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第十三話

ゆっくりと進んで行きそうです。

 

 アレキサンダー王を先頭に、救世主達は周囲を練兵場に居た騎士や魔導師達に囲まれながら練兵場を後にした。練兵場は東京ドーム程の広さを誇り、その周囲を石造りの壁で囲んでいたのだが、どうやら城の敷地内にある施設のようで、救世主達が心の中で期待していた様な異世界の街並みや、一般的な異世界人の姿などを見掛ける事は無かった。


 それでも異国情緒溢れる城の敷地内は、少なくとも彼等の興味を引き続ける事は容易であった。

 まず救世主達の目に入ってきたのは、石造りの建物の数々だろう。そのどれもが日本のビルのような高さを誇っており多かれ少なかれ、その内心で異世界自体を侮っていた救世主達は、驚きと興奮で周囲を忙しなく見回していた。

 救世主達がそうしていると、練兵場を出てすぐの所に数多くの馬車と馬が並んでいる事に気が付いた。


 その馬車を見たアレキサンダー王は、満足そうに頷くと救世主達に向かって話し出した。


「うむ。ちゃんと数は揃っておるな。では、救世主殿達よ。今から城へ移動する故、あの馬車に乗って移動して貰いたい。一台に三人ずつ乗って貰えるように手配しておいた故、好きに座ると良いぞ」


 アレキサンダー王の言葉に、救世主達は自然と三つのグループに分かれた。


 一つは、天宮聖子と御剣乙女と田村優美の女性陣で、アレキサンダー王の話を聞く迄も無く、既に三人は集まっていた。それを見届ける様にしてから、大空勇人と大村大地と土屋樹が即座にグループを作った。そして最後に結果的に余る事となった川上賢治、上野信二、地井斗真の三人でグループを作る事になった。


「うむ。問題なく決まったようじゃな。では、それぞれ別の馬車に乗り込んでくれるかの。その後の事は、それぞれの馬車に案内の者を付けておる故、その者に尋ねると良いぞ。では、次は王城内で昼食をとる際に会おう事になろう。ではな」


 アレキサンダー王は、一息に言い切ると、おそらくは王族専用と思われる煌びやかな馬車へと乗り込んだ。

 その馬車を護るかの様に、その場にいた騎士や魔導師の多くが、用意されていた馬や簡素な馬車に乗り、アレキサンダー王を追う様にしてこの場から去って行った。


 その忙しない光景をどこか呆然と見ていた救世主達に、その場に残った騎士から、それぞれの馬車に乗るようにと促された。


 救世主達がそれぞれ適当に選んだ馬車に乗ると、最後にメイド服を着た妙齢の女性が乗り込んできた。


「国王陛下より、救世主の皆様方の案内役を仰せつかったメイドの者です。何か御座いましたら何なりとお申し付け下さいますようお願い申し上げます。可能な範囲でご期待に添えるよう取り計らわせて頂きます」


「あぁ。こちらこそよろしく」


 案内役のメイドは非常に丁寧な挨拶を終えると、馬車に乗っていた救世主達に頭を下げた。しかし彼女は、丁寧な挨拶とは裏腹に自ら名乗る事が無かったので、救世主達は彼女の事をなんと呼べば良いのか分からなかった。

 そんな中で斗真は、何とか彼女に挨拶を返す事には成功した。


 しかし斗真以外の、例えば賢治などは、彼女を一瞥したのみで、それ以上の興味を失ったのか、特に挨拶を返す事も無いままに視線を落とし黙り込んでしまった。

 信二も同様で、彼女を一瞥した後は聞き取れない程小さな声で、何事かを呟くのみであった。


 その様な救世主達の反応に彼女は、此方もやはり特に気にした様子もなく、もう一度救世主達に軽く頭を下げると座席に腰を下ろした。より正確には、斗真の隣にではあった。


 馬車の中はそれなりに広く、横に三人座っても余裕がある程であったのだが、最初に乗り込んだ斗真が馬車の奥、それも馬に背を向ける形で座り、次に乗り込んだ賢治がその正面に座り、最後に乗った信二が賢治の隣に、それもそこそこの距離を空けて座った為、必然的にメイドが座る事が出来たのは、斗真の隣のみであったのだ。


