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新しい彼ピ

 遊園地デートの日がやってきた。

 悠己は徒歩で駅へ向かい、一人電車に乗り込む。


 目的地はわりと近場だ。集合も昼過ぎとやや遅め。

 そのあたりは翼の彼女二人(仮)が決めたそうだ。乗り物よりイルミネーションが目当てらしい。


 遊園地の最寄り駅で唯李、慶太郎と落ち合うことになっている。よくよく思うと謎のメンツだ。

 電車を降りて改札を抜けると、蛍光色の上着を羽織った変な人物が近づいてきた。行く手をさえぎるように謎のステップを踏んだあと、奇声を上げながら人の肩をバシバシと叩いてくる。


「イエ~! ウェイウェ~イ!」 

「えっ、ちょ……やめてください」

「遊園地ウェーイ!」

「駅員さん呼びますよ」

「かたくなに他人のふりすんなよ」


 慶太郎は例によって派手派手な格好をしていた。正直知り合いだと思われたくない。


「いや~待った待った。待ちくたびれちゃったよ」


 慶太郎の背後から唯李が顔をのぞかせた。どうやらふたりとも先に着いていたらしい。

 

「あ、今日は遅刻してない」

「そうやって遅刻キャラにするのやめてくれる? いうてあたしそんな遅刻したことあるかな?」

「してるけど?」

「すいません」


 謝罪が早い。最初から言わなければいいのに。

 

「おいおい陰気臭いのやめろよ、アゲアゲで行こうぜウェイウェイウェ~イ!」


 ウェイ男がやかましく仲裁に入ってくる。

 唯李は後ずさりつつ、悠己に向かって顔をしかめた。


「なんていうか中ボスの手下感あるね」

「いや中ボスの手下に殴られてやられるやつでしょ」

「なんだよ二人ともノリ悪ぃな~? ウェイウェイウェ~イ」

「悠己くんちょっとウェイ語翻訳お願い」

「今夜のおかずはハンバーグ、だって」

「そりゃノリノリにもなるわな」


 頷く唯李をしりめに、慶太郎が大げさな身振りで声を張り上げる。


「オイオイ、二人していじるのやめてくれYO!」

「なんか慶太のキャラ見失ってるね」

「いやほら、小牧にチャラい感じでって言われたんだよ……こんなんで合ってるよな?」

「真面目か」

 

