コードネーム『プリズム』1
心地よい春の風とめでたき日のために生命力の限りを燃やし、綺麗な花を満開に咲かす桜の木に見守られる中入学式をを終え早四日、朝一番から騒がしい。
「何故なんだー」
教室に入るなり馬鹿の西山が頭を抱えながら俺の前まで来た。
「何だよ朝一からうるせーな」
「聞いてくれよ。隣のクラスの女子に告ったらあっさり振られちまったんだよ」
「でさぁ下北、昨日もフレッチャーがチョー面白くて」
「っておい、無視か。無視ですか。頼むから聞いてください」
こいつの馬鹿話は長くなりそうだから無視して隣の席の下北に話をすると、以外といい突っ込みを入れてきやがった。
「しゃーねぇーな。わかったよ。お前が告ったやつ見に行くぞ」
「何でそうなるんですか。なぐさめてやろうとか思わないのですか。傷をさらに広げるのですか」
こいつはおちょくり甲斐がある。
「ひょっとして噂の美人に告ったの?」
不意に下北が話しに割って入る。
「そうだよ。悪いか。だってすげぇ可愛いんだもん」
「トウマ、相手わかった。早速見に行くよ」
相手がわかった下北は、それを阻止しようとする西山をいなして、俺を教室から引っ張り出した。
取り残された西山は目で何かを訴えていたが、俺は笑顔でそれに答えてやると机にしおれるように突っ伏した。
ちなみにこの西山と下北は入学してすぐに意気投合した初めの友人だ。
「あの子だよ。窓際最後尾の子。少し様子が変なようだけどね」
下北が指差したほうへ目をやるとえらい美人がそこにいた。
薄い茶色に染めた肩より上で切り揃えられたショートヘアが整った顔を覆っている。そして何といってもあのパッチリとした垂れ目が彼女の可愛さをぐっと引き立てている。西山にはもったいない。だが何かが引っかかる。何とも言えない違和感を感じる。
違和感を感じると言えばこの教室。何故かみんな怯えながら一点を見ている。
窓側最後尾の席をクラス全員が見ている。その視線の先にはチョーS級美女がいる。
そして......いかつい兄さん達が三人。
「下北、あれはどういうことかね」
「だから様子が変って言ったんだよ。多分あれは恐喝に近い告白を受けてるんだろう」
冷静に答える下北は哀れむような目をして彼女のほうを見ている。
「無視してんじゃねぇよこの野郎」
喧騒と共にガシャンと椅子が音を立て、女の子は一人の生徒に腕を引っ張られ強制的に立ちあがらされた。
「おい下北これはまずいから先生呼んでくる」
俺は騒ぎを早く鎮めてやろうと職員室へ足を向けようとした時、一瞬彼女と目が合った。
パッチリした垂れ目。パッチリした垂れ目?
待てよ。これはもしかしてそうなのか。
もう一度確認する。やっぱり垂れ目。そして茶色の髪。あれを黒にしたら。
さっきの違和感が全てとけた。俺はあいつを知っている。もし本当にあいつだとしたら......やばい。
俺は危険を察知して彼女の方へ走った。
今にも殴りかかりそうな男子生徒を彼女は無表情で見ている。
席を掻き分けやっとの思いで現場に到着した俺は真っ先に女生徒を掴んでいる手を振り解いた。
「大丈夫かハナ」
「ひょっとしてトウマ君?」
この言葉で確信を得た。こいつはずっと俺のライバルだった水樹華だということを。
「お前何やってんだよ」
さっきまでハナを掴んでいた男子生徒が俺の顔面めがけて拳を振り上げた。
えっ、ちょっと、それは反則でしょっと思いながらも俺は軽くかわし、そのまま一発腹に蹴りを入れてやった。すまない、女にのされるよりは格好がつくでしょ。
加減はして蹴ったつもりだが思ったよりも効いたらしく、男子生徒は膝を床につき、腹を抱えて動かなくなった。これで一件落着だな。はぁっとため息をひとつ吐き、ハナのほうへ振り返った瞬間、ハナは俺を左手で強く弾いた。
あまりのことに俺はバランスを崩しそのまま床にお尻をついた。
と同時にさっきまで立っていた残りの二人が俺の横へぶっ飛んでくる。
何じゃこりゃ。状況把握に少々の時間を有した。
やっちまったなハナ。
「こいつら二人がかりでトウマ君を殴ろうとしたから咄嗟に......」
少しはにかんだ笑顔を俺に向ける。昔と変ってない。手加減がない所といい、その笑顔の可愛さといい全てが昔と一緒だ。
「久々の再会がまさかこんなかたちとはな」
「笑えるね」
クラス全体がきょとんとしていた。この後どうっすかなぁ。考えただけで疲れるぜ。
いつの間にか三人組もいなくなっていた。
まさかハナが同じ高校とはな。まぁ何がともあれ少し面白い高校生活になりそうだ。
時計は八時三十分を指しかけていた。
「やっべ、授業始まる。教室戻るわ」
「じゃ、またね」
急いで教室を出ると下北が何か怪しい笑みを浮かべて待っていた。
そしてもう一人、俺のほうを見て何か不敵な笑みを浮かべる女生徒が、目が合った瞬間にものすごい勢いで逃げ出した。
何だあの人?
気になりつつも俺は下北から質問責めに合いながら教室へ向かった。
思えばこの事がきっかけだったのだろう。
俺の明るい高校生活がある一人の人物によって奪い去られることとなったのは。
作者の双葉です。お見苦しい小説ですみません!!ここの流れは早く終わらせたかったので少し強引な文章になってしまいました。