 メイドの着席を確認したのか、馬車はゆっくりと動き出した。

 その周囲を囲む様に、その場に残っていた騎士達も馬に乗り動き出した。

 馬車は大きく揺れる事も無く走り出した為、馬車内にはそれ程大きな音が響く事も無く、何と無く居心地悪げな空気だけが漂っていた。

 只、その事を気にする者は馬車内には居なかった。


「この馬車って外見れないんですか?」


 特に嫌な空気に耐えられなくなった訳でもない斗真は、先程まで見ていた外の景色が見たくなり、そうメイドに問いかけた。


 救世主達が乗り込んだ馬車は、全面が木製で出来ており外側に飾りが無ければ、大きな木の箱を馬が牽いている様に見えるような代物であった。

 当然ガラスの窓の様な物は無く、馬車の中は長椅子が馬車と一体になる形で設置されているのみであった。


「いいえ。そちらの取っ手を横に引いて下されば、外を見られるようになります」


 メイドに言われるまま斗真は、馬車の壁に付いていた取っ手を横に引くと、壁の一部が側面に埋まり外が見られるようになった。


「おぉ。ありがとうございます」


「はい。また何か御座いましたら、何なりとお聞き下さい」


 メイドにお礼を言った斗真は、もう馬車内には意識を向ける事は無く、次々に視界に入ってくる新たな異世界の建造物に、目を輝かせていた。


(うわぁ。あれも多分石造りだよなぁ。あんな高さまで積んで地震とかきたらどうすんだろ?いや、そもそも地震とか無いのかもなぁ。確か地球でも地震が頻発するのって日本だけみたいな事を誰かが言ってたような?……そういやぁ、今まで旅行とか行ったこと無かったんだよな。人生初の旅行が海外どころか異世界とか、運が良いのか悪いのか……っていうかコレ旅行じゃ無かったわ!できれば忘れたままで居たかったわ!)


 斗真が一人心の中で異世界を堪能している間、賢治と信二は、お互いに会話をする訳でも無く、自身の抱える疑問をメイドに尋ねる事もなく、只静かに時が経つのを待ちわびている様であった。


 どれほどの時間が経ったのか、斗真にとっては非常に短く、賢治や信二にとっては、刑罰の様に長く感じられたであろう馬車での移動は終わりを告げた。

 馬車が完全にその動きを止めるや否や、メイドは素早く立ち上がると、流れるような所作で馬車の扉の前に立ちその時を待った。


 馬車の扉が外側から開かれると、メイドは周囲に素早く視線を走らせ、何事も無い事ことを確認すると、救世主達に向き直り目的地への到着を告げた。


「王城へと到着致しました。足元にお気を付けの上、馬車から御降り下さいますようお願い申し上げます」


「やっと着いたのか。コレだから馬車なんて骨董品は嫌なんだ。二度と乗りたくないですね。まったく、早くも日本が恋しいですよ」


「ま、まぁまぁ。なにもそこまで…」


「フンッ!」


(えぇ。この二人もギスるの?馬車に乗っただけで?やっぱ人間関係って難しいよな。俺も無理せずこれまで通りに過ごそう)


 三人が馬車から降りると、最初に降りていたメイドが三人を先導するように歩き出した。


 馬車は王城の正面に止まったようで、斗真達が乗っていた馬車の前に止まっていた馬車からも他の救世主達が、それぞれ妙齢のメイドに先導される形で降りていた。


 王城に入る前に全員が合流すると、救世主達はそのまま三人のメイドに案内される形で食堂へと向かった。


 王城の中はかなり広く、メイドが三人並んで先導していた為、救世主達も自然と三人並んでその後を追う事になったのだか、それでもなお、王城の廊下には十分な広さがあり、自分達と同様の団体が正面から来たとしても、余裕を持ってすれ違えるであろう程であった。


「こちらが食堂となります。既に国王陛下がお待ちになっておりますので、どうぞお入り下さい」


「ああ。案内ありがとう。アンナ」


「ローラも、ここまでありがとうね」


 先導していたメイドの一人が食堂への到着を救世主達に告げると、おそらくは、馬車で一緒だったのであろう勇人と聖子が彼女達の名前を呼びながら感謝を伝えた。


(あっ!そういえば、メイドさんの名前聞いてなかったな。でも今から急に聞くのもなぁ……まぁ自分から名乗らなかった訳だし別にいいか)


 確かにメイドは名を名乗らなかったが、普通の日本人であれば最初に聞く事であろう。

 そもそも、自己紹介ぐらいはするであろうに、斗真に限らず賢治にしても信二にしても、その手の行動を一切取らずにいたのだから、三人纏めて十分におかしいと言えるだろう。


 斗真の場合はメイドに対する無関心から、賢治は意識的にその存在を無視し、信二は単純にコミュ障のせいで、結果的に誰一人メイドの名前を聞く事も無くココまで来てしまったのだ。


 その事実に気付き、僅かに気まずそうな顔をしたのは信二のみであった。


「おぉ。待っておったぞ救世主殿達よ。我が城自慢の料理人によるもてなしを存分に楽しんでほしい。ささっ早よう座るが良いぞ」


 食堂へと入った救世主達を迎えたのは、煌びやかな衣装に身を包んだアレキサンダー王であった。


 確かに練兵場で会ったアレキサンダー王も、召喚されたばかりの救世主達が、一目で国王と察する事が出来る程度には派手な衣装であったのだが、今のアレキサンダー王の姿は、それと比較してもまさしく別格であった。


 身に纏う衣装の煌びやかさもさることながら、生地自体が相当値の張るものであろうという事を、女性陣は素早く見抜いていた。


 更に目を引いたのは、その身に付けている数々の宝石であろう。アレキサンダー王は、美しく加工され装飾された色とりどりの大きな宝石を、その腕に、手首に、首に、胸元に、耳に、頭にといったように、大量に身に着けていた。

 その姿は、アレキサンダー王の持つ財力と権力その物を身に着け示している様に思えた。


(成金かな?)


