第6話
6話
「きまってるじゃない、学校よ!」
目をキラキラと輝かせながらアリトンもといアンリはアバドンもといブランの手を引く。足取りも軽く、とても学校に行くのが楽しみなのが分かる。
「魔族の世界にも学校があるんだな。」
初めて耳にしたことに少し興味が湧いたブランは引っ張られながら驚きを口にした。
「まぁ、正しくは学校とは言わないんだけど、人間の言葉だとそんな感じかな。知識をつける場所なわけだし。」
それよりも、とアンリはブランの朝食に手を伸ばす。
「朝食さっさと食べちゃって!」
手当たり次第にブランの口に突っ込んで部屋を後にした。「何も生活に不自由なことはしない」と言われたはずだが、満足に食事をさせてもらえなかったブランは主従関係を破棄してしまおうかと朝1発目から考えてしまっていたのであった。
学校は魔王城の中に建てられている。内容としては生きて行くために必要な知識、そして魔力の使い方を主として、様々な専門分野を学ぶといった構成になっている。人間の学校と大きく違うのはやはり、ペットを持ち込むことを許可されているところであろう。というよりもむしろ持ち込むことを義務とされている。儀式があったりするところから分かる通り、魔族はペットを自分の一部のように重んじているところがある。魔力を使う際にはペットとの協力が求められるものもあったりするため、学校には多くの魔族が自分のペットを連れ込めるようにしているのだ。ペットには犬や猫のような人間とも親しみのある生き物も居るのだが、中には当然のように魔物も居たりするので結構禍々しい雰囲気の教室になっていた。特に目を引くのは5メートルほど上にある教室の天井まで頭が届くほど長く、それでもとぐろが巻けるほどの巨大な水竜であった(ブランも人間がペットとして教室にいるという珍しさで多少目を引いていた)。水竜といっても空を飛べる上に、魚や海藻が主食というだけで普通に地上で暮らすことができる。他の竜に比べて水中戦が得意で、どこに溜め込んでいるかはわからないが、呼吸と共に多量の水を吐き出して攻撃することもできる。ブランも何度か交戦したことがあり、その強さはよく知っていた。そんな水流と目があったブランは互いにじっと見つめあっていたのであった。その時聞き覚えのある声がした。
「あら、アリトンお姉様のペットさん。こんにちは。」
ブランが振り返るとそこにはレヴィアが立っていた。ここにいるということは彼女もまた、この学校の生徒なのだろう。
「ここに居るということはお姉様と打ち解けることができたみたいですね。」
ニッコリとレヴィアが微笑んだ。お礼を言おうとブランが口を開きかけたその時…
「レ・ヴィ・ア・た〜ん!!」
「ホゲェ!!」
ブランを突き飛ばし、アンリがレヴィアに抱きついてきた。ブランはなすすべもなく教室の壁に突き刺さり、レヴィアは無抵抗で撫でられていた。彼女の顔は無表情を貫いていた。
「どこいってたのもー。探したんだから!」
「お姉様がそうやって抱きついてくるから逃げてたんです。」
アンリのラブラブ攻撃を淡々と受け流すレヴィア。両者の熱量の差が側から見ると一目瞭然であった。
「えー!じゃあ私に撫でられるのきらいなの!?」
「…嫌いじゃないです。」
しかし、お姉ちゃんは大好きなのである。
「おい!主人のくせにペットぶっ飛ばすってどういう要件なんだよ!」
完全に忘れ去られていたブランが2人?の元に戻ってきた。見るからにご立腹である。そんなブランの様子を見てレヴィアが頭を下げた。
「これは私のせいでもあるので、姉に変わって謝ります。すみませんペットさん」
レヴィアに頭を下げられ、丁寧に謝罪の言葉を述べられてしまったブランはそれ以上アンリを責めることが出来ないでいた。そんな2人?の様子を不思議に思ったアンリはレヴィアに質問した。
「ねぇ、レヴィアたんはブランと会ったことがあるの?」
「えぇ、ペットさんが図書館に迷い込んでいるところに偶然。」
「へぇ、レヴィアたん人間のこと苦手だったからびっくりしちゃった。」
それを聞いたレヴィアはえ?と声をあげ、さっとアンリの後ろに周りブランと距離をとった。顔は少し青紫色になってきている。
「え!?まさか気づいてなかったの?」
アンリが驚いた声をあげる。しかし、レヴィアは警戒の目をブランに向けるのみで彼女の問いかけに答える余裕は無いようである。急にレヴィアに怖がられてしまい、戸惑うブランは彼女に声をかけてみることにした。
「どうした?具合悪いの?大丈夫?」
ブランが近づくとレヴィアは体をビクつかせ慌てて口を開く。
「い、いや…あの…その…す、すみませ〜ん!」
どうやらブランは余計なことをしてしまったらしい。レヴィアは耐えられないと言った表情で足早にその場から立ち去ってしまった。ブランがどうしていいか分からないと言いたげにアンリの方を見る。アンリもまた申し訳なさそうな目をしていた。しばしの沈黙の後で先に口を開いたのはアンリだった。
「あ、あなたは悪く無いのよ。レヴィアは人間に対して嫌な思い出があるみたいで、人間を見るとあんな感じになっちゃうの。あなたが悪いわけでは無いわ。ペットを飼うとはあの子にも言ってたけど人間を飼うって話をして無かったのが悪かったのかも。」
アンリは自分が悪いとでも言いたげである。しかし、ブランはその言葉に別の興味を示した。
「なんでレヴィアがそうなったのか教えてくれないか?」
ブランがそう尋ねるが、アンリは視線を時計に向けた。もう授業が始まる時間が近づいていたのである。他の生徒はもちろんレヴィアも教室に戻り、まだ具合が悪そうだが席に着いていた。
「とりあえず、今は授業を楽しんで言って!」