マッチ売りの女王
~~~いつもチャンスの女神様は走っている。前髪を捕まえなくてもぶつかられる事もあるさね~~~
マッチ売りの女王、取材ノートより抜粋。
☆
「マッチ、マッチはいりませんか? 火つきの良い、折れないマッチです」
寒空の下、小さな少女がマッチを売っています。
雪がちらつく夕暮れの町。
日が沈んでしまえばさらに寒さは厳しくなるでしょう。
町は楽しいハッピーホリデー。いつもは少し買ってくれる人々も、今日ばかりは家族の待つ家へと急ぎます。
「マッチが売れるまで帰ってくるな」
年中赤ら顔で怒鳴りつける、少女の父親とは違いました。
「うう。寒い」
少女は手袋をつけていない手をこすり合わせます。
カタカタと靴下も履いていない足も震え始めました。
人通りの少なくなってしまった細い路地。
そっと明るい窓を覗いて見れば。
テーブルの上のご馳走に、笑い合う家族の団らん。
少女の持って無いもので溢れています。
「マッチ、マッチは・・・」
もう、声も出せません。
シュッ。とうとう少女は売り物のマッチに火を点けました。
そっと点る 小さな小さな火。
少女は火の中に優しいお母さんの顔を見ました。
シュッ。優しいおばあさまの顔が。
シュッ。真面目に働いていた頃の父が。
シュッ。最後に食べたまともな食事が。
浮かんでは消え、浮かんでは消え少女に悲しい現実を突きつけました。
「アッ」こてん。
少女は何かにつまずいて転んでしまいました。
少女の持っていた籠から、絵も書いていない、真っ白なマッチの箱が転がり出てしまいます。
ふぅ。もう立つ元気もありません。
少女はうつ伏せから仰向けになって寝転びます。
せめて、最後は星を見て。
少女はそのまま冷たく・・・
・(私は走る)
・(休まず走る)
・(私の贈り物を必要とする者の元へ!)
・・・ガン!
カッ! と少女は目を見開きました!
何か。何かが少女に衝撃をあたえたのです。
ふ~~。少女は息を整えます。
今、心に宿った小さな火。
何が衝撃をあたえたのかわかりませんが、これを消してはいけないと何かが叫びます。
見えているのは星空とお店の看板。
酒場でしょうか? ビールジョッキの下に少女の読めない、文字らしい物が書いてあります。
あとは白いマッチの箱に少女が燃やしたマッチの軸。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ!
☆
「マッチを買って下さい」
少女はお店の扉を開けて、静かに話します。
「マッチ? 悪いんだけど・・・!」
酒場の主人が驚きます。
少女の持っている箱にはマッチの燃えさしで酒場の看板が丁寧に丁寧に描かれていました。
世界初の広告入りマッチの誕生です。
「マッチ、買ってもらえますね?」
少女は静かに話します。
売れる、とわかっていれば声をはりあげる必要はありません。
「まずは、この籠一杯。朝までに仕上げます」
少女は暖かい居場所と温かい食事を自力で手に入れました。
それからはまさに快進撃です。
マッチが欲しいかわからない人の通る道端の販売はやめて、確実に需要のある酒場を中心に。
仕入れは同い年ぐらいの信用できる仲間から。
(少女の生きていた時代はマッチは子供が作ることもありました)
真似をされる事もありましたが、丁寧な仕事と信用できる品物で少女達は確実に売り上げを伸ばしていきました。
☆
「それでね、気がついたら呼ばれてたンだよ。マッチ売りの女王ってね」
うふふ、と笑う女性はちょっぴりふくよかで痩せっぽっちな少女の面影は少ししかありません。
「でも今はこの会社、子供は働いていないんですね?」
記者は取材を続けます。
「ああ。ガキは飯くって勉強して遊べばいいのさ」
女王は笑って片目をつぶり、記者が間違えた字を指差しました。
「最近出てきた商売仇はご存知ですか?」
まいったな、記者は少し意地悪な質問をしました。
「ああ、こいつだろ?」
女王はライターを取り出します。
「知ってましたか」
記者はニヤリと笑います。
「ああ。ライターの火打ち石はうちが作ってるのさ」
女王もニヤリと笑います。
死にかけた少女は女王になりました。
ライターの女神に成る日も遠くないかも知れません。
ーおしまいー
サクセスストーリーはジャンル、ドラマティックでいいですよね?