ラブコメランチ
そして次の休日。
どちらが真の勘違い野郎なのかをはっきりさせるため、悠己は翼の提案通り翼たちのお出かけに同行することとなった。
集合場所は電車で五駅ほど行った先の駅前。この近辺ではいつもの最寄り駅と同じぐらい栄えているが、たいていは近場で事足りるので、ほとんど来ることはない。
電車を降りて改札を抜ける。天気は晴天ということもあり、お昼前の駅周辺は人で混雑していた。
『ついた?』『東口の喫茶店のとこにいるから』と翼からこまめにラインが来ていたこともあり、スムーズに落ち合うことに成功。
翼がこちらに向かって手を振る横で、二人の女子とくるみの姿もある。二人ともはしゃいだ様子で、例によってくるみがかわいがりを受けていた。
あいさつもそこそこに、翼が改めて二人を紹介する。
「ええと、そっちの髪の長いほうがマミで、短いほうがミク」
「よろしくね~」と笑顔を向けてくる女の子たち。非常に明るくノリがよい。
ただ似たような名前で紹介されると、五分後には判別がつかなくなりそうだ。
その脇でくるみは少し距離をとって、一人ぶすっとしている。一言も発しない。それを気にしているのか、翼は若干苦笑いをしながら、
「さて、それじゃ行こうか……」
「すいません、遅れました!」
とそのとき一同の前に影が滑り込んできた。
「あ、どうもどうも~! ゆいでーす」
誰かと思えば唯李だった。ヘコヘコと頭を下げながら、一同に加わろうとする。
翼の連れの女の子二人は、まったく見知らぬ謎人物の登場にぽかんとしている。
その当人はそんな視線もお構いなしに、「あ、どもども! どうも~!」と強引に入ってくる。
「……どうして唯李ちゃんがいるんだい?」
翼が悠己に耳打ちしてくるが、その疑問は悠己も同じだ。次の休みに翼に誘われた、という話だけはしていたが、具体的な集合場所や日時は唯李には伝えていない。悠己も唯李は来ないものと思っていた。
ここは一度本人に確認をとってみる。
「あのすいません、他のグループと間違えてません?」
「いや間違えてませんけど? 誰とどう間違えるのよ」
「なんでいるの?」
「え? あたしはくるみんに誘われたんだけど」
どういうつもりかくるみが勝手に誘ったらしい。
しかし当のくるみは不機嫌そうに黙っているばかりで何も説明がないので、なにこいつ感がさらに強まるばかりだ。この不純物感が拭いきれないのはいかんともしがたい。唯李もその雰囲気を感じ取ったのか、小声で耳打ちしてくる。
「ねえ、あたしに対してなにあいつみたいな空気感じるんだけど」
「大丈夫、唯李はここにいてもいいんだよ」
「悠己くん……」
「たぶん」
「たぶんかー」
それでも唯李の登場に、ほっとしている自分がいることに気づく。
正直気乗りのしなかったこのよくわからない集まりも、唯李がいるだけでガラリと印象が変わった。なんだか面白くなりそうな予感がした。
「まあこのアウェイ感も、タコメイドやったあとは余裕だよね」
本人はわりと余裕そうだ。悠己は困惑している翼に告げる。
「くるみが唯李を誘ったそうですが」
「そ、そうなの? まあでも、追い返すのもかわいそうだし……」
翼がちらりとくるみの様子をうかがう。
やけにくるみが不機嫌なので、気を遣っている……というかビビっているっぽい。
さっそく唯李がちょっかいをかけにいって、いくぶんくるみの機嫌が直ったようなので、翼もならばそれでよしというところだろうか。
「じゃあ行こうか」と、今度こそ翼が先陣を切って歩き出す。最初はみんなでランチをするという話だ。悠己は翼のあとを追って隣につく。
「今日は車じゃないんですね」
「車は今日親が使ってるから」
「なんだ親の車か」
「その隙あらば煽るのやめてもらっていいかい?」
