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ラブコメピンポン

 翼たちはゲーセンのほうに行ったはず、という唯李の意見を受けて、悠己たちは併設してある大型ゲームセンターへ向かった。とはいえ唯李もボウリングに夢中だったので、それを見ていたとは思えない。おそらく自分が行きたいだけだろう。


 いかにもいそうなUFOキャッチャーのコーナーなどを見て回るが、翼たちの姿は見当たらなかった。

 唯李は熱心にあたりを見回しながら、ゲームセンター内を徘徊する。

 どうやら翼たちではなく、別のものを探しているようだ。悠己も仕方なくそれについていく。

 やがてアーケードゲームの並ぶ一角にやってくると、唯李は足を止めた。


「ボウリングはまぁちょっとアレだったけど、こっちのほうなら勝てるね間違いなく」


 そう言ってドヤ顔。

 やはり翼たちではなく、自分が勝てそうなゲームを探していたようだ。唯李は激しい音を発するゲームの筐体を指さしながら、 


「ほらあれとか、あのワリカーなら負けないガチで」

「あの子供がやってるやつ?」

「それが何か?」 

「じゃやってくれば?」というと「そこは空気読んでるから」という。

 さすがに小さな子どもたちの中に乱入するような真似はしないらしい。というか普通に負けたりしそう。 


「唯李ってなんだかんだで得意なものあんまりないよね。ゲームも得意なんだかよくわかんないし」

「息を吐くように煽るぅ」

「あ、ごめん。客観的な事実を言っただけのつもりなんだけど」

「謝ると見せかけて煽るぅ」


 口では大きいことを言うが、だいたい口だけ。

 悠己の知るかぎりでは、料理は得意なのにそこまでドヤってこないのが不思議だ。

 料理はやらされる、と言っていた気がするので、本人的には不本意なスキルなのかもしれない。

 唯李はやりもしないのにゲームのボタンをバシバシ叩いては通りすぎる。または「あ~これ懐かしいなぁ~」と言いながら立ち止まってみせるが、それだけ。


「何? ゲームやりたいの?」

「いや別にぃ?」


 通ぶっているくせになんだかよくわからない。おそらくやると腕前がバレるからとかそんなところだろう。

 ボウリングがボロクソだったので、ちょっとひねくれているのかもしれない。そのへんはめんどくさいところが少し出ている。

 唯李について店内をあてどなくうろつき、大型ゲーム筐体の並ぶフロアにやってくる。目立つところにエアホッケーの筐体がでん、と構えていた。

 ちょうど人もおらず、ここは一つご機嫌伺いをしてみるかと思い、


「唯李エアホッケーあるよほら」

「う~ん……まあエアホッケーはいいわ。キンキンうるさいし」 


 乗ってくるかと思いきや、いきなりディスりだした。おそらくやる前から負けが頭をよぎったのだろう。悠己からしても勝ってしまうビジョンしか見えない。


「じゃあほら、接待してあげるから」

「それ言われてやると思う? ガチで勝たないと意味がないわけ」


 先ほどハンデハンデ言っていた人はどこに行ったのか。

 唯李はふいっと踵を返す。が、すぐに足を止めて驚きの声を上げた。


「あっ! ……おいおい唯李にゃん得意なのあるや~ん」

「どれ? ワニワニパニック玉入れ?」

「ちげえし」


 唯李が奥を指さす。何かと思えば、網で仕切られた端のほうの区画の中に、卓球台が数台並んでいる。 


「得意って……卓球が?」

「そうそう、あたし中学まで卓球部だったから」

「えっ、マジで……?」

「なんでドン引きだよ」


 またそういうネタかと思ったらそうではないらしい。初耳も初耳だ。


「それ本当? 唯李のほうこそ今まで卓球のテの字もなかったけど」

「卓球のどこにテの字? どうせテーブルテニスとか言うんでしょはいはい」

「せめてテニス部だったら、ああそうかって感じなんだけど」

「卓球部ディスりすぎだろ。そういう反応されると思ったから言わなかったのよ」

「それで今はピンポンダッシュ部?」

「あーはいはいそうね。実は高校でも体験入部だけはしたんだけどね、中学の時とはちょっと方向性が違ってやめたっていうか」

「結構ガチだったからついていけなかったとか?」

「まあまあ、いろいろとね」


 そのあたりのことはあまり語りたくないのか、適当に濁された。しかし改めて言われてみると、テニス部というよりかは卓球部っぽい気がしないでもない。

 唯李はこれまでずっと様子見だったが、「当然やるよね?」と言い出し、喜び勇んで受付のほうに直行する。

 一緒に手続きをしてラケットとボール一式を手に卓球台へ。唯李はラケットを手に取るなり、顔の前にかざして唸りだした。


「んー、このボロラケットじゃあたしのプレイに耐えられないかも。このペンドラゴン唯李の絶技に」

「弘法筆を選ばずじゃなくて?」

「んーちょっと何言ってるかわかんない」


 ちょっと頭がよくないらしい。

 唯李はこちらにボールを渡してくると、台の反対側に立ってラケットを構える。


「そっちサーブでいいよ。もうどっからでも、好きなようにかかってきなさい」


 唯李は自信満々の口ぶりで、軽く素振りをしてみせる。

 ラケットを構える唯李というのも、新鮮というか変な感覚だ。正直あまり似合わない、と思ったがそれは言わない。

 対するこちらは中学のときに体育の授業で二、三回やった程度だ。それもほとんど遊んでいたようなものでうろ覚え。向こうは経験者というので、胸を借りるつもりでいいだろう。

