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第1話 『新たな世界と再会』

 ――四月上旬。


 西洋風の鉄格子の門――それは映画にも出てきそうな古めかしい門。

 それはここ――私が通うエレメンタル・アカデミーの正門だ。

 大きく開かれたその門の近くで、私はあの人を待っていた。


「――来た」


 そして、ついにその時が来る。

 かつかつと、足音が耳に聞こえてくる。

 この時間帯で外からやってくるのだから、間違いない。


 スマホを出して、自身の髪型をチェックする。青い長髪は綺麗に整えられているし、前髪はきっちりと真ん中で分けられている。

 そして、分けた前髪にそれぞれ一筋の黒い髪が混じっている。

 これは私が背負っていかなければならないものであり、目を背けてはいけないものだから。


 そして、最後に左耳に輝く三日月を象ったイヤリングを確認する。

 これは私がここに存在している証のようなものであり、私の宝物。

 よし、問題ない。いつ来るかとどきどきしている私は、きっととても乙女な顔をしているのでしょうね。

 今の私を朱莉が見れば間違いなく驚くと思うわ。


 それ程に恋焦がれていた人、そして一度は諦めた人。

 これは本来ならありえないチャンス。まさに女神の御業(みわざ)であり、親友たちの贈り物。

 だから、私は形振(なりふ)り構っていられなかった。この世に絶対はない。チャンスを与えられたからって、上手くいく保証は皆無。


 だから、私は前へ踏み出す――この新たな世界で!

 始まりの季節、それは私の可能性を掴むための第一歩――




「――こんにちは!」

「あれ、君は……」


 正門から中へ入ってきた二人の生徒に笑顔を見せ、元気良く声を掛けた。

 一人は少し逆立った黒髪短髪の男子生徒、そしてもう一人は彼の後ろに立つ黒髪長髪の女子生徒。

 二人とも私と同じくエレメンタル・アカデミーの制服である黒いローブを身に纏い、とんがり帽子を頭の上に乗せている。

 魔法使いをイメージさせる装いだ。ただ、帽子に関して着脱は自由。公式の場では正装であるために必要だけれど、戦う時は被っていない事が多いわね。


 私はまた会えた喜びで、飛び上がりそうだった。もちろん、実際はしないけれど。

 そして、念のため彼の左耳に何もない事を確かめ、右手首と首元も確認する。――問題ないわね。

 それにしても、中肉中背で引き締まった体はうっとりとしてしまう。


 少しの間、無言で私が見つめていると、男子生徒は戸惑いを見せ始め、後ろの女子生徒は私に警戒の色を示している。

 それも彼女からすれば仕方のない事だと思える。彼女の仕事は彼を守る事だから。

 それとは関係なく、見ず知らずの人が急に話しかけてきて無遠慮に見つめてくれば、身構えてしまう方が当たり前。

 彼が彼女と違い、警戒を示さないのは単純に情報の差だ。

 つまり、彼が私を知っているという事であり、見ず知らずの人間ではないからだ。


「……失礼しました。私の名前は朝日奈(あさひな)(あおい)と申します。新入生です」

「そうか。俺の名前は立花龍。二年生だけど、ここに転入してきたんだ」


 不躾に見つめた事のお詫びも兼ねて、頭を下げながら自己紹介をする。……まあ、私もあ――立花先輩も自己紹介の必要はないけれどね。

 しかし、後ろに控える黒髪の女の子は名乗ろうともしなかった。


薫流(くゆる)

「……すみません、兄さん。立花薫流、私も貴方と同じく新入生だよ」


 綺麗にお辞儀はするものの、やはり私を警戒している。

 敢えてそこには気が付かない振りをして話を進める。

 それは彼女の警戒心を下げるため。


「もしかして、お二人はご兄妹でしょうか?」

「あー、そうだよ。妹がここに入学する事になったから、俺も合わせて転入しようと思ってさ。幸い事象系練気の適性もあったからさ」


 全てを知っていて尋ねるって結構難しいけれど、知っている分、話題は選びやすいのだけれど。

 それに早いうちに私と立花先輩との繋がりを持ちたいと思った。

 ここはすでに分岐した世界であり、別の時間を歩んでいる。

 私の知っている立花先輩は、もういない。


 だから、同じように彼が動くのを待っていては、どうなるか分からない。

 間違いなく私たちと接触して来るのは間違いないとは思うけれど、それ以外の行動も同じようになる確証はない。

 私という存在(イレギュラー)によって、予期せぬ出来事が起こるかもしれない。

 それなら、自分から朱莉よりも先に接触しておく方が進めやすいと思うわ。


「そうなのですね。……立花さんは新入生という事だから私と同い年よね? 名前で呼んでいいかしら?」

「え? どうして?」

「そうね……実は私、貴方とクラスメイトなの。貴方、入学式から昨日までの三日間、教室に姿を見せなかったでしょ。それは私のクラスでは唯一の欠席者。だから、その欠席者である立花薫流という名前は気になっていたの。そして、声を掛けた人が貴方だったって事」

