「お留守番」
南極大陸にあった得体の知れない怪異
「それ」にただならぬ危険を感じた私は鍵を使い次の行き先へと移動した
光の扉を抜けたその先は枯れかけた木々の立ち並ぶ森だった
この鍵は不可解な物を引き寄せる
次はどんな奇怪な物が待っているのか…期待と不安を入り交ぜながら私は寂しげな森の中を歩いて行く
すると小さな村にたどり着いた
建物の外観などを見るに私が生まれた時代に近い所に来たらしい
しかしすぐさまこの村の異質性に疑問を覚えた
まだ昼間だと言うのに村に人の姿が全く見えない
いや、もっと言うならば生き物の気配が全くしないのだ
村のあちこちに人々の生活の痕跡は見えるのだが誰も居ない
まるでここから人々だけが抜け落ちたようだった
静かに吹く冷たい風と自分の足音だけが聞こえていた
すると後から幼い声が私を呼び止めた
そこには1人の少女が立っていた
歳は恐らく10歳ほどの白い服を着た長髪のその子は「旅人さん?」と笑顔で私に話しかけてきた
そうだと伝えると彼女はやけに嬉しそうに私に駆け寄って来て「疲れてるだろうからうちで休んで行きなよ」と私の上着の袖を引っ張って歩き出した
だがなぜこんな子供が1人でいるのだろうか
両親は今どこにいるのだろうか
そんな質問をする間もなく半ば強引に彼女の家に招待された
彼女は私を椅子に座らせて「お紅茶入れるわね」
と言ってスキップしながらティーポットを取り出し始めた
私は先ほど聞きそびれた事を尋ねると
彼女は少し静かになった
その彼女の後ろ姿はとても寂しげに見えた
私は余計な事を聞いたかと動揺したが彼女はそのまま話し始めた
彼女の話しによると村人も両親も皆ある日突然居なくなってしまったらしい
なぜだい?と尋ねても彼女はわからないと言っていた
だから彼女は皆の帰りをここで1人で待っているのだそうだ
彼女は紅茶を2つのティーカップに入れて私いるテーブルに置き、私の目の前に腰をかけてさらに話しを続けてくれた
彼女の両親はどうやら研究者だったらしい
元々はもっと大きな街で「永遠」を作る研究をしていたのだとか
そんなある日彼女はとても重い病にかかってしまった
どんな医者にも治す手段がないと言われるほどの重い病だったらしい
この村に越して来たのも都会より田舎の山奥の方が彼女の体に良いと考えたからだ
しかし病状は回復せず悪化する一方だったそう
そんなある日両親は彼女の病を治すために「実験」のような事を始めたらしい
「実験」は彼女がベッドで眠っている間に行うため内容は彼女もよくわからないようだった
その「実験」は何度も行われたらしい
愛する我が子を救うためだ
両親も必死だった事だろう
ある日「実験」が終わって彼女が目を覚ますと
普段なら「おはよう」と言ってくれる両親は居なくなっていたのだと彼女は言う
そして村人も皆居なくなっていたのだと
しかしそのかわりに彼女の体は以前のように健康そのものになっていたのだとか
それから彼女はずっと両親や皆の帰りを待ち続けているのだそう
いったい両親や村人はどこに消えたのだろうか
そして「実験」とはいったいどんなものだったのだろうか
私は彼女に「実験」が行われた部屋を見せてもらう事にした
そこには大きなベッドと本棚があり沢山の医学の本が並んでいた
そして私がその本棚の端にあった古い本を手にとった時彼女が言ったのだ
「そうだ、不思議なの
みんなが居なくなっちゃった日ね
村中に赤いペンキが塗られてたんだよ」
私は手の震えを隠しながら手に取った「屍食教典儀」と書かれた本を彼女に見えないように棚に戻し
この村を去る事をきめた
end




