『みょうがの忘れ物』
『みょうがの忘れ物』
太陽がさんさんと照らす通学路に見慣れぬ物が落ちていた。近付いてよく見ると、それはみょうがだった。そう、あの薬味のみょうが。
何故こんな道の真ん中に落ちているのだろうか。俺は通学途中であることを忘れて、しげしげとみょうがを観察し始めた。
新鮮なみょうがだ。まだ痛み始めていない。ということは買い物帰りに誰かが落としていったのだろうか。いや違う。この辺りのスーパーはまだ開店していないはずだ。ということは、これは昨日落とされた物なのだろうか。それにしては新鮮で綺麗過ぎる。採れたてみたいだ。やはり、誰かが早朝に落とした物だ。
では何故、道にみょうがが落ちているのだろうか。
鳥が咥えていた物を落とした可能性がある。誰かの弁当箱から転がり落ちた可能性も捨てがたい。待てよ、冷凍されていたみょうがが太陽光で解凍されたのかもしれない。それならばこの新鮮さも納得だ。
俺は時間も忘れてみょうがの観察を続けた。道行く高校生たちが俺のことを奇異の目で見てくる。なんでこいつらは俺のことを見てくるんだ。早く学校へ行けよ、まったく。
みょうがを持ち上げてみると、その独特な香りが鼻を通り抜けた。
俺はみょうがが好きだ。素麺に天ぷらに……あとなんだっけ。
そもそも、なんで俺はこんな所に居るんだ。なんでどこかの学校の制服を着ているんだ。なんで……なんだっけ。
そもそも俺は誰だ。人間なのか、みょうがなのか。
そもそも人間ってなんだ。
みょうが
みょう
みょ
み