『ピーマン男』
『ピーマン男』
ある朝、目覚めるとピーマンになっていた。正確に言うと、頭が巨大なピーマンになっていた。頭頂部からヘタが伸びている。
何故、俺はピーマンになってしまったのか。あれか、ピーマンの恨みでも買って、呪いをかけられたか? そういえば、昨日の夕食はチンジャオロースーだった。じゃあ、あれか、細切りにされたシャキシャキピーマンの恨みなのか? いや待て、調理したのは妻だ。だったら、呪われるのは妻なんじゃないか? ――ああ、なんてことを考えているんだ俺は!? 妻のあの美しい顔がピーマンになったら大変だ。人類共通の宝がこの世から失われるようなものじゃないか!
焦るな、俺。まずは冷静に状況の確認だ。今日は日曜日、会社は休みだ。ということは外に必ず出なくても良いということだ。――ああ、しまった。今日は床屋に行く予定だった。――待てよ、今の俺には頭髪は生えていない。生えているのはヘタだけ。――そうか、妻に切ってもらえば良いのか。料理上手な妻ならば、ピーマンのヘタを切ることなど造作も無いはずだ。
その時、妻が部屋に入って来た。そして、俺のピーマン頭を見ると、表情が二転三転し、涙を流し、蒼白になり、口から声にならない声を出しながら走り去って行った。
俺は慌てて追いかけようとしたが、巨大なピーマン頭になったせいで、自らの身体のバランスが分からなくなっていた。転倒し、頭を床に強かに打ち付けた。頭皮、いやピーマンが割れ、青い香りと共に中身――種やワタ――が飛び出した。
緑色だったピーマンは赤くなり、甘くなったが、誰にも食べられることはなかった。――俺は死んだ。