妹キラーの人
「あの……今日わたしゲーム持ってきたんです。成戸さんと一緒にやろうと思って」
何か仲良くなれる方法はないか、ということで事前に相談をした結果、偶然にも小夜は瑞奈と同じゲームをやっていることが発覚。
それで今日、ゲーム機ごと小夜が持って来るという話になっていたのだ。
「瑞奈、ゲームだってほら。ぶつぞうの森瑞奈もやってるでしょ」
「ぶ、ぶつ森~? あ、あれはもう飽きたかなぁ~って」
「昨日ずっとやってたでしょ」
飽きるどころか絶賛どハマリ中のはず。
悠己がそう言うと、唯李も何か察したのかすぐに乗っかってきて、
「あれってネットにつないで他の人の森荒らしたりできるんでしょ? わ~見た~い」
「……裏切ったなちゃんゆい」
「ん? 何が?」
瑞奈の恨めしげな視線も気にもとめず、唯李はテレビ脇に置いてあった携帯ゲーム機を持ってきて瑞奈に差し出す。
そしてさあさあどうぞどうぞと瑞奈の背中を押し、無理矢理に小夜の隣に座らせた。
瑞奈はかなり居づらそうに視線を泳がせながら、
「って言ってもなぁ~、実際ぶつ森は誰かとやるゲームじゃないから。最後は自分との戦いですよ」
「ふ~ん? じゃあみんなでマスブラやろうか。今日こそは……」
「ダメです。ぶつ森やるんですから」
唯李が言いかけたとたん、小夜が鋭い声で横から遮った。さらにじろっと唯李を睨みつけていく。
その豹変ぶりに「へ?」という顔をした唯李は、適当に愛想笑いを返すとなぜか悠己のほうに逃げてきて、こそこそと耳打ちしてくる。
「……ねえねえ、なんかみんなあたしにだけ不機嫌じゃない?」
「まあ、そりゃ邪魔しようとしたらね」
「しかもなんか怖いんですけど……」
腰が引けている唯李を尻目に、なんだかんだで瑞奈は小夜とともにゲームを始める。
「わ、廃仏毀釈イベントです。あらくれ坊主で撃退しよう」
「ふっ、初心者丸出し……。防衛は強化僧兵一択」
マウントを取れるとわかるや、瑞奈もまんざらでもなさそうにゲームをする。やはりゲームを選んで正解か。
なかなかいい感じかも……と悠己が思った矢先、唯李が二人の間に入るようにしてゲームを覗き込んで、
「どんな感じ? 見せて見せて~」
「あの、邪魔しないでもらえます?」
「……え? あ、はい」
小夜に怒られている。
唯李がまた悠己のもとに戻ってきて、
「……あれ? あたしまた何かやっちゃいました?」
「空気読みなよそこは」
前もって仲良くなる計画を立ててきたのを、ポッと出の空気読めない女にぶち壊しにされたらそうなる。
ただそれにしてもちょっと小夜の口調がキツいような気もしたが、まあ唯李だし、で悠己は納得する。
それでやめておけばいいものを、唯李は懲りずに小夜に接近していって、
「やーしかし、速見くんの妹さんかー。言われてみると顔もどことなく似てるような……さすが兄妹だね!」
「……ハア? どこが似てるんですかね? 寝言は寝て言えって感じですよね」
小夜はゲームに目線を落としたまま、唯李のほうを見ようともせずにぼそりと言う。
唯李はぎこちなく笑ってごまかしたあと、またも悠己のほうに逃げてきた。
「……ね、ねえ? 今なんかすごい暴言吐かれた気がするんですけど? ちょっとビックリしてるんですけど?」
「うん、まあ今のはちょっと地雷踏んだかも」
「じ、地雷? 速見くんが? そ、それにしてもやっぱりなんか怖いんですけど!? そのうちナチュラルに『死ねば?』とか言われそうで怖い」
唯李はおろおろと徐々に取り乱していく。
それでも何か譲れないものでもあるのか、
「や~でも、今日手ぶらで来ちゃったからな~。なんか買ってこよっかな。暑いしアイスとか……」
などと言いながら、唯李はしつこく小夜のほうをチラチラし始める。
