隣の席キラー唯李 3
「あっ、ゆいちゃんとりおが修羅場に!」
何を思ったか瑞奈は突然そう叫ぶと、手にしていたバッグを床に置いて、中からお菓子の箱を取り出す。
「ゆいちゃんはきのこっぽいからこれ。りおはこっち」
そして別のお菓子の箱をそれぞれ二人に手渡す。
瑞奈は箱を持たされて首をかしげている二人の間に立つと、大きく両腕を振ってクロスさせた。
「ファイっ!!」
「やめなさい」
ぺしっと頭をつついて瑞奈を横にのける。
すると瑞奈はぶーぶーと口をとがらせながら、悠己につっかかってきた。
「あーわかった。ゆきくんがりお泣かしたんだ」
「違う違う。ていうかそれは何、そのいっぱい入ってるのは」
「これ当たるまで回してたら遅くなっちゃった」
バッグの中にはお菓子の他に、ガチャガチャの丸いプラスチックの容器がゴロゴロと入っている。
瑞奈はその中の一つを取り上げて、
「りお見てこれ! けつあごパンダ! 元気ですかーー!?」
小さい動物のフィギュアを、凛央の目の前で見せびらかしていく。
凛央が慌てて涙を拭ってそれに応えようとすると、瑞奈は間近で凛央の顔をのぞきこんで、
「じゃあ瑞奈がおもしろギャグ言って笑わせるから!」
まさかのお役目を奪われた唯李。
ちらりと様子をうかがうと、唯李は腕を組んで何やらふんぞり返っている。
「ふっ、ここは弟子に譲ってやるとするか」
「ゆいちゃんはけつあごだけど水虫で切れ痔!」
「それただの悪口じゃん。違うもっとこう、凛央ちゃんを元気づける感じで!」
「ちゃんゆいは切れ痔だけどけつあごで水虫!」
「入れ替えただけでしょそれ! もういいお主は破門じゃ!」
「ふっ、わが師はもともとりお長老である! ちゃんゆいなぞ成長値マイナス補正もいいとこ!」
などと言い合いをすると、二人してぎゃあぎゃあともみ合いへしあいを始める。
そのうちに瑞奈が、
「でもなぁ、ゆきくんりおともいい感じだからなぁ~~」
「な、何が!?」
「でもりおは友達だもんね。ゆきくん言ってたし」
「友達?」
初めて凛央が家に来たときに言ったことを覚えていたらしい。
するとなぜか唯李が俄然勢いづいて、
「友達……そっかそっか。そうだよね! 友達だよね、うんうん!」
「ほら、りおもいつまでも泣いてないで、早くパーティ始めよ!」
瑞奈が凛央の腕を引っ張って立たせる。
瑞奈の前でも泣いているわけにはいかなかったのか、凛央は気恥ずかしそうに立ち上がった。
その様子を見ていた唯李が、「この前は自分が泣いてたくせにね」と言ってこっそり笑いかけてきた。
悠己もそれに頷いて、一緒に笑った。
「はいまたゆいちゃんの負け! ほらたけのこ喰らえ喰らえ!」
「あぁ、たけのこもおいしい……たけのこサイドに落ちるぅ……」
ゲームで負けるたび、無理やり口にたけのこお菓子を押し込まれる唯李。
三人で対戦だなんだとやっていたが、一名だけ見るも無残にボッコボコにされ、唯李は完全にいじけていた。
そして最後にはたけのこ面に落ちた。
やがて瑞奈が眠くなったのか、一人すやすやとしてしまったので、そろそろお開きとなる。
瑞奈だけ家に置いて、悠己は暗くなった路地を唯李と凛央と三人で連れ立って最寄りのバス停まで歩いていく。
バスに乗って帰るのは凛央だけだ。誰もいないバス停に到着して、バスが来るのを三人で待っていると、まだ唯李がゲームで負けたことをぶつくさ言っている。
「しかし紙一重だったんだけどね~どれもこれも」
「あれだけやってて全然進歩してないってどういうことなの」
「見てるだけの人には言われたくないですねぇ」
ここぞとやけにつっかかってくる唯李。
するとすかさず横合いから凛央が口を出してくる。
「ちょっと、やめなさい二人ともケンカは」
「ケンカ? ケンカにすらなってないよね。争いは同じレベルの者同士でしか生まれないってね」
「唯李のレベルが低すぎてね」
「お? やんのか?」
「だからやめなさいっていうの」
凛央が間に立ちふさがって仲裁してきた。
こうなると唯李も引かざるを得ないのか一度引き下がったが、やはり「む~」と悠己を睨んでくる。
するとそこで不意に凛央が唯李の手を取って、悠己の手を取って、無理やりつなぎ合わせた。
「ほら二人とも、仲良くするのよ」
「ちょ、ちょっと凛央ちゃん?」
凛央は二人の手の上に、自分の手を覆いかぶせるようにして押さえつける。
唯李が変な声を出して慌てふためいているところに、ちょうどバスが滑り込んできた。
「じゃあね。手はそのままね」
凛央は手を離すと、そう念を押してバスに乗り込んだ。
ドアが閉まる間際、振り返って手を上げた凛央は、満足そうな笑顔を浮かべていた。
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