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番外ネタ 凛央ちゃんと一緒 

ヒロインたちのほのぼの百合回です。

 とある日曜。

 唯李の朝は遅い。

 

 耳元でスマホが鳴る音が聞こえた。

 無意識のうちに手を伸ばし、アラームを切る。その後、再びスマホが鳴る音がする。

 はっと目を覚まし、身を起こす。やらかしたと思ってスマホの画面を見る。

 鳴っていたのはアラームではなかった。通話アプリが着信している。相手はRIO。


「唯李? なんで切ったの? もう着くんだけど?」


 電話に出るとやや半ギレの声がした。

 やっと頭が回ってきて、状況を把握する。

 

 今日は夏休みに突入し初めての日曜。凛央と遊ぶ約束をしていたのだった。

 本来早く起きて準備をしているはずが、昨晩遅くまでゲームの配信を見ていたせいで起床が遅れた。

 そして凛央の声を聞くまで勘違いをしていた。てっきり今日は学校で、寝坊したと。

 夏休みに入ってたった数日。早くも活動時間が夜にずれ込んでいる。


「あ、もう家来ちゃっていいよ全然! 余裕で準備OKだから!」


 と言って通話を切ると、唯李はベッドから跳ね起きて急いで着替えをする。

 下に降りていくと例によって家には誰もいなかった。真希すらいない。

 時計は午前十時を回っていた。これにはビビる。このままでは夏休みダメ人間一直線である。


「あ~どうしよっかな今日……」


 今日の予定はと言うと特に決めていない。漠然と遊ぶ、とだけ。さらに家に迎えに来てというクソムーブをかました。最悪またうちでゲームでもやればいいかと。基本インドア派であるからして、出かけるにしても思いつく出かけ先がない。

 大勢に混じるはともかく、二人きりで同学年の女子と遊ぶは意外にないのだ。それこそこの前凛央と家で遊んだきりだ。


 数分後にチャイムが鳴った。玄関で凛央を出迎える。

 パーカーにゆったりしたショートパンツというボーイッシュな格好。なんだキャラ変か? と思ったがこれは意外に似合っている。かわいい。


「これ、クッキー作ったから」

「あ~もう、いいのにも~ありがと~」


 凛央が小袋を手渡してきた。親戚のおばちゃんっぽく受け取る。

 起きてから何も口にしていないことに気づき、その場で開けて食べ始めた。くそうまい。


「で、どうするの?」

「じゃあガチでやりますか。忖度なしのガチプレイを。動画で盗んだからね、プロのテクをね」

「んー……ゲームばっかりだと不健康だから、外で軽くジョギングでもしない? 天気もいいし」


 えぇ……と思ったが凛央の言うことも一理ある。最近運動不足なのは否めない。

 外はよく晴れていて、それほど暑くもない。軽く体を動かすにはちょうどいい日和。ゲームでボコられてストレスをためるよりはるかにいい。ナイス提案。

 

「いいね、やっぱJKは健康的であるべきだよね~」


 動きやすい格好に着替え直し、スニーカーを履いて外に出る。

 その間もらったクッキーを全部食べてしまった。これは不健康。そのぶんカロリーを消費しないといけない。

 