 悠己は宙に球を放ると、ラケットを振りかぶって相手のコートめがけて打ち込んだ。

 カキっと小気味いい音がして、ボールが卓上を跳ねていく。唯李は微動だにせずそれを見送った。 


「やった」

「いやちょっと待て」


 いきなり待ったをかけてきた唯李が、わざわざ台を回り込んで早足に近づいてくる。


「ルール無視か。なんでダイレクトにサーブ打ち込んでくんだよ、テニスじゃねえんだよ。もうビックリだわ、あまりにビックリして動けなかったわ」

「あ、こっち側でワンバウンドさせるんだっけ? なんか変だとは思ったんだよね」

「そのわりにだいぶフルパワーだったよね? ていうかわざとやってるでしょ?」

「いやどこからでも好きなようにかかってこいって言うから」


 半分はわざとだが半分は本気だ。そういう前フリかと思ったのだ。

 球を拾った唯李は、「もういいわあたしからサーブね?」と言って再び対面に戻った。球を手のひらの上に載せ、ラケットを構える。見た目はかなりそれっぽい。

 一呼吸置くようにタメを作ったあと、唯李は球をトスしてラケットを振るった。

 向こう側のネットの手前でボールが一度跳ねる。速い。悠己はラケットを握る手に力を込めて身構えるが、ボールはそのままネットに引っかかった。


「え? なにやってるの……?」

「ち、ちょっと久しぶりで手元がね、はは……。ねえねえやめて? そのドン引きするの」

「長い長い前フリだったね」

「い、いや嘘じゃないからね!? マジでほんとに卓球部だったから!」


 ちょっともう一回やらせてお願いお願い! と必死なので、もう一度唯李のサーブからスタート。唯李はラバーの表面を撫でてしきりに首をひねりながら、ブツブツと独り言を繰り返す。


 非常に怪しい雲行きではあったが、次に唯李が放ったサーブはしっかりネットを越えて飛んできた。弾道は低い上に速い。

 なんとかラケットで触れるが、球は弾かれたようにあさっての方角へ飛んでいった。

 唯李を見ると、にやぁ~と顔が歪んでいく。うれしそう。


「なに今の?」

「まあそうなるよね、回転かかってるから素人には返せないんだよね」

「うわ素人相手に回転とか引くわー」

「なんでそういうこと言う?」


 とはいえ今のサーブは本物っぽい。まぐれで打てる代物ではなさそうだ。


「でもこれで二対一か……まだ俺が勝ってるね」

「いやなにをしれっと最初のやつも得点に入れてるわけ? あれ反則だからね」


 次は悠己の番、ということでサーブに入る。さすがに二回やったらキレるだろうと思い、無難に山なりのボールでサーブを出す。

 するといきなりぐわっと前に身を乗り出した唯李が、ボールを卓に叩きつけるように激しく打ち付けてきた。こちらはもちろん返すどころか、球に触れることすらできない。

 唯李はその場でくるくると小躍りを始める。


「イエ~イイエーイ! ナーイススマッシュゆ・い・にゃん!」

「え、ちょっとやめてそういうの」

「だってそっちも手加減してくれなかったよね~?」


 やはり先ほどのボウリングを根に持っていた。とはいえ対人スポーツでガチってくるのとは、少しわけが違うような気もする。

 次のサーブは同じ手を食わないよう、卓の奥のほうを狙って強めに打つ。

 それでも唯李はすばやく回り込むと、再度容赦なく強烈な打球を放ってきた。が、今度は球は卓に乗らずに落ちた。アウト。


「え? 今普通に点取ったけど。普通に」

「普通にって言うな! ま、まあ1点ぐらいあるでしょ、ブランクとかもあるし。ラケットもあれだし」


 言い訳は一流。

 打たせて取るは有効かもしれない。もう一度同じようにサーブを打とうとすると、「次あたしの番だから! サーブ!」と言って球を要求してくる。経験者のくせに余裕が感じられない。

 そしてたっぷり時間をかけてからの、唯李のサーブ。


 一球目は回転のかかった短いサーブ。これはすくえない。気持ち前のめりでいると、次は速くて長いサーブを打ってきた。これも対応できない。立て続けに二本取られる。

 球を拾って戻ると、唯李はふんぞり返って腕組みをしていた。ツヤッツヤのこの表情。


「むっふっふっふ……どう? あたしの実力のほどは」

「やーかなわないなー。唯李はすごいなー」

「でしょ~? なんか棒読み臭いけど。さっきの発言撤回しなさい撤回」

「じゃ、おつかれでした」

「いやいやいや何終わりにしようとしてるわけ? ダメだよもっとあたしが俺つえーするの!」


 まだまだ足りないらしい。人のことを雑魚専呼ばわりしてきたのを完全に忘れている。 


「じゃあハンデくださいハンデ」

「ん~ハンデ~? しょうがないなぁ~どんなハンデほしいのかな? 言ってみ?」

「俺が一本取ったら15点ね」

「いや15点とかないから。15ってまたそれテニスのやつでしょ」

「テニスサーブ解禁は?」

「解禁っていうかそういうのないから。あれただの空中からボール叩きつけるやつじゃん」

「なら俺はボレーありね」

「だからテニスやめろっつってんの」

「じゃあサーブ手で投げていい?」

「ルールの中で遊べルールの中で! 斬新な案出しすぎでしょ」


 全却下された。こうなると単純に点数を割り増しするだとか、それぐらいしかない。

 結局唯李が十本取る間に悠己が三本取れれば勝ち、という暫定ルールに変更。これまでの点数をリセットして、ゼロから仕切り直す。


唯李は元卓球部? って一番最初の頃のメモに書いてあったよ後付とかではなく

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― 新着の感想 ―
[一言] あー、面白かった。この二人最高!
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