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悠己の誘い


 凛央とともに昼食を終えた悠己は、それから予鈴ギリギリに教室に戻ってきた。

 ちょうど唯李の周りからは人がいなくなっていた。悠己が席につくと唯李が一度ちらっと視線をよこしてくるが、すぐに手元の暗記手帳らしきものに目を落とす。


 ふと思えば、今日はなんだかんだで唯李とまともに会話をしていないことに気づく。

 別にこちらが避けているわけではないのだが、向こうがなんとなく避けてくるというか珍しく話しかけてこない。

 それどころか何か話しかけにくい空気を作ってきている感じもするが、用件のあった悠己はそんなことはおかまいなしに声をかける。

 

「ねえ唯李。今週、土日ってどっちかヒマ?」


 唯李はぴくっと肩を揺すると、ゆっくりと悠己の方を振り向いた。


「ヒマ……だったら何?」

「また一緒にどこか出かけようかと思って」


 そう言うと、唯李は二度見するように視線をよこしてきて、


「それって、また瑞奈ちゃんがどうとかって?」

「瑞奈は関係ないよ。俺が唯李と遊びたいなぁって思って」

「ほーん……」


 変な声を出した唯李は、口を縦に開けたまましきりにあごを触りだす。

 また変な発作かな? とその仕草を眺めていると、唯李はごまかすように急に得意のドヤ顔を作った。


「え~あたしとぉ? またデートしたいのかなぁ? どうしたのかなぁ急に~」

「返事はイエスかノーかで簡潔に」

「ちょっとぐらい泳がせろよ」


 どうも唯李の態度がトゲトゲしい。

 まあいつもこんな感じだと言われたらそれもそうかもしれないが、一応思い当たる節を尋ねてみる。

 

「なんか今日機嫌悪そうだね。もしかして昨日のゲームのことまだ根に持ってる?」

「は、はぁゲームぅ? やだもう、そんなワケないじゃな~い。こ、子供じゃあるまいし!」

「じゃあその不機嫌な感じは何?」


 そう返すと、唯李はむっと口を結んで、何やらぼそぼそと口ごもる。


「…………ゲームっていうか、二人して子供扱いしやがってぇ……」

「え、何?」

「ち、違います! 不機嫌とかじゃなくて……そりゃあ、今テストで悠己くんとはVSだから! 唯李凛央チームで2対1でL字取ってボコボコにするから」


 やはりいじめである。

 まるで一人でCPU戦をしているところにペアで乱入してくる反則スレスレのこの行為……いやもはや反則だと思うのだが、これは相当なひねくれ加減。

 まあそれでこそ更生のしがいがあるというものだが。


「そっか、ならしょうがないか……遊ぶのはやめよう」

「あ、でも悠己くんがそこまで言うならしょうがないなぁ~。土曜? 日曜? 何時何時? どこに集合?」

「あれ? 敵なんじゃなかったの? というか凛央と勉強はしないの?」

「ん~……まあ、勉強はいつでもできるし。土日ぐらいはバトル休止でもいいかなって」


 今勉強しなくていつするつもりなんだか。

 唯李はうって変わって声を弾ませ、軽く身を乗り出してくる。

 断られるよりはいいのだが、そう来られると何か企んでいるのではと逆にこっちが引き気味になる。


「う~ん……じゃあとりあえずウチ来て」

「わかった、悠己くんち行けばいいのね」

「朝は眠いから午後からでいいかな」

「えー……むしろ午後から眠くなるし……。いいよ、じゃあ早めに行って午前中は瑞奈ちゃんと遊んでるから」


 色々とふっかけても食らいついてくる。

 暇なのかな? と思ったがやけにノリノリなので水を差すのもどうかと思い、それで話をつける。

 

「それにしても悠己くんから誘ってくるなんて明日はラグナロクかな?」

「テストどころじゃないねそれは」


 本当はこんなことをしている場合ではないのだが……。

 せめてテストが終わってからにすればよかった、と悠己は早くも後悔し始めていた。






「ゆきく~~~ん!」

「おにーちゃ~~ん!」

「ゆ・う・き~~~~!!」

「ラ・ムゥゥゥゥゥゥ!!!」


 激しい超音波攻撃によって目が覚める。

 ぱちりとまぶたを開くと、メガホンを構えた瑞奈がベッドの傍らで仁王立ちをしていた。

 

「やっと起きたなゆきくん! お寝坊さんなんだから!」

「……瑞奈、今日は学校休みだよ。日曜日でしょ」

「今日土曜日だよ! んもう、寝ぼけて! ほらはやくおきておきて! ちゃんゆい来てるよちゃんゆい!」

「チャン・ユイ……?」


 どこぞの怪しい中国人か……? 

