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第二話


「俺はどちらかといえばお日さまの方が好きでね。月は酒飲むときに眺めるくらいがちょうどいい」


 少女の言葉に対し軽口を返すアキラ。カタナを握ることも構えもなく、ただただ立っているだけに見えるが今もまだ目の前の少女に対する警戒心は緩めない。

 先程張られた結界は人避けの結界、誰も来ないようにするもの。同じ魔法を同じPTだったロスが何度も使っていたため理解できた。そしてこの魔法を使えるのは相当高位の魔法師であることもアキラは知っていた。そして警戒しつつ既に戦闘態勢に入ってることを少女も気付いていた。


「警戒をといてくれないのね。戦いに来たわけじゃないのにそれは失礼じゃない?」


「生憎ストーカー相手に警戒しなくていいなんて教えは受けてなくてな」


「ストーカーじゃないわよ!!」


 アキラの口から出たストーカー扱いに対し少女は月の明かりしかない夜の暗闇、ローブの上から見ても分かるほどに顔を真っ赤にし否定していた。その後も必死になって否定する言葉を大声で叫ぶ。恐らく人避けの結界がなければ誰かが来ているであろう大声で。


「ストーカーって言ったらす、す、すす好きな人を追いかける危ない人でしょ!!私まだ恋なんてしたことないんだけど!!!」


「だったらなんでお前は俺を監視してた上にここまで追ってきたんだよ」


「そんなの貴方の身体が目的……何言わせるのよ!!!」


「お前が勝手に言ったんだろ!?このド変態が!!」


「どへ……!?私のどこがド変態よ!!私容姿にはかなり自信あるんですけど!!」


「暗い夜にローブ被って追いかけてくる女なんて変態以外の何物でもないだろ!!!」


「はぁ!?だったらこんなものいらないわ!!」


 売り言葉に買い言葉、少女は勢いのままローブを脱ぎ捨て地面に叩きつける。

 追いかけてきた上での舌戦で息を切らしたのか何度か大きく息を吸い吐くを繰り返した少女は確かに言うだけのことはあり、その素顔は想像以上に美しかった。

 だがだからこそ不思議に思う。彼女のような少女が何故自分を追いかけてくるのか。それも高度な魔法をいくつも使用する理由、そんなものに思い当たるものはほとんどないとアキラは判断する。

 あり得るとすれば『七つの迷宮』の一つを踏破したことだろうが、同じPTメンバー以外では国の上層部しか自分がそのメンバーだと知らないはず。故にこの理由も除外できる。だがそうなると本当に何故追ってくるのか理解できなかった。


「……追われる理由が分かってないようね。それも当然の話よ。私が以前貴方と会った時とは姿形、全てが違うのだから分からない方が正しいわ」


「俺がアンタに会った?悪いがアンタみたいな別嬪さんに会った記憶はないぞ。そんだけの容姿なら忘れるってこともないはずだし」


「別嬪?ちょっと待ちなさい、人間の言葉は理解出来ないものが多いわね」


 そう言いながら空間に穴をあけその中から何かを探すように手を突っ込む少女。やがて取り出したのは他国の言語を通訳するための古く大きい本。パラパラとページを進め「別嬪」という言葉の意味を探し出した少女は顔を林檎のように赤くさせながら本を元あった空間にしまう。


「コホン。とにかく私は貴方と会ったことがあるわ。それどころか恨んですらいる。私の快適な生活をぶち壊した挙句に人間社会なんて面倒極まりない所に引きずり込んで……!!」


「あー、そろそろ本当に誰か教えて貰っていいか」


 本当なら顔が真っ赤になってることを指摘したかったがそれをすればさらに話が脱線すると分かっているので必死に我慢する。

 見たところ十代後半になるだろうに別嬪の一言でここまで狼狽するとはどんな場所で蝶よ花よと育てられてきたのか。しかし純粋培養のお嬢様なら一人でこんな所にまで来ないだろうし、来れても最低で何人かの護衛がいるだろう。だが自身が分かる範囲ではそんな気配は全くなく内心首をかしげるアキラ。

 また貴族のお嬢様だとしても恨まれる理由まではないだろうと過去を思い返す。たしかにあのPTで各地で行動した結果騒ぎを起こしたりもしたがそれ以上に貢献し続けてきた。交流のある貴族の中には彼女はいなかったはずである。