「とりあえずこっちの道をまっすぐ行こう」


 このあたりの道にはうとい凛央の代わりに、大体の経路を頭で描く。

 といってもそこまで長距離を走るつもりはない。近所をぐるっと軽く回ってくればいいだろう。


「じゃ、行きましょうか」


 軽く伸びをした凛央が微笑む。陰りのない笑顔だ。

 ちょっとどきりとする。目の保養。 


 唯李は一度深く呼吸をする。澄んだ空気が肺に入ってきて、気分がいっそう乗ってきた。

 どうなることかと思ったが、いい感じに収まりつつある。それはちょっと前の一連の騒動も含めてだ。

 今や凛央とは名実ともに友人……いやもはや親友と呼んでも差し支えないだろう。


 唯李は満面に笑みを浮かべて、頷きを返す。

 そして凛央と二人一緒に、仲良くスタートを切った。


「いやはええよ!」


 しかし走り出して五秒で叫んでいた。

 凛央の歩幅がおかしい。ペースがおかしい。フォームがおかしい。いやフォーム自体はいい。よすぎる。

 凛央は数メートル先で立ち止まって振り返った。怪訝そうな顔で足踏みしている。


「どうしたの唯李~?」

「だからはええっつってんの!」

「なに~?」

「ほら声聞こえないじゃん、聞こえないぐらい距離できちゃってるじゃん」


 てっきり仲良くおしゃべりしながら、ゆるゆると流すのだと思っていた。

 それが何をそんなガチっぽく腕を振っているのか。親友を置いてぶっちぎっているのか。どう見てもジョギングというペースではない。


 そして数十分後。

 そんなに言うならやってやるよと、ハイペースで凛央についていった。

 こっちからでも行けるんじゃない? と予定のコースを外れ、勝手に遠回りされた。行けなかった。唯李ですら知らない道を突き進んだ。

 なんとか家の前に生還する。肩で息をする唯李を尻目に、凛央は涼しげな顔。さすがに呼吸が乱れてはいるが、表情に疲労は見られない。


「ひぃ、ひぃ……死ぬぅ……」

「文句言ってる割に唯李もけっこう走れるじゃない」

「これでも中学の時は運動部やってたからね一応ね!」

「私は休みの日はいつも走ってるから、走らないと気持ち悪いの」

「あたしは今気持ち悪いよ今!」


 とにかく走るのは終了。

 それにこの界隈でガチマラソンしていると、鷹月さんちのお子さん気でも触れたのかと思われる。


「体も温まってきたし、これから何しましょうか」

「ウォーミングアップを手伝っちゃったよ。完全体にしちゃったよ。まだ運動する気? これから本番?」

「なにか運動する道具があるといいわよね。フリスビーとか」

「フリスビーて。JKが休日にフリスビーて。ネタ以外で初めて聞いたわ」

「たとえばよ。そんな言わなくてもいいでしょ」


 ともかくまだまだ動き足りないらしい。残念ながら家にそんな遊び道具などない。

 どのみちお昼時である。お弁当を求めて、唯李御用達のスーパーに向かうことにした。ついでにそこでなにか遊ぶものを探すことにする。

 家からママチャリを押して路地に出ると、さっそく凛央に不審そうな顔をされる。


「なに? 自転車で行くの?」

「なに? 走っていこうとしてる?」


 小競り合い勃発。ここは譲れない。


「じゃあ凛央ちゃんうしろ乗る?」

「うしろ? ダメよ、二人乗りは禁止よ」

「そう? マンガとかでよくやってるじゃん」

「二人乗りは道路交通法57条2項に基づいて、各都道府県の公安委員会が定める道路交通規則で原則違反とされているそうだけど」

「ググって論破するのやめてもらっていかな」


 和気あいあいと二人乗り、みたいな流れにはならない。

 結局唯李が自転車、凛央は走りで、近所の大型スーパーにやってくる。

 食料品売り場とホームセンターが合体したような作りだ。勝手知ったる唯李が先にたって案内をする。


「マジでここなんでもあるから。何でも揃うよ」

「へえ。じゃあ竹刀とかもあるかしら」

「ごめんさすがに竹刀はないと思う。ていうかなんで竹刀探すの? あたしのことシバこうとしてる?」


 凛央はなぜか一人でにやにやしている。彼女なりのギャグだったのか知らないが意味不明で怖い。

 スポーツ用品コーナーがあったはず、と棚を巡っていく。その途中、おもちゃコーナーで唯李は足を止めた。やたら蛍光色をしたアイテムがごちゃごちゃ並んでいる。


「こういうの見てるとテンション上がるよね。ほらシャボン玉セットあるよ。あと水風船とか」

「急に小学生レベルまで下がったわね」

「フリスビーはないね。残念りおちゃん」

「だからそれはいいって言ってるでしょ。人が一回言うとすぐそうやって」

「かぶせてくのは基本だから。滑ったギャグをこうやって使ってくんよ、おわかり?」


 一つ講釈をしてやるが凛央はくすりともしない。やはりそういうセンスに欠けていると思う。

 そしてスポーツ用品コーナーに到着。バット、グローブ、野球ボールときて、サッカーボールやゴルフボールなども置いてある。だいたいのものは揃っているが、どれもガチなスポーツ寄り。見て回るもいまいちピンとこない。


