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インテリ唯李


 その日の夜、唯李の自室。

 ベッドの上でうつ伏せに肘を付きながら、唯李は携帯に保存された写真を何枚か行ったり来たりさせて、一人ニヤニヤとしていた。

 その写真とは、こっそり瑞奈が送ってきた悠己とのツーショット写真だ。


 二人でソファによりそうようにしながら、唯李が悠己の肩に頭を預けている一枚。(実際はギリギリ触れていない)

 眠たげな悠己の寝ぐせ頭を、櫛でとかしている一枚。

 その場では止めに入ったものの、ちょっとこんなの送ってこないでよぉとラインでは返したものの、かなりいい感じに撮れていてこれは瑞奈GJと言わざるを得ない。

 

(これはもう本気で付き合っていると言っても過言ではない……)


 と思っていたのにだ。

 しかしこの状況は一体どういうことか。


(思わぬところに伏兵が……)


 あの二人、どうにも様子がおかしい。二人とは、もちろん悠己と凛央のことだ。

 凛央とは今でこそ仲良しだが、去年隣の席になってすぐは大変だった。

 なぜかいつもピリピリしていて、話しかけてもほとんどリアクションがなくて、かと言って宿題をやっていなかったり少し遅刻でもしようものなら、ブツブツとお小言が始まる。

 

 さしもの唯李も最初はひるんだが、隣の席の相手に嫌われるわけにはいかない。そんな気まずい雰囲気のまま毎日過ごすのは無理。

 いつの間にか備わっていた持ち前の明るさとノリのよさを発揮して、とにかく根気強く話しかけた。そうやって徐々に徐々に心をひらいていく。


 それでも凛央攻略はしばらく難航していたが、突破口を開く糸口はささいなことからだった。

 何かの拍子に肩をもんであげたら、凛央がいきなり顔を赤くしてうろたえたのだ。

 お触りが弱点と判明してからは、それはもう押せ押せである。

 

 とにかくあれやこれやと苦戦の末に、やっと仲良くなったというのに。

 かたや悠己は一週間かそこらのうちにあの調子とは、一体何をしたというのか。


(あの男、実はコミュ力オバケか?)


 その割に、相変わらず他の女子と話したりするような素振りはない。

 まあ裏でコソコソやっている可能性も無きにしもあらずだが、凛央だけは特別なのだ。

 そもそも自分が凛央を呼び寄せてしまったのが発端ではあるのだが、まさかこうなるとは夢にも思っていなかった。

 

(黒髪ロングの清楚系、キレイ系……。もしかしてああいうタイプが好み……?)


 凛央は唯李の友だちの中でも群を抜いて美人と言えよう。

 自分とは全然タイプが違うだけに、単純に比較するのも難しい。

 

(しかも意外にいい感じなんじゃないのあの二人……?)


 今日のゲーセンでの一幕を見てもそうだが、悠己はなぜか妙に凛央を気にかけているフシがある。

 さりげにいつの間にか凛央と下の名前で呼び捨てにしていたり、ふと見ると二人でコソコソやっていたりと、非常に怪しい。

 唯李にしてみたら、凛央は特にこれと言って非の打ち所のないハイスペック美少女であるからして、そんな気遣いなど不要と思えるのだが。


(むしろ唯李ちゃんをもっとかまえよ~~もぉ~~!)


 と言っても凛央のほうから悠己を……というのはちょっと考えられないし、となるとおそらく悠己のほうがちょっかいを出しているに違いない。

 あの男、かわいい子と見るやすぐに目移りするのでは……という疑いが唯李の中でもたげ始めているのだ。


「この、このやろこのやろ!」

 

 携帯の画面に映る悠己の顔を、指先でツンツンツンとつつきまくる。

 唯李がそうやって意味もなく画像ズーム、ズームアウトを繰り返していると、

 

「む~~……」

「どしたの唯李、便秘?」

「ヒィっ!!」


 突然耳元で声がして、びくうっとベッドから跳ね起きる。

 するといつの間にやら忍び寄っていたパジャマ姿の真希が、ニコニコ顔で傍らに立っていた。

 ドアの開いた音も、足音も、気配さえもしなかった。


「出たなアサシン……」

「ふっ、貴様はすでに死んでいる」

「それぜんぜん違うけど」


 警戒する唯李をよそに、真希は勝手にベッドの上に腰掛けて、一見天使のようなぽわぽわスマイルを向けてくる。

 

