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第7話 『奮起とエゴ』

「来週はもう月末です。月末から校内戦のシーズンに入ります。校内戦は自由参加ですが、特に一年生にとっては己の立ち位置を示す良い機会ではないかと思います。≪ホーリーフェスタ≫を意識するのも良いと思います」


 放課後前のホームルーム。

 担任の先生が校内戦についての告知をしている。

 校内戦とは学年内での実力差を早期に実感し、今年の≪ホーリーフェスタ≫に向けての課題を明確にするためのもの。


「来週末は二年生が校内戦を行います。その次の週に、一年生の校内戦を行います。二年生の戦いは参考になると思うので、是非見学してみてください。それを見た後で、参加を決める事も可能です。では、今日のホームルームは終わります。詳しい事はまた後日説明する事になりますが、すでに参加しようと考えている生徒は私に聞いてください」


 それで先生が教室を出ていった。

 先生がいなくなった教室では、校内戦についてクラスメイトが話し合うためにざわざわとし始めた。

 それは私の周りも同じ事で、


「葵、校内戦には出るっすか!」

「そのつもりよ」

「そうっすよねー。もちろん、うちも出るっすよ!」


 まず、騒がしい女の子がやってくる。


「葵ちゃんが出るんだったら、私も出るよ!」


 次に明るい幼馴染。


「もちろん、私も出るよー。お兄様にカッコいい所を見せないと!」


 そして、優しげな女の子。


「皆が出るなら、私も出るわ。自分の実力も試してみたかったから」


 最後に真面目な女の子。


 なぜか、私の周りに集まってくるのよね。

 こんな事なかったはずなのに、どうしてかしら?


