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S級と元帥

「いや~しかしまたこれ大物来たな~」

 

 始業式を終えて、悠己は慶太郎とともに教室に戻ってくる。

 慶太郎は体育館への行き帰りからつきまとってきては、ずっとそんな調子で話をしている。

 話題はもちろん、例の転校生のことだ。


「藤橋萌絵ちゃんか……。オレの見立てでは学年……いや学校全体合わせても指折りの……」

「またそれ? もう指バッキバキに折れてるよね」

 

 指折り美少女判定がガバガバ。

 とはいえ悠己が遠目に見た感じからしても、彼女はなかなかに整った容姿をしていて、それらしい雰囲気もある、

 

「みんな騒ぐかと思ったけどそうでもなかったね」

「それな、オレもびっくりだよ。こういうとき逆に静かになるんだなって」

「騒ぎそうな人筆頭」

「オレかよ? いやでも実際、あの場で『うおおおかわいい!』とかってなかなかできねえよ?」


 突然やってきた美少女転校生。

 自己紹介の場でこそ騒がなかったものの、今は付近の席の男女が数人集まって、おしゃべりに盛り上がっているようだ。

 萌絵はその中心で何事か受け答えをしながら、ニコニコと愛嬌を振りまいている。


「くっそあのメガネ鼻の下伸ばしやがってからに……」

「幸せそうだね」

 

 その中には一丁前に園田の姿もある。

というのも、彼女の席は廊下側から二番目の最後尾につけられていて、廊下側の隣の席はもともと一つ少なく空。その反対、通路側を挟んで隣が園田の席なのだ。

 萌絵はあの園田にすらにこやかに応対をしている。とても愛想がよい。


「慶太は行かないの?」

「今のオレはこう見えて慎重派だからな。ああいうやたらニコニコしてるのはたいてい裏がある」

「まあ過去に騙されてるわけだからね、隣の席キラーに」

「いやお前、それは言っとくけどな……まあいいわ。しかしあの子、見た目だけじゃなくて中身も明るそうだし……あれはきっと上に行く人間だな。ランクで言うとAは固い」

「ランク?」

「ランクっていうか、なんとなくあるじゃん? クラスでの階級的な。お前はそういうの全然気にしてなさそうだけどな」

「あぁ、それぐらいわかってるって。この先の人生勝ち組になるか負け組になるかっていうことでしょ」

「いやまだそうとは限らねえけどな? ちょっとはオブラートに包めよ」

 

 慶太郎は「ちょうどいい、お前にこのクラスのパワーバランスを解説しておいてやるか」と言って、教室後ろの黒板に近づいていくと、チョークで大小の円をいくつか描き始めた。

 そして描いた丸の一つをチョークの先でとんとん、とやりながら、


「オレの見立てではこのクラスにはそこまでイケイケな男子グループはない。今あっちで騒いでる島田のグループと、小林のグループが横並び。で、まぁそのちょい下ぐらいにいるのがオレら隣の席キラー解放同盟」

「解放同盟?」

「ちょっと改名したんだよ、こっちのほうがかっこいいだろ? いわばその、隣の席キラーに関わるあらゆる人の救済をだな……まぁそう深く考えんなよ」


 慶太郎はそう言って、バシバシと肩を叩いてくる。

 そして一度クラス全体を見渡しながら、


「とにかく男子はそこまで強いわけじゃない。つまりここから一歩抜きん出れば、全然オレらにもワンチャンある。ただ女子のほうにちょっと曲者がな、いるというかなんというか……。特に要注意なのが委員長の小牧くるみ」


 そう言って視線を送る先では、その小牧を中心に女子のグループができている。

 小牧は髪をポニーテール状に結わえていて、小柄で見た目はかわいらしい感じなのだが、慶太郎的には要注意人物らしい。

 席が近いせいか唯李のところにもよくやってくる。たいてい唯李が怒られていて、確かに強そうではある。

 

「で、なにを注意しろって?」

「イケてる男子にはイケてる女子がつきものでな、つまり……」


 慶太郎はしたり顔で語り続けるがいまいち要点を得ず、結局何が言いたいのかよくわからない。

 そのうちにチャイムが鳴ったので、話の途中でとっとと席に戻ると、隣では唯李が珍しく静かに本を読んでいた。

 やけにうつむいていて、少し様子というか挙動がおかしい。

 とはいえおかしいのはいつものことなので、特段気にせずにさっそく先ほどの話を振ってみる。


「ねえ、唯李のランクってどんなもんなの?」


 その問いかけにやや遅れて、唯李はちら、とこちらに目線を向けると、


「……ランクって何が?」

「クラスでのランク」

「元帥だよ」


 きっぱりそう言い切られた。

 質問の仕方も悪かったかもしれないが、答えが雑すぎる。

 