「んーそういう感じじゃないんだよな~。これならいっそフリスビーのほうがマシかもな~」


 ちらりと凛央の顔色をうかがうが無視。

 かと思いきや、凛央の視線は棚の脇に引っかかっているバトミントンラケットに注がれていた。


「これとか、どう? セットで売ってるわよ」

「おっ、いいねバドミントン! 凛央ちゃんにしては珍しくまともな提案するじゃん!」

「ちょいちょい一言多くない?」


 割り勘でバトミントンセットを買うことにする。シャトルにラケット2つセットで千円弱。

 それからお昼用に飲み物おにぎりなどを購入すると、店を出てこの先にある公園に向かった。


 十分ほどで公園に到着。

 休日ということもあってか、家族連れなどでそこそこ人の姿が見られる。

 遊具のある広場を抜けて、芝生一面が広がるエリアへ。隅っこの木でできたベンチに二人仲良く腰掛ける。


「いいわねこの公園」


 凛央が隣でおにぎりを口に運びながら言う。

 だいぶ暖かくなってきたため、凛央は上着を脱いで半袖Tシャツ一枚。なんだかんだ露出多め。

 後ろで髪を縛っていて、うなじが見える。靴下を履いてはいるが、ほぼほぼ生足。スラリと長い。陽にあたって輝いている。思わず太ももをスリスリしたくなる。試しにモミモミしたら手をひっぱたかれた。


 おにぎりを頬張る横顔をこっそり盗み見る。食事シーン一つ切り取っても絵になる。中身はさておき、相変わらず整った造形だ。この子はどんな男と付き合うのかしらないが、羨ましい限りだ。変なのに捕まらなければいいが。


「ていうかそのでかいおにぎり何?」

「爆弾欲張りおにぎりって書いてあるわ。鮭とツナといくらとおかかが入ってるわ」

「だいぶよくばったね。その飲み物も炭酸? ハイパーチャージとか書いてあるけど」

 

 見た目に反してパワー系。しかしそのギャップが萌え。いや燃えである。凛央パワーも無尽蔵ではない。エネルギー補給が必要なのだ。

 食べ終わって小休止。しばらく日向ぼっこをする。平和。

 しだいに眠くなってくるが、夏休みの課題やった? と凛央が嫌な話題をふっかけてきて現実に引き戻してくる。


「よっしゃやるか!」


 唯李はバドミントンラケットを手にして立ち上がった。

 バドミントンは子供のときにいくらか覚えはある。結構楽しかった記憶。


「いくよー」


 ラケットを振ると、いい感じにシャトルが宙を舞った。

 風もなく絶好のバドミントン日和。マラソンだのフリスビーだの言ってないで、初めからこうすればよかったのだ。

 対面でラケットを構えた凛央は、上空を見上げながら軽くステップを踏んだ。

 そして腕を引いて振りかぶって、狙いをすまして、


「ふっ」


 短く息を吐き出しつつ、鋭くラケットを振り抜いた。

 スパァン! と激しい破裂音がして、ブシュウウッと風を切りさく危険な音がした。唯李の脇を抜けて、目にも止まらぬスピードで羽は地面に叩きつけられた。


「おい」

「え?」

「なんでいきなり決めに来たの? しょっぱな友情崩壊スマッシュやめてもらっていいですか?」

「やっぱりおもちゃねこのラケット。球が伸びないわ」

「質問に答えようか」

「まずは軽くハイクリアからドロップ、ドライブでいきましょ」

「専門用語やめろ」


 凛央はきょとんとした顔をする。

 唯李の想像していたほのぼのバトミントンではない。この女ガチ練を始めようとしている。

 

