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小悪魔唯李ちゃん


『自撮りでぇす。キラッ』


 という文言とともに、一緒に添付ファイルが送られてきているようだった。

 開くなり、ぱっと大きく画像が表示される。


「ん?」 


 一瞬誰だ? と思ったがすぐに唯李の顔面アップの写真だと気づく。

 ぐっと口角を上げた唯李が、目尻へ横ピースをしながら、カメラに向かってウインクをしている。

 普段より全体的に顔が白く唇には赤みがさし、まつげがくるっとしていて目がぱっちり黒目も大きい。

 

(あ、かわいい……)

 

 思わずまじまじと見入ってしまう。

 それこそ間近で唯李の顔をジロジロ見るような真似はあんまりしないので、こうしてみると改めて美少女だったんだなあ、と思う。

 男子連中があれこれ騒ぐのもわかる。やはり歯並びがいい。


『どしたの急に?』


 しかし突然写真を送られてもなんと返したらいいかわからないので、そのまま聞き返す。

 すると若干間があった後、


『プレゼントありがとね。なんかちゃんとお礼言ってなかった気がして。これ、じっと見てるとなんだか気持ちが落ち着くね。すごいパワーあるよきっと』 

『それなんだけどごめん、渡すの金運のやつと間違えたみたい』


 それきり唯李の返信が途絶えた。

 これで事務的に用件自体が終わりならそれはそれでいいのだが、画面の向こうでものすごく怒っている可能性もある。

 なので一応伺いを入れる。


『ごめんね、怒ってる?』

『ううん全然? しょうがないよね間違えちゃったなら』

『効いてるなら大丈夫だよね。病は気からって言うしね』


 また返信が来なくなった。

 ちょいちょい返信が途切れるのはやっぱり怒ってるのか。

 しかし「全然?」と余裕たっぷりだったので、単純に忙しいだけなのかもしれない。 

 

「ゆきくんなにしてるんー!!」


 とその時、いきなり背後から瑞奈が体当たり気味に抱きついてきた。

 不意打ちにバランスを崩されて、そのままベッドの上に倒される。


 うつ伏せになった背中に、柔らかい感触と圧迫感が襲ってくる。

 瑞奈が上から覆いかぶさるようにして耳元に顔を近づけてきて、


「んふ、びっくりした?」

「超びっくりした」

「言い方が落ちついてるよ」

「いいから降りて、重い」


 瑞奈がキャッキャキャッキャ言ってしつこくしがみついてくるので、両手を踏ん張って勢いよく体を起こして、無理やり振り落とす。

 ベッドの上に転がった瑞奈は、同じくベッドの上にこぼれ落ちていた悠己の携帯を拾って画面を覗き込んだ。

  

「なに見てたのー?」

「いいから返しなさい」


 と手を伸ばして携帯を取り返そうとすると、


「ゆきくん……」


 突然瑞奈が憐れむような表情を向けてきた。

 急にどうしたんだと不思議に思っていると、瑞奈が画面に写っていた唯李の写真を見せてきて、


「ダメだよ? 彼女できないからってアイドルに走ったら」

「違う違う、それアイドルとかじゃないから」

「うそだぁ、絶対アイドルとかでしょこの子。はっ、さてはゆきくん、かわいい子とあらばついに手当たり次第に見知らぬ他人の画像を……」

「見知らぬ他人でもないって。今ラインしてたから」


 ぽろっとそう言うと、瑞奈が血相を変えて身を乗り出してくる。

 

「えっ、いまこの人とラインしてるの!? うそほんとに!? すごいチャンスじゃん!」

「何のチャンスよ」

「ゆいちゃんっていうのかぁ、かわいいなぁ~~。かわゆ~~」


 またも勝手に人の携帯をいじりだす瑞奈。

 テレビに出ているアイドルを見て「瑞奈のほうがかわいくない?」とか言っちゃう子にしては、これだけ褒めるのは珍しいことのように思う。

 するすると画面をスクロールさせながら、「あ~」とかなんとかため息をつきだして、


「も~だめだよゆきくん、こんなテンション低い感じじゃ。もうちょっとこう、プランクにいかないとダメだよ」

「……ぷらんく?」

「たとえば~……今どんなパンツ履いてるの? とか」

「おっさんか」

「わっ見てすごい、ゆきくんとシンクロしてる! 面白い!」

 

 瑞奈がぱっとメッセージ画面を見せてくる。

『今どんなパンツ履いてるの?』に対し間髪入れず『おっさんか』の返信がついている。


「ってなんで本当に送ってるんだよ!」

「あっ、めずらしくゆきくんがちょっとあわててる」

「返しなさい」

「やだやだもうちょっと!」


 ごねる瑞奈から力づくで携帯を奪い返す。

 これ以上好き勝手やられたらたまったものではない。

 すぐに訂正を入れようとすると、続けて唯李からメッセージが来た。

 

『ヤダーもう! 悠己くんのえっち!』 


(何だこのキャラ……)


