唯李VS凛央
その後、唯李は翌日凛央を遊びに誘うべく、携帯のメッセージを送った。
昨日の今日で突然の誘いだったが、凛央は快く応じたので宣言した通りの運びとなる。
そして翌日、土曜の昼下がり。
最寄り駅まで凛央が来てくれると言うのでお言葉に甘えて待ち合わせ、そこから一緒に歩いて唯李の家へ。
自宅はややさびれた駅から歩いて十五分ほどの住宅街にある一戸建て。ややこぢんまりとしてはいるが、きちんと庭もついている。
ぺちゃくちゃと当たり障りのない会話をしながら家の玄関前までやってくると、唯李は先んじて扉を開けて、凛央を招き入れる。
姉は朝早くに友だちと、両親は車で出払っていて家には誰もいなかったが、凛央は「お邪魔します」と礼儀正しくあいさつをした。
それから二階にある唯李の自室へ。
部屋の前でドアノブをひねったところで、唯李はふと動きを止めて、
「言っておくけどオタ部屋じゃないよ? ゆいの部屋って書いてあるでしょ。導かれし者のみが入れる禁断の聖地だから」
「導かれし者……?」
「オタバレしたくなかったから呼びたくなかったとかじゃないから。ていうかオタじゃないから」
よくよく考えると、こうやって自分から友だちを自分の家に誘うということをした記憶がない。
何か考えがあって頑なに、というわけではないが、これまでなんとなくそういう流れにはならなかった。
それは小さいときには明確に持っていた人を家に呼びたくないという気持ちを、無意識に引きずっているのかもしれない。
(女の子を部屋に入れるってこんな感じなのかなぁ~。なんか変にドキドキしてきた)
唯李はここにきて妙な緊張感に襲われる。
そう言えばこの前悠己はしれっと「とりあえずウチ来て」なんて誘ってきたが、実は内心こんな気持ちだったのだろうか。
(いや寝ぼけて出てくるようなやつだからそれはないな……)
あのぼうっとした間抜け面を思い出して、少し気が紛れた唯李は、一息にドアを押し開けて入室。
続けて部屋に足を踏み入れた凛央はと言うと、物珍しげに部屋の配置だの壁のポスターだのをキョロキョロ見渡しながら、その場に立ちつくしている。
少し挙動不審な感じだが、それはもう今日落ち合った時からずっとそんな調子だ。
そんな凛央の恰好は今日も今日とて、以前と同じ明るい色の可愛らしいワンピース姿。そして生足。
本人意識してか無意識なのか、見た目に自信がないとおいそれとできないような格好だ。
そもそも凛央は異性の視線だとか、そういうものに無頓着なようにも思える。
「そのワンピースかわいいねぇ。それお気に入り?」
「うん。というかよそ行きの服ってこれしかないの」
「えっ……?」
「だって普段は制服あるじゃない?」
「あ、ああ……」
冗談なのか本気なのかわかりかねたが、あまり突っ込んではいけない案件かもしれないのでここはスルー。
かたや唯李はどうせお家だし、と薄手のパーカーにショートパンツというラフな格好だ。
「どうぞどうぞ座って座って」
そう言って座布団をすすめると、凛央は両足を大胆に曲げてぺたっと女の子座りをした。
一方ベッドの端に腰を落ち着けた唯李は、思わずちらっと凛央の膝のあたりに目が行く。
「わかるね。男子の気持ちわかる」
「……なにが?」
これは無意識お色気キャラ。
まあお色気というほどでもないが、そういうのも萌え要素としてアリやなと唯李は内心にやりとする。
凛央はそわそわと落ち着かない様子で目線を右往左往させていたが、やがてぎっしり詰まった壁際の本棚に目を留めて、
「な、なんだかいっぱいあるのね……。見てもいい?」
「ん、いいけど……」
凛央は膝立ちに前かがみになると、本棚をじっとガン見し始めた。
これまた無自覚なお尻つきだしポーズ……は置いておいて、何か性癖を見られているようで妙に恥ずかしい。
「あ、あ~……あたしって意外とインドア派だからね。意外とね」