「……急に何? どうせまた速見くんか誰かに変なこと吹き込まれたんでしょ」

「そっちこそ今日どうしたの? そんな本なんか読んで」

「い、いや本ぐらい読むでしょ? ていうかあたしって本しか読んでなくない? むしろ本そのものじゃない?」

「本読んでるのあんまり見ないけど……なんかさっきから様子おかしくない? 元帥のくせにこそこそしてるし」


 それには答えず唯李は本に視線を戻した。

 話題の転校生のことには、まったく我関せずのようだ。

 いわゆる元帥的ポジションであるならば、それはもう自分から声をかけに行くのかと思ったが、そんなそぶりは微塵もない。


「唯李は話しかけに行かないの? 転校生に」

「は、はぁ? なんであたしが動かないといけないわけ? あいさつなら向こうからこんかいと」

「そっか、元帥だしね」

「そうだよこの二等兵めが」


 急に上からくる。

 そのわりにどっしり構えているわけでもなく、萌絵のいる輪のほうをチラチラ気にしていて、やたら落ち着きがない。


「唯李は小牧さんと仲よかったよね」

「ん? まあね、くるみんゆいゆいの仲よ」

「なんか要注意なんだってね。名前はかわいい感じなのにね」

「それ言うと殺されるよ」


 ずいぶん物騒なワードが出てくる。

 くるみんゆいゆいというのは、気を抜けば殺し殺される仲だというのか。


 やがて再度教室に小川がやってきて、LHRが始まる。

 内容は来月行われる文化祭の打ち合わせだった。

 悠己のクラスは模擬店を出すらしく、それについては夏休み前からある程度話はついている。

 現状真面目に話し合っているのは文化祭の実行委員と、出し物の係になった一部の人間ぐらいのもので、他はほぼほぼ好き勝手に雑談。

 そのどちらでもない悠己は時間を持て余していたが、昨晩あまり眠れていないツケが回ってきたのか、急に激しい睡魔に襲われ出した。

 まどろんでいるうちに何度か意識を失いかけて、やがて気がつくと隣の席では、

 

「だからくるみんはやめろって言ってるっしょ?」

「し、しゅみましぇん……」


 唯李が小牧に手でむんずと口元を掴まれて、ひよこ口にされている。

 その圧倒的パワー差を目の当たりにしていると、悠己の視線に気づいた小牧と目が合う。


「成戸くん、課題出してないって。小川ちゃんが」


 小川ちゃんとは、担任の国語教師小川のことを言っているようだ。

 教師すらちゃん付けで呼ぶというこの強さ。彼女のランクは慶太郎の評価によるとSらしい。

 やはり近くで見ても見た目はかわいらしい系統なのだが、雰囲気と声に力強さがある。


「あー課題はちょっと家に忘れて……」

「くるみさん、それがやってないんですよこいつ」

 

 横から口を出してきた唯李にチクられた。

 かたやこちらはとんでもない小物臭がする。

 

「えーダメじゃん! まぁアタシもやってないんだけどね」

「えぇ、まじすか……どの口で人に注意してるんですかね」

「それは委員長様ですから?」

「やだこの人怖い」

「てかさーめんどいしさ、忙しかったのよ部活で」


 そんな二人のやりとりを眺めていると、小牧がべしっと唯李の頭を軽く叩いて、立ち上がって別のグループのほうへ行ってしまった。

 小牧がいなくなるなり唯李も急に静かになったので、


「さすが元帥、S級と対等に渡り合ってるね」

「まぁね、あたしもこっちで強くなりすぎたかな」

「でもなんかツッコミが俺のときよりおとなしかったような」

「いやそれは、どっかの誰かさんみたいにボケ倒してるわけじゃなしに」

「ボケてもないのに叩かれてたけど」

「スキンシップよスキンシップ」

 

 唯李的にはあくまで対等らしいので、これ以上あれこれ言うのはやめておこう。

 そのうちにチャイムが鳴って、HRは終わり。半日授業なので放課後となる。


「さて帰ろうかなぁ~」


 と言いながら、唯李はなぜか出入り口のほうにチラチラと視線を送っている。

 どうも出入り口近くの転校生の席を気にしているように見えるが、帰るならさっさと帰ればいいのに様子がおかしい。

 するとどこからともなく小牧が唯李の席に戻ってきて、


「あのさ、小川ちゃんから藤橋さんに学校案内してあげてって言われてたんだけどさ~……唯李どうせ暇でしょ? アタシこれから部活あんの。よろしく」

「は、はいぃ?」


 首を大きくひねって変な声を上げる唯李。

 うろたえたように目をキョロキョロとさせながら、


「ちょ、ちょっとわたくし、今日は用事ありまして……」

「そうなの? どっか行くの?」

「え、ええまあ、ちょっと魔法士学校のほうへ……」

「なにそれ? どうせ家でしょうもないマンガでも書いてるんでしょ?」

「し、しょうもないってなんやねん、しょうもあるわ!」

 

 小牧はケラケラと笑い飛ばしたあと、一度唯李の席を離れたかと思うと、すぐに萌絵の腕を引っ張って戻ってきた。

 そしてずい、と萌絵の背中を前に押し出すと、


「はい、じゃこちら案内してくれる鷹月唯李さん!」

「ちょ、ちょっと何を勝手に!」

 

 言いながら椅子を倒しそうな勢いで立ち上がる唯李。

 萌絵は横から不思議そうな顔でじっとその様を見つめていたかと思うと、おそるおそる口を開いた。


「たかつきゆい……もしかして、唯李ちゃん?」


↓あのね、3巻買ってほしいの…。

 って表紙の唯李も言ってますよ

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― 新着の感想 ―
[一言] すでに予約した、問題ない。
[一言] 任せとけ!!
[一言] もちろん買うの・・・! って本能が告げてるの
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