第0話 『終わる世界と望み』
――十一月上旬。
「折角の提案だけど私たちは――」「はい! 私は葵に行って欲しいと思う!」
私は目の前の白髪の女神の提案を断ろうとした所、赤髪の少女がぴん、と手を上に伸ばし大きな声を上げる。
「一体、どういうつもりなのよ?」
彼女の真意が分からなくて、私は彼女に尋ねる。
「私はただ、葵にこの権利を行使して欲しいだけだよ。折角、やり直す機会を与えてくれるんだからね」
彼女が言うやり直す機会、それって…………
「貴方の一存では決められなる訳ないでしょ! 皆だって黙ってないわよ。皆はどうなの?」
心に浮かんだ可能性を振り払うように、私は皆――側にいる三人の少女に意見を求めた。
「うちは別に構わないっすよー。うちは葵と違ってお兄さんと会って、何かしたいっていう明確な目標はないっすからねー」
青いメッシュがワンポイントの黒髪の少女が軽い感じで答える。
「私もいいかな。私たちは葵よりも長い時間、お兄様と過ごしたし可愛がってもらったからね。葵が望むならいいよ」
桃髪ボブカットの少女は私の事を尊重してくれる。
「私たち三人はどの世界に行っても、兄さんにとって妹以上の存在にはなれないだろうから。そう考えると、葵が行くのが良いと思うよ」
黒い長髪の少女は私が行くべきだと言ってくれている。
「そういう事! 私たちは、葵がさっきお兄ちゃんに見せた想いを応援したいんだ。こんなチャンス、二度とないと思うから」
最後に赤髪の少女が元気良く答えてくれる。
皆の想いが私に伝わってくる。ぎゅっと唇を固く結んで、こぼれそうになる涙を堪える。
「本当にいいの? 皆がいいって言うなら、私は……」
皆がにこっと笑って応えてくれる。心に温かいものがじゅわーっ、と広がるのが分かる。
いいのかしら、本当に皆の好意に甘えても?
「「「「いいよ、葵!」」」」
私の気持ちを汲み取るように声を揃えて親友たちは言ってくれる。
「皆、ありがとう……」
頬をつうーっと伝う涙。
ああ……私は本当に素晴らしい友を持ったのだと思う。
この半年の間、本当に色々な事があった。私の身勝手な思いから皆を傷付けた事もあった。それでも最終的に、皆は私を許してくれた。
でも、それは兄上――私たちの大切な人が私をずっと信じていてくれたからでもある。
「葵、準備は大丈夫かな?」
「ちょっと待って」
私たちの会話をずっと見ていた白髪の女神が私に尋ねる。だから、私は一言断って、皆に最後の挨拶をする。
「皆、改めてありがとう! 私、絶対に兄上と恋人になるから!」
「うん、頑張って葵!」
「応援してるよ、葵!」
「葵なら大丈夫っす!」
「ファイトだよ、葵!」
皆の声援を受けて、私はもう大丈夫、という事を示すために白髪の女神を見る。
今の私たちを知らない兄上なら、私も兄上と恋人になるチャンスはあるはず。絶対ではないと思うけれど。
私は左耳にある三日月のイヤリングを触る。そして、今、この場にいない兄上に想いを馳せる。
「――お願い」
静かに白髪の女神へこの世界で最後の言葉を告げる。
「うん、分かった。それじゃあ――」
――ぱちり。
兄上の時と同じく響いたその音で、私の意識は消えていった――




