真希です
喫茶店へ向かう道すがら、先頭をきって向かう慶太郎に、悠己、二人組という順であとをついていく。
慶太郎は時おりチラチラと背後の様子をうかがっていたが、途中ペースを落として悠己の横に並ぶと、うしろに聞こえないようやや低めの声で話しかけてきた。
「いや~持ってるわオレ。どうよ? やっぱこういう見た目でハッタリかましてくと違うわけ」
「ハッタリなんだ……。どうするの? ついてきちゃってるし……」
「お前、はなっから絶対無理だって思ってただろ」
慶太郎は得意げだが悠己としてはどうにも違和感しかない。
こんなイキリ中学生のような輩に声をかけられて、ホイホイついてくる女性が本当にこの世にいるのかと。
かたや向こうは放っておいても異性には不自由しなさそうな美人で、逆にこちらが怪しい勧誘でもされるのではないかと内心警戒しているぐらいだ。
単純にからかわれているだけとも取れる。
慶太郎はうしろで談笑しながらついてくる二人を気にしつつ、こっそり耳打ちしてくる。
「……いいか? お前はオレがなんか言ったら「それな! うわ、マジウケる!」ってやってノリよく合わせろ。そんで向こうの話には、「うんうん、わかるわかる。そうだよね~」ってとにかく余計なことは言わずに相槌だけ打ってろ」
何やら必死のようだが、距離が近くて暑苦しい。
「わかったから」と悠己が慶太郎の肩を手で押しやろうとすると、背後から真希の弾んだ声がした。
「あら、仲いいのね~男の子同士で」
「い、いや~そうっすか? まあ見てのとおりこいつ、ろくに友達いないんで」
「それな、まじウケる」
悠己がそう言うと、場に謎の沈黙がおきる。
慶太郎は「あ、はは……」と愛想笑いを作ると、またも顔を近づけてきて耳打ちをした。
「お前、もうちょっと明るく言えよ。マジでヤベーやつみたいに聞こえるだろ」
「それな」
何か言いたげな視線が返ってきたが、ちょうど目的の喫茶店に到着してしまってうやむやになる。
入店すると四人がけのボックス席に案内され、男女対面に別れて着席する。悠己の前に真希が座った。
ピークタイムから時間が外れてはいるが、お店がオープンしてまだ間もないというので席は八割方埋まっていて、それなりに混雑している。
学校でもよく話題に登っていたお店らしく、慶太郎がまず行くならここかな、と事前に目をつけていたということだ。
席につくなり慶太郎が我先にメニューをテーブルに広げてみせた。
「いいですよ全然、オレが出しますんで遠慮なく」
「ん~……あたしはとりあえずアイスコーヒーでいいわ」
「私も一緒でいいわよ」
警戒されているのか、いまいち食いつきが弱い。
悠己がメニューを眺めて吟味していると、慶太郎がそうそうに店員を呼んだ。
「アイスコーヒー四つで」
「かしこまりました。ご注文は以上でよろしいでしょうか」
「あとメロンソーダとチリホットドッグ」
悠己がそう差し込むと急に周りの三人から視線が集まったが、「何か?」と逆に見返してやる。
店員が去ると、慶太郎がすかさず悠己の腕を引いて耳打ちしてきた。
「……誰が勝手に頼んでいいって言った? なにがチリホットドッグだよ」
「おごりって言ったから……辛いの嫌いなんだ?」
「いやそういう場じゃねえんだよ、空気読めよ」
「ごちそうさまです」
「お前は自分で払えよなマジで」
言うだけ言うと、慶太郎はわざとらしく咳払いをして、対面の二人に向き直る。
「え、え~っと、じゃあまず、お名前なんて聞いちゃってもいいですかね?」
緊張しているのか笑顔が若干引きつり気味なのが面白い。
するとまず慶太郎の前に座っているショートカットの女性が、
「……遥香です」
表情を変えずややぶっきらぼうな感じで言い放つ。
続けて隣の真希が、こちらはうってかわってにこりと笑顔を見せた。
「はい、真希で~す」
そう言ってなぜか悠己の顔をガン見してくる。
なんともなしにその顔をぼうっと見返していると、
「真・希です!」
なぜかもう一回言った。
すかさず遥香が目を細めて真希を見ながら、
「……今なんで二回言ったの?」
「聞こえてないかと思って」
「聞こえてるわよ」
謎の押し問答を始めた。
それを見ていた慶太郎がここぞとばかりに手を打って、声を張り上げる。
「あははは! 真希さん面白いっすね~!」
「うわまじウケる」
先ほど言われたとおり慶太郎に合わせて悠己がぼそっとそう言うと、真希が突然きっと睨みをきかせてきた。
その仕草を見てふと誰かを思い出しそうになったが、そのときちょうど飲み物が運ばれてきて意識がそちらにそれた。
真希DEATHボタンは下に。
今度から★になったようですね。