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野菜や果物についての短編集  作者: 紅茶やもり
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『イチゴジャム』

 『イチゴジャム』


 毎年恒例のあいつがやって来た。アメリカ産のイチゴだ。

 この時期になると、アメリカに単身赴任している父からイチゴが届く。

 イチゴは高いから買えない、と電話口に零したら、その年から大きめの箱にギッシリと詰まったアメリカ産のイチゴが送られてくることとなった。

 届いた当初は嬉しかったけど、中を確認して、まあびっくり。なんと半分くらいが傷んでいた。腐っていたり、カビていたり。しばらくの間、生ゴミから甘ったるい臭いがしたっけ。

 食べても大丈夫そうなものを選り抜き、念の為によく洗ってからパクッ。あんまり美味しくない。確かにイチゴではあるけれども、日本産のものと比べたら大味というか何というか。

 シリアルを食べる時に入れたり、牛乳や練乳をかけて何とか消費し、父には凄く美味しかった、と電話する。ああ、こんなこと言ったら来年もまた届くな、と思ったら案の定再び届き、今年はどうやって消費しようか、と無い知恵を絞る。

 牛乳と砂糖を混ぜてイチゴミルクでも作ろうか、そう考えた時、ふと、台所の隅に置いてあるものが目に留まった。

 ジャムの空き瓶。そうか、ジャムを作れば良いんだ。思い立ち、私は台所へ向かった。

 意気揚々と台所へ向かったのは良いけれど、イチゴジャムの正しい作り方が分からない。普段料理を作らない私を呪う。ネットで調べようかとも思ったけれど、そうしたら、何だか負けなような気がするので調べない。料理は目分量、と母は言っていたし、適当に作る方が性にあっている。私は何も参考にせずにジャム作りを始めた。

 とりあえず鍋にたっぷりの水を入れ、そこにイチゴを投入して煮始める。十数分後、煮イチゴが出来た。美味しくない。

 諦めて、私はネットで作り方を調べた。そうか、砂糖とレモン汁を入れないといけないのか。イチゴジャムのあの甘酸っぱい味はイチゴだけで出るものではなかったのだ。

 改めて鍋を用意し、カットしたイチゴを入れ、砂糖をドカッと入れる。それとレモン汁を少し。そして、しばらく放置。すると、イチゴから水分が出てくる。そうしたら鍋を火にかけてコトコトと煮ていく。

 鍋から甘い香りが立ち昇り、私の心は幸福感で満たされ、私の舌は甘酸っぱいあの味を求めた。

 ふと魔が差し、私は銀色に輝くスプーンで鍋から赤く煌めく蕩けたイチゴを掬い取り、口へと運び入れた。

 熱い、熱い、熱い。慌てて水を飲む。火傷してヒリヒリとした味覚だが、甘酸っぱさを伝えてくれた。うん、美味しい。

 何だかまだ水分が多い気がしたので、さらに煮詰めてから、鍋を火から下ろした。

 十分に冷めたので、イチゴジャムを空き瓶に入れようとしたのだけれど、カチカチに固まった鍋の中身はそう簡単には掬い取れない。どうやら水分を飛ばし過ぎてしまったらしい。

 こうして、私の初めてのジャム作りは失敗に終わった。鍋の中身はイチゴ味の飴だと思って食べることにした。まあ、これはこれで美味しい。

 父は来年もイチゴを送ってくるだろう。そうしたら、今度こそ、美味しいイチゴジャムを作ってみせる。私は心の中で誓った。

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