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幼馴染?

 その日の昼休み。

 机に弁当を広げた唯李は、前の男子の席を占領したくるみと向き合っていた。


「ていうかさ~どうなの? マジで。メイド服って文化祭のあれ、園田がさ……」

 

 コンビニのおにぎりの封を切りながら、くるみが口火を切りだす。

 席が近いせいかくるみはよく唯李の席にやってきて、こうして昼食がてら愚痴を聞かされたりする。

 唯李が相槌を打ちながら箸を取り出すと、席のかたわらに影が落ちて、間延びした声がした。

 

「唯李ちゃん一緒に食べよ~」


(うっ……)


 萌絵だった。ニコニコ顔でお弁当箱を手にしているが、唯李の頬は若干ひきつる。

 対面のくるみは話を中断すると、一度萌絵を見上げて、唯李に視線を戻す。


「だって。唯李ちょっとどいてあげて」

「いやここあたしの席なんですがそれは」

 

 くるみが「藤橋さん椅子持ってきなよ」と言うと、萌絵は嬉々として椅子を引きずってきて、三人で唯李の机を囲む形になる。

 くるみは話を邪魔されて不機嫌……ということはなく、こういうとき意外に面倒見がいい。

 萌絵は自分の弁当箱を机に置くと、唯李の弁当を覗き込んで、


「わ~唯李ちゃんのお弁当おいしそ~」


 とやったあと、おにぎりを手にするくるみを見て、


「くるみんはコンビニ?」

「くるみんはなしって言ったでしょ」

「じゃあみくるん!」

「名前変わってんじゃん」


 くるみは軽く流してはいるが、内心不愉快そうだ。

 漫画でいうと怒マークが小さくピキピキしている。


「ちょっと唯李、どういう教育してんのよ」

「え、え? あたし?」


 そしてなぜか怒られる唯李。勝手に監督役のようなポジションにつけるのは勘弁してほしい。

 当の萌絵はどこ吹く風と、お弁当に向かって手を合わせていただきますをする。

 その動作をなんともなしに眺めながら、くるみが話を再開した。


「やる気なかったくせに昨日あいつ急に燃えてたじゃん。催し物を成功させるためには! みたいなこと言って」

 

 そうは言うが「頭がいいので園田くんがいいと思いまーす」と、クラスの催し物係に園田を押し付けたのはくるみ本人だ。

 唯李たちのクラスは二クラス合同でジュースとたこ焼きを売るという話だったが、どうにも地味、という理由で園田が突然提案を始めた。有志を募ってコスプレをする、というものだ。

 くるみの話に、萌絵がぱっと顔を上げて反応する。


「あ、それ! わたしも園田くんに頼まれちゃって……衣装は用意するからって」

「え? マジ? ていうか原因それじゃん、どうせ藤橋さんのメイド姿が見たいってだけでしょ。マジキモい死ねって言ってやっていいよ」

「わたしやりたいって言ったの。メイド服着てみたかったし!」


 そこでくるみの「えっ……」という顔と目が合った。

 お互い無言のアイコンタクトをすると、


「なんかその~……さ。あんまりアタシが言うのもあれだけど……」


 くるみが何事か言いかけると、不思議そうな顔をした萌絵が首をかしげる。

 

「え? でも唯李ちゃんもやるんだよね?」

「は?」


 いきなり水を向けられて、唯李の口から間の抜けた声が出る。手元でミニ唐揚げが箸から転げ落ちた。

 すかさずくるみがぽん、と手を叩いてみせて、

 

「あ、いいじゃん唯李もやったら。そういうのってかわいい子がやるって決まってるし」

「いやいやいやいやいや! え、いきなり寝返り? そういう流れじゃなかったでしょ今!」

「たしかにまぁジュース売るだけとかめちゃめちゃ地味だし、そんぐらいやってもいいのかなっていうのはあるね」

「いやだから流れおかしいでしょ? だいたい園田くんが言い出したからってそんなの勝手にやっていいわけ?」

「大丈夫でしょ、あいつ責任者だし。自前で衣装用意できるとかって言ってるんでしょ? どっかのクラスもメイド喫茶やるって言ってたし、小川ちゃんも『先生はみんなの自主性を重んじますので自分たちで決めてください』みたいに言ってるじゃん? いつもは細かいことうるさいくせに謎の突き放しだし」