 アキラは警戒し続けたままでは話が終わらないと感じたのか殺気を消す。とは言え何かがあれば斬れるだけの準備はしているが。


「恨まれる理由も結構ある生活してきたが、アンタみたいなのは本当に心当たりないぞ」


「本当に失礼ね。私は貴方達五人組に完膚なきまでに敗北させられたというのに。とどめの一撃で貴方が核を穿ってくれたおかげで人間体じゃなきゃ行動できなくなったし、本当に面倒極まりないわ。私はただあの『怠惰の迷宮』で最奥前の広間で寝てることだけが望みだったというのに」


「『怠惰の迷宮』……最奥前の広場……寝てる……」


 その言葉だけで思い出せる存在はただ一つだけ。『七つの迷宮』の魔力核を守護する最強存在「龍」。かつて攻略した最大のダンジョンの象徴だった。あの4人とPTを組み、始めて死を覚悟した戦い。

 彼女の言葉が本当であれば、目の前の少女こそがその「龍」だというのだ。しかしその小柄な体格や愛らしい顔立ち、それらは決して「龍」の特徴とは一切一致しない。ただ一つ、風に靡く白金の髪を除いて。


「あら、私の髪の色に見覚えあるみたいね。それもまた当然。これは貴方が斬りおとしまくってくれた私の鱗と同じ色なんだから」


「……「龍」の鱗の色なんざ誰にも話してねぇ。説得力はそれなりにあうな。もしくは想像力豊かなメルヘン少女って可能性だが……想像だけでそこまで自信満々だとしたらそれはそれで危険な奴だな」


 軽口をたたきながら目の前の敵対存在への警戒度を一気に最大に上げるアキラ。目の前にいるのはまず間違いなく自らが戦った中で最強だった存在。この街中で戦いだせば人避けの結界の範囲外まで余波が広まるのは間違いない。そうなれば被害は大きくなり人も大勢死ぬ。それを看過できるほど情というものをアキラは捨てていなかった。


「あはっ!私がどうしてあなたの目の前に現れたのか、それ以前にどうしてこの姿になってるかが気になってそうね。その焦り顔を見れただけで結構満足ね、機嫌よくなったから一つくらいなら質問に答えてあげてもいいわよ?」


「随分劇的なダイエットに成功したようだな。体重どころか身長まで小さくなるなんてどうやったんだ?本にして売り出せば世の女性は買いまくると思うぞ」


「身体中の鱗斬りおとされたら軽くもなるわよ!!!」


 白い肌を怒りで真っ赤にさせながらむーむー唸っている少女の様子は大変愛らしかった。その背後に高等技術である無詠唱で大量の魔方陣を用意していなければの話だが。

 「龍」の魔力がうねり大気を震わせ、周りに転がるガラクタたちは揺れ動き音を立て始める。その中心にいる少女から戦意を感じ取りアキラはカタナを強く握りしめた。


「ッ!!」


 アキラがカタナを握ると同時に少女の後方に存在する魔方陣から大量の《魔弾》が撃ちだされた。《魔弾》は詠唱なしで使える魔法の中で最も難易度が低く、同時に使い手の魔力量・技術力が明確になる魔法。その威力は魔法師の魔力量に比例し極まった化け物の《魔弾》は堅い城壁を消しとばし、国の首都の半分を消し去るともされる。それと比べればはるかにマシな。それでも量、質ともに平均の魔法師が一回に撃ちだせるそれを遥かに超えていた。

 アキラは腰を落としながらカタナを強く握りしめ、そして《魔弾》が当たると思われた瞬間に抜刀し切り裂いた。迫ってきた《魔弾》は切り裂かれた場から燃え自身を焼き尽くされた。


「《日幻流(にちげんりゅう)晴威(せいい)》」


 その言葉と同時に特殊な歩法、手先の動き、カタナの軌道を一種の詠唱とし練られた魔力は巨大な炎の壁となり目の前に迫った《魔弾》を全て燃やし尽くした。その場に残ったのはカタナを鞘に納めるアキラと《魔弾》の燃えた結果出た煙のみ。アキラは油断なく斬り裂いた《魔弾》に意識をとられることなく少女を睨もうとし驚愕した。


「流石にこの程度じゃ一瞬の目くらましにしかならないわね」


「なっ!?」


 背後から聞こえた声は確かに今目の前20メートルほど離れた場所にいた少女のもの。咄嗟に飛び去るか抜刀し斬りかかるかを悩み、アキラは後者を選んだ。

 しかしその動きは完全に少女に読まれていた。アキラの高速抜刀術を頭を下げながら避けた少女はアキラの顔に手を伸ばしその頬を両手で抑え


「!?!!??!!!?!!???」


 キスをした。

 キス、接吻、口づけ、それらの呼び方をされるその行為は愛を伝える行為とされる。無論アキラにとってはファーストキスである、初物である。カタナに生きその腕を上げることに邁進し続けていた彼にとっては未知の行為。意味も分からず戦士にあろうことか思考停止しその場から離れる事すら出来なかった。


