ガチ勢の人
そして昼休み。
今日は下手に購買など行って、また変なのに絡まれると面倒だと思ったので、朝登校前にコンビニでおにぎりとパンを買ってきた。
悠己が早速カバンからコンビニの袋を取り出そうとすると、隣の唯李の席に一人二人と女子が集まってきて椅子を寄せ合い出した。
すぐに女の子ランチタイムが始まってしまい、早くもぺちゃくちゃとうるさい。
昼休み中隣でずっとこの調子でやられるのは、さしもの悠己も少しばかりしんどい。
やかましさから逃れるように窓のほうへ視線を泳がせる。二階の窓からは、たなびく雲間から燦々と降りしきる陽光が見える。
今日は天気もいいし風もあって涼しいしで、このまま一日教室にすし詰めになっているのももったいないような気がしてきた。
(どうせなら外で食べようかな)
どのみち一階で飲み物を買ってこないといけない。
急にそう思い立った悠己は、昼食の入ったコンビニ袋を携えて席を立った。
自販機で購入した紙パックジュースを袋の中に詰めると、悠己はそのまま外に出て校舎周りをうろつく。
気温はさほどではないとは言え、さすがに日なたは少し暑い。
日陰を探してうろつくが、木陰にあるベンチなどはすでに他の生徒に場所を取られてしまっている。
(みんな考えることは同じか……)
しかし今更教室に戻るに戻れない。
すでに悠己の席は唯李の仲間に侵食されている可能性大。
悠己は安息の地を求めて、校舎の中庭、さらに裏庭の方に入っていく。
砂利道を過ぎて焼却炉、教職員の車が止まっているスペースを通りながら、どこか座れそうな場所を探す。
さすがに昼休みにここまで来るやつはいないだろう、とタカをくくっていたが、裏手の花壇のレンガに仲良く腰掛けるカップルらしき男女を見つけてしまい気まずかったので、さらに奥へ奥へ進んでいく。
そしていよいよ校舎の裏側、よくわからない場所に入り込んでしまって、いい加減引き返そうかと思いながら角を折れると、ふと人の気配がした。
何気なくそちらに視線を向けると、建物と外壁の間の少しくぼんだ謎スペースに一人座り込んでいる女子生徒の姿があった。
「あっ」
と、つい声が出てしまう。
するとぱっと顔を上げた相手も、まさに「あっ」という表情で固まった。
目があった瞬間、何やらどこかで見覚えがあると思ったら、今朝ものすごい睨んできた人によく似ている。
とはいえまさかこんなところにいるはずもない……他人の空似だろうと思い、悠己はあまり見ないようにして会釈をして通り過ぎようとする。
「ちょっと!」
だがすぐに呼び止められ、肩をぐいっとものすごい勢いで持っていかれた。
後ろを振り向かされると、顔を赤くした女生徒がえらい剣幕で睨みつけてくる。
声もここまで似ているとなると、やはりこの方はかの花城凛央本人で間違いなさそうだ。
「いっ、今!」
「いま?」
そこで一旦凛央は歯を食いしばるようにして何やらためらっていたようだったが、やはりキっと鋭い眼光を浴びせてきて、
「うわ~なにこのひと一人で隠れてぼっち飯してるきも~いありえな~い。という目で私のことを見たでしょ!」
「そんな目で見てませんけど?」
「じゃあさっきのヤバイもの見たけど見なかったことにしようみたいな反応は何!?」
「いや俺リアクション薄いんで」
「リアクションが薄いとか濃いとかそういう話じゃない!」
ぼそぼそといつもの調子の悠己とは対照に、凛央は髪を振り乱して食ってかかってくる。
よほどまずいところを見られたのか、異様に取り乱していた。
「……何でこんなところにいるの?」
「そ、そっちこそ何をしているのこんなところで」
「いや、ご飯食べるのにいい場所ないかなって」
「そ、それは……ひ、一人で?」
「分身して見える?」
そう言うと、凛央は安堵したように表情を緩めて、
「な、なあんだ、君も同類じゃないの! そうよね! そうに決まってるわよね! アハ、アハハハハ!」
キワモノキャラを従える悪役女幹部っぽい笑い方をした。
これはこれでちょっと怖い。
「はあ……」
かと思えば肩を落として、急にテンションガタ落ちになる。
そうではないかと思ってはいたが、やはりこの人も大概精神が不安定系の人のようだ。
とりあえず凛央のことはさておき、悠己は改めて周りを見回す。
この場所は陽も当たらず陰になっていて、ときおり通路を吹き抜けるように意外に涼しい風が吹き抜ける。そして何より静かだ。
凛央が座っていた場所は建物のコンクリート部分が突き出しており、ちょうど腰掛けられるようになっている。
小型の手提げバッグと食べかけらしい弁当箱が置いてあり、試しに悠己も座ってみるとなかなかに良い感じだ。
「ちょっと。何を勝手に……誰の許可を得てるわけ?」
腕組みをした凛央が、ムスっとした顔で見下ろしてくる。ぼっち飯にも熾烈な縄張り争いがあるらしい。
とはいえガチ勢の人とやり合う気はサラサラなかったので、「じゃあ……」と立ち去ろうとすると、
「ま、待った! いいわよ、特別に君にもここで食べさせてあげるわ」
「いやぁいいよ、邪魔したら悪いし、なんか怒ってるみたいだし」
「お、怒ってないわよ! 別に……普通よ普通!」
「言い方がもう怒ってる」
そう返すと、凛央はむぐっと口をへの字に結んで、笑おうとして失敗したのか変な顔をした。
これは普通に怖い。
「て、天狗様……?」
「いいから言うとおりにしなさい。タコさんウインナーあげるから」
「やった」
結局悠己は言われるがままにコンクリートのへりに腰を落ち着けた。
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