「葵ちゃん、どうかしたの?」

「いいえ、何でもないわ。この校内戦は先生が言っていたように≪ホーリーフェスタ≫のためにもなるでしょうから、本気で臨みたいわね」

「そうだねー。≪ホーリーフェスタ≫かー、えへへ……出たいよねー」


 朱莉が少し(あご)を上げながら、自身の想像に思いを馳せる。

 ≪ホーリーフェスタ≫に出場する事は、七校に通う私たち共通のゴールの一つ。だから、朱莉の気持ちは分かる。

 ただ、今の私にとってはあまり重要なものではないわ。

 兄上と恋仲になる事が、最も重要な事だから。


 さて、朱莉は自分だとまだまだ無理だと思っているようね。

 ここは少しやる気になってもらいましょうか。


「ねえ、朱莉。もし、校内戦で戦う事になったら、全力で来なさい。私も全力で応えてあげるから」

「え……」


 朱莉がぽかん、とした顔をしている。それも無理はない。

 朱莉は、私が彼女を対等に見ていないと思っているもの。

 確かに元々はそうだったけれど、彼女の思いを知ってからはそのような考えを改めた。

 現に、彼女は私と対等以上の関係になったのだから。


 私はこの世界では、兄上の想いとは別に朱莉と共に歩みたいと思う。

 だから、ここで発破を掛けておく。


「私は朱莉と全力で戦ってみたいのよ。いつも守られてばかりなのは、嫌でしょ? だから、私に見せて欲しいの。朱莉の力をね」


 兄上と会った日にも似たような事は言ったけれど、今日はより具体的にね。


「葵ちゃん…………うん! 私、頑張るよ! ちょっと特訓してくるね!」

「ちょっと、朱莉!?」


 朱莉は私の言葉に奮起して、そのまま教室を駆け出した。

 何て言うか……単純ね。でも、私の幼馴染はこれでこそ、と思うわ。


「あはは、元気だね、朱莉。葵、私が朱莉の様子を見てくるよ。対戦相手もいた方が良い鍛練になると思うしね。合流できたら、お兄様の所に行くから」

「悪いわね、桃花。お願いするわ」

「うん、任せておいて。私もまだまだ頑張らないといけないしね。それじゃ、薫流も望海も」

「ええ、また」「また後でっすー」


 桃花は朱莉を追いかけるように教室から出ていった。

 ありがとう、桃花。私が追いかけたら、意味はないから本当に助かる。


「さてと、二人がいなくなったから、私たちも移動する? 今日は天気もいいし、食堂のテラス席が良いと思うけど」

「そうっすねー。今日の放課後は誰も呼び出しされていないっすから、そこで良いと思うっすよ。薫流、お兄さんにも連絡しておいて欲しいっす」

「うん、分かった」


 薫流の提案で、次の目的地が決まったので私たちは移動する事にした。

 私も教室に籠っているよりは、外の空気を吸う方がいいわ。

 それに兄上とも色々と話したいもの。


「――――青海波(せいがいは)!」


 教室の外から望海を呼ぶ声が聞こえる。

 その声の主が誰かは、ここにいる全員が分かっている。


「八回目、記録更新ね、望海」

「はあ……本当に勘弁して欲しいっすよ。悪いっすけど、先に行っててもらえるっすか?」

「一緒に行くわ。食い下がられても困るでしょう。その代わり、私たちがいれば彼も納得すると思うわ。いいでしょ? 薫流」

「大丈夫よ。とりあえず、行くしかないね。ここにいても周りに迷惑なだけ」

「二人とも申し訳ないっす」


 望海がぺこりと頭を下げる。頭を下げる必要はないのにね。

 私は椅子から立ち上がり、薫流、望海と一緒に教室を出た。

 そこには声を上げていた張本人である茶色い短髪の少年が立っていた。

 ついでに言えば、生徒たちもぱらぱらと周りで様子を見ている。野次馬はどこにでもいるものね。


「青海波、出てきてくれたか。俺はお前と付き合いたいんだ」

御剣(みつるぎ)、朝も言ったっすよね? うちはまだ誰かと付き合う気はないんすよ。しつこい人は嫌いっすよ」


 いきなり茶髪の少年――御剣(かける)が、望海に告白する。

 しかし、望海は迷惑そうな顔をして、彼の告白を断る。

 相変わらずね、翔は。この世界でもぶれない辺りは流石としか言いようがないわ。


「それは分かっているけどさ、俺は青海波に一目惚れしたんだ」

「そんなのうちには関係ないっすよ。迷惑だって分からないんすか?」

「分かってる。でも、青海波と一緒にいたいと思ってるんだよ。この気持ちは止められないんだ」


 翔の言葉はとても真摯なものだと思う。でもそれは、押し付け以外の何物でもないけれど、心の籠ったものだとは思っている。

 ただ、望海にその気持ちが受け入れられるかは別問題ね。


「はあ……分かったっす。もし、うちと付き合いたいならうちよりもつよ――」「待って、望海」


 望海があの言葉を言う前に、私が彼女の前に出て手で制した。


「葵、どういうつもりっすか?」


 怒っている訳ではなく、私の突然の行動に戸惑っているようだ。

 普通は首を突っ込むような内容ではないから、それも当然と言える。


「御剣、だったかしら」


 わざとらしく確認する。彼とはそこそこの仲ではあったけれど、ここでは違うものね。


「なんだよ? 俺は青海波と話しているんだ」

「それは分かっているわ。でも、望海が嫌がっているのも分かるでしょう? 貴方は好きな人を傷付ける事が趣味なの?」

「そんな訳ないだろ! 俺はただ青海波に俺の気持ちを分かって欲しいというか、受け取って欲しいんだ。それだけ好きになってしまったんだよ」

「貴方の気持ちは分かるわ。それだけ人を好きになってしまえば、盲目になってしまう。でも、貴方は望海の何を知っているのかしら?」

「何をって……」


 翔が本気で望海を好きになっているからこそ、私は真剣に彼と向き合う。それは望海のためでもある。

 その人を好きになる事に理由なんていらない。でも、その人を好きだと言うなら、その人の事を良く知るべきだ。


「答えられないのね。そのような人の言葉が、望海に届くかしら? 好きだというなら、その人に好きになってもらうための努力をすべきだと思うわ。ただ、好意を押し付けるのはエゴでしかない」


 偉そうに言っているけれど、これは私にも言える事。

 兄上に好意を押し付けてはならない。受け入れてくれるとは思うけれどね。

 私は望海の後ろに下がる。言いたい事は言い尽くしたわ。これで良くなればいいと思うけれど。

 彼とは色々な縁があるからこそ、前の世界と同じ道を歩んで欲しくはないものね。


「……そう……だな。青海波、悪かった。俺、お前の事、全然考えてなくて、断られたからむきになっていたんだと思う」

「大丈夫っすよ。ただ、いきなり好きって迫られても困るっす」

「はあ……俺って最低だな。青海波、また会ってくれるか?」

「そうっすね。もっとお話ししようっす。お互いを知るためにも」

「ありがとう。それじゃあ、またな」


 そう言って、翔は去っていった。どうやら、私の言葉を理解してくれたようだ。

 意外と素直――ではなく、本当に望海の事が好きなのでしょうね。

 いつの間にか、私たちを囲んでいた野次馬の生徒たちもいなくなった。


「葵、その、ありがとうっす」

「いいえ、気にしないでいいわ。それよりも自分より強いなら、と言うのはやめて欲しいわね。確かに望海が強いのは知っているけれど、戦いで自分の事を賭けるなんて馬鹿げているわ」

「うう……ごめんなさいっす。葵の言う通りっすね。うちも反省するっす」

「分かってくれればいいわ」


 おせっかいだったかもしれないけれど、望海が傷付く未来を知るものとしては、何もしない訳にはいかなった。


「さ、そろそろ行こうっす。たぶん、お兄さんが待ってるっすよ」

「そうね、行きましょう」


 望海が食堂へ向かって歩き出した。

 外にあるから一度、外に出ないといけないのよね。

 そこで薫流が私をじっと見つめている事に気付く。


「どうかした? 薫流」

「どうして、望海の言葉が分かったのかな」

「あそこまで言われれば分かると思うけれど?」

「そうね……」

「薫流、一つ言っておくわ。私が兄上に害を為す事はもう決してありえない」

「葵……」

「行きましょう? 望海も先に行ってしまったわ」

「そうね」


 薫流はそれ以上何も言わずに私と共に歩き出した。

 少しは私の事を信用してくれたかな? そうだったら嬉しいけれど。

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