 萌絵をたしなめるはずの流れが、急に逆流氾濫を始めた。

 きっと「唯李にやらせたら面白そうだから」とかそういう理由に違いない。

 

「みんな部活のほう優先してるからさ、残りはいまいちやる気ないじゃん? 特に男子。そこの窓際の席の人とか」


 くるみはちら、と隣の悠己に視線を送る。

 夏休みの宿題未提出でも実はバレない説を検証しようとしたアホは、小川から必殺の職員室呼び出しをもらったらしく、現在読書感想文兼反省文を書かされている。

 たしかにそれは……とくるみの勢いに飲まれそうになっていると、いきなり萌絵が身を乗り出して悠己に向かって声をかけた。

 

「ねえねえ、ゆっきーも見たいよね! 唯李ちゃんのメイド」

「どっちでも」

「えー! なんでそうやって言うの? 絶対かわいいのに! とか言いながらホントは見たいんでしょ~?」

「超見たい」

 

 悠己は机の上の原稿用紙に向き合ったまま、ろくにこちらを見もせずに言う。 

 萌絵に逆らうとめんどくさいからとりあえず合わせた感がすごい。もうそういうのすぐわかる。

 

「だって! ほら唯李ちゃん」

「い、いや無理だから。ちょっと宗教上の理由で……」

「大丈夫だよ、くるみちゃんもやるから。ね?」


 萌絵が笑顔を向けると、他人事とにやにやしていたくるみが口からペットボトルのお茶を吹き出しそうになる。


「はっ、はぁ!? いやないから。そういうのないから」

「くるみちゃんも絶対かわいいのに~……あ、もしかして恥ずかしい?」

「あのねぇ、あんま調子乗ってると……」


(おいおい、くるみんピキピキしてるよ……怒らせるとまじ怖いんよ)


 だんだんと雲行きが怪しくなってきている。これは下手するとこっちまでとばっちりを食う。

 

「ま、まあまあくるみさん、落ち着いて落ち着いて。ほら卵焼きあげるから」


 卵焼きを箸につまんで差し出すと、すかさずくるみはがぶっと食らいつく。

 イライラを発散するようにもしゃもしゃと咀嚼しながら、


「とにかくそういうのどうかと思うわけ。園田とか変に優しくすると調子乗るからさ、あんまり相手しないほうがいいよ」

 

 萌絵をたしなめる流れに時が戻った。

 先ほどのくだりはなかったことになったらしい。

 

「でも、早くみんなと仲良くなりたいし……」

「だからって園田はないでしょ……ほら、幼馴染の唯李ちゃんもいることだし」


 またしてもくるみが急に振ってくる。

 突然幼馴染、だとか言われてもリアクションに困る。


「お、幼馴染? いや、別にあたしたちは……」

「だって小学校一緒で仲良しだったんでしょ?」

 

 萌絵がなんと言ったのか知らないが、おかしなふうに伝わっている。

 言ってもたかだかクラスメイト程度で、断じて幼馴染とは違う……というかそもそも馴染んでいない。

 唯李が言いよどんでいると、会話を聞いていた萌絵がキラキラと目を輝かせだす。


「おさななじみ……そっか、幼馴染だよね!」

「いや幼馴染とはちょっと……」

「え? 何?」

「そ、そうね、あはは……」

 

 萌絵がやたらうれしそうなので、愛想笑いでお茶を濁さざるを得ない。

(その程度で幼馴染言ってたら幼馴染わらわらで幼馴染無双始まっちゃうじゃん。しかも難易度地獄……)

 などと思ったがそんなことを言うわけにもいかない。

 メイド服の話はとりあえずうやむやになったが、その後もいっそうご機嫌となった萌絵による独壇場となった。


はいはいフラグフラグ

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― 新着の感想 ―
[一言] んだな 字を気にしてなかったけど 馴染まなきゃならないとか 同級だの、クラスメイトとかって ただの知り合いだな
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