真のデビル
「机の引き出しの奥に隠したできの悪いテスト、お母さんに見つかってたわよ。お母さんすごく怒ってたけど……まったく、のび太くんみたいなことしてるんじゃないわよ」
後日。
もはや小細工なしに正面から部屋に乗り込んできた真希が、開口一番にそう言った。
青天の霹靂に目を剥いた唯李は、真希の胸元に食らいついていく。
「え、えぇっ、勝手にあたしの部屋入って漁ったの!?」
「唯李お小遣い減らすって。ゲームも一日一時間」
「なっ、なんで!?」
「なんでって、逆になんで? 反論の余地ないでしょ」
(ぐぅ、悪魔の手先め……真のデビルはここに……!)
この凶悪さ、デビル唯李なぞまるで子供のお遊びのようだ。
しかし一番の原因はゲームにのめり込んだことではなく、悠己と凛央が裏でなにやら仲良くしてそうなのが気になって勉強がほとんど手につかなかったのだ。
そのもやもやを晴らすためにゲームに逃げていた部分はたしかにあったが、もとを正せば全部悠己が悪い。つまりあいつのせい。
だがそんな事情を姉に正直に話したらまさに格好の燃料投下、末代までの恥である。
こういうときこそ親友である凛央の出番だ。
唯李は真希をとっとと部屋から追い出すと、すぐにスマホを手にとって凛央にコールする。
ワンコール鳴り止まないうちに凛央は電話に出た。
「聞いてよ凛央ちゃん! ひどいんだよ! 勝手に人の部屋に入って……」
「唯李。友達として、素直に忠告するけど……今回のテストは、はっきり言って唯李の自業自得よ。あれだけわかりやすいノートを用意してあげたのに」
「そ、そっか、そうだよね……ごめんね、せっかくノート用意してくれたのに」
「だいたい今回のテストは全体的にそれほど難しくもなくて……」
なぐさめてもらうはずがお説教が始まってしまった。
唯李は話もそこそこに電話を切った。
「まったくマジレスとか頭固いんだよなぁ。そういうとこ、そういうとこなんだよなぁ、これだからリーオーは……」
スマホをいじりながら、電話帳で悠己の名前のところで手を止める。
この間はついつい余計なことを口走ってしまってその場の空気が悪くなりかけたので慌ててごまかしたが、そのせいでさらに深みにハマってしまった感がある。
きっとアホだから向こうは気づいていない。
(でも案外、弱っている感じを見せていけば今度こそいけるじゃ? なんだかんだで優しいし……)
などと思った唯李は、そのまま勢いに任せて悠己に電話をかけた。
こっちはなかなか出なかったが嫌って言うほど鳴らしてやったらやっと出た。
「……もしもし?」
「ぐすん、あのね悠己くん……聞いて?」
「隣の席キラーは敵」
唯李はすぐさま電話を切った。
(頭固いどころの話じゃねえコイツ……)
「ちくしょう、ちくしょうっ……絶対、ぜったい落としてやるぅっ!」
その夜、隣の席キラーは枕を濡らした。
これで二章終わりです。
次回三章からは大筋がなんとなくできしだい投稿したいと思います。
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