翼はそう言って悠己の顔を見るが、すぐに微笑を浮かべる。
「まあ実を言うと、案外このやりとりも気に入ってるよ」
なぜこれで好感度が上がるのか理解に苦しむ。これもいわゆるお兄ちゃん属性がなせる技なのか。
どこで食事をするのかと思いきや、向かったのは駅近くのファミリーレストランだった。
ちょうどお昼時で店内はやたら混雑していて、入店するやいなや待たされる羽目となる。
「だいたいデートでファミレスとか……そういうとこなのよねー」
「いいじゃないの。ていうか別にデートじゃないでしょ」
入口近くのソファに座っていると、隣からくるみと唯李の会話が聞こえてくる。くるみはやはり虫の居所が悪い様子。一方女性二人はぺちゃくちゃとおしゃべりをしていて、さほど気にかけていないようだ。
しばらくして翼がウェイトレスに名前を呼ばれる。六人一緒ではなく席が別々なら早く案内できる、とのこと。
少し相談した末、結局三、三で二組に分かれることになった。席に案内された悠己は、唯李とくるみを向かいに座る。翼たちは窓際の離れた席ではあるが、十分目の届く位置だ。
悠己は席につくとさっそくメニューを開く。ファミレス自体久しぶりなので、あれこれ目移りしてしまう。
「どうしよう迷うなぁ」
「ウキウキか」
「じゃあ唯李どれか半分こしよう半分こ」
「女子か」
女子っぽくない人に言われた。
どうも向こうの女子二人と比べて、こちらは女の子感が足りない。
「ていうか、あんたらってさ~……」
頬杖をついたくるみが、悠己たち二人を交互に見比べるようにする。
「何?」
「んーなんでもな~い」
くるみは背中をソファに預け、そっぽを向いた。やはりご機嫌斜めのようだ。
メニューをめくっていた唯李が横から尋ねる。
「それよりくるみんは何にするの? お子様ランチ?」
「なんでもいい~」
「何でもいいってなによ。まったく、ぐずってる子供かよ」
唯李が言うのも無理もない。今日のくるみは終始とらえどころがなく、いつもとはまるで別人のようだ。学校でのくるみなら、率先して自分がオーダーを取りそうなものだ。
「悠己くんは?」
「う~ん……俺は目玉焼きハンバーグにしようかな」
「この状況でがっつり目玉焼きハンバーグいっちゃう? 容赦ないね~……じゃああたしエビドリアね、言っとくけどエビドリアンじゃないよ? エイドリアンでもないよ」
しょうもないことをごちゃごちゃとうるさいので、さっさと注文することにする。
呼び出しボタンを押すと、少ししてウエイトレスがやってきた。
「えーっと、目玉焼きハンバーグとお子様ランチ……唯李はなんだっけ?」
とここで唯李に振る。唯李は「ほんとにお子様ランチたのみやがったよ」と小声でブツブツ言っていたが、ウェイトレスに向かってぱっと笑顔を向ける。
「このエビドリアお願いしまぁす」
「かしこまりました。ご注文は以上でよろしいでしょうか」
「はぁい」
いたって危なげなく注文を終えた。
妙にいい子ぶっているのが変と言えば変だが。
「なんだ、せっかく振ってあげたのに
「エイドリアンお願いしまぁす、ってか。やるわけねえだろ」
さすがに時と場所はわきまえているらしい。
悠己は一度テーブルを見渡すと、席を立つ。
「じゃあお水持ってくるね」
「気の利く彼女か」
何を言っても唯李がつっこんでくる。普段のキャラ的にやりそうにない、とでもいうのか。
セルフサービスのコーナーに近づいていく。前の人が終わるのを待っていると、後からやってきた翼に声をかけられた。
絶対に人をダメにする幼なじみVS俺
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久しぶりに新作を投稿しました。
だいたいギャグですがおっぱいシリアスもあるよ!