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遭遇


「あ」

「あ」


 お互いに目を留めて立ち止まる。


「ゆ、悠己くん……?」


 どこかで見覚えがあるな、とは思ったがその声で確信した。唯李だ。

 見慣れた制服姿とは違って完全なる私服だったのもあるが、まさかこんなところで偶然出くわすとは思っていなかった。

 わずかに遅れて悠己が「やあ」と手をあげると、急に唯李の隣を歩いていた女性が唯李の顔に迫りながら、


「おやおやおやぁ~? 知り合い?」

「……く、クラスメイトの」

 

 唯李が苦虫を噛み潰したような顔でそう言うと、彼女は「ははーん」という顔をする。

 そしてちょっと邪魔、と唯李を押しのけて悠己の前に立ちはだかる。


「もしかして君が成戸悠己くん?」

「はあ……」


 見ず知らずの相手に初対面でいきなりフルネームを呼ばれるのはとても不思議な感じだ。

 どう応対すべきか戸惑っていると、

 

「唯李の姉の真希です。はじめまして」


 真希はゆったりとした所作で小さくお辞儀をした。

 肩まで届くふわふわの茶色の髪がふぁさっと揺れて、かすかに香水の甘ったるいような匂いがする。


「はじめまして……」


 悠己は調子を飲まれつつも、なんとなくそれにならって頭を下げる。

 すると顔を上げた真希は、上から下までジロジロと、まるで品定めでもするかのような視線を送ってきた。

 

 これがウワサの姉か、と悠己も負けじと相手のなりをまじまじと観察する。

 なるほど姉妹というだけあって、細かいパーツこそ違えど、唯李とおおもとの顔の作りは似ている。

 ただ全体的に少し肉付きが良い感じで、身長も唯李よりわずかに低い。


 そしてやはりちょっと大人な落ち着いた感じ。

 ぽわぽわとした雰囲気もそうだが、常に口角が上がり気味で、若干目尻も垂れていて、そしてゆったりとした声からしてもとても優しそうな印象を受ける。

 今日も見るからにカルシウム足りてなさそうな唯李とは雲泥の差だ。

 

「会うなら唯李ももっとおしゃれしてくればよかったね~」

「うるさいな」


 唯李がデニムジーンズに白いシャツ、という出で立ちなのに対し、真希は薄い青のワンピース姿。

 足元もスニーカーの一方でヒール、というとても対象的な二人。姉妹と言えどこれでは断然差をつけられている感がある。

 それでなんだかカリカリしているのかな、と思った悠己は、


「昨日の唯李の写真、かわいかったよ」

「えっ……なっ、な、なんでそれ今言うかな!?」

「今日は普通だね」

「ふ、普通で悪い!?」

「普通もいいと思うけど」


 一気にカっと顔を赤くした唯李が掴みかからんばかりの勢いで迫ってきたが、すぐにはっとなって真希を警戒する。

 真希は満面に笑みをたたえながらしきりにうなづいて、唯李へ意味ありげな視線を送っていく。


「へ~へ~……」

「な、何その顔」

「別に~? いつもこんな顔だけど?」

「変な顔」

「後で覚えときなさいよ」

 

 ニコニコと笑いが絶えない人だ。

 唯李のラインを勝手に送ったりもするらしいし、少しお茶目なところがあるのかもしれない。


(仲が良さそうでいいなぁ)

 

 そう思いながら眺めていると、真希が何事もなかったように悠己の顔へ笑顔を向けてきて、


「ねえ成戸くん。あ、悠己くんでいいかな?」

「どっちでも」

「私のことは真希でいいよ。あ、真希お姉ちゃんのほうがいいかな?」


 呼び方はなんでもいいのだが、横からジリジリと唯李が無言で圧を送ってくるのはなんとも。

 しかし真希はそんなものどこ吹く風と、まっすぐ悠己を見て質問を重ねてくる。


「悠己くんは、胸とお尻だったらどっちが好き?」

「はい?」


 突然の謎質問を受けて固まっていると、とうとう我慢の限界に達したらしい唯李が、横から真希の顔ごと押しのけて間に入ってきた。

 

「はいはい、なんでもないからねごめんね~」

「ちょっと唯李! 姉の顔面手でつかんでのけるってどういうこと?」

「それガン○ムファイト中でも同じこと言える?」

「何それ? ……いやあのね、一応性癖確認しておいたほうがいい……」

「だっ、ちょっ……声が大きい!」


 一見綺麗どころの二人が何やらゴタゴタやっているので結構目立つ。

 普段からこんな感じなのかな、と悠己がぼんやり見ていると、にこっと真希が振り返ってきて、


「立ち話も何だし、どこか喫茶店でも入りましょうか」

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん勝手に……」


 今度は真希が唯李の顔をぐい、と押しのけてやりかえした。この姉妹はすぐ手が出てしまうようだ。

「それじゃ行きましょうか」と勝手に話を進めようとした真希が、ずっと悠己の影に隠れてひっついていた瑞奈の姿に気づく。


「あら? そっちの子は……」


 真希が腰をかがめて覗き込むようにすると、何を思ったか瑞奈はぱっと悠己の背後から前に飛び出た。

 そしてきっと上目に真希を睨みつけると、


「わ、わたしは……ゆきくんの彼女です!!」


 ぎゅっと目をつぶって、声を振り絞るようにしてそう叫んだ。

 その一言に、一瞬にしてその場が凍りついた。

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