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サプライズゲスト2


 低くぽつりとこぼれた凛央の言葉に、瑞奈は首をかしげる。


「二人って?」

「成戸くんと、唯李のこと。正直に言って」


 凛央は畳み掛けるように問いかける。

 突然の質問に、瑞奈はきょとんとした顔で二度三度目を瞬かせたが、すぐににこっと笑顔を作った。


「うふふ、二人はね~……ラブラブカップルだから! お似合いでしょ?」


 さも当然とばかりの瑞奈の口調に、凛央は開いた口が塞がらない。

 やはり当たっていた。あの唯李の顔を見たら、嫌でもそれとわかる。あれはどう見たって恋する乙女だ。


「やっぱり、そういうことだったね、最初っから……! ライアー成戸にデビル唯李……!」

「ど、どしたのりお。顔怖いよ?」


 よくよく思い返せば、前に偶然二人でいるところを尾行して撮った写真には、はっきりと説明がついていないのだ。

 悠己は「たまたま一緒に帰っただけ」と言っていたが、あの時点で、いやもっと前から二人はすでに付き合っていたと考えるのが自然。


 つまり、二人はずっと前からデキていて、それをなんとか隠そうとありもしない嘘をでっち上げて、自分を騙そうとしたというところだろう。

 凛央は心配そうに見上げてくる瑞奈の前で、がくりと首をうなだれ、自嘲気味につぶやく。


「すっかり騙されていたのよ、ピエロよ。笑ってちょうだい。私は二人にもてあそばれていただけなのよ。きっと私のことを二人して騙して、陰であざ笑っていたの」

「なに言ってるの? ゆきくんとゆいちゃんはそんなことしないよ!」

「どうしてそんなふうに言い切れるの? 私は見たのよ、さんざん騙されたのよ!」


 それならそうと、最初から正直に話してくれればよかったのに。

 お互い好きあって真面目に付き合っている、というのなら、その仲を茶化したり、ましてや裂くような真似をする気は微塵もない。

 結局のところ、唯李と自分はその程度の仲だったということだ。あれこれ話す義理も信頼もない、そう思われている。


「隣の席キラーだとか、温かく見守ってやってるだとか……とっくにくっついてるんじゃないの! それだったらそうと、なんで……」

「だから違うよ、二人は瑞奈のためにしてくれてるの!」

 

 瑞奈が予想外に強い口調で真っ向から言い返してくるので、凛央は頭を上げてじっと瑞奈の目を見た。


「……それは、どういうこと?」

「二人はね、瑞奈のためにニセの恋人してくれてるの」

「に、ニセの恋人……? 何よそれは……?」

「瑞奈に友達作らせるために、ゆきくんが彼女作るって言って」


 瑞奈の口から飛び出た「ニセの恋人」というワードに凛央の頭は混乱する。

 少しわかりづらい瑞奈の説明を要約すると、悠己と瑞奈は互いに彼女を作る、友達を作る、という約束をしたのだという。

 友達のいない瑞奈に友達を作るよう促すため、悠己に唯李が協力している、という形なのだと。

 

「そんなこと、初耳だけど……。でもそんな……」

「瑞奈にバレないように、瑞奈以外にはナイショにしてるみたいだから。ゆきくんはあんまりよくわかんないけど……ゆいちゃんは嫌々って感じじゃなくてあれでノリノリだからね。恥ずかしがりなんだよね~ゆいちゃんは」

「で、でも、それって……そもそも、瑞奈はどうして二人がニセの恋人をしてるって知っているの?」

「この前ゆきくんの携帯勝手に見たらゆいちゃんとのラインに書いてあった。くっくっく……ゆきくんは瑞奈に隠しごとは許されんのだ」


 瑞奈は腕を組んでにやりと悪い顔をしてみせる。

 ニセの恋人、などという話はにわかには信じがたかったが、しかしこの片手落ち感はあの二人らしいといえばあの二人らしい。

 

「あ、でも瑞奈が知ってること、二人にはナイショね? 放りながってたスマホつい出来心でちらっと見ちゃったら……瑞奈も困ってるの。なんで勝手に人の携帯見たんだよ、って怒られるから、知らないふりしないと……」


 瑞奈が一転、困り顔で念を押してくる。それなりに罪悪感はあるらしい。

 予期せぬ話を告げられた凛央は、愕然とその場に立ちつくす。


「そ、そんな……。ということは、デビルは私だったというの……?」

「でびる?」


 デビルどころか、何も知らない愚かな道化。まさしくピエロ。

 瑞奈に友達がいない。自分はそんなことだって知らなかったのだ。いや気づかなかった。

 たとえ嘘だろうとごまかしだろうと、瑞奈のためを思っての二人の行動を、そんな自分が責めることができるだろうか。

 

 頭の中がゴチャゴチャになって、考えがまとまらないでいると、不思議そうに見上げてくる瑞奈の顔に気づく。

 慌てて微笑を作った凛央は、その頭に手を触れて、柔らかい口調で言った。


「……友達がいないのは、辛いわよね。そうよね……」


 けれども瑞奈は、まるでそんなそぶりを見せなかった。少なくとも凛央の前では。

 それがどうしても他人事には思えなくて、だんだんと目頭が熱くなる。

 

「まだ友達、できてないけど……大丈夫。ゆきくんは忙しくてもなんだかんだでかまってくれるし、ゆいちゃんはからかうと面白いし……瑞奈はね、ゆきくんもだけど、ゆいちゃんのことも大好きだから。この前だって、瑞奈が泣いちゃってね。そしたらゆいちゃんが瑞奈のこと笑わせようとしてくれたの。変なネタ帳みたいなの持っててね、でもちょーつまんなくてね……」


 そのときのことを思い出しているのか、瑞奈はうれしそうにとりとめもなく話を続ける。

 そうだった。唯李が……よりによってあの唯李が、人を騙して、陰でせせら笑うような真似をするわけがないのだ。

 それは、凛央自身よくわかっているはずだったのに。


(だって唯李は……一人でムスッとしてた私を……)

活動報告に書影などをアップしました!

書籍版は1月30日発売です!よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり瑞奈に友達が出来ない理由が分からない… まぁ俺と同じ内弁慶かw
[良い点] 音速で解決した件 [一言] リーオーのピエロ度と狂気度が増していく……!
[一言] よかったよかった、誤解が解けてほっとしたよ (*´▽`*)
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