「さ、小夜ちゃんは、アイス食べる~?」
「結構です」
ついに物で釣る作戦に出たようだが、ピシャッと断られている。
すると代わりにその横で瑞奈が、
「じゃあ瑞奈はあのちょっとしか入ってないけど高いやつね」
「キサマにおごるとは言っとらん」
この態度の落差。
だがすかさず小夜が唯李を睨みつけて、
「……あの。そういう言い方はどうかと思います」
「え、えっ?」
「キサマとかじゃなくて、瑞奈姫ですから」
瑞奈姫。
眠り姫だったはずがなぜか普通に姫になっている。
「み、瑞奈姫? って呼ばれてるの……?」
「そうです。学校では眠り姫ですから」
「へ、へ~。瑞奈ちゃん学校でお姫様なんだ。すごーい、くすくす」
「頭が高いぞ平民」
瑞奈が傍らに置いてあった小さいクッションでボフッと唯李を叩くと、唯李が負けじとテーブルに置いてあったうちわで瑞奈の顔面に向かって風を送りつける。
たて続けにクッションで殴られつつも、平民が王族を激しくうちわで扇ぎだしたので、悠己が横合いから待ったをかける。
「ちょっと、ふざけるなら外でやってくれる? 掃除したばっかでホコリ飛ぶから」
「はいはーい。あーあ、悠己ママに怒られちゃったよ」
「お掃除大変なのに、そうやって茶化すのはやめたほうがいいと思います」
「あ、はい……」
またも小夜に怒られる唯李。さっきからやることなすこと裏目に出ている。
これみよがしに小夜に大きくため息をつかれた唯李は、またも悠己のそばに逃げてきて不安そうな顔を寄せてくる。
「……ね、ねえ、あたし、ここに来てからあの子にそんな嫌われるようなことした? 第一印象とかなにか不備ありました?」
「いや知らないけど……。言動がいちいちイラっとするんじゃない? 言葉遣いも悪いし。それか顔とか声とか、もしくは存在そのものが」
「徐々に全否定かよ」
そう言いながらも唯李はどうにも落ち着かない様子。
やけに弱気になっているのがおかしくなって、
「なんか唯李がおろおろしてるのも、新鮮な感じがしてかわいいね」
「え、今? 今ときめいちゃった? あいかわらずかわいいセンサーぶっ壊れてんな」
「いやでも唯李って、誰とでもすぐ仲良くなってるイメージだけど……なんか調子悪い? やっぱり今は隣の席キラーじゃないから?」
「だ、だからそれはねぇ……そうかもしれないけど、実際そんなことないのよ? ね、ねぇねぇ、どうすればいい? ちょっと教えてよ妹キラーの人」
「何それ」
「妹には妙に強い人」
そうやって勝手に変な属性をつけるのはやめてもらいたい。
ゴチャゴチャ言いながらも唯李は妙に必死なので、とりあえず思いついたアドバイスをしてやる。
「ならあれでいいじゃん、あのネタ帳とか、お得意のギャグで」
「あ、そっか! それな、それよな!」
「すべり芸で」
「なんで言い直した?」
唯李は凄んでみせたあと、持参したバッグに手を突っ込んで、毎度おなじみのネタ帳を取り出す。
悠己が「本気でそれやるの?」という顔で見ていると、
「これはいつものネタ帳とはワケが違うから。創作ネタ帳よ」
などと自信ありげにわけのわからないことを言いながら、唯李はペラペラとノートをめくって小夜に近づいていく。
「ねえねえ、ちょっと見て見て~。かわいい女の子たちのほのぼの日常系ギャグ4コマだよ~。あたしが考えたの~」
ゲームをやっているところを遮り、唯李がすっと小夜の前に開いたノートを差し出す。
小夜はしばらく無言でノートを眺めていたが、やがて顔を上げると、にこっと笑いながら言った。
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よろしくお願いいたします。