「そうなの……」


 今日は学校が始まって四日目。

 転入して来る立花先輩に付き添っていたために、彼女は全く学校に来てなかったのよね。

 実際、教室ではかなり噂になっているよね、不良少女……とかね。

 それ程、珍しい事でもないわ、そういう人は各校に少なからずいるものだから。


「そうだとしても、私たちにピンポイントで話しかける貴方の目的は何?」


 薫流、やはり警戒が強いわね。

 というより、私が警戒心を上げたという方が正しいかしら。

 明らかに私が二人の正体を知っているような接触の仕方だものね。

 さらにクラスメイトだという事を明かしたから、なおさらという感じかな。

 でも、そう簡単に引き下がる訳にはいかないわ。


「私の目的は――」「別に名前で呼ぶのはいいんじゃないか?」

「「え?」」


 私の援護をしてくれたのは立花先輩だった。

 何とか薫流に納得してもらおうと、理由を話そうとしていた所に言葉を重ねられたので、私だけでなく薫流も声を上げていた。

 彼女が驚くのも無理はないわね。普通、そんな事は言わない。

 でも、立花先輩は私たちの事を知っているからこそ、そのような言葉が出る。


「仲良くしたいって言ってるんだ。仲良くすれば良い。それにクラスメイトであれば、きっとお前にも良い刺激になるはずだ」

「しかし……明らかに怪しいです。百歩譲って彼女が私のクラスメイトで、私に興味を持っていたとしましょう。それでも、門を入ってきた瞬間に話しかけられるのは異常です。元々私たちの事を知っていて、近付いてきたとしか思えません」


 内心苦笑。薫流の言っている事は百パーセント正しいから。

 ほんと鋭いと思う。でも、これぐらい頭が働かないと彼女の本来の仕事は果たせないよね。


「だとしてもだ。何か目的があって近付いてきたとしても、悪意ある行為じゃないだろう。考えてもみろ、今の彼女は明らかに怪しいだろ? 俺たちに何か悪さをしようとする人間がこんな怪しさ満載の接触を図るか?」

「確かにそれもそうですね」


 やはり、立花先輩も怪しいと感じていたようだ。

 そうだしても、彼は私を受け入れてくれている。

 その事がとても嬉しく思って、口角が上がってしまう。

 

「あれ、何かおかしい所あったかな?」


 立花先輩は私が笑みを浮かべた理由が分からないらしい。

 でも、それが正常な反応だと思う。

 いくら、立花先輩でも今の私の心境を言い当てられたなら少し怖い。


「ふふふ、いえ、そういう訳ではありません。ただ嬉しかっただけです」

「嬉しい?」

「はい、貴方たちに出逢えた事が」


 私は素直な気持ちを二人に告げた。

 それを聞いてきょとん、とした顔をしている。

 ちょっと真面目すぎたかな。引かれていないだけ、マシと言えるか。


 立花先輩は出逢いを大切にする方だから、こういう物言いは好きだと思う。

 それ以前に私は後輩というディスアドバンテージを持っているから、中々厳しい訳だけれどね。

 彼は言うまでもなく、後輩を妹のように可愛がる人。もちろん、人は選ぶとは思うけれど。

 どうして知っているかなんて、野暮な事はなしよ。

 実際に体験しているから分かるの。


 この人こそが本当の女誑(おんなたら)し。

 実際、彼と関わってみればすぐに分かる。

 それだけ優しいのよね。本当に優しい。

 そして、強いというのも魅力だった。あの時の私は大人になりたいと必死だった。

 だから、この人の強さにとても惹かれていた。


「朝日奈、俺も君と出会えて嬉しいよ」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 今、立花先輩が言った『出会い』は私が言った『出逢い』とは違う。

 それでも良かった。彼との間に大きな隔たりがあるのは最初から知っているから。


「薫流、俺の言う事を信じてくれないか?」

「それを言うのはずるいです。……分かりました、私も葵と呼ばせてもらうから」


 薫流が観念して私が薫流と呼ぶ事を許可してくれた。

 さて、もう少し畳み掛けなければいけない。

 薫流に関しては本当につい でのようなもの。

 彼女とは何があっても仲良くなれると思っているからね。


 さて、ここからが本番。

 

「ありがとう、薫流。ところで、立花先輩、少しお願いがあるのですが……」

「ああ、いいよ」

「差し出がましいようですが、立花先輩の事を兄とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「は?」


 立花先輩が目を丸くする。

 普通、そういう反応をするわね。

 ここで簡単に受け入れられると、意気込んだ意味があまりなくなってしまう。


「初対面ですが、私にもこのような兄がいたら、嬉しいな、と思いまして……」


 ちょっと苦しい理由。それだけに恥ずかしくて、かっと顔が熱くなる。

 流石に貴方の事が好きだから、とはまだ言えない。

 でも、これはこれで痛い子に見られるかもしれないけれど。


「そうか……。まあ、俺で良ければ遠慮なく呼んでくれればいいよ」

「に、兄さん!? よろしいのですか?」

「減るものじゃないしな、前例がない訳じゃないしさ」


 と、薫流の方をちらっと見ながら、許可してくれた。薫流も渋々頷いた感じだ。

 これが地味に大変だと思っていた事で、上手くいって良かった。

 何かに気が付いたのかもしれないけれど、それはそれで私に興味を持ってくれるって事だから放置する。


「ありがとうございます。私の事も葵と呼んでください、兄上!」

「ああ、こちらこそよろしくな、葵」


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