と弁解をしていくが、凛央は全然耳に入っていないのか相づちすらない。
やけに熱心に棚を見入っている。
「お笑いのDVDとかもあるのね。こっちは……」
「あ、あんまり見ないでね。恥ずかしいから」
こんなこともあるかと思い、本当にヤバそうなものは棚の奥の列に隠してある。
というか単純に雑食なのだ。その数ある中に、BL漫画の一冊や二冊あっても何ら不思議ではないというだけの話。
凛央のじっと鋭い目線が、今にも危険なものを発掘しそうな勢いなので、
「そ、それじゃあ、一緒にゲームやろっか! こっちこっち」
もうそれ以上はよせと、唯李は無理やり凛央の手を引いてテレビの前の座布団に座らせ、ゲーム機の電源を入れる。
選ぶゲームは当然かの因縁のマスブラ。悠己の話によると、凛央は自分と一緒に遊びたいから練習した、というがいじらしいではないか。
「これ一つしかないから凛央ちゃんこっちね」
唯李は凛央のすぐ隣に腰掛けると、しれっと使いづらい小型のコントローラーを渡す。
そうは言ってもそれとこれとは話が別。勝負の世界に情けは無用。この時点ですでに戦いは始まっているのだ。
「なんだか緊張するわね……うまくできるかな」
そんな唯李の思惑も知らいでか、凛央はどこかうれしそうに画面を見ながらコントローラーを握る。
唯李は凛央がキャラを選ぶのを待って、後出しで持ちキャラの中から相性の良さそうなキャラを選んだ。
実のところ凛央の実力の程は瑞奈から聞き及んではいるが、こちらもテストほっぽりだして修行した成果がある。
現在すでに瑞奈を軽く超えてしまっているだろう。そのまま凛央も簡単にひねってしまうかもしれないが念の為だ。
そしてバトルスタート。
開始直後、唯李は一度凛央のキャラと距離を取り、無駄に動き回って相手の出方をうかがっていると、
「そうそう、そういえば成戸くんは、いい人よね」
「え? そ、そう?」
「そうよそう」
いきなり悠己の名前が出てきてつい手元の操作が止まる。
急に一体なんなんだ、と思った途端、凛央のキャラが近づいて攻撃を繰り出してきたので、慌ててコントローラーを握り直して対処する。
「一見何も考えてないようで、色々と考えてくれているし」
(これはまさか……相談を聞いてもらっているうちに好きになっちゃったかも的な……?)
なんだかんだで優しいのはそれぐらい知ってるし? と一瞬張り合いかけたが、ここで無駄に悠己アゲをしてさらに凛央からの評価を高めてしまうのもどうかと思った唯李は、
「そ、そうかなぁ~。時々人間みを感じない発言するけどね」
「そんなことないわよ。あれでも彼はとても心配してるのよ、唯李のことを」
「えっ?」
またも手が止まった隙に、凛央のキャラが放った強攻撃が直撃し、唯李のキャラを大きく吹き飛ばす。
思わず唯李は「んなっ!?」とあんぐり口を開けて、きっと一度凛央を睨みつけ、急いで画面に目線を戻す。
「で、でもそれはね……もちろん、私もだけど」
どうやら意味深な話をして気をそらす作戦らしい。意外にせこい手を使う。
しかしそうと分かればもうまともに耳を貸す義理もないと、唯李は話を聞き流すことにしてひたすらゲームに意識を集中させる。
「その、唯李も辛いことがあって、苦しいのはわかるわ。わかるけど……」
「ふぅん、そうなんだ~」
だがその間も唯李のキャラは見る影もなくボコボコにされている。
凛央はチラチラと唯李の方ばかり見ていて、ゲームはどうでもよさそうなのにも関わらずだ。
そして修行の成果むなしく、圧倒的な差をつけられて唯李がKOされかかると、
「ち、ちょっタンマタンマ! さっきからなんかボタンきいてないかも! なんか充電も点滅してるし!」
「だから……ね? 唯李も、もうやめよう? 隣の席キラーなんていうバカなマネは」
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