第7話
7話 「もう食べない!」
「とりあえず、今は授業を楽しんで行って!」
先程まで暗い顔をしていた魔王の娘の1人アリトンもといアンリは勇者アバドンもといブランに手を振りながら自分の机に向かった。ブランも教室の後ろの方に設けられているペット用のスペースに向かった。リードで繋がれた生き物が多い中にポツンと1人だけ人間の居る様子はどこかシュールな雰囲気を醸し出していた。
教室の前の方では既に授業が始まり、教師が生徒に質問をしていた。黒板には食品と魔族の関わりについてが板書されていた。今日はどうやら栄養学のようである。
「この世には特に大事な栄養素が4つありました。ルクツクニ、ツヤイマア、ラブア、そして魔力です。」
ブランは聞いたことのない単語に少し違和感を覚えたが、魔族と人間の言葉が全く同じわけがないと考え直した。
授業は一問一答形式で行われ、テンポよく進んでいた。
「ルクツクニは私達の体を作る元となります。では、どのような食べ物から摂取出来ますか?〇〇君?」
「卵や、魚、そして人間です。」
「そうですね。次はツヤイマアですが、これは私達の活動力の源になります。主に考え事をするときに必要ですね。何から摂取出来ますか?△△さんどうぞ。」
「砂糖と…人間です。」
「はい、その通りです。他にも穀物にも摂取できる種類が存在します。そしてラブアですが、これはツヤイマアが足りない時にそれを補うための動力源となります。何から摂取出来るのか××君分かりますか?」
「マヨネーズとか…人間です。」
「ありがとう。正解です。最後に魔力です。これも動力源や活力となるものですが、消費されるのは魔術を使う時ですね。珍しいもので、魔力以外に魔術を使う際に使われず、また代わりになるものがありません。そうね…レヴィアさん、何から摂取出来るか分かりますか?」
「人間です。」
「そうですね。人間以外に魔力を摂取出来る生き物は存在しません。」
人間万能すぎワロタ。
生徒の何人かはブランの方を面白そうに見てくるのでブランは目で威嚇していた。その時、生徒の1人が立ち上がった。アンリであった。教師の魔族はまたかといった表情で呆れ果てた顔をしていた。
「確かに現段階では人間以外から魔力を摂取する方法が見つかっていませんが、そうやって断言するのはどうかと思います。きっと魔力を生み出す方法が他にもあるはずです!」
アンリは納得出来ないといった表情をしていた。そんなアンリに教師がこう言った。
「アリトンさん。あなたはそうやって屁理屈ばかりこねるから留年したんですよ?自分の意見を持つことはとても素晴らしいことです。ですが、せめて学校内では習ったことをしっかりと受け入れてください。」
お願いしますと教師は懇願していた。アンリはそれ以上反論出来ずに、はいとだけ返事をするとおとなしく席に着いた。しかし、その顔は納得はしていなかった。
それからは栄養の取り方や活用法、
応用として魔力の変換方法などが取り扱われた。アンリは次々と出された問題に完璧に答えを出し、クラスを沸かせていた。
そんな主人の様子を見たブランはアンリが優秀な生徒であることを実感していた。授業が終わり、ブランはアンリの元へと行った。アンリはいつもの笑顔をブランに向けるのであるが、少し元気が無いことはアンリと会って間もないブランにも分かることであった。授業前半のことがあるのでそこには触れないように彼は後半の話題を話すことにした。
「アンリって頭良かったんだな。まぁ、あれだけ本を読んでるし、流石と言うべきなのかな?」
ペットが主人を励ましてくれていることをアンリはしっかり感じ取っていた。少し照れながらアンリが口を開く。
「少しは見直したかしら?優秀な魔族の使い魔になれたことを誇りに思うことね!」
彼女の言葉にブランは苦笑いしながらはいはいと相槌を打つ。
「まぁ、去年習ったことだから分かって当然なんだけどね…」
そこまで言ってしまったとアンリは感じていた。彼に気を使わせてしまっているのに結局悪い流れにもっていってしまっている自分を責めた。
「そうかな?僕は頭が悪いから去年のことなんて全然覚えてないや。やっぱりいい主人に会えたのかもしれないなぁ。」
それでもブランは笑い顔を崩さずそう言った。その笑顔を見ていいパートナーに出会えたのは自分かもしれないと思うのであった。
学校も終わり、夕方まで図書館で本を読みふけった2人は自分達の部屋で夕食を食べていた。メインは肉料理であったがブランは自分の食べている牛肉とは違った肉をアンリが食べていることに何故かむしょうに気になってしまった。何を食べているのか聞いた彼は数秒後に後悔することになった。
「に…人間。」
恐る恐るアンリは答えた。ブランは衝撃を受けた。アンリは魔族なのだ。人間を食べるのは当然である。しかし、それを理解しているブランでも、目の前の光景に嫌悪感を持ってしまった。
「ごめん…僕の前で人間の肉を食べるのはやめてくれないか。」
食べたものを戻しそうになるのをこらえてブランは言葉を紡いだ。彼に食欲は残っていなかった。
それを聞いた瞬間アンリは食べている肉を掴んで
ダーン!!
ゴミ箱へ投げ捨てた。
そして彼女はこう言い放つ。
「分かったわ。これから私は人間の肉をもう食べない!!誓うわ!!」
宣言しながらアンリはあることを思いついた。
「何もそこまd「そこでなんだけど!!」
ブランの言葉を遮ってアンリはこう言った。
「人間と約束事をするときは条件を突きつけられるのよね?ならこっちだって条件を指定していいわよね?」
とりあえずブランは首を縦に振る。
「レヴィアたんと仲良くなってくれない?」