「凛央ちゃんってもしかして元バド部の人?」

「ちがうけど。体育の授業でちょっとやったぐらいよ」

「あぁ、体育の授業でちょっとやるとそんな凶悪なスマッシュ打てるようになる? 体育バカにできないね」


 体が育ちまくっている。

 聞いているのかいないのか、凛央はシャトルを手にして構えを取った。


「じゃあいくわよ」

「待ってその構え何? ガチサーブじゃん。低く落とそうとするやつじゃん。そういうんじゃなくてあれだよ、落とさないように長く続けるみたいな」

「なるほど持久力勝負ね。受けて立つわ」


 まだなにか違う。本当にわかっているのか。

 凛央はラケットを持ちかえ、山なりにシャトルを打ち上げた。

 ぽんと軽く突き返すと、凛央もゆるく返してくる。またふわっと浮かして返す。

 そうそうこういうのでいいのだ。やっと唯李のイメージどおりに戻った。

 

 危なげなくラリーは続く。凛央はさすがの安定感。打ちやすい位置に返してくる。

 高く上がったシャトルが落ちてくるのを待つ。一瞬太陽を見てしまい、シャトルを見失った。

 スイングが遅れて、羽をあさっての方向に飛ばしてしまう。


「あっ、ごめん!」


 これは無理か、と思った矢先、凛央は地を蹴って加速した。走りながらシャトルをすくい上げ、しっかり唯李のいる場所に返してくる。


「おー凛央ちゃんすごい! ……あっ」


 凛央のスタイリッシュムーブに気を取られ、ガキっと羽がフレームの部分にあたってしまう。ほとんど飛距離もなく、シャトルはふらふらと地面に落下していく。

 

「ふっ!」


 凛央が飛び込んできて羽をすくい上げた。そのまま芝生を転がり、受け身を取る。すぐに起き上がって次に備えた。


「り、凛央ちゃんそんな無理なくても……あっ!」


 唯李のラケットが空を切った。

 今度こそ落ちる……と思った瞬間、凛央がダイビングヘッドぎみに飛び込んできた。


「はぁっ!」

「り、凛央ー!」


 思わず叫んでいた。

 羽は接地するかしないかのところで、凛央のラケットによって拾われた。

 目の前にふわりと浮いたシャトルを、唯李はつい手で受け止めてしまう。立ち上がった凛央が憮然とした表情をした。


「なにしてるのよ唯李、手でつかんだらダメでしょ」

「ち、ちょっと一回ストップストップ。凛央ちゃんそんな無理しなくていいからね? 取れそうになかったら一回落とそう? あきらめてガンガン落としてこう?」


 へなちょこプレイを全力でフォローされると申し訳なくなってくる。

 まさか空振りしたのまで拾われるとは思わなかった


「せっかくラリー続いてたのに……」

「ていうか今のあたし触ってないから。凛央ちゃんが一人で返して一人ですくってるからラリーになってないの」


 凛央ちゃん延々一人で遊べる説。


「じゃあまた最初からね。100ラリーしないと今日は帰れないわよ」

「え? なんで?」


 勝手に謎のゲームが始まってしまっている。

 唯李の疑問に答えることなく、凛央は促してくる。なぜか圧をかけてくる。

 いたしかたなく再開。それからも耐久ラリーは続いた。


「ア○ンストラッシュ!」

「龍○閃!」

「ちょっとふざけないで」


 途中ふざけたらキレられた。

 なあなあにして終わりにしようと思ったがそうはいかないらしい。凛央はきっちり回数をカウントしている。

 唯李はいつしか無心でラケットを振っていた。お互い徐々に口数が減っていき、最後には無言。

 そしてとうとう100ラリーを達成した。公園には夕陽が差していた。


「もう腕が上がらねえ……ふええ足がパンパンだよぉ……」

「ついにやったわね唯李。やり遂げたわ、二人で」

「凛央……」


 お互い見つめ合う。

 最初はマジかこいつと思ったが、やり終えると妙な達成感がある。


「じゃあそろそろ帰ろっか。今日は凛央ちゃんと遊べて楽しかったよ」

「唯李……よかった。私、もしかしたら空気読めてない感じになってるかと思って」

「ううん全然そんなことないよ。また遊ぼうね」

「そうね。次は200回を目指しましょう」

「二度と遊ぶか」


 こうして凛央との友情がよりいっそう深まった。

 気がしないでもない。

ボケは通す

ツッコミも通す

キマシは通さない

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― 新着の感想 ―
[良い点] やればできるんだから、本編でもガンガンやって欲しいのに
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