 食堂へ入るなり、動きを止めてしまった救世主達にアレキサンダー王は、練兵場の時と同様の振る舞いで着席を促した。


「すごい衣装ですね。正直これほどの衣装は、見た事がありませんよ」


「うむ。これでも一国の王であるからのう。この様な衣装を纏うのも義務みたいなものじゃな」


 練兵場とは打って変わって、アレキサンダー王と話し始めたのは、勇者である大空勇人であった。


 アレキサンダー王は既に席に着いており、その両隣にアレキサンダー王より少し若いぐらいの見知らぬ男性が二人、更にその隣に一人ずつ、見知らぬ男性二人よりも更に若い男性と、女性が着席していた。


 テーブルの座席数は片側十五席程あり、救世主達が、誰からどの席へ座ればいいのかで迷う中、勇人は迷う素振りも見せずにアレキサンダー王の対面に着席した。


 その後に続くように、大村大地が勇人の左隣に座り、土屋樹は大地の左隣に座った。


「何をしておるのじゃ?聖女殿達も早く座られよ」


「はっはい。では、失礼します」


 アレキサンダー王に急かされる形となった天宮聖子は、一度アレキサンダー王達に小さく頭を下げた後、勇人の右隣に座り、その右隣に御剣乙女が、さらにその右隣に田村優美が着席した。残っていた斗真達も聖子達が動き出した際にその反対側へと着席した。樹の隣に川上賢治が、その隣に上野信二が、そしてその隣に地井斗真が座り、これで救世主全員が着席した。


「食事の前にこの者達を紹介しておこう。あぁ、この者達は既にそなた達の事は存じておる故、そなた達の自己紹介は不要であるぞ。では宰相」


「はっ!」


 アレキサンダー王の言葉に、その右隣に座っていた男性は、直ぐ様立ち上がると救世主達に目礼し、自己紹介を始めた。


「お初にお目にかかります救世主殿方。私はアレスヒーロ王国の宰相を務めさせて頂いております、レイモンド・フラールと申します。以後お見知りおき下さい」


「よっよろしくお願いします」


 救世主達はその見た目から、自分達とは祖父と孫程も年が離れているだろう宰相からの丁寧な挨拶に、自然と背筋を延ばしながら自己紹介に耳を傾けた。


 勇人は、なんとか救世主を代表する形で宰相と挨拶を交わした。他の救世主達は、とりあえずその光景を見守る事にした。


「うむ。では次に元帥」


「はっ!」


 アレキサンダー王は、宰相が着席した事を確認すると、直ぐ様次の男を促した。


「お初にお目に掛かる。私は、アレスヒーロ王国にて元帥位を賜るハミルトン・ルードルフだ。以後宜しく」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 勇人の返礼と元帥の着席を確認したアレキサンダー王は、最後に残る二人を纏めて促した。


「うむ。では、最後は二人纏めてで良いだろう」


「「はっ!」」


「では、私の方から。お初にお目に掛かります救世主殿方。私はアレスヒーロ王国迷宮騎士団騎士団長キース・グレモンと申します。以後お見知りおきを」


「では、私も。お初にお目にかかります救世主殿方。私はアレスヒーロ王国迷宮騎士団魔導師長リアーナ・クラベルと申します。以後お見知りおき下さい」 


「はい。お二人ともよろしくお願いします」


「うむ。お互いの紹介もこれで良いじゃろう。よしっ、では食事にするかのぅ」


 アレキサンダー王は、二人の挨拶と勇人の返礼が終わると、テーブルに置いてあった小さなベルの様な物を軽く振った。ベルからは高く澄んだ音が鳴っており、その音が食堂内に響き渡る前に、メイド達が食事を運んで来るとテーブルに配膳し始めた。

 その光景を特に会話等をする事も無く、只見つめていた救世主達に、アレキサンダー王は小さな爆弾を落とした。


「おぉそうであった。言い忘れておったが、先程最後に紹介した迷宮騎士団の二人が、明日からのそなた達の訓練を担当する教官であるからの」



読んで頂きありがとうごさいます。

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