以上も止まる事無く走り続けていた。

 馬車内の斗真には、知る由も無い事ではあるが、既にその視界に王都が映る事が無い程の距離を移動していた。


(外を見ようにもこの馬車には取っ手が無いし、有ったとしてもこの揺れの中でまともに見れるのかも分からないし、マジで何なんだよっ!ってか俺もよく酔わないな!スゴいな俺っ!多分これもレベルアップのお陰だなっ!異世界様々だなっ!ウハハハハハ!)


 既に斗真には、まともに思考する余裕すら無くなっている様であったが、追放されているという現状においては、有る意味今の状態の方が考え込み過ぎずに済んでいる分、必要以上にネガティブになる事もなく済んでいるとも言えた。


 斗真が暫くの間、馬車の激しい揺れを現実逃避に利用していると、少しずつ揺れが収まり始めて、遂にはその動きを止める事となった。


(……ん?なんだ?止まったのか?もしかして目的地に着いたのか?)


 斗真が、久方振りにまともな思考を取り戻していると、外から馬車の扉が開かれて、一人の騎士がその姿を現した。


「失礼します。地井斗真様、今から僅かな間となりますが、休憩時間と致します。御用の際は、何なりとお申し付け下さい。可能な範囲でお応えさせて頂きます」


 馬車の扉を開いた騎士は、慇懃無礼な態度で言い切ると、斗真の返答を待たずに踵を返していた。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ!一体これから俺はどうなるんだっ!」


 斗真は慌てて立ち上がると、騎士の背中に質問を浴びせた。騎士は直ぐに立ち止まると、困惑の表情を浮かべながら馬車内に入ってきて、斗真の対面に腰を下ろした。


「地井斗真様、国王陛下より直接説明がなされたと存じておりますが、今一度説明致します。我々は既に王都を出て辺境都市を目指して移動しております。現在は馬車を引く馬を取り替える為に、一旦動きを止めております。そしてその時間を我々の休憩時間に充てております。食事や排泄などを行うのであれば、この時に行うように為さって下さい。勿論辺境都市までに、同様の機会は何度か訪れますので、今しかないと言う訳では有りませんので御安心下さい」


 騎士は一通りの説明を終えたのか、斗真の返答を待つような姿勢になっていた。


「移動の件は理解しました。それで辺境都市に着いた後の俺はどうなるんですか?」


 斗真は騎士が説明をしている間に、幾分か落ち着きを取り戻した様で、慌てた口調ではなく落ち着いて質問を続けた。

 斗真から更なる質問を受けた騎士は、又しても困惑の表情を浮かべると、斗真の質問に端的に答えた。


「辺境都市に着いた後の地井斗真様は、原則自由となっております」


 騎士の返答に、今度は斗真が困惑の表情を浮かべる事になった。

 斗真の表情を見た騎士は、更に詳しい説明を始めた。


「我々が国王陛下より賜った命令は、地井斗真様を辺境都市にある屋敷へと送り届ける事で、その後の地井斗真様の生活に関与したり、強制したりといった事は一切致しませんので御安心下さい。我々は、【ハルマゲトン】収束後に再びお迎えに上がりますので、それまでの辺境都市での生活におかれましては、地井斗真様ご自身が、望まれるままにお過ごしになられれば宜しいかと存じます」


「えっ?でも確か王様は鑑定士がどうとか言ってたような……」


「それは飽くまでも、地井斗真様の持つ【鑑定】のスキルを生かして生活される場合の一例として出されただけであって、国王陛下は地井斗真様に、職業の強制などはされておられません」


「……確かに言われてみれば……強制はされてないような?……ん?」


 斗真は、アレキサンダー王とのやり取りを思い出そうとするも、ここに至るまでの激しすぎる馬車での時間を過ごしたせいか、はっきりと思い出す事が出来ずにいた。


「じゃあ俺は、辺境都市に着いたら自由なのか。俺だけが自由……でも良いのかそれは?」


 斗真は、ここにきて自身の置かれている状況が、それ程悪いものでは無いのかもと思い始めていた。

 元々斗真は、集団行動が得意ではなかった上に、最近はやたらとクラスメイトに絡まれる事も増えていた為、これから一人で過ごす事になる日々は、これまでの数日間と比較しても、随分と気楽な生活のイメージを斗真に抱かせた。


