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プール行き3

 それから何度か余計な遠回りをしつつ、やっとのことでプールに到着。

 真希は車でいっぱいの駐車場を見渡しながら、のろのろと車を走らせる。


「なんでこんな混んでるのよ……他に行くところないのかしらね」


 ぶつぶつとうるさい。すると後ろから唯李が身を乗り出して、


「あ、そこあいてるよ」


 と言ってようやく見つかった空きスペースを指さすが、そのまま車は素通りしてしまう。


「……ちょっとお姉ちゃん?」

「私は余裕をもって止めたいの」

「いいよ唯李、狭いところは危ないから」

「もう悠己くんも優しく見守るモード入っちゃってるよ」

「二人ともちょっと黙っててくれる? 横からうしろからごちゃごちゃと……うるさいと集中できないから」

 

 そんな調子でかなり外れのほうまで来てしまった。さすがに車もほとんど止まっていない。

 ここでようやく真希は車をバックさせ、何度か切り返しをやって、やっと白い枠の中に車体を収めた。

 

「見た? お姉ちゃんの華麗なハンドルさばき」

「うまい人ってそんなに何回もハンドルぐるぐるやらないと思うんですが」


 悠己がそう言うと真希はそれには答えずに、我先にドアを開けて外に出た。

バン! と無駄に強めにドアを閉めていく。

早くプールに入りたくてしょうがないらしい。


「ふらふらで気持ちわるい……」

 

 悠己も続けて降りると、最後に後部座席から降りてきた瑞奈が、顔をしかめながらよたよたと近寄ってきた。

 とはいえ瑞奈がそう言うのも無理はない。

 常に車が微妙にふらふらしていて、悠己ですら少し気分が悪くなりそうだったのだ。


「瑞奈、大丈夫?」

「ゆうきくんおんぶ」

「えぇ?」

「われ姫ぞ。みなっち姫ぞ。かしづきうやまうのだぞ」

「都合のいいときだけ姫になるね。自分で歩けるでしょ?」


 それだけふざける余裕があるならおそらく大丈夫だろう。

 そんなやりとりをしていると、ふと誰かの視線を感じる。

振り向くと、小夜が心配そうにこちらを見ていた。

 

「ほら、小夜ちゃん見てるよ」


 そう言うと、瑞奈は突然しゃきっと背筋を伸ばして歩き出した。

 近寄ってきた小夜が、心配そうに声をかける。


「成戸さん……大丈夫ですか?」

「よ、余裕よ余裕……」


 余裕らしい。

 それから一行はプールの正面入口にほうへ歩いていく。

 受付のある建物に入ってすぐ、派手な頭をした男が近づいてきた。慶太郎だ。

 実はすでに再三「まだかよ? もうこっちは着いてんだけど?」とラインに連絡が来ていたのだが、すっかりしびれを切らしているようだ。

 悠己たちの姿を見るなり、仏頂面で不満をぶつけてくる。

 

「やっと来やがったか。なんでオレらのほうが早いんだよ、おかしいだろ」

「だそうですお姉さん」

「煽るときにお姉さん使うのやめてくれる?」


 真希がきつい口調で切り返してくるが、別にそういうつもりはない。

 むすっと口をとがらせた真希は慶太郎に向かって、


「悪かったわね……ヘボい運転で遅くて」

「え? あ、いや別に真希さんが悪いってわけじゃ……」

「いやでも他に理由がない……」


 悠己がそう言いかけたところで、ぐいっと慶太郎に腕を引っ張られる。

 そのまま隅っこの壁のほうへ連れてこられると、

 

「おいやめろよ、何のつもりだよなんで煽ってるんだよ」

「煽るも何も事実を述べているだけで……そもそも遅いって慶太が言い出したんじゃ?」

「いやまあさっきのはオレのミスだったよ。だからって別にしつこく真実を追求しなくていいんだよ、嘘でもなんかいい気分にさせてやるんだよここは」


 その言いぐさだとよほど慶太郎のほうがひどいことを言っている気がするが、こうしていてもラチが明かないので言うとおりにする。

 不機嫌そうな顔をする真希のもとに戻るなり、


「ちゃんと到着できてよかったですね。すごい」


 そう持ち上げてみるが無視された。

 もうお前は黙ってろとばかりに、慶太郎に押しのけられる。 

 慶太郎は壁にいくつか並んでいる券売機のほうを指さしながら、

 