 やるだけやってすぐにおとなしくなった。

 何やらここにきて緊張しているらしい。



 駅前からは専用のバスに乗った。

 その間も翼からしつこいぐらいこまめな連絡がとどく。向こうはもう到着しているらしい。

 バスを降りた先、遊園地の入り口付近で合流する。


 待ち構えていたのは翼、くるみ、そしてマミとミクの二人。

 翼は悠己が姿を現すと、救いを得たとばかりに笑顔で手を振ってきた。どうやらまた険悪な雰囲気だったようだ。

 しかし唯李の姿を見つけるなり、翼はうげっと表情を曇らせた。


「あれっ、だからなんでまた唯李ちゃんがいるんだ!」

「ちょまたかよ! ちょっとくるみん!」 


 このリアクションからすると、くるみは唯李が来ることを話していないようだった。 唯李に詰め寄られたくるみは、「まあまあ落ち着いて落ち着いて」と冷静になだめる。


「はい、それではここで発表があります」


 くるみは慇懃にそう言うと、前に一歩出て一同を見渡す。

 そして素早く動くと、悠己たちの後ろに控えていた慶太郎の手を取って、前に引っ張り出した。くるみは慶太郎の腕を抱きしめるようにしながら、


「こちらアタシの新しい彼ピでぇす! それで成戸くんは唯李と付き合い出しましたのでヨロシク~!」


 満面の笑みを浮かべて宣言する。

「は?」という沈黙が場を流れた。隣の唯李も目をパチクリさせて固まっている。

 慶太郎のくだりは予定通りだが、悠己と唯李が付き合い出した、という設定は悠己も聞いてない。


 案の定翼の幼馴染二人も不思議そうに顔を見合わせている。

 そんな中、一人取り乱しているのが翼だ。「……え? え?」とうろたえながら目を見開いているところに、慶太郎がノリノリであいさつをかましていく。


「お兄さんちーっす! 速見慶太郎でーす! 慶太って呼んでくれてもいいっすよ!」

「あ、あはは……ど、どうも……」


 翼はなんとか愛想笑いを返していくが、見るからに頬がひきつっている。

 あいさつもそこそこにごまかし、悠己のそばにやってきて耳打ちしてくる。


「ちょ、ちょっと、だ、誰なんだい彼は?」

「俺と同じくただのクラスメイトですよ」

「い、いや待ってくれ聞いてないぞ、どういうことなんだい? 第一くるみは成戸くんラブじゃないのか?」

「ラブやめてもらっていいですか」


 ややこしくなる前に経緯をすべて白状してしまうか。

 しかし今はくるみが余計なことは言うなよと、近くで目を光らせている。唯李からもまたラブコメクラッシャー扱いされそうだ。

 微妙な空気を感じ取ったのか、慶太郎もこっそり悠己に尋ねてきた。

 

