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TempusObserver  作者: 九十八 九十九
6/6

夢に巣食う蟲

私は暗闇の中で目を覚ました


突如として現れた黒い怪物を両断した真っ黒な少女

彼女はまるで薔薇のように鋭い目をしていた

彼女は今どこにいるのだろうか

いや、まず私はどこにいるのだろう…

頭が混乱している…今の状況すらよくわからない

見えるものは果てもない暗闇だけだった

その暗闇の先から微かにミシミシと何かがしなる音がしている

それは古いベッドが鳴くような品のない嫌な音だった

空気もジメジメとしていて呼吸がしづらい

薄気味悪い感覚だ

冷静にならなくては…


まずはここが何処なのか

それを探ろうと真っ暗闇に手を伸ばして気がついた

指の触れた感触は湿った布のような感触の壁だった

ここは「果てのない暗闇」ではなく「小さな暗闇」だと言う事に

私はどうやら何か体がすっぽりと収まるような物に入っているようなのだ

ここから出なくては…私はカバンからナイフを取り出し私を包むなにかに突き刺す

湿った壁は柔らかく、ナイフが刺さらないわけではないがなかなかに切りづらい

少しずつ少しずつ壁を切り進めていくとナイフから貫通した感覚が伝わってきた

よし、上手くいった

私はそのまま貫通した小さな穴をグイグイと切り開いていきやっと私を包む物から上半身を出す事に成功した


「小さな暗闇」の外にはまた暗闇があった

なにも見えない、私はカバンからジッポーを取り出し火を灯した

こんな拙い灯だが闇の中でもがいていた私からしたら太陽のように眩しく見えた

その眩い光のせいか、はたまた暗闇を見つめすぎたせいかまだ視界がボヤけはっきりとは物が見えない

私は自分を包んでいたものを照らしてみる

どうやらそれは何かの繊維のようだった

ただそれは人が編んだ幾何学模様のようなものではなく子供の落書きのように乱雑に編まれたものに思えた

さっきの嫌な音はこのロープがたわんだ音のようだった


視界が少しはっきりしてきた私は今度は辺りに光を向けた

先程は太陽のように思えたこの炎がただのジッポーの火だと言う事を実感するほどこの暗闇は広いらしい

どこまでも暗闇が続いているようだ

しかしよく見ると足元には何か太いロープが張り巡らされてる事に気がついた

絞首刑で使われるような太いロープのような物が延々と続く暗闇の先まで絡み合っている

何故だろうか、そのロープが絡み合って作り出している形には何か見覚えのある気がする

なんだっただろうか…全体を見渡せばわかるだろうか

私の入っていた丸い器から身を乗り出し辺りをみる

するとロープの上には私が入っていた丸い繊維の塊のような物が点々と並んでいる事に気づいた

しかしそのほとんどは壊れているように見える


これにも人が?じゃあ皆これから出ることに成功したのだろうか

…いや、違う

その塊の残骸は「内部からこじ開けた」というよりは

「外部から引き千切られた」ような形でそこにあった…

それを見た私の頭の中には最悪なイメージだけが曖昧に浮かんでいた

ギシギシのロープがあげる悲鳴が余計に恐怖心をあらだてる


…そうだ、彼女はどこにいるのだろうか

彼女を探さなくては…私はまた辺りを見渡す

すると残骸の中にまだ壊れていない塊を見つけた

もしかしたらあの中に、そう思ったその時だった

その塊の向こう側の暗闇が少し動いた

なにか…居るのか…私は拙い灯に照らされる闇を見つめる


そして私はそれを見た、そこに立つ巨大な影を


眼前の恐怖を理解し、私は自分のいる場所がわかった


ここはあの生き物の巣だ


入っていた塊は繭だ…獲物を捕らえておく繭


私は悲鳴を必死に噛み殺した

気づかれてはならない

一刻も早くここから逃げなくては…鍵を使って今すぐにでも…


だがあの壊れていないあの繭に彼女が居たら…

私は息を殺し、気配を殺し、恐怖から目を背けたがる弱さを殺し、繭へと向かう事を決めた


子供の腕ぐらいの太さの足元を這いずりながら塊へと進んでいく

音を立てないように、ゆっくりとゆっくりと

巨大なあの生き物が少し動くたびにギシギシとロープのように太い巣の糸が悲鳴をあげながら波打った

繭にやっとの思いでたどり着いた私はすぐさまナイフで繭を破った

やはりそこには彼女が眠っていた

真っ黒な衣服を着た彼女が安らかな顔して眠っていた

初めて彼女の顔をしっかりとみたがまだ年端も行かない少女のようにみえた

その少女の服の間から見える無数の傷跡が彼女の底知れない何かを物語るかのように思えた


私は彼女を繭から引っ張りだすとすぐに鍵で扉を開いて彼女を抱えてそこから立ち去ろうとした

その瞬間ギシギシと鳴り続いていた音が急に止んだ


見えないという事はとても恐ろしい

知らないという事は恐怖を助長する

私はその恐怖に負けゆっくりと後ろを振り返った


そしてそれと目があった


それの全貌が扉の放つ強い光で浮かび上がる

巨大な黒い体

無数に生えた巨大な足

その奥に怪しく光る

血のように赤い無数の複眼

どこをみているかなど分からないような気味の悪い目

だがこちらを見ている事ははっきりとわかった


その怪物は口に血で真っ赤に染まった繭を咥えながらこちらを睨みつけていた


end




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