第十六話
また夜にも投稿できると思います。
「うむ。ではダンジョンについては現地で確認するとして、明日からのことを話そうか」
(現地でって……ダンジョンに行くのはまぁ仕方ないとしても、情報ぐらいは先に聞いておきたかったんだけどな)
アレキサンダー王の言葉を聞いた救世主達は、緩んだ気持ちを再び引き締めて続きを待った。
「明日からはとにかく訓練じゃな。訓練内容については、担当する二人から説明して貰おうかの」
アレキサンダー王の発した訓練という言葉に、幾人かの救世主は顔をしかめた。
それに気が付いたか否かを表情に出す事も無く、迷宮騎士団の騎士団長キース・グレモンは話し出した。
「それでは、訓練については私の方から話をさせて貰おうかな」
そうしてキースから語られた内容は、非常に曖昧なものであった。
「まずは、朝の六時に起きて貰います。午前中は魔法やスキルを使って貰います。昼食を挟んで午後からは、武器の扱いを学んで貰います。そして最後にうちの団員と模擬戦をして貰います。予定ではこれを五日間行って貰い、六日目からはダンジョンに入って本格的にレベル上げを始める、というのが救世主殿方の今後の予定となっています」
「えっ、ちょっと待って下さい!色々聞きたいんですが朝の六時って時計あるんですか?」
余りにも今更な話ではあるが救世主達はこれを機に、この世界の事を幾つかまとめて聞き出した。
異世界人は、この世界のことをアレスティアと呼んでおり、一年は十二ヶ月三百六十五日で、一月は三十日から三十一日、一日は二十四時間といったように地球とほぼ変わらない事が分かったのだ。
時計は、時刻みの魔道具という大変高価な物が有るようで、一般市民は持っていないし、その大きさも地球の時計のように小さな物では無いようだが、王族は勿論の事、貴族の中にも所有している者はいるようだった。
一般市民は、神殿が日の出から二時間おきに鳴らす鐘の音で、時刻を知るのだそうだ。
「そうだったのか……あっ話を戻しますけど、それだと朝食はどうすればいいんですか?」
「そなた達の朝食に関しては、これからそなた達に与える部屋に運ばせる故、部屋付きのメイドに起床時刻を伝えておけば、それに合わせて朝食も用意しておくじゃろう」
「えっ部屋を…あっありがとうございます。えっ!?じゃあ五時起きって事?」
「おいっ!しっかりしろよ勇人。なんなら俺が質問代わってやろうか?」
「いっいや、大丈夫だよ大地。ありがとう。ふぅ。それでは、騎士団員との模擬戦とは何ですか?」
「それはレベル上げの為ですよ。皆様はまだレベル0なので、いきなりダンジョンでレベル上げをするのは、万が一を考えると避けるべきだと考えました。ですのでまずは、騎士団員との模擬戦で最低限迄レベルを上げて貰い、それからダンジョンに入って貰おうという事です」
キースの説明に、救世主達の殆どは納得の表情を浮かべていた。
「なるほど。では、五日間というのは何故ですか?」
「はい。我々が皆様に、ダンジョンに入って頂くためのレベルの下限を10にすると決めました。これは、現在の王都の迷宮の5階層から10階層にいる者達の平均がおおよそ8である事から導き出した数字になります。そして皆様のレベルをモンスターを倒す事無く戦闘経験のみで上げる場合、これもお凡そとなりますが、五日間程であろうと考えたためです」
「なっなるほど…」
キースの整然とした説明に、勇人は何も言えなくなってしまった。
そもそも救世主達には、この世界の知識が圧倒的に足りていないのだ。
故に、その中で先程の様な説明を受けたとしても、それが正しい情報なのかを判断する為の前提となる知識や情報もない為、結局は相手の言葉を信じるのか否か、もしくは自ら訓練への覚悟を決めるのか否か、といった選択肢しか思い浮かばないのだ。
「ご理解頂けたようでなによりです。質問は以上ですか?」
「じゃあ最後に、模擬戦が終わった後の予定は無いんですか?」
「はい。模擬戦はその日の訓練の最後に行うので、その後は夕食ぐらいでしょうか?」
「うむ。訓練が終われば自由時間といった所じゃな。夕食については、皆で共に取りたいと考えておる。参加して貰えるかの?」
「はい。喜んで」
アレキサンダー王の問いに、勇人は居酒屋店員の様な溌剌さで答えた。
勇人の返事に、満足そうな笑みを浮かべたアレキサンダー王は、この説明会の終了を告げた。
「うむ。では、この場での説明は一旦お開きとしよう」
アレキサンダー王の宣言に救世主達は、肩から力を抜いて、今聞いた情報を自身の中で噛み砕こうとする者や、開放感から大きく背伸びをする者等に分かれていた。
(はぁ。微妙に不完全燃焼なんだよなぁ。まぁちゃんと質問しなかった俺が悪いんだけど……まぁいいかっ!どうせやってみなきゃ分からない事だってあるんだし。明日から訓練も始まる訳だし、変に考えるだけ無駄無駄無駄っ!)