「こ、こここここれで契約完了よ!!今流し込んだ魔力が浸透しきれば貴方は私の従者になるって訳!!言っておくけど勘違いしないでよね!!これはあくまで契約で必要なことだからやったんだから!!!!」


 顔から火が出そうとばかりに先程までの何倍も顔を赤くした少女は口を離した瞬間に叫ぶ。その言葉にアキラは自身の身体の中を駆け巡る少女の魔力を確認するとその言葉が真実だと理解し抵抗を開始した。魔力の流れをせき止め抑えこもうと。

 その行為に羞恥から出る焦りによって気付かないのか少女は大声でまだ叫んでいた。


「あなたを従者にして門番にして再び私はあのダンジョンの中に舞い戻る!!そして今度こそ魔物だとか生み出さず周りが欲しがる魔鉱石とかも生み出さない無害で無益な存在としてずっと食って眠って読書してという生活をするのよ!!!怠惰に暮らす為の労力なら惜しまないわ!!!!」


 そんな発言を聞きながら抵抗を続けるアキラはふと疑問に思った。この手の契約は身体のどこかに印が刻まれるものだが一向にその手のものが出てくる様子がない。アキラ自身魔法の知識は仲間からの聞いただけでありあまり知らないが、一分を過ぎても何の変化もないことに流石に疑問をもった。


「……なぁ、何ともないんだがその契約魔法はちゃんと成功してるのか?」


「えっ、嘘。でも確かにダンジョンの中で流し読みしてた昔の冒険者が持ってきてた古代文書にはこれで契約完了になるって……」


『従者にしたい人物、生物と体液を交換し魔力を流し込みましょう。相手に自分の魔力が行き渡ると成功し、身体のどこかに赤い模様が出ます。模様の形は人それぞれ異なり、嫌な形になることもあるのでそこら辺は自己責任でお願いします。成功した場合従者に対し強制力を持った命令を下せます』


「って書いてあるし……偽物だったのかしら?貴方も見る?」


「見せてくれるなら見るが……」


 その対応に毒気を抜かれつつ本を受け取り読み始める。PTメンバーから古代語に関しうんちくをいやというほど聞き学習させられたアキラは苦も無くそれを読み進める。なんで襲って来た相手と顔を合わせて本を読んでいるのかという疑問を抱きかけたがそこら辺はもう諦めた方が話が早いと判断。


「まぁきっとそのうち出てくるでしょう。焦ってたから貴方の魔力を私もちょっととりこんじゃったけどこの程度なら問題ないわね。私は龍だし人間の考えた魔法なんて簡単に使えるわ。これで最強の従者誕生とか胸が躍るわね!!」


「踊る程胸もない癖に」


「なんですって!!」


 アキラのこぼした一言にわーわー騒ぎ続ける少女の声を聞き流しながら本に書いてある文章を読み、アキラは次のページ(・・・・・ )に書いてある文章を読んだ。

 本を少女に手渡しながら少女の中に残る自らの魔力を何とか操作しその全身に巡らせる。


「???……貴方何してるの?なんで私の中に残留した魔力を操作して――――」


 その言葉が終わるかどうかの時、少女の両手の甲が赤く光って熱を宿した。その熱はアキラの炎に勝るとも劣らぬほどの熱を持ち、そんなものが急に手の甲に宿った少女は当然


「熱い熱い熱い熱いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!なにこれ!?なにこれぇ!?お水!!お水を頂戴!!!!火傷するぅ!!!火傷するからぁ!!12時間寝続ける生活する前に死ぬのは嫌ぁ!!!たしゅけてええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」


 予測もしてない箇所から急激な熱に襲われ大きく叫び手を抑えながら急いで水を魔法で作りだし両手にかけ始める。その手には先程読んだ本に書いてあった通り赤い印がついていた。


「……こいつ本当に「龍」か?これに今まで一番苦戦して死に掛けたと思うとやりようのない感情が生まれるんだが……」


「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」


 あまりの熱さに少女は持っていた本を取りこぼした。手から落ちた本は偶然この件に関して書いてあったページを開いていた。


『なお、相手の魔力が先に自分の身体に行き渡ると逆に従者にされてしまうことがあるのできちんと抵抗しましょう。それもしない間抜けな人はいないと思いますが』


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