 と悠己は寝ぼけ眼のままベッドから体を起こし、瑞奈に手を引かれてリビングへ出ていく。

 するとなるほど見慣れない人影が近づいてきて、悠己の顔を覗き込むようにしてくる。

 

「おっ、起きたか~。まったく、妹に起こされて情けないな~」

「すいません、漢方薬とかそういうのは間に合ってるんで、お帰りください」

「何言ってるのこの人」


「も~なに寝ボケてるの!」と瑞奈が再度メガホンを構えたので、また超音波を食らってはたまらんと耳をふさぐ。

 しかしそれもおかまいなしに瑞奈はめいっぱい背伸びして、無理やり耳にメガホンを近づけてくる。

  

「いつまでもそんな格好してないではやく着替えなさ~い!」

「くすくす、悠己くんパジャマだ~。かわい~」


 左右から二人に挟まれてああだこうだ。

 寝起きにこれはとてもしんどい。


「……チッ、うるさいなぁ」

「いま軽く舌打ちしたよこの人」

「んも~ゆきくん眠いと機嫌悪いんだから」

「これ機嫌悪いとかってレベルじゃなくない? ほぉら悠己くん愛しの彼女ですよ~」

「はあ誰が? 寝言は寝て言いなよ」

「寝ぼけてんのはどっちだオイ」


 すかさず「ちょっと、瑞奈ちゃん見てるよ!」と耳打ちしてくる。

 同時に目の前でふわっと髪が揺れて、かすかに甘い匂いが悠己の鼻をくすぐった。


「ああ、なんだ唯李か。おはよう」

「何で判断した今?」

「おいで、抱っこしてあげる」

「まーだ寝ぼけてやがんな」


 悠己が両手を広げて待ち構えるが、唯李は警戒して一、二歩下がった。

 代わりに一回り小さい影が悠己の胸元に飛び込んできた。


「じゃあ瑞奈がだっこしてもらうー!」


 瑞奈の体がすっぽり収まると、悠己は背中に腕を回して力任せに抱きしめた。

 

「ぐ、ぐぎゃあああああ!!」

「やっぱりそれどう見ても罠でしょ。……ちょっと悠己くん、やめなさいってば! なんで朝から妹にベアハッグかましてるの」


 横入りにしてきた唯李によって獲物を引き剥がされる。

 ふらふらになった瑞奈は唯李に体を支えられると、キラっと目を光らせ素早く身を翻し、


「ゆいー! 好きだー!」


 スキありとばかりに、唯李のお尻にしがみついて頬ずりをかましていく。


「ちょ、ちょっと瑞奈ちゃん! やめなさい!」

「ふう、ノルマ完了」

「誰? 誰にいくらもらってる!?」

 

 唯李が瑞奈のほっぺたをつまんでうにょにょとやる。


(あれ? どうして唯李が……?)

 

 悠己がぼんやりした頭で状況を把握しようとしていると、


「あーあー悠己くん髪ハネてる、すっごい寝癖だよ」 

「直して」

「自分でやれ」


 即突っ返されたが、すかさず瑞奈がハイ、と櫛を持ってきて唯李に手渡す。

 唯李はつい手にしてしまった櫛を持って固まったが、期待たっぷりの瑞奈の視線に追いやられたのか、おそるおそる悠己の髪に櫛を入れてくる。


「んもう悠己くんったらぁ、し、しょうがないんだからぁ」

「いた、いたた! もっと優しく」

「……あまり調子に乗るなよ?」


 そうぼそっと低い声で呟く唯李の裏で、瑞奈が携帯のカメラをこちらに向けていた。

 すぐに唯李も悠己の視線の先を追って、背後の瑞奈に気づく。


「瑞奈ちゃん、まーたそうやって!」

「むふ、いい絵が撮れましたな」

「携帯ちょっと見せなさい!」


 二人がバタバタと追いかけっこをするのを眺めながら、悠己はぼんやりとした頭で思い出す。

 昨晩は瑞奈がやっと寝静まった後、遅くまで勉強していたはずなのだが気づいたら朝だった。


(そうだ、今日は唯李と凛央と……)

 

 例の作戦……というほど大げさなものでもないが、約束をしていたのだった。 

 やっと我に返った悠己は、瑞奈と組み合いをして軽く髪を乱した唯李に向かって、


「ごめんごめん、今日俺が唯李を呼んだんだっけ。ちょっと寝ぼけてて」

「そうだもっとあやまれ。ドラ○もんぽくあやまれ」

「すまんナリ」

「誰だよ」

 

 時刻は十一時前、思ったより時間が押している。

 何やらまだごちゃごちゃと揉めている二人を尻目に、とりあえず悠己は遅めの朝食兼昼食をとることにした。

下にあるボタンを連打すると妹ベアハッグが強化されます。


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[一言] ナリはコ◯助ナリ
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