 おっさんか、からの突然の変わり身。あの唯李に限ってこんなこと言いそうにない。

 顔が見えればバレバレなのですぐわかるのだが、文面だけだとなんとも。

 またなにか企んでるな……と疑いつつも、こちらもメッセージを送信。


『今の間違いだから』

『もう悠己くんったら……。どんなの想像しちゃってるのかなぁ?』

『リボン付きの白いパンツ?』


 そう送るとまたしても返信が途切れた。

 いい加減もう終わりかなと思って携帯をしまおうとすると、瑞奈が横から覗き込んできて、


「ゆきくんダメダメだよそんなふうにしたら! 貸して貸して!」

「あっ、ちょっと!」


 悠己の手からぱっと携帯をかっさらうと、器用に両手の指を使って凄まじい速さで文字を入力していく。相変わらずの手さばき。

 謎の特技に思わず目を奪われていると、ガンガンメッセージが送られてしまっていることに気づき、慌てて携帯を取り返す。


「なんてことしてくれてんだよもう」

「ねえねえ、なんて返ってきた?」

「ダーメ、もういいから」


 瑞奈がわざと頬同士がくっつきそうなぐらいに近づいてきて画面を覗き込んでくるので、ぐっと顔面ごと押しのける。

 案の定沈黙してしまっている唯李に対し、悠己はまたも訂正のメッセージを作成した。






 一方唯李の部屋のベッドの上では、一人携帯の画面を食い入るように見つめる唯李の姿があった。


 昨晩は失敗したが、今日は最初から真希に手伝ってもらってかなーりいい感じにメイクできた。

 完成するなり真希が「ヤバイ唯李ちゃん激カワ! 超カワ!」とはしゃぎだしてうるさかったが、こんなにガッツリやったのは初めてだったので正直自分でもビビった。

 

 その後真希によって携帯で写真を激写されまくり、「もう写真送っちゃえ送っちゃえ!」とさんざん褒められ乗せられ、フォーーっと舞い上がってハイテンションで悠己に写真を送りつけた。

 だが『どしたの急に?』(いきなり何やってんだこいつ……)と言わんばかりのローテンションで普通に返されて、一気に真顔になる。

 取り繕うようにプレゼントの話題に切り替えたが、さらにそこでも渡された石は間違いだったというとんでもないトラップが発覚した。

 

(まあ金運でちょうどよかったし? お金欲しいし? ストレスとかないし、そもそも別に病んでるわけじゃないし?)


 ギリギリギリ……と爪が食い込む勢いで石(金運)を握り込んでいく。

   

(待てここはこらえろ……今のあたしは小悪魔唯李ちゃん……エロカワ小悪魔……)


 だから唐突な『今どんなパンツ履いてるの?』などという完全になめくさったエロネタも余裕でかわし、逆に弄んでやらなければならない。


『リボン付きの白いパンツ?』


 だがこの一言で「ブフォッ!」と唯李は小悪魔にあるまじき吹き出し方をしてしまう。

 やはりガッツリ記憶に残るぐらいに見られて覚えられていたのだと思うと、かぁーっと体の芯から熱くなってくる。

 あんな可愛らしいパンツで小悪魔なぞちゃんちゃらおかしいのだ。

 やはり自分には小悪魔は無謀だった……と肩を落としかけると、


『写真めっちゃかわいい!』

『超かわいい!』

『ちゅっちゅ』

『ゆい好き!』

『すきすき!』


 怒涛の勢いでメッセージが連投されていく。

 文字が目に飛び込むやいなや、唯李は目を見開いてまたも「ブフッ!!」と鼻から口から色々と吹き出した。

 慌ててティッシュでぬぐいながら、

 

(ついに獲った! 何だかんだで男は顔か!)

 

 ここに来て時間差でキメ顔写メの効果が。

 一気にボルテージの上がった唯李は、勢いに任せて文字を入力しろくに変換もせず送信。

 

『あたしもすき! ゆうきくんすき!』


(はい両想い! カップル成立!)


 やった。やってしまった。

 本当なら慎重に焦らして確実な言質を取るべき場面だったが、相手のノリに合わせてつい勢い余ってやってしまった。

 しかし悠己のほうが早かったのは間違いないのだ。これは完全に勝利。

 すかさずうおっしゃあ! と唯李がガッツポーズをとろうとしたその矢先、すぐさま向こうからも返信が来た。

 

『ごめん今の勝手に妹が送った』


 ブシューッ! とみたび盛大に顔面中の穴から色々吹き出す。

 耳からもなんか出た気がする。


(ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!)


 パニックになった唯李は反射的に携帯を叩き割ろうかと思ったが、そんなことをしても何の意味もない。

 それでも混乱する頭でなんとか起死回生の案をひらめくと、ガックガクの指先で入力する。


『こっちもおねえちゃんがかってに送った!』

 

 どういう状況だよと思わず頭の中で突っ込んだが、とっさに思いついたのがこれしかない。

 向こうがどう出るか、画面を食い入るように見つめていると、


『お互い大変だね』

『そうね! 大変ね!』


(危ねーっ、セーフセーフ!!)


 なんとかごまかせた。

 ごまかせた……。


 全身から力の抜けた唯李は、ガクッと首をうなだれた。

 つい手を滑らせて携帯を床に落とすと、そのすぐそばでキラっと何かが鈍く光る。

 よくよく見ればカーペットの縁に、百円玉が落ちていた。


「やったぁお金だぁ。さっそくご利益……ウフフフぅ……」


 腕を伸ばして百円を拾い上げた唯李は、それはそれはうれしそうに笑った。

唯李がんば! 唯李ちゃんついてる! と思った方は、この下のポイント評価から評価をお願いします!


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― 新着の感想 ―
家庭環境が似ているし二人もいい感じに似た者同士なんだから早くくっ付けばいいのになんて思いますが、しばらくはこんな夫婦漫才見ていたいなんて思ってしまうよ~
[良い点] 地獄絵図 笑 ( ひらがな必須面倒 )
[一言] プライバシーのかけらもないクソガキやな。可愛いから許されるけど
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