「え、え~っと、ここはオレが出しますよ! 車も出してもらっちゃってますし!」

「あら、ありがと~。そんな無理しなくていいのに~」

「無理しなくていいのに」

「お前は自分で払え。ていうかお前も余分に払え」


 真顔で慶太郎にすごまれていると、横から唯李が不思議そうな顔であたりを見回す。


「あれ? そういえば凛央ちゃんは?」

「いや、あいつ『こうしてても時間の無駄ね。ここ微妙に暑いし先に入ってましょ?』って言って先に行きやがったんだよ。ありえねえだろ、絶対集団行動できないやつだろあれ」

「慶太と二人で気まずかったんじゃない」

「それだったらまだかわいいじゃねえかよ、絶対ねえけどな。あいつ言葉のとおりだぞマジで。一人プールとかツワモノすぎるだろ」


 本人的には悪気はなさそうだ。おそらくこういった集まりに慣れていないのだろう。

 というか同じ状況になったら、悠己も同じことをしそうであまり人のことは言えない。


 それから券を購入し受付で入場を済ませると、その先で男女で二手に別れて更衣室のほうへ向かう。

 途中荷物をロッカーにしまい、さっさと着替えを済ませて、悠己と慶太郎は一足先にプールのほうへ出てきていた。


 夏真っ盛りということもあり、場内はさすがの人の量。下手にうろつくと姿を見失いそう。

女性陣を待つ間、慶太郎は落ち着きなくそわそわとしていたが、急に「そうだ忘れてた」と前置きすると、


「えー今日の作戦としてはだな。とりあえず、お前はガキ二人とどっか行って遊んどけ。それか放置しても大丈夫そうなら、花城と遊んでこい。オレに近づけないようにな」

「そういえばどうだった? 凛央とは」

「どうもこうもねえよ、だいたい無理だって言ってんだろああいうのは。バスもやたら混んでて席もバラバラだったし」


 その口ぶりからすると、お互いまったく歩み寄る気配がなさそうだった。

 それにしてもこの人の群れの中から凛央を見つけるのは至難の業のように思える。


「おおっ!」


 悠己が周りを見渡していると、いきなり慶太郎が声を上げた。

 振り返った先から歩いてくるのは、真希と、若干その影に隠れるようにして唯李。

 

「お待たせ」


 はしゃぐ慶太郎のリアクションを見て、真希は余裕そうな笑みを浮かべた。

 よっぽど派手な格好をしているのかと思えば、水着の上から全身を覆い隠すように薄手の羽織物をしている。


「その格好……泳がないんですか?」

「いや私はほら、大人だから。監督する側だから」

 

 真希は言いながらふぁさっと髪をかきあげる。

 髪もろくに縛ってすらおらず、本当に泳ぐ気がないのかもしれない。

 するとすぐさまその背後で唯李がぼそっとつぶやく。


「……泳いだほうがいいんじゃないんですかね、白豚みたくなる前に」

「今なんか言った?」

「いえ何も」

 

 唯李が黙ると、慶太郎が笑顔で揉み手をしながら、

 

「いや~でも、マジ最高っす! 眼福っす!」

「あら~そうかしら~?」


 ここぞとばかりに持ち上げていくので、悠己もすかさず、


「いや~そうそう、まだまだイケますって」

「余計な修飾語がついてるみたいね」

「まだイケますって」

「黙ってたほうがよかったかしらね」


 悠己だけ咎められる。うまいこといかない。

 真希はくるりと後ろを向くと、こそこそ影に隠れるようにしていた唯李の腕を引いて、ぐいっと前に引っ張り出す。


全自動煽り砲台

放題とかけてますので下の☆でどうぞ

手が滑ってその下から本買ってもらっても大丈夫ですよ☆

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 笑顔で難しい本かしてくる図書委員の人が2巻の新キャラだと思ってました。 [一言] 2日で最初からここまで読んじゃいました 面白かったです 続き待ってます
[良い点] 車降りて荷物降ろしておくので後で合流しましょうと言って先に降りなかっただけ有情
[一言] 煽り能力高すぎて草
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