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最弱作家の異世界ベストセラー  作者: 亜蜜絵乃
1/3

プロローグ

「……死んだな、俺。」



暦縫陽木れきぬいようきは、ついさっき始まった第二の人生の幕を、早くもおろしかけていた。

陽木の目の前には、空想上の生き物であり、絶対的な力を持つと言われる「竜」にしか見えない生き物が、威厳あふれる姿で、降臨していた。

ーそしてその目は、どう考えても命乞いの通じるようなものでは、なかった。



ーーー



「……おい……これは幻覚か…?」


時は数時間前に遡る。陽木はパソコンに示された「閲覧回数0回」という文字列を、忌ま忌ましそうに睨んでいた。

これはおかしい、どう考えてもおかしい、ありえない。陽木は心の中で何度も繰り返した。だが何度瞬きしても、目に入ってくる数字は変わることはない。陽木は世界が終わったような、そんな顔でもう一度じっくりとパソコンを見つめてから、大きなため息をつき、座っている椅子の背もたれに大きく寄りかかる。


「……クッ……ソぉぉぉぉ……。」


陽木は悔しさと怒りを噛み殺したような口調で、そう言った。本当は全力で叫びたかったのだが、下の階にいる母親に殺される未来が見えていたので、理性が叫ぶのをストップさせていた。

心の中でいくら叫んだとしても、現実は変わらないし、お気に入りのカップ麺でも買いに行くか。と、なんとか気分転換しようと、近場のコンビニに行くための準備を始めた。


ーーー


暦縫陽木は、この世に生を受けて16年。特に何事もなく、言って仕舞えばどこにでもありふれた毎日を送っていた。容姿は、一人くらいは詐欺に引っ掛けてそうな目付きと、無駄に伸ばされた真っ黒な前髪以外に特徴的なものはなく、極端に良くも悪くもない、と言ったところだ。頭の出来もそこそこで、平均レベルを綺麗になぞるような感じである。友人関係はそこそこで、スクールカースト中間くらいの小さいグループに、なんとなく所属している。

こうして見てみると、平凡ながら幸せえそうな生活を送っているように見えるが、陽木は、そんなこと自覚していなかった。


「はぁ〜、どっかに文才でも落ちとけよ。」


陽木は、そんな独り言を呟きながら石を蹴った。

陽木の目先の悩みは、自分の連載しているウェブ小説の、人気が全くないことだった。趣味の延長として始めてみた創作活動だったが、いくら書いたところで、誰もみてくれないし、なんの評価もしてくれない、それが現状だった。ファンどころかアンチもない虚しい現実を、陽木は小説を更新するたびにしみじみと感じていた。


「まあたかが高校生に、書籍化レベルのラノベなんて書けるわけねーか。」


自嘲気味に下を向きながら、陽木はそんな言い訳を呟いた。


ーーー


「ありゃーとーございやしたー。」


やる気のないコンビニバイトの挨拶を耳の隅で捉えながら、陽木はさらなる絶望感に襲われていた。

陽木のお気に入りのカップ麺は、新製品によってその姿を消していた。


「なぁ神よ、なぜお前は俺に不幸ばかりを与えるんだっ……」


誰にも聞こえないように呟いたつもりだったが、すれ違ったおっさんに小さく笑われて、陽木の気分は、落ちるところまで落ちた。


「クソが…。」


年寄りレベルの猫背で歩く陽木。不機嫌オーラを全面に撒き散らしていた。今の陽木には、帰ったらどんな風に枕に八つ当たりするか、ということしか考えていなかったが、ふと、かなり前を走るトラックに、違和感を感じた。


「え?あれ危なくね?」


そのトラックは、妙に左右に揺れながら走っていた。居眠り運転か、飲酒運転か、どちらにしろかなり危ない状況であることを陽木は察知した。陽木は心底、早く俺の前を安全に通り越して、事故るならどこか俺の知らないところで事故ってくれ、と思っていた。

ーだがその思いは届くことはなかった。トラックは少し反対車線に曲がってから、大きく曲がり、陽木の目の前で事故ろうとしていた。だが、そこには幸い人はいなかった…

ーなんてことはなく、トラックの向かって行く先には、高校生くらいの少女が、今にも轢かれそうになっていた。


「おい危っ…。」


そう口にすると同時に、陽木の足は地面を力強く蹴った。足は、陽木が頭で考えるより先に、動いていた。少女を助けるために、トラックの前に飛び出していた。

陽木の必死な表情と、向かってくるトラックに驚きの顔で、動けなくなっている少女、陽木が少女の背に触れ、突き飛ばそうと腕全部に力を集中させた瞬間に、

ー陽木の意識は完全に途切れ、暦縫陽木の人生も、終わりを迎えた。



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