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ラブコメ神唯李

「てか違う、それはおまけで! あの女二人! そんなんじゃいつまでも彼氏できないよみたいにさんざん言ってくるから、言い返したくて! ノリが苦手なの、人のことやたら子供扱いしてくるし……」


 昨日も言っていたとおり、こちらの理由が本命らしい。

 そう力説されても納得がいかないのか、すっかり呆れ顔になった唯李が耳打ちしてくる。


「どうしますこの子? とりあえず土下座させます? カーテンでぐるぐる巻いときます?」

「いやまあ……いいよそれは。俺なんかにそんなこと頼んでくるって、相当切羽詰まってたんだろうし」

「へー……お優しいですね。へー、へー……」


 なにか言いたげな顔の唯李。

 それをくるみが見て取って、横から口を出す。


「てかさ、唯李ごちゃごちゃ言ってくるけどさ、ニセ彼氏……仮に本当にアタシと成戸くんが付き合ったとして、唯李になんか問題あるわけ?」

「そっ、それは別に……ほらあれよ、あたしの前でそういう陳腐なラブコメすんなって話」

「陳腐なラブコメって何よそれ? 唯李さっきさ、ひとりで抱え込まないであたしに頼れって言ってたよね」

「い、いやいやそれとこれとは話が別よ? とんでもねえ爆弾抱え込んでからに」

「ゆったのにゆったのに~……」


 くるみが恨めしげに語尾を伸ばして、唯李に詰め寄っていく。まさかの形勢逆転。

 たじろいでいた唯李だったが、心を決めたのか、


「まったくしょうがないなぁ~。じゃあすぱっと解決してやるか、古今東西のラブコメを制覇しているこのあたしが。このラブコメ神唯李様が」


 唯李は任せとけ、と胸を叩いてみせる。その意味不明な自信はどこからくるのか。


「で結局くるみんは何をどうしたいわけ?」

「こっそりあの二人の女を消してほしい」

「それラブコメじゃないね。ハードボイルドアクションになっちゃうね」


 いきなりジャンル違いの無茶振り。

 変な方向に話が進むのはよくないので、悠己が軌道修正する。


「くるみが気に入らないからって仲を邪魔するのはさすがにどうかと……。お兄さんがどう思ってるのかにもよるけど」

「兄貴は二人が僕のことなんて好きなわけがない、っていう考えなわけ。要するに鈍感野郎なわけ」

「じゃあ嫌ってわけじゃないんでしょ? それなら邪魔するのはよくないんじゃ……」

「それは……わかってるって! 兄貴はあくまで二人とも友達って思ってるだけで、全然そういうの免疫なくて、だからアタシは変な悪女に騙されないか心配なの」

「そんな悪人には見えなかったけど」

「きっとアタシに好かれようとね、そういう演技してんの。兄貴が自分で言ったらしいから。好きな女の子のタイプは妹と仲良くできる子」


 つまり自分では客観的な判断はできないから、本当に大丈夫な相手なのか見極めてほしい、とのこと。それが譲歩案らしい。


「ていうかふたりとも脈ないんだから、さっさとくたば……あきらめればいいのに」

「たしかに冷静に見れてないね」

「ねーみんなで何話してるのー? そんな隅っこで~」


 いつもの能天気そうな声がして、萌絵がひょっこり顔をのぞかせた。

 すかさず唯李が手で制して、


「あーややこしくするから君は黙ってて。おとなしく自分の席でエモエモしてなさい」

「ねーなんの話なんの話~」


 唯李はしっしっと追い払おうとするが、代わりに耳たぶとほっぺたを引っ張られている。


「きゃはは唯李ちゃん変なカオ~」

「やめんかゴラァ!」

「やーん唯李ちゃんこわーい」


 すすす、と萌絵は悠己の背後に回り込んで隠れる。

 するとなぜか悠己が唯李に睨まれる形となる。おかまいなしに萌絵は悠己の肩を叩きながら、


「あのね、今朝リオリオと偶然会ったんだけど、『みんなはクリスマスとかってどうするのかしら』って言ってたよ。なんか期待と不安の入り混じった目で」

「それわかってて言ってる? 意外にドSだね」

「だからね、ちらっちらっ」

「なにそれは」

「期待と不安の入り混じった目」


 下手くそなウインクにしか見えない。

 話を受けて、悠己が促すように唯李へアイコンタクトを送ると、


「う、うーんクリスマスはねぇ……」


 言いよどみながら、唯李がわざとらしい目配せを返してくる。

 そういえばクリスマスデートうんぬんの話はすっかり浮いたままだった。

 そのまま視線をくるみにも流してみると、


「えーっと、アタシもクリスマスはちょっと……」


 こちらも言葉を濁らせてはっきりしない。

 するとなにか察したのか、急に萌絵が肩を落として、表情を曇らせだした。


「……それってわたしがいるから? やっぱりわたし、みんなに嫌われてるんだ……そうだったんだ……」

「いやそういうんじゃなくて! ちょっとクリスマスはねぇ~……」


 とさらに唯李がしつこく目線を送ってくる。

 どうするのどうするの? と言わんばかりだ。このまま視線の押し付け合いをしていても仕方ないので、


「そしたら、みんなで集まったらいいんじゃないかな。そのリオリオも呼んでさ」

「り、リオリオ~? ていうかそのレオリオって誰だっけ? もう話忘れてきちゃった」

「えぇ……」

「じ、冗談に決まってるでしょうがやだなもう! お決まりのネタですってば」

「あとで凛央にチクろう」

「やめてお願いゆるして」


 そもそもそういうネタにしていいと思っているのがよくない。キレ散らかされること間違いなし。


「でも、そっちのほうがいいでしょ?」


 今度はしっかり唯李の目を見て言った。 

 唯李は一瞬面食らったような顔をしたが、すぐに笑って頷いた。


「……うん、そうだね」


 いつも中心に唯李がいた。だからこそ、仲良くなった。

 唯李がいなければ、やっぱり締まらない。


「唯李はみんなの唯李だしね」

「なにそれバカにしてる?」

「瑞奈も唯李と会いたいって言ってたし、一緒にパーティやるっていう手もあるかも」

「よしわかった! じゃあ凛央ちゃんともちょっと相談してみよう」


 ぐっと握りこぶしを作る唯李。

 その隣で、萌絵がうれしそうにバンザイをする。


「やったー! くるみちゃんも来るでしょ?」

「い、いやぁアタシは、クリスマスはちょっと用事が……」

「え? そうなの? ……あ、もしかしてホントは彼氏できたとか~?」


 いたずらっぽく笑いながら、萌絵がくるみに顔を近づけていく。

 くるみは萌絵の顔面を手でぐっと押しのけると、「はいはいうるさいうるさい」と言って逃げていった。

断っておきますがちゃんと全巻買ってます

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