「え、ちょっと待って? オレってそんなにダメ?」

「まあ見た目とノリがちょっとね」

「いやだから小牧がチャラい感じでって……おい、無言で肩に手を置くなよ」

「クリスマスパーティ待ってるよ」

「今誘うなよ」


 慶太郎はめげずに女子二人にもあいさつ回りに行く。翼はその様子を観察しながら渋い顔をする。 


「しかし全然タイプが違うじゃないか、いかにもスモーク貼ったワゴンから出てきそうな……」


 そんなことはない。チャリであっちこっち行くやつ。 


「ああ見えてかわいそうな人なので。彼の妹いわくすべてが雰囲気の男らしいですよ」

「それはずいぶんひどいことを言うね……彼も苦労しているのかな」


 小夜の暴言のおかげか、いくらか翼の同情を引いたようだ。慶太郎は威勢よく女子二人に話しかけているが、一歩引かれている。


「やっぱダメですかね彼は」

「いや、本当にくるみが選んだのなら、僕は何も言うことはないけども……」


 さっきは明らかに嫌そうだったが、黙って受け入れるつもりらしい。ドッキリ企画は「翼は文句を言わずに受け入れる」という結果になった。

 悠己たちが見守る先で、見かねたくるみが強引に慶太郎の袖を引く。


「ちょっと、もういいから。ていうかなんなのその服、ださっ、だっさ!」

「な、なんだよ、別にダサくないだろ」

「もうそれスタッフじゃん。遊園地のスタッフが上に着るやつじゃん。一緒に歩くのキツいわ、これアタシが罰ゲームみたいじゃん」


 付き合いたてとは思えない容赦ない物言い。早くもボロが出そうになっていた。

 翼も難しそうな顔で腕組みを始めてしまう。


「本当に仲もよさげだしなぁ……」


 これはガチの節穴か。しかし一周回って仲よさげに見えなくもない。

 翼はひとりで何事かつぶやいては頷いていたが、急に悠己を向き直ってきた。


「それにしても成戸くん、君こそくるみというものがありながら唯李ちゃんに手を出すとは……!」

「いやいや、違いますって。だからまたくるみの狂言ですよ」

「怪しいとは思ってたんだ! この前だって二人で一緒に遊んで……」

「いやそこは疑わねえのかよ」


 思わず突っ込みをいれてしまう。

 これまでは頑なにくるみの言葉を信じなかったくせに急にこれだ。ただ前回、長々と唯李と一緒にいたところを見られていたのも事実。

 翼と問答をしていると、すかさずくるみが割って入ってくる。余計な話をされたくないらしい。


「っていうわけでね、これで丸く収まってるの。兄貴も何も問題ないでしょ?」

「うんまあ……くるみがそう言うのなら」

「やっぱ陰気くさくて面白くない人より、明るくてノリのいい人がいいよね!」

「たしかに! 言われてみると成戸くんも鈍感でいまいち冴えないし、くるみの言うとおりだな!」

「覚えとけよ貴様ら」


 なんとかごまかしたいくるみの思惑はわかるが、ここで必要以上に人をディスる必要があるのかと。

 突っ込む悠己をガン無視し、翼は改めてくるみの顔を見つめる。 


「なにはともあれくるみ……今度こそおめでとう」

「……ありがとう」


 あくまで真面目な翼に対し、くるみは含みのある言い方をする。

 言わされた感……言わざるを得なかった感がすごいが、ここはこらえたらしい。




 話が落ち着いたところで、ようやく遊園地に入場する運びとなる。

 入口の前で、悠己は翼から前売りの入場券を渡された。偶然チケットが余ってて……という誘い文句だったが、ガッツリ買っているっぽい。


 当然、予定ではいるはずのない唯李と慶太郎のチケットはない。

 慶太郎がチケット売り場へ向かう一方、唯李がへこへこしながら翼にすり寄っていく。


「やーすいませんねぇ今日は。あたしのぶんも出していだだけるということで」

「え? なんで僕が唯李ちゃんのぶんを?」

「くるみーん!」


 またもくるみ召喚。くるみは「あ、ごめん忘れてたわ」と揉めていたが、結局翼が払ってくれることになった。  


「あぶねぇ、一人だけ追い返されるとこだったぜ……」


 無事入場した先で、唯李が額を拭う。

 いきなりハブられそうになるラブコメ神。最先が怪しい。


「遊園地とかマジ久しぶりかもだわ~。小学校の遠足ぶりか?」


 一足遅れてきた慶太郎が、園内を見渡しながら言う。いきなり陽キャラにあるまじき発言。

 このままだとヤバイと思ったのか、くるみがまたも強引に慶太郎の腕を取る。


「うふふ、じゃあ行こっか、慶太郎くん。んじゃそっちはそっちでやってもらって」

 

ここでも強引な提案。

 しかし意外にもマミとミクが「みんなでぞろぞろしても動きにくいしね」と同調したので、二組に分かれることに。あっちはあっちで何か思惑があるのだろう。翼グループ三人と悠己グループ四人に分かれた。


 翼が二人に連行される形で園内に消えていく。くるみはその後姿を見送りながら、難しい顔をして唸る。


「ダメだ、速見をもってしても全然こたえてないあの二人。そんで兄貴も」


 くるみとしてはもっと荒れると思っていたようだが、案外素直に受け入れられてしまった。納得がいかなそうなくるみの顔に、唯李が何の気なしに言う。


「翼さんはもうさ、くるみんのわがままにも慣れっこなんじゃない?」

「え? わがままっていうかアタシそんな言ってないでしょ」

「だいぶ言ってるよね。ていうかわがまましか言ってない気がする」


 ねえ? と唯李が悠己に同意を求めてくる。

 翼が絡むと急にくるみの知能指数が下がるのはもはや疑いのないところだ。

  

「お兄ちゃんの前だと頭コマキンになるらしいよ」

「あ~コマ金ね。そりゃ翼さんも大変だわ~」


 くるみはうんうん頷く唯李の頭をひっぱたくと、ちょっと耳貸せと悠己に手招きしてくる。

 背丈にあわせて軽く身をかがめると、くるみは手で口元を隠しながら、 


「じゃ、アタシらはちょっと兄貴たちのこと観察してくるからさ。そっちは好きにやりなよ」


 そう言って悠己の背中を軽く平手打ち。

 続けて「ほら、いくよ蛍光太郎!」とパンフレットを眺めている慶太郎の背中にグーパンをする。


 身を翻したくるみは、去り際意味深に笑いながらウインクをしてきた。本人はかわいいつもりなのだろうが、ひたすら不気味だ。

 慶太郎も「決めろよ」と言わんばかりに人の顔を指さして、くるみとともに去っていった。どうやらそのあたりも、二人で結託しているらしい。


←タメ→+P 

ラブコメクラッシャー不発

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがたき幸せ [一言] 5巻待ち遠しい
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