『ミニトマト戦争』
『ミニトマト戦争』
「こちら、アイコ26。本部聞こえるか?」
「こちら本部。ああ、よく聞こえてるよ」
アイコ26は目前に広がる状況を報告していた。
「キャロル軍はクイーンを長として、ピッコラルージュ、ピッコラカナリア同盟の領地へと侵攻している」
「トスカーナバイオレット軍の動きはどうか?」
「あいつらは依然として領地に立て篭ったままだ。いつも通り、他が消耗した後に出てくるんだろうぜ」
ミニトマトたちは自らの領地を広げるために戦争を続けていた。領地が広がれば、その分人間の目に付きやすくなり、購入される確率が高くなる。
「本部、そういえばアイコ24は何処に居る? 最近会ってないんだが」
「アイコ24は……死んだ」
「何だって!?」
「あいつは誰よりも勇敢に偵察を行った。その結果、日差しにやられ、中身をぶち撒けて感染症で死んだよ」
任務は過酷だった。何名もの犠牲者が出た。しかし、この戦争に勝つまで任務は続く。
「そうか、奴は死んだのか……」
「アイコ26、今は任務に集中しろ。お前まで失いたくはない」
「了解……」
偵察を続けるアイコ26。その目に涙は浮かべない。浮かべば、そこから黴るから……。
突然の轟音にアイコ26は咄嗟に身を伏せた。そして、周囲が落ち着いたのを確認し、音の方向を確かめた。そして、驚愕した。
「本部、本部! ――クソッ聞こえないのか! おい本部!」
本部の方向から酸っぱい匂いが漂って来ていた。トマトジュースよりも酸っぱい、どこか饐えたような匂い――仲間の血の匂い。
空を見上げると、見たことの無い新手のトマトたちが次々と本部の辺りへと空挺降下を行っていた。
「クソッ、俺はどうしたら……!」
立ち上がろうとしたその時、後頭部に銃口を突き付けられる。
「動くな、我々はプリンセスロゼ親衛隊。既に本部は制圧させてもらった」
女の声だった。アイコ26は手を上げながら振り返った。
プリンセスロゼ親衛隊の隊員は全員がロゼ色の宝石と例えるべき美しさだった。しかし、その実力は本物であり、アイコ軍は瞬く間に包囲され、降伏した。運良く逃げ延びた者たちはレジスタンス活動を行っているが、制圧されるのも時間の問題だった。
アイコ26は捕虜となり、過酷な拷問を受けていた。身体中から体液を流し、所々には黴が生え始めていた。
「俺は……もう駄目かもしれないな……」
目を閉じ、運命に身を任せようとしたその時、立て続けの爆発音と共に遠くでプリンセスロゼ親衛隊の呻き声が聞こえてきた。
霞む目を開けると、黄色い軍服に身を包んだ女性が立っていた。
「遅くなりました。我々は特殊部隊イエローアイコ。あなたを助けに来ました」
終戦を告げるラジオ放送をアイコ26は病室のベッドの上で聞いていた。
特殊部隊イエローアイコの活躍により、アイコ26は後方の病院へと搬送された。何とか一命を取り留め、英気を養う日々を送っていたが、傷が癒えるよりも早く、戦争は終わった。
アイコ26が伝え聞いた話によると、逃げ延びたアイコ軍は秘匿していた新兵器フルティカを用いてプリンセスロゼ親衛隊を蹂躙、そのまま敵本国を占領してしまったらしい。
アイコ26はあの時のイエローアイコと共に故郷へと凱旋した。
――そして、終戦から三日後、アイコ26はその生涯を終えた。その傍らには、干乾びたイエローアイコが居たという……。