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番外ネタ 鼻ビーーーム!

 さる花火大会の日から数日後。

 夏休みも残り少なくなった、とある日の夜。

 

「俺は一体何をやっていたんだ……」


 ソファの上で悠己は頭を抱える。リビングのテーブルには問題集の山が積まれていた。夏休みの課題だ。まだ半分以上手つかずである。

 凛央はすぐ終わったと言っていたがとんでもない量だ。騙された。


「どうしてこんなになるまで……」


 夏休み前半の記憶がない。小夜が登場したぐらいからは覚えがあるのだが、それ以前が曖昧だ。人を堕落させる夏休みの悪霊的なものに体をのっとられていたのではと疑う。

 正味二週間ほどしか休んだ気がしない。それでこの分量は反則ではないのか。


「鼻ビーーーーーム!」


 背後からどたどたと足音がする。謎の奇声を上げながら、半袖短パンの瑞奈がソファにダイブしてきた。

 腕を伸ばして、悠己の鼻を指でつまんでくる。悠己は腕ごと振り払う。


「何? 瑞奈は宿題終わったの?」

「鼻・ビィーーーーームッ!」


 瑞奈は一度自分の鼻をつまんでから、その手で悠己の鼻をつまんできた。

 鼻呼吸ができなくなる。悠己は首を振って指を振りほどく。

 

「さっきから君は何を言ってるの?」

「だから鼻ビームだよ鼻ビーム。鼻ビーーーーーム!」

「わかったから一回やめて? ちょっと」

「はなびーーーーーむ!」

「だからやめてって」

「鼻ッ! ビィィーーーーーンムッ!」

「やめろっつってんだろ」


 腕をひねり上げて押しのけた。鼻ビームマンは「ギャピィィイ!」と変な悲鳴を上げながらソファから転げ落ちた。

 かと思えばソファの裏側に回り込んで、背後から顔を近づけてくる。


「おこった?」

「まあね、あやうく喉輪落としするところだったよ。で、なんなのそれは?」

「はなびだよはなび。花火ーーむ」

「花火?」


 花火。

 どうやらこの間の花火大会に行けなかったことを言っているらしい。

 

「そっか。そうだよね、瑞奈は花火行けなかったもんね」

「そうだよ。だから鼻ビームぐらいさせてよ」

「次やったらビンタするよ」


 それとこれとは話が別。歴代トップクラスに人の神経を逆なでする技だ。

 悠己はテレビのリモコンを操作して電源をつけると、動画再生アプリを立ち上げた。花火と検索して、ヒットした動画を再生する。


「ほら、これでどう?」

「スーパー鼻ビーーーーーム!」


 スーパー鼻ビームをくらった。

 動画ではお気に召さないらしい。


「って言っても花火大会このへんじゃもうやってないんだよね」

「別に大会じゃなくていいよ、練習試合でいいから」

「練習試合?」

「ほらぁ、練習用のやつなら売ってるでしょ?」

「練習用……?」


 どうやら市販の花火のことを言っているらしい。

 花火に行けなかったかわりに、買ってちょろっとやるぐらいなら全然それはありだろう。

 

「花火やるのはいいけど、二人でやっても面白くないから誰か誘ったら? 小夜ちゃんとか」

「さ、小夜ちゃん~?」


 せっかく仲良くなったのだから誘わない手はない。

 ……はずなのだが、いまいち瑞奈の歯切れが悪い。


「じゃあスマホ渡すからゆうきくんかわりに誘って」

「なんで俺が」

「瑞奈になりすましていいから」

「なんでそんなことさせるわけ?」


 自分から誘いをかけるのが恥ずかしいのか何なのか。

 瑞奈がアプリ画面を開いてスマホを手渡してくる。前回の小夜とのやり取りが『これで勝ったと思うなよ』という瑞奈の一言で終わっているが大丈夫か。

 とりあえず適当に、


『瑞奈だょ。さよちんいっしょにはなびやろ~~』


 と打ち込む。花火とハートマークの絵文字も忘れない。

 悠己がメッセージを送信をすると、すかさず瑞奈が画面をのぞきこんでくる。

  

