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じっくりコトコト似

「唯李ちゃん携帯持ってきたでしょ? 今日こそライン教えて」

「あ、いや昨日ちょっと、携帯落とした拍子に通りすがりのアフリカゾウに踏みつけられて……」

「えっ、うそ!? どこでそんな……」

「いや嘘に決まってますがな」

「なんでそんな嘘つくの?」

 

 萌絵にじっと見つめられ、先生に怒られた人のように黙りこむ唯李。

 萌絵の言うことももっともで、「なんでそんな嘘つくの?」と本当それにつきる。

 

「昨日ゆっきーともライン交換したんだよ?」

「ゆ、ゆっきー? って何?」


 まぶたをパチパチとさせる唯李を尻目に、萌絵がなにやら悠己に向かってアイコンタクトをしてきたので、代わりに自己紹介をする。


「僕ゆっきーだよ」

「何がゆっきーだよ、ゆっきー感はてしなくゼロだわネズミに訴えられろ」

 

 なぜかキレられた。あんまりな言い草。

 するとすかさず萌絵が声を上げて、

 

「えっ、ひどい。わたしがせっかく考えたのにどうしてそんなこと言うの?」

「あっ、や、やだなぁジョークですよジョーク、落ち着いて落ち着いて。い、いやぁなんかその、悠己くんもそういうあだ名的なものって、実は嫌なんじゃないかなって思って……」


 唯李がそう言うと、萌絵は「そうなの?」と不安げな顔を向けてくる。


「んー……嫌というかコスパが悪いね」

「どういうこと?」


 例によって萌絵が全力で首を傾げてくるが、要するに使い分けがめんどくさい。呼ばれても忘れてスルーする恐れがある。

 なんと説明しようかと考えていると、唯李が横から口を出してきた。

 

「どうせめんどくさいとかって思ってるでしょ」

「そんなことないよ。ちょっとだるいなって思ってるだけで」

「聞きました藤橋さん? こういうやつなんですよ」


 またも大元帥に告げ口される。

 怒り出すかと思いきや、萌絵は感心したように唯李を見返して、


「へえ~仲良しなんだね、二人」

「な、なかよし? い、いや仲良しというかなんというか……」

「でもわたしたちも仲良しだもんね~」

 

 そう言って唯李の背後から、のしかかるようにして体を預けていく。

 机の上で押しつぶされて「ぐぇっ」と変な声を上げた唯李は、さらにその頭をなでなでとされてされるがままだ。一応愛想笑いを浮かべてはいるが、若干口元が引きつっている。


(こんなやりとりどこかで見たような……)

  

 そう、これはたしか凛央を初めてこのクラスで見たとき……唯李が凛央に絡んでいたやりかたと似ている。

 またも唯李と萌絵に類似点を見出した悠己は、

  

「二人って、なんとなく……似てる?」

「へ、へっ? に、煮てるってどのへんがじっくりコトコトよ? ぜんぜん煮てませんよ?」 

「なるほど、言われてみるとじっくりコトコト似……」

「なによそれどういう意味よ」

 

 自分で言っておいて意味がわからないらしい。


「わぁ唯李ちゃんいい匂いする~ぎゅ~」

「ちょ、ちょっとだ、ダメだってば! ち、ちゃんとオプション料払ってもらわないと!」


 さらに萌絵に背中から抱きつかれ、顔を赤くしてじたばたともがく唯李。

 この前は攻める側だったはずなのに、それがどうして今度は逆転しているのか。

 まあ要するに力関係的に萌絵>唯李>凛央ということなのかもしれないが、なんにせよ仲良しなのはいいことだ。

 せっかくの旧友同士の再会なわけだし、ここで余計な邪魔はするまいと、悠己は自分の机に向き直って読書に戻る。

 二人はしばらくなにやらわちゃわちゃとやっていたが、やがて萌絵が悠己のほうに身を乗り出してきて、

 

「あ、ゆっきー何読んでるの~? 見せて~」

「え? いやでもちょっと、恥ずかしいなぁ」

「いいじゃん見せて見せて~」

「え~、でもなぁ……」

「ちょっと待った」

 

 途中で唯李が待ったをかけてきた。

 何かと振り向くと唯李は仏頂面で、


「なんで普通っぽくしゃべってるわけ?」

「普通?」

「『何読んでるの?』って聞かれたらそこは『本』ってかえすところでしょ? あたしのときみたいに」


 何のことやらさっぱりで首をかしげかけたが、そういえば席替えしてすぐ唯李とそんなやりとりをしたようなしなかったような。意外にそういうのは覚えているらしい。

 

「まあ、やっぱりそういう態度はよくないかなって思って」

「なに成長してんだよ」


 人の成長を喜べない女。どういうつもりなのか。

 ならばとこちらも開き直って成長をアピールすべく、本のタイトルを読み上げる。


「これ、『不況をラクに生き抜け! 楽に楽しく稼ぐ方法 ~寝てるだけでじゃんじゃんお金が!~』っていうやつ」

「なんつー本読んでんのよ。ほんとに恥ずかしいやつじゃん哲学青年はどこいった」

「古本屋に百円で売ってたから買ってきた。そろそろ将来を考えたほうがいいかなって」

「百円の本によく将来託せるね? 真面目なのか不真面目なんだか」

「これで読書感想文書こうかなって」

「一回めちゃくちゃ怒られてこい」


 すでに怒涛の勢いで怒られている。

 しかし席替え当初は唯李も「うふふ……」なんて笑っていて、やりとりにもまだ余裕があったと思ったのだが。


「そういうの意外に根に持つんだね? 唯李は成長……というか前のほうがまだおとなしかったような」

「退化の改新だよ」

 

 すかさず自信満々に意味不明な返しをしてくるのでこちらも流す。

 するとそのとき、きょとんと黙ってやり取りを眺めていた萌絵が、急に声を上げて笑い出した。


参観 その場所に行って、見ること。「授業を参観する」

三巻 その場所に行って、買うこと。「磯野、三巻しようぜ!」


らしいですよ。↓↓


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― 新着の感想 ―
[一言] 退化の改新 意味不明なのに笑ってしまった くやしい
[良い点] なに成長してんだよwwww そうだね。あたまゆいは成長してないね この自然体というか思い付くまま喋って自爆するの流石。そら笑うわ
[一言] 退化の改新のセンスに嫉妬w
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