(いや待てよ。此処が日本ならまだしも異世界だぞ。しかもダンジョンだのモンスターだのが存在する、とびきり危険な世界なんだ。流石にいきなり一人は無いよな!金と装備を渡されたって、死んだら何の意味も無いじゃないかっ!くそっ!やっぱ無責任だろ!あの絵本ヒゲ!…………それに御剣さんとの約束もなぁ)


 斗真の本音は、実は最後の言葉にこそ含まれているようであった。


 斗真にとって御剣乙女との立ち合いは、僅かな時間となってしまってはいたが、祖父を喪ってからのこの一年、ただ一人で鍛練を続けるしか無かった鬱憤を晴らす程に爽快なものとなっていた。


 それも斗真にとって、初めての同年代、しかも格上の剣士との鍛練と言う事もあって、祖父を喪ってから無くしてしまっていた目標なども、新たに生まれ様としていたのだ。


(はぁ、でももうどうしようも無いよなぁ。王都には戻れない訳だし、これからの不安定な生活に、御剣さんを巻き込むわけにもいかないしな。……そうだよな。考えてみれば俺のこれからの生活って絶対不安定になるよな。金貨十枚貰えたから当面は大丈夫だろうけど、これから100日間だもんなぁ。物価とか分からないし。あぁ~城にいる間に色々調べとくんだったぁ~)


 斗真がこれからの生活を思い、一喜一憂していると、目の前で置いてきぼりを食らう形となった騎士が話しかけてきた。


「地井斗真様、そろそろ休憩時間も終わる頃なのですが、食事やその他の雑事は御座いませんか?」


「えっ、あっじゃあ、今は食事は良いので水だけ貰えますか?あぁそうだ、水を入れる容器さえ貰えれば、水は魔法で出せるので、容器だけ貰えますか?それと、もし馬車が動いている間に、催した場合はどうすればいいですか?」


 流石の斗真も、今朝からの激動とも言える出来事に、食欲など湧く筈も無く、取り敢えずの水分補給だけをしようと考えていた。

 そうすると当然気になるのは排泄についてであったが、それは騎士によってあっさりと解決された。斗真が余り望まない形では合ったが。


「それでしたら此方をご覧ください」


 騎士はそう言って立ち上がると、自身が腰を下ろしていた座席をめくって斗真に見せた。


「こっこれって……」


 斗真も座席から立ち上がり、正面の座席の中を覗き込むとそこには、既に見慣れた感のある便器が内蔵されていた。


「まっまさかとは思うんだけど、走行中の馬車の中でコレを使えと?」


「はい、その通りです。付け加えるのなら地井斗真様には辺境都市迄の道中、用を足す事のみならず、基本的には馬車の中でお過ごし下さいますようお願い申し上げます。お恥ずかしい話なのですが、辺境都市迄の道中でモンスターや盗賊などに襲われるといった事も考えられるので、我々と致しましても緊急時においても即座に移動出来るように、万全の状態で臨みたいと考えております。不便とは思いますが、どうかご理解ご協力の程宜しくお願い申し上げます」


 斗真は、自身の排泄の話から随分と遠くまで来たものだと一瞬現実逃避しかけたが、目の前の騎士の眼差しを受けて居住まいを正すと、了承の意を告げた。


「そう言う事なら分かりました。俺は辺境都市に着くまでは馬車の中で過ごそうと思います。ちなみに便器の中身はどうすればいいですか?」


「ご理解ご協力頂きましたようで、誠にありがとうございます。便器の処理につきましては、次の休憩時間の時に我々の方で処理致しますので、お声を掛けて頂ければ直ぐに受け取りに参ります」


「分かりました。その時は宜しくお願いします。そう言えば俺が座っている方の座席の下にも何か入っているんですか?」


「はい。そちらには保存食や飲料水を入れる為のコップや水筒などの容器が収納されています。それと今回は、国王陛下から地井斗真様に贈られた品物も、そちらに収納されています」


「なるほど理解しました。それじゃあ容器は、ここから取り出せば良さそうですね」


「はい。ではその様にお願いします。それではそろそろ出発の時間となりそうなので、私はこれで失礼させて頂きます。今回は不便な道行きにご理解頂けた事、誠に感謝致します」


「いえっ、此方こそ色々と用意して貰えたようで感謝します」


 斗真と騎士は互いに礼を述べあうと、最後まで騎士の名を言う事も聞く事も無いままに、馬車の内外へと別れた。

 そして馬車で一人となった斗真は、口には出さない不満や不安を心の中だけで叫んでいた。


(ご理解も糞も俺に選択の余地なんて無いだろうがっ!ふっざけんなよ!なんだよ道中にモンスターって!ダンジョン以外にも出るのかよ!溢れ出すとは聞いてたけど、ここ何十年も起きてないんじゃ無かったのかよ!その挙げ句盗賊って……盗賊ってっ!)


 斗真は、馬車内での食事はまだしも、排泄やそれを行った後もその場で過ごさなければならない事については、大いに不満しか無かったのだが、ここで駄々を捏ねて騎士達の気分を害してしまい、この様な場所で放逐されでもしたら、と思うと不満の声を上げる事など、出来ようもなかった。


 騎士は、辺境都市まで斗真を送り届けるのが任務であると言ってはいたのだが、既に一度強制的に、城から追放された経験を持つ今の斗真にとって、この世界の人間の言う事程、当てにならないものは無かった。


 更に騎士によって知らされた道中のモンスターや、盗賊といった不穏な情報の方に思考の多くは割かれていて、結果的に斗真は、車内環境に対する多くの不満を、強引にではあっても流す事となってしまっていた。


(モンスターはまだしも、盗賊って人間だよな。俺って最悪の場合人間と戦うのか?……っていうか殺すのか、人間を。異世界人とはいえ、同じ人間を。…………殺せるのか俺に)


 斗真は暫くの間、最悪の状況を何度も想像してみたものの、結局自らが人間を殺すという覚悟を持つ事は出来なかった。

 どれ程強くその場面を想像してみても、現実感が全く伴わずにどうにも気持ちばかりが上滑りしてしまっていたのだ。

 斗真が一人で決まらない覚悟に唸っていると、休憩時間が終わりを告げたのか、ゆっくりと馬車が動き始めた。


 斗真は、慌てて立ち上がり座席をめくって中から水を入れる為の容器を探すと、小さな木箱の中に綿を敷き詰められた状態で、木製のワイングラスの様なものがあった。

 斗真は、その中から素早く一つだけ取り出すと、座席を元に戻して座り直した。


(ふう。何とか間に合ったな。取り敢えず水を一杯だけでも飲んでおくか)


 斗真は、ワイングラスの中に魔法で水を入れるとゆっくりと飲み干した。その様子を窺っていた訳では無いのだろうが、斗真が喉を潤して一息吐いた瞬間、馬車は又しても跳ねるように走り出し始めた。


(ヴッ……そうだった。移動中はこんな感じだったんだ。っていうかこんな状況で便器に跨がれるのか。どう考えても碌な事にならないだろっ。俺はイヤだぞっ。ウンコまみれの馬車内で過ごすなんて絶対にっ!)


 斗真は、揺れの激しさを増す馬車内で、排泄だけは何があっても停車中に行う事を強く心に誓った。


 斗真は、幸か不幸か馬車の揺れの激しさに、思考のほぼ全てを奪われる事によって、自らが人を殺せるかどうかについて深く悩む事無く、道中を過ごす事が出来ていた。


 それは飽くまでも、馬車が動いている間の一時の猶予でしかなかったのだが、未だ変わり続ける自らを取り巻く環境に振り回され続けている斗真にとっては、一時的ではあっても考えなくて済むという状況は、心安らぐ時間となっていた。


 しかしそれは心の問題であって、激しく揺れ続ける馬車によって斗真のお尻と三半規管は、人生で最も大きなダメージを負う事となっていた。


(せめて座布団だけでも頂けませんかねぇっ!綿が有るんだからそれぐらいこの世界にも有る筈だよねぇっ!ねぇっねぇっねぇぇぇ!)


 斗真の心の叫びに応える者は、当然誰一人存在しなかった。


(あぁせめて辺境都市迄どれくらい掛かるのか聞いとけば良かった……コレ大丈夫だよね。俺生きたまま辿り着けるんだよね?騎士達の任務ってデッドオアアライブじゃないよねぇぇ!?)



ブックマーク、評価ptありがとうごさいます。頑張ります。

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