「なにその文おじさんじゃん」

「文句言うなら自分で送ってもらっていい?」

「こんなの送って恥ずかしくないのかしら」

「向こうは瑞奈が送ったと思ってるからね?」


 中学生女子のやり取りなんてこんなもんだろうと思ったが違ったらしい。

 しばらく待つが、小夜から返信が来ない。というか既読がつかない。

 瑞奈は悠己の手からスマホをひったくると、


「そしたら瑞奈がゆいちゃん誘うから。見本見せてあげる」


 唯李を誘うのは恥ずかしくないらしい。

 二人が普段どんなふうにやり取りをしているかまでは知らない。

 ここは一つ勉強するつもりで、悠己はスマホに文面を打ち込む瑞奈の手元を覗き込む。

 

『鼻ビーーーーーム!』


 一発目で鼻ビームをぶっぱなした。なんの参考にもならなかった。

 これだと向こうはなんのことかさっぱりだろう。いつ既読がつくかもわからない。

 しかし唯李からはすぐに返信が来た。ヒマか。


『くだらん技だな……ただホコリをまきあげるだけか』

『じゃあゆいちゃんの技見せて』

『見たい? やばいよ? ベジータもよけろって言うよ?』

『いいからはやく』

『鼻ビーーーーーム!』

『パクリやんけ!』


 予想以上にしょうもないやり取りをしている。

 しかしこのハイペースな応酬にはある種感心する。

  

『ゆいちゃん一緒に花火ームしよ』

『花火とかパリピじゃん』

『ゆうきくんもやるって』

『へー悠己のぶんざいで花火?』

『そう悠己のぶんざいで』


「見てるぞ」


 念のため間近で存在をアピールをしてみる。瑞奈はともかく、裏では唯李にも呼び捨てにされているという衝撃の事実。

 瑞奈はこちらの圧も意に介すことなく返信を続ける。


『ゆいちゃんも花火やるよね』

『悠己がやるってんなら芋引くわけにはいかねえかな』

『うんうんそれはダサいよさすがに』

『間抜けヅラにロケット花火ぶちこんだろかね』

『わらw』

 

「悠己めっちゃ見てるぞ」


 さらに顔を近づけて存在をアピールしていく。

 瑞奈はさっとスマホを膝の上に伏せると、


「ゆいちゃんもゆうきくんと花火やりたいって。アツアツですなぁ」

「悠己くんはあんまりやりたくなくなってきたぞ」


 別の意味でアツアツにされるのはかんべんしていただきたい。


「ゆいちゃんが他に誰来るの? だって」

「んーじゃあ凛央も呼ぼうか。凛央も花火行けなかったし」


 そう言うと、瑞奈がまたスマホの画面に指を滑らせる。今度は凛央にもコンタクトを取っているようだ。あいわらず入力が鬼のようにすばやい。


「ねえ見て、ゆいちゃんが変なこと言ってるよ」

「まーた悠己の悪口か」

「ちがうちがう」


 瑞奈がスマホを向けて、唯李とのやりとりを見せてくる。

 

『ゆうきくんがさよちゃんも呼んだらって』

『すいませんやっぱりちょっと急用が』 

『さよと仲悪いよね。なんで? 仲直りしなよ』

『直るも何もないから。ていうか仲悪くないし?』


 小夜も来ると聞いて渋っているようだ。

 直ることもないとなると余計にたちが悪い。

 

「あ、さよからも来たよ」


 返信があったらしい。そのまま悠己にも画面を見せてくる。

『わ~! いいよぉみなちんいっしょにはなびやろ~~』とノリノリだ。

 

「なにこれ、小夜ちゃんってこんなキャラだったっけ」

「ゆうきくんにレベルを合わせてきたんでしょ」

「よかったねみなちん」

「鼻ビーーーーーム!」

「鼻ビーム返し!」


 悠己はすばやく瑞奈の鼻をつまんで黙らせる。今度は完全に読んでいた。

 しかし自分の鼻もつままれてしまうという諸刃の剣。

 お互いの鼻をつまみあったまま、しばらく膠着状態は続いた。


鼻ビーム→ダブル鼻ビーム→鼻メガキャノン


羽ビーーーム!につづく


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