「なにか悩み事? お姉ちゃんに相談してみなさい」

「んー……相談ていうか、ちょっと髪伸ばそうかな~、なんて」

「絶対似合わないからやめなさい」

「なぜ言い切る」

「私ロング好きじゃないの」

「あんたの好みは聞いてない」


 間近で視線が交錯して、早くもバチバチと火花が散る。

 かと思えば真希は余裕たっぷりににんまりと目を細めて、唯李の髪を軽く手でなでつけてきた。


「むしろ唯李はもっと短いほうがいいんじゃない? ほら、可愛い男の子みたいな」

「気持ち悪い性癖」

「唯李ちゃんちょっとさっきから口悪いかなぁ~」


 シュバッと伸びてきた真希の手が、ぐにぃっとほっぺたをつねりあげてくる。

 結構痛い。いやかなり痛い。

 

「ご、ごめんらはいぃ……」

「でも急にそんなこと言いだすなんて、何かあったのかな~?」

「べ、別に……」

「何かあったな?」


 唯李はふいっと顔をそらすが、真希はわざわざ回り込んで唯李の顔を覗き込んでくる。

 急に鋭くなった瞳はじっと唯李を捕らえて離さず、お前の考えなどすべてお見通しとでも言わんばかりだ。

 いよいよもって観念した唯李は、ぎゅっと目をつむるとがばっと真希の胸元に飛び込んだ。


「おねえちゃぁああん!!」

「おーよしよしどうしたどうした」


 例によって尻を鷲掴みにしてきた手を払いのけて、

  

「とんだ伏兵だよぉ、このままじゃ負けるよぉ……」

「……今度は何と戦ってるの?」

「小悪魔系じゃないかもしれないの」

「は?」

「つまりかっこいい女。賢い。クール。デキる女」

「ふ~ん……?」


 かなり断片的だったが、それだけで真希はなんとなく察したのか、


「ライバルが現れてそれで切羽詰まっていると」

「対抗するためにはこっちもフォームチェンジしないと……」

「知的キャラに? それは無理ね」

「なんで」

「だって無理でしょ」

「なるほど」

 

 無理なもんは無理。納得。終了。

 しかしさすがにそれでは味気ないとでも思ったのか、真希は唯李の目元を指差して言った。


「じゃあとりあえずメガネでもかけてみたら? まずは形だけでも」

「そっか! まずは形からね!」

「伊達メガネあるから貸してあげる。かわいいの」


 一度部屋を出ていった真希は、数分後メガネを手に持って戻ってきた。

 赤いフレームのある丸みを帯びた長方形のレンズで、いわゆる真面目くんメガネではなく少し洒落た風である。

 唯李は嬉々としてメガネを受け取ると、早速目元に当ててみせる。

 

「デュワッ!」

「何そのかけ声」

「えっ、知らないの?」

「知らないわよ何それ変なの。そういうとこよ唯李、それがダメなのよきっと」


 急にダメ出しをされたが、むしろ向こうの方こそ何もわかってないなぁと思う。

 まったくこれだからお姉ちゃんは……とブツブツ言いながらも唯李はメガネを装着する。


「ちょっとガバガバじゃない? これ」

「顔が大きくて悪かったわね」

「どう? いけてる?」

「ん~~~……」

 

 真希は口をへの字にして腕組みをしてしまい、どうも煮え切らないリアクション。

 とりあえず真希を放って、唯李はテーブルの上の手鏡を取って自分の顔を照らす。


「わっ、いい! これ絶対頭いい! 頭よい! 頭ゆいだよ!」

「頭ゆいってすっごい不安になるわね。頭が唯李なんでしょ?」

「インテリ唯李ちゃん爆誕! 見て見て! クイっ、クイっ、メガネクイーっ!」


 唯李はメガネの中央を指で押し上げて、繰り返しメガネクイっをしてみせる。

 真希はしばらくその様子を無言で眺めていたが、急に優しい目になって微笑むと、

 

「唯李が楽しそうで何よりよ」

「ありがとうお姉ちゃん! これで目にもの見せてくれる!」

「うんうん、よかったね。ところで唯李、そろそろテストなんじゃないの? 勉強はいいの? そんなことやってる場合?」

「大丈夫大丈夫、まだあわてるような時間じゃない」


 テストに関して自分には凛央という心強い味方がいるのだ。

 いい感じにテストに出そうなとこノートを作ってあげる、というのでお願いしてある。

 それにメガネ効果によって頭良くなった感すらある。つまり余裕。

  

「キラーン。どう光ってる?」

「光ってる光ってる」


 これは勝つる。

 次の学校が待ち遠しい。

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