斗真も自身の抱える疑問に一旦蓋をして、明日からの訓練に思いを馳せた。
「うむ。ではこれからそなた達が過ごす事になる部屋へと案内しようではないか。夕食になれば使いの者を行かせる故に、それまでは部屋で楽にしておると良いぞ」
「それでは、我らはここで失礼させていただきます」
「また明日お会いしましょう」
「はっはい。明日からよろしくお願いします」
迷宮騎士団の二人とは会議室で別れる事になり、それぞれが短く挨拶をすませると、アレキサンダー王を先頭に部屋から出た一同は、そのまま王城の居住区へと案内された。
事前に人払いされていたのか、道中ではメイドや兵士以外とすれ違う事もなく、食堂や会議室へと向かった時と変わり映えのしない退屈な移動となった。
アレキサンダー王も、救世主達の様子を察したのか、移動中も救世主達に話を振り続けた。
「言い忘れておったが男性陣と女性陣では、部屋の場所が離れておるし、女性陣の部屋のある区画は、基本的に男子禁制である故、女性陣に用が有る際は、部屋に戻る前に済ませるか、部屋付きのメイドに要件を伝えて、先触れに行かせてからにするのじゃぞ」
「そういえば、部屋付きのメイドって何ですか?」
「うむ。そなた達には、一人一部屋一メイドが与えられるのじゃ。朝の目覚ましから、昼の清掃、夜のごほ……っう゛う゛ん!まぁ色々と仕事はあるのじゃ」
「そっそうですか。ハハッ、確かに俺も部屋の掃除とか苦手なんですよねぇ。ハハッ」
(朝昼晩ずっと居るなんて、メイドの仕事ってそんなにブラックなのか……でもなんか怪しいんだよなぁあのメイド達。こっちを見る視線とか、昔見たマスコミの連中みたいな感じがするし……あんまり関わらないでおこう)
アレキサンダー王の雑な誤魔化しに、部屋付きのメイドの仕事、主に夜の仕事に何が含まれるのかをほぼ完璧に察した救世主達であったが、それと同時に女性陣にも完璧に伝わってしまった為に、男性陣は決して今抱いた妄想を表情に出さない様に、きつく口内を噛み続けた。
女性陣は女性陣で、自らが瞬時にしてしまった夜の想像の生々しさを、他者に悟られない様に必死で表情を取り繕っていた。
「まあ、余り気にせぬ事じゃ。メイドはメイドとして己の仕事をするだけじゃからのう。っと、ここからが居住区じゃ」
アレキサンダー王の気のない助言に救世主達は、思わず表情をひきつらせるも、続いた言葉に従い通路をみると、明らかに今まで通っていた通路と異なる様相を呈していた。
「なんか急に狭いですね」
勇人の率直すぎる感想に、アレキサンダー王は僅かに微笑むとその理由を説明した。
「うむ。まぁ理由は幾つか有るが、一番は分かり易さじゃな。これだけ通路が狭くなれば、誰でも気が付くじゃろう、ここが今までの場所とは違う区画であるとな」
「まあ、確かに。これで気づかなかったは通らないでしょうね」
そうして話しながら歩いていると、救世主達は壁に並ぶ騎士達の存在に気が付いた。
「うむ。この者達は近衛騎士じゃ。いつも三人一組でこの区画の巡回をしておる」
(あぁ。この通路の狭さはこれが理由か)
「もしかして、通路が狭いのは……」
乙女の漏らした呟きに、アレキサンダー王は素早く反応した。
「流石は剣聖殿。そなたの想像通りじゃよ」
「万が一この城が攻められた時に大きな敵や多数の敵と、少人数の味方で互角に戦えるようにですか?」
乙女の問いかけに、アレキサンダー王は静かに頷いた。
この通路は、モンスターと人間の両方を想定して設計されていた。
もし、スタンビートが起きて王城まで攻め込まれた場合に、大型のモンスターには通り難く、それ以外のモンスターでもこの通路の幅ならば、それ程多くのモンスターは同時に攻撃を仕掛ける事が出来ずに、少数精鋭の近衛騎士達に刈られて終わるだろう、というのが制作者の意図であった。
「まぁ少数の強敵には、余り意味はないがの」
アレキサンダー王はこの様な事を言いながらも、敵が少数であれば、それが如何な強敵であったとしても近衛騎士達が負ける事は無いと考えていた。
アレキサンダー王の軽口に、どの様な反応を返せば良いのか分からなかった救世主達は、曖昧な笑みを浮かべるだけでやり過ごした。
この様なやり取りをしている内に、男性陣の部屋へと到着した。
「ここからがそなた達男性陣の部屋の区画じゃよ。どれでも好きな部屋を選ぶと良いぞ」
「マジかよっ!見て回ろうぜ!」
「おい大地!待てって」
「おっ俺も行くよっ」
「やれやれ。全く落ち着きのない。見ているこっちが恥ずかしいですよ」
「ぼっ僕も見て来ます」
(俺も行くか)
アレキサンダー王の言葉に、大地はいち早く飛び出し次々と部屋の扉を開け放ち中を確認していた。
それに続く形となった他の男性陣も、一部屋ずつ中に入って確認する者や、外から中を覗き込むだけの者と、各々違いはあったものの、概ね満足する部屋をそれぞれが選び終えた。
「うむ。選び終わった様じゃの。では、先に部屋付きのメイドを紹介しようかの。ほれ、自己紹介せよ」
アレキサンダー王に促されて男性陣の前に現れたのは、六人の美少女メイドであった。
彼女達は、自身が誰の部屋の担当であるかを一人一人自己紹介を交えながら、救世主達に伝えていた。
そして斗真の前には、リリーという名のメイドが立っていた。
「本日より、地井斗真様の専属メイドとなりました、リリーと申します。どの様なご用件でも御気軽にお申し付け下さい」
「あぁ。えぇっと、こちらこそよろしく」
控えめでありながらも見る者に、満面の笑みと錯覚させるような微笑みを浮かべながら、リリーと名乗ったメイドは斗真と挨拶を交わした。
彼女は、斗真と賢治と真二が乗り込んだ馬車内における、王城迄の案内役を勤めていたメイドの少女であった。
「うむ。特に問題は無さそうであるな。では次は女性陣の部屋に、と言いたいところなのじゃが、この先は男子禁制であるが故に、案内はメイド達に任せるとしよう。良いなお前達」
「お任せくださいませ、国王陛下」
「うむ。任せた。では、儂は執務へと戻る故、夕食時にまた会おう。それまでは部屋でゆっくりと休むと良いぞ。部屋での過ごし方などはメイドに聞けば良いからの。ではな」
アレキサンダー王は一息に言い切ると、護衛を引き連れて足早にこの場を去っていった。
救世主達がアレキサンダー王を見送ると、案内を任されたメイド達が、女性陣を連れて別の区画へと移動していった。
先程までの大名行列じみた集団は一気にその数を減らし、この場に残る男性陣の心にも僅かな隙間風が吹きすさんでいた。
「んじゃあ俺は自分の部屋に行くわ。また後でな勇人、樹」
「ああ。次は夕食時にな大地。じゃあ俺も部屋に行くかな。樹もまた後でな」
「うっうん。また後で勇人君大地君」
大地や勇人、樹達がそれぞれ挨拶を交わす中、斗真や賢治、信二達三人は、挨拶も無くとっとと自身の部屋へと入っていた。
「あいつ等はホントに……」
「ほっとけよ勇人。ガリ勉にちびデブに役立たずのクソザコ三人組の事なんてよ」
「そうだよ。放っておくべきだよあんなクズ三人組なんて。勇人君は勇者なんだから、あんな奴等に足を引っ張られる訳にはいかないでしょ」
「全くお前達も、あんまりクラスメイトの事を悪く言うなよ。俺達の仲間なんだからな」
「ハイハイ分かったよ。んじゃあな」
「あっ俺も、じゃあまた後で」
「はぁ。あいつ等も全く、まあ仕方ないか」
勇人の説教は御免とばかりに、そそくさと背を向けて部屋へと入っていく二人を前に、結局勇人は、大地と樹のクラスメイトに対する意識改革を諦めると、自身も部屋に入っていった。
読んで頂きありがとうごさいます。




