第三十二話
読んで頂きありがとうごさいます。
「斗真様、おはようございます。起床時刻になりました。起きて下さい」
「う、う~ん。おはようリリー。……ん?何かあったのか?」
「……?いいえ。特にはありませんが、何か気に掛かる様な事でも御座いましたでしょうか?」
斗真は、リリーのモーニングコールで目を覚ますと、僅かにリリーから違和感を感じて問いかけるも、リリーからはいつもと変わらない様な返答しか得られなかった。
「……いや、俺の気のせいみたいだ。悪いな急に変な事を言ってしまって」
「いいえ。どうかお気になさらないで下さい。それから此方をどうぞ」
斗真は暫くリリーの顔を見ていたが、特に変わった様子は見受けられず、自身の気にし過ぎだったとリリーに軽く謝罪をすると、リリーから何やら袋を手渡された。
斗真は、それを受け取ると袋を開けて中身を確認した。
「あぁ。歯磨きセットか、ありがとうリリー。それにしても軟膏の量が多くないか?」
「はい。丁度新品の物が御座いましたので、せっかくですのでと思いましてご用意致しました」
「そっそうなのか、まぁありがとう。大事に使うよ」
斗真は、リリーの言葉に僅かな引っかかりを覚えたが、特に追求する事無くその場を流していつもの支度を済ませると、朝食を食べ始めた。
用意されていた朝食は、既にお馴染みとなった感のあるバゲットサンドであったのだが、何故か今日は二本も用意されていて、一つには厚切りのハムと野菜が、もう一つにはソーセージと野菜が入っており、斗真が昨日と一昨日の朝に食べたメニューと同じものであった。
(おん?ネタ切れかな?まぁ美味いから文句は無いけど……あぁ、もしかして俺のお気に入りメニューだって認識されたのかな?つっても2回の朝食でお気に入りも何も無いよなぁ)
斗真は、疑問を抱きつつも食べる手を止める事は無く、程なく二本とも食べ終わった。最後にホットミルクを流し込み、そのまま歯磨きと着替えを済ませると、早くも出発の準備が整っていた。
(流石に早すぎるかな?でも特にやる事もないしな。本もまだ来てないみたいだし……う~んまぁいっか。トイレに行ったら出発しよう)
斗真はお手洗いを済ませると、リリーに装備を出して貰い手早く身に付けると、リリーに早めの出発を告げた。
「それじゃあリリー。少し早いけどもう行ってくるわ」
「斗真様、此方をお忘れになっております」
リリーが斗真に差し出したのは、歯磨きセットであった。
「あっあぁ、ありがとうリリー。忘れてたよ。それにしも、やっぱりでかいな歯磨きセット」
斗真は、リリーから袋を受け取るとその大きさに苦笑を漏らした。
「よしっ、もう忘れ物はないな。んじゃあ行くか」
「はい。お見送り致します」
斗真は、リリーと連れ立って部屋を出ると、突然すぐ側から声をかけられた。
「地井斗真様とお見受け致します。朝早くに申し訳御座いません。国王陛下がお呼びですので、少々お時間を頂きたく存じます。今から私がご案内致しますので、どうかお願い致します」
斗真は、慇懃無礼といった様子の男性に声をかけられ、その内容に思わずリリーに視線を向けるも、彼女はソッと頷くだけに留まった。
「分かりました。案内をお願いします」
「では此方へ」
斗真は事態を飲み込めないままに、先を歩く男性の背中を追った。
今まで通る事の無かった道を進み、幾度も廊下を曲がった事で、斗真は既に自身の現在地を見失っていた。
(まぁリリーがいるから大丈夫なんだけど、それにしても歩くな。っていうか滅茶苦茶広かったんだなこの城。まぁ部屋と食堂と表玄関位しか行く事も無かったからなぁ)
斗真達は既に、自室から食堂までの距離の倍近くを移動しており、斗真は、今更ながら自身が過ごしていた城の大きさを再認識していた。
「お待たせ致しました、地井斗真様。こちらは、玉座の間となっております。既に国王陛下はお待ちしておりますので、急ぎ中へとお入り下さい。なお、本日は急な謁見となっておりますので、無礼講とするとの国王陛下直々の命令が御座いましたので、楽にして頂いて構いません。しかしどうか、最低限度の礼節だけは忘れてしまわれない様お願い申し上げます」
斗真達の前に現れたのは、三メートル程の大きな扉とその両側に立っている全身金属鎧の騎士達であった。
斗真を案内した男性は、一通りの説明を終えると斗真に深く一礼した後、そのまま玉座の間から離れていった。
斗真は、もう一度リリーに視線を向けるも、返ってきたのは相変わらず頷きのみであった為、軽く息を吐くと意を決して一歩踏み出した。すると、扉の両側に立っていた騎士達が、斗真の動きに合わせる様に問答無用で扉を開いた。
斗真は、足を止める事無く開かれた扉を通過すると、室内の高い位置から声を掛けられた。
「おぉ、斗真よ。急に呼び出してしまって申し訳ないのぅ」
「いえ、ところで俺は何も聞かされていないのですが、一体何の用件なんでしょうか?」
「うむ。では早速始めるとするかのぅ」
アレキサンダー王は、斗真の問い掛けに答える事無く片手を上げると、部屋の中にいた者達に指示を出した。とりあえず斗真は、事の成り行きを黙ったまま見つめ続けた。
暫くすると斗真の目の前に、大きな長方形のテーブルが置かれ、その上に斗真の見慣れた物が置かれ始めた。
(あぁ、コレって……そういう事かな。まぁやれと言われればやるだけだけどな)
斗真が大体の事情を理解していると、用意が整ったと判断したアレキサンダー王が話し出した。
「斗真よ、大体察しておる様じゃが、今一度儂の方から話そう。そなたの目の前に置かれておるのは、今日の訓練でそなたが使用する為の魔石やドロップアイテムじゃ。それを使い今から儂の前でジョブスキルを使ってみて欲しいのじゃ」
「はい。勿論俺は構いません。では始めます」
斗真は、予想通りの展開であった事に僅かに安堵しながら、いつも通りに魔石やドロップアイテムを手に取り、鑑定を掛け、ジョブスキルの発動を試す、といった様に訓練を開始した。
アレキサンダー王は、そんな斗真の姿を黙って見つめ続けていた。
アレキサンダー王の周囲に控えていた騎士達は、斗真がジョブスキルを唱え、しかし何も起こらない様子を見る度に、落胆の溜め息を溢していた。
そして斗真が最後のドロップアイテムを使いジョブスキルを唱えるも、何も起こらない様子を確認したアレキサンダー王やその周囲の騎士達は、一度深く息を吐くと、どこか硬質な空気を纏い斗真を見据えた。
「ふぅ。見ての通りジョブスキルの発動は出来ませんでした。まぁダンジョンに入る前には、何とか発動させたいとは思います」
斗真は、周囲の空気が変わった事を感じながらも、いつもと変わらぬ様子で今後の展望を語った。
アレキサンダー王は、そんな斗真の様子に何を思ったのか、この場にいる者達には読み取れない表情となり、それを見た周囲の者達は、自然と背筋を伸ばしアレキサンダー王の言葉を待った。
「斗真よ、そなたは賢者殿が語った考察を覚えておるか?」
斗真は、急に話題が変わったように感じて戸惑うも、直ぐに賢治の語った考察を思い出した。
「はい。確か俺はこことは別の世界に召喚される筈だったとか言う話でしたよね。それが一体……」
「うむ。では単刀直入に言おう。儂もそなたは賢者殿の考察通りの存在であると考えておる」
アレキサンダー王は斗真の言葉を遮ると、はっきりとその心の内を語った。
「そっそれは」
「そなたの気持ちは分からんではないが、儂は今そなたのジョブスキルの訓練を見て確信したといっても良い。はっきり言おう。そなたのジョブスキルが発動する事は無いじゃろう。故にそなたをこの王宮、ひいてはこの王都より追放とする事を此処に宣言する」
斗真の戸惑いをそのままに、アレキサンダー王は更なる爆弾発言を言い放った。
斗真の混乱はこれまでに無いほど大きなものとなった。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!王様が俺のジョブスキルに見切りをつけたのは分かったけど、それでなんで追放とかって話になるんだ!おかしいだろ!」
「うむ。では斗真よ、ジョブスキルを使えぬそなたがこの地に残り、一体何をすると言うのじゃ」
斗真の困惑を一切意に介す事無く、アレキサンダー王は淡々と斗真に質問した。
「何って……俺はこの先ジョブスキルが使えなかったとしても、剣術だけでもやっていけると思っている。それに、ジョブスキルについても諦めた訳じゃない。まだ試していない事が沢山ある筈だ!」
「確かにそなたの剣術は、かなりの腕前であると聞いておる。しかしそれは、他の救世主殿達のジョブスキルと比較して尚、伍するものではないという事ものう」
「それはっ、でも俺の方が他の殆どの救世主よりも強いってのも事実の筈だ。なら剣術だけでもやっていけるはずだろ!」
昨夜の乙女とのやり取りを思い出し、斗真は精一杯自身の実力を高く見積もった。
しかしアレキサンダー王には通じなかった。
「それはまだそなた達のレベルが低いからじゃ。これからダンジョンに入り、更なるレベルアップを経験すれば、そなたの強力とはいえ一般的な枠組みに収まる剣術と、圧倒的な力を誇るジョブスキルとでは、比較にならぬ程の差が生まれるのは明白じゃ」
「それはっ……でもやってみないと……」
「分かるのじゃ。我等には特にな」
斗真の言葉を遮るように発せられたアレキサンダー王の言葉には、どこか疲れたような響きが含まれていた。
「斗真よ。そなたの剣術は、強力ではあるが一般的と申したであろう。そして強力で一般的な者達ならば、この国にも沢山おるのじゃ」
アレキサンダー王の言葉に、斗真は心臓を掴まれたような感覚を味わっていた。
「しかし、我等は【ハルマゲドン】を乗り越えるには、それでは足らぬと判断し、そなた達救世主を異世界より召喚したのじゃ。もし、ジョブスキルを使えぬそなたに対応できる程度の問題ならば、そもそも我等はそなた達を召喚したりはせんかったのじゃ。その必要が無いのじゃからのう」
アレキサンダー王の説明に、斗真は何も言えなくなってしまった。しかし斗真は召喚直後の事を思い出し精一杯反論した。
「でもっ、確か召喚直後に戦う力が無い者も受け入れるって言ってた筈だろ。それは嘘だったのかよ!」
「確かに儂はそう言ったが、では斗真よそなたに聞くが、これから他の救世主殿達がダンジョンへと命懸けで入る中、そなたは一人王宮で過ごす積もりなのかのう?」
「だからそれはっ、俺も一緒にっ……」
「そなたが共にダンジョンに入れば足手纏いになってしまうぞ。只でさえ危険なダンジョン攻略に、更なる負担をかけるのかのう?」
「それはっ……」
「それにじゃ、他の者達がダンジョンに入っている間に、そなただけが王宮で過ごしておれば、他の者達はそれをどう思うのかのう?初めは仕方がないと考えたとしても、より厳しい戦いに身を置くようになった時、そなたの存在が他の救世主殿達の目障りにならぬとは思えぬのじゃ。儂はのう斗真よ、王宮の中でぐらいは、救世主殿達に心安らかに過ごして欲しいと思っておるのじゃよ」
「…………」
「ワシが最初に戦えぬ者も王宮で受け入れると申したのは、戦えぬ者が複数であると想定しておったからじゃ。まさか九人の内たった一人のみがその様な存在である等とは考えもしなかったのじゃ。それについては儂の不徳の致すところ。済まぬな斗真、いらぬ期待を抱かせてしまったようじゃ」
アレキサンダー王は、斗真に向け僅かに頭を下げると謝罪の言葉を述べた。周囲の者達は皆一様に目を瞑り、この場の出来事は見ていない事とする様であった。
何も言葉を発せなくなった斗真に、アレキサンダー王は今後の事について話し始めた。
「そなたには追放という言葉で随分と勘違いをさせてしまった様であるが、何もこのまま王宮より放り出そうというのではないのじゃ。アレを持って参れ!」
アレキサンダー王は、斗真の様子に頓着する事無く指示を出すと、斗真の目の前のテーブルの魔石やドロップアイテムが片付けられ、代わりに幾つかの品物が置かれた。
「これは儂からそなたの新たなる旅路への餞別じゃ。是非とも受け取って欲しい」
斗真の目の前には、新品の革鎧一式と、斗真が訓練で使っていた剣と同型の刃引きがされていない、つまり正真正銘の真剣が置いてあった。その他にも幾つかの革袋が並べられていた。
「そなたにはこれからある辺境都市に行って貰う。その都市は三つものダンジョンを抱えておるが故に、常に人材を欲しておる。そなたは鑑定のスキルを持っておったであろう。そのスキルさえあれば無理にダンジョンに入らずとも、その都市で暮らすには十分過ぎる程の収入を得られるであろう。当然支度金として、儂から金貨十枚をそなたに進呈致す故、好きに使うと良いぞ。更に住む場所についても儂が用意しようではないか。一人暮らしには十分な広さがある故に、狭くて困る等という事は一切無いと断言しておこう。どうじゃ?そなたはその都市で【ハルマゲドン】が終わるまで暮らしておれば良いだけじゃ。戦いが終われば此方から迎えを寄越す故に、そなたが祖国に帰還する事についても心配は無用じゃ。斗真よ、そなたは辺境都市で鑑定士として、戦いとは無縁の生活を送るのじゃ。そうしていれば何の問題もなく、百日後を迎えられるであろう」
「…………」
斗真は、次から次へと伝えられる情報をまともに処理する事も出来ずに、何かを言わなければ、でも何を、といった感情の袋小路に囚われていた。
そんな斗真の様子を知ってか知らずか、アレキサンダー王は一際芝居がかった振る舞いをすると、その場の者達に斗真の追放を別の言葉を用いて宣言した。
「さあ皆の者!救世主、地井斗真の新たなる旅路の始まりじゃ!皆の者、彼の者に神の祝福を!」
「「「神の祝福を!」」」
アレキサンダー王とその周囲の者達は一斉に声を上げると、追放という言葉を使わないまま、未だに動く事が出来ない斗真の両脇を抱えるようにして運び出すと、既に用意されていた馬車に、アレキサンダー王からの餞別の品と共に乗せた。
その馬車はゆっくりと動き出すと、まるで人目を避けるかのように王城の裏門からひっそりと王都の外へと出て行った。
斗真はこの日、王宮のみならず、王都そのものからも追放された。その現場に居た者達はアレキサンダー王を含めても十人程しか居なかった。
ブックマーク、評価pt、感想頂きました。ありがとうごさいます。完結させるまで頑張ります。
ようやく追放まで辿り着けました。頭で考えていた時は、もっとサクサクと進んでいたと思うのですが、実際に文字にしてみるとこれだけ掛かってしまいました。
ここまでお付き合い頂きありがとうごさいます